運行供用者責任の免責要件をわかりやすく解説|自賠法3条の規定について
運行供用者に損害賠償を請求できなくなる、運行供用者責任の免責事由、判例、また民法第709条の過失責任の原則との関係な…[続きを読む]
交通事故で加害者が死亡した場合や、事故後、例えば示談交渉中、事故と無関係に病気などで死亡してしまったケースのように、損害を賠償する責任のある加害者が亡くなったとき、被害者は、誰に損害賠償を請求できるのでしょうか?
ここでは、加害者死亡の場合に、損害賠償を請求できる相手について、損害賠償金は相続財産になるのか、また親族が相続放棄すると泣き寝入りになってしまうのかなど解説します。
目次
交通事故の発生により、加害者には損害を賠償する責任が発生します。
ただ加害者が死亡した場合は、これは債務であり、相続はマイナスの財産である負債も相続人が引き継ぐので、その法定相続人(※)に損害賠償義務が承継されます。
※法定相続人は、加害者の「配偶者」と「血族相続人」です。血族相続人とは、①子、孫、ひ孫、②直系尊属(祖父母、曾祖父母)、③兄弟姉妹、甥姪です。配偶者は常に相続人であり、血族相続人は①~③の順で優先順位があり、先順位の者がいれば後順位の者は相続人になれません(民法887条以下)。
各法定相続人が承継する賠償義務の範囲は法定相続分にしたがいます。
例えば、加害者の家族が、妻と長男、次男であったときは、法定相続分は妻が2分の1、長男4分の1、次男4分の1です。1000万円の損害賠償債務であった場合は、妻500万円、長男250万円、次男250万円の支払義務を承継します(民法900条)。
加害者死亡時の損害賠償債務の承継は上のとおりであり、相続人に交通事故の損害賠償・慰謝料を請求することが可能です。
ただし、加害者の法定相続人は、損害賠償債務を承継したくないときには「相続放棄の手続」をすることができます。
相続放棄の手続は相続開始を知ったときから3ヶ月の間に家庭裁判所で行います(民法935条、同918条)。
相続放棄をするとプラスの相続財産を相続できない代わりに、負債も承継しなくて良くなるのです。
下記のケースにご注意ください。とくに交通事故の賠償金は高額になりやすいので、相続人がいたとしても必ずしもあてにはならないのです。
加害者が死亡しても、自賠責保険、任意保険から慰謝料・賠償金を受け取ることができます。
加害者が自賠責保険に加入していれば、加害者が死亡しても、被害者は自賠責保険会社からの賠償を受けることができます。
人身事故で加害者に賠償責任が発生すると、被害者は、加害者を介さずに、自賠責保険会社に対して直接に賠償金を請求することができます。これが「被害者請求」です(自動車損害賠償保障法3条、16条)。
これは加害者の生死に左右されません(もしも、加害者死亡の場合は賠償されないとすると、交通事故被害者の救済を目的とする自賠責保険の意味が失われます)。
ただし、自賠責保険は賠償される金額に上限(※)があり、損害額が上限額を超えるときは、超えた部分は賠償を受けることはできません。
※自賠責保険の上限額:死亡で3000万円、後遺障害で4000万円、傷害で120万円まで
加害者が任意保険に加入していれば、加害者が死亡しても、被害者は任意保険会社からの賠償を受けることができます。
任意保険契約の内容は、各保険会社の約款に定められていますが、自賠責保険の被害者請求と同様に、被害者が任意保険会社に対して賠償を請求できることが規定されています。
例えば「対人事故によって被保険者の負担する法律上の損害賠償責任が発生した場合は、損害賠償請求権者は、当社が被保険者に対して支払責任を負う限度において、当社に対して(中略)損害賠償額の支払を請求することができます。」という記載です。
そして、加害者に法定相続人がいない場合でも、任意保険会社が被害者に直接に賠償することも約款で定められています。
例えば「当社は、次のいずれかに該当する場合に、損害賠償請求権者に対して(中略)損害賠償額を支払います。」、「被保険者が死亡し、かつ、その法定相続人がいないこと。」という記載です。
(上記約款の例はいずれも、あいおいニッセイ同和損害保険株式会社「個人総合自動車保険・タフつながる車の保険」平成31年1月「普通契約約款」第8条から)
この任意保険契約の内容から、加害者死亡で法定相続人もいない場合には、任意保険会社自身が賠償義務を負担する当事者となります(民法537条)。
したがって、任意保険会社が交通事故の示談交渉の相手となります。
また、話がまとまらない場合は任意保険会社を「被告として訴訟」を提起することになるのです。
加害者家族が相続放棄してしまうこと以外にも、死亡した加害者が、
という状況が考えられます。この場合には、誰にどのような責任を問えばよいのでしょうか。
自賠法3条は、「自己のために自動車を運行の用に供する者」に人身事故の賠償責任を負わせています。
つまり、事故のときに車を運転していた加害者でなくとも、この「運行供用者」に該当すれば、損害賠償責任を負うのです。
その趣旨は、報償責任(利益を得るものは損失も負担すべき)、危険責任(危険なものを管理するものは危険が現実化した責任も負担すべき)という2つの理念にあります。
そこから「運行供用者」とは「運行利益」と「運行支配」が帰属する者と理解されています。
この運行利益・運行支配は、抽象的・観念的に判断され、具体的な利益があることや車の走行をコントロールできることは要求されていません。
多くの場合、所有者には運行供用者としての責任を問えます。
しかし、たとえ所有者でなくとも運行供用者として責任を問える場合があるのです。
これらの裁判例は、いずれも具体的な事情のもとで、運行利益、運行支配の有無を認定しています。
誰に運行供用者責任を追及できるかの判断は、難しい法的判断ですので、弁護士に相談されるべきでしょう。
民法715条は、従業員が「その事業の執行について」他人に与えた損害の賠償責任を使用者(雇用主、会社)が負担すると定めています。
「事業の執行」にあたるかは、客観的外形的に職務の範囲内の行為と認められるか否か、会社の内部事情も加味して会社に責任を負担させるだけの理由がある否かという観点から判断されます。
従業員が勤務中に会社の車で事故を起こした場合は会社に使用者責任を問うことができますし、通勤途中のマイカーでの事故であっても会社がそれを許容していたなどの事情があれば、やはり使用者責任を問うことができる場合があります(最判昭和52年9月22日判決など)
加害者が死亡して無保険の場合、被害者が自分で契約している保険を被害の補償に利用できる場合があります。
例えば「人身傷害補償保険」は、被害者側の保険会社が損害を補償してくれる保険商品で、事故の過失割合を問わない点にもメリットがあります。
他にも「搭乗者傷害保険」は、保険対象とした車に乗車中の事故での人身損害を補償する保険商品で、契約中の車に乗っている際の被害であれば補償されます。
また「無保険車傷害保険」は、加害者が任意保険に未加入で、損害額が自賠責保険の上限を超えてしまう場合に、被害者側の保険会社が補償をしてくれる保険商品です。
これらの保険商品は自動車保険の特約となっているので、事故にあったときは、ご自分の自動車保険の保険会社に確認されることがお勧めです。
加害者が死亡し、自賠責保険にも任意保険にも未加入で、相続人もおらず、被害者側の保険で利用できる保険もない、このような場合は、政府補償事業が最後の救済となります。
政府補償事業は、自賠責保険が利用できない場合(加害者が未加入、ひき逃げで不明など)に、政府が自賠責保険と同じ水準の損害補償をしてくれる制度で、国土交通省が担当し、各損害保険会社が窓口となっています。
加害者が死亡した場合でも、加害者が加入していた自賠責保険、任意保険から賠償金を受け取ることは可能です。
自賠責保険が利用できない場合(加害者が未加入、ひき逃げで不明など)に、政府が自賠責保険と同じ水準の損害補償をしてくれる制度です。
加害者が死亡した場合でも、即泣き寝入りということにはなりません。また加害者の家族が損害賠償や相続財産を相続放棄してきたとしても諦めるのはまだ早いです。
実際に誰にどのように請求するかについては、法的な知識が必要ですので、弁護士にご相談ください。