後遺障害の併合とは|14級・12級と等級はどの程度繰り上がる?賠償額は?

後遺障害の併合
  • 複数箇所に傷が残った!12級と14級で等級は併合されて繰り上がるの?

交通事故では、複数箇所に怪我を負ってしまうことが少なからずあり、残ってしまう後遺障害も、一つとは限りません。

では、交通事故で後遺障害が複数箇所に残った場合、自賠責の後遺障害等級はどのように考えればいいのでしょうか?損害賠償であるいわゆる示談金はどのように補償されるのでしょうか?

この記事では、「後遺障害の併合とは|14級・12級と等級はどの程度繰り上がる?賠償額は?」について説明します。

自賠責の後遺障害の併合とは

身体の複数箇所に怪我を負い、いくつかの後遺障害が残ったときの、後遺障害等級における取扱いルールのひとつを「併合」といいます。

後遺障害の「併合」のルールは複雑ですが、ここではなるべくわかりやすくご説明したいと思います。

後遺障害等級とは?

自賠責保険会社から、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益の支払いを受けるためには、損害保険料率算出機構による後遺障害等級の認定を受ける必要があります。

後遺障害等級とは、症状や程度によって、重い1級から軽い14級までに分けられ、各等級に応じて賠償額が異なります。

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複数箇所に後遺障害が残ったときの「併合」のルールと「系列」

「併合」のルールには、以下の2つがあります。

系列を異にする」身体障害が2以上ある場合に

  • 重い方の身体障害の等級とする
  • 後遺障害等級の重い方の等級を1級ないし3級を繰り上る(※)

※「障害等級認定基準について・別冊障害等級認定基準」昭和50年9月30日・基発第565号「第1.障害等級認定にあたっての基本的事項、4.障害等級認定にあたっての原則と準則、(1)併合」

「系列」とは、便宜上「後遺障害を分類したもの」を言います。

したがって、併合の条件とされる「系列を異にする身体障害」とは、違う障害として分類されている(系列)身体障害という意味になります。

では、具体的に、後遺障害等級は、どのように「併合」されるのか確認して参りましょう。

「要介護」の後遺障害が複数箇所ある場合(自賠法施行令「別表第一」)

自賠法施行令の「別表第一」では、介護を要する後遺障害について、第1級(常時介護)と第2級(随時介護)が定められています。

この場合、後遺障害が複数残ったとしても、被害者の状態は、常時介護か随時介護かのどちらかしかありませんので、それに応じて1級か2級、どちらかの等級による賠償を受けるだけです。

また「別表第一」の障害とそれ以外の「別表第二」に定められた要介護でない障害が併存したときには、別表第一の等級による賠償だけを受けることができます(自賠法施行令第2条1項2号イ)。

別表第一の1級・2級の後遺障害は併存し得ない 1級か2級どちらかの賠償
別表第一の後遺障害と別表第二の後遺障害が併存する場合 別表第一の等級による賠償

「要介護以外」で併合がある場合(自賠法施行令「別表第二」)

要介護以外の後遺障害が併存する場合の取扱いは、次の表のとおりです。

複数の後遺障害 取扱い 自賠法施行令
5級以上の後遺障害が複数 最も重い等級を3級繰り上げ 第2条1項3号ロ
8級以上の後遺障害が複数 最も重い等級を2級繰り上げ 第2条1項3号ハ
13級以上の後遺障害が複数 最も重い等級を1級繰り上げ
(但し、このケースの賠償額は、もともとの各等級に対する金額の合計額が上限となる)
第2条1項3号ニ
上記以外(14級の後遺障害が複数の場合及び14級と13級以上の後遺障害が併存する場合) 最も重い等級 第2条1項3号ホ

上のア~エの各取扱いを、厚生労働省の前記通達では、「併合」と呼び、そのうちアイウの取扱いを「併合繰り上げ」と呼んでいるのです。

チャートまとめ|14級と14級が併合しても14級

上記のチャートをわかりやすくまとめると以下のようになります。ちなみに14級と14級が併合しても14級となります。

後遺障害が併合した場合の等級 最も重い等級
1~5級 6~8級 9~13級 14級
次に重い等級 1~5級 最も重い等級
+3級
6~8級 最も重い等級
+2級
最も重い等級
+2級
9~13級 最も重い等級
+1級
最も重い等級
+1級
最も重い等級
+1級
14級 最も重い等級 最も重い等級 最も重い等級 14級

後遺障害の「系列」の詳細については、以下のサイトの「3. 障害等級表の仕組みとその意義」でも確認可能です。

※前記昭和50年9月30日・基発第565号「第1.障害等級認定にあたっての基本的事項、3.障害等級表の仕組みとその意義」「障害系列表」より

併合による自賠責保険の「賠償額」

後遺障害に対して自賠責保険から支払われる損害賠償金の上限額は、各等級に応じて定まっており、これを「保険金額」と呼びます。

複数箇所の後遺障害が併合されたときは、併合によって認定された等級(繰り上げ等級または最も重い等級)の保険金額が自賠責保険から支払われる賠償金額の上限となります。

以下に2つの事例を挙げてみます。

例1.:4級(上限額1889万円)と5級(上限額1574万円)の併合の場合

4級を3段階繰り上げ:併合1級(上限額3000万円)

例2.:6級(上限額1296万円)と8級(上限額819万円)の併合の場合

6級を2段階繰り上げ:併合4級(上限額1889万円)

ただし、併合のうち、「13級以上の後遺障害が複数残ったとき」に最も重い等級を1級併合繰り上げする場合にだけは、もともとの各等級に対する金額の「合計額が上限」となるという制限があります(自賠法施行令第2条1項3号ニ)。

例えば、以下のようになります。

例3.:3級(上限額2219万円)と13級(上限額139万円)の併合の場合

2219万円(3級の上限額)+ 139万円(13級の上限額) = 2358万円(上限額)

併合による弁護士基準での後遺障害慰謝料

自賠責保険は、後遺障害に対する損害賠償金(後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益)の一部を負担するものに過ぎません。

後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益の総額を最終的に決めるのは裁判所であり、そこでは弁護士基準(裁判所基準)を目安として賠償額が算定されます。

示談交渉においても、少なくとも弁護士が代理人として交渉する限り、弁護士基準に基づく交渉が行われます。

では、交通事故による複数の後遺障害が残った場合、弁護士基準では、どのように取り扱われるのでしょうか?

弁護士基準の後遺障害慰謝料は併合のルールに縛られない

併合という取扱いルールは、あくまでも自賠責保険の負担額を決めるもので、自賠責保険の内部ルールに過ぎませんから、裁判所も弁護士も、このルールに縛られるわけではありません(※)。

※最高裁も、裁判所は自賠責保険の支払基準に縛られないと判示しています(最高裁平成18年3月30日判決)。

また、自賠責保険が認定した等級自体を訴訟で争う場合も多数ありますので、自賠責保険が併合とした等級が絶対視されることはありません

ただ、仮に自賠責保険が認定した併合等級について、当事者に争いがないならば、その等級に応じた弁護士基準の後遺障害慰謝料額が目安となります。

例えば、自賠責保険において、12級と10級の併合繰り上げで9級と認定された事案について、被害者側弁護士と保険会社間に等級について争いがないならば、9級の弁護士基準である690万円が目安となります。

ただし、併合のケースにおける後遺障害慰謝料では、自賠責保険のルールと弁護士基準では、次の各点が異なります。

後遺障害慰謝料の弁護士基準では、「別表第一」も併合の対象となる

自賠責保険のルールでは、前述のとおり、「別表第一」の要介護障害とそれ以外の「別表第二」に定められた要介護でない障害が併存したときには、併合されず、別表第一の等級によることになります(自賠法施行令第2条1項2号イ)。

しかし、弁護士基準には、この制限はありません(※)。

そこで、「別表第一」の第2級1号(神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの)、または第2級2号(胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、随時介護を要するもの)に該当する障害と、「別表第二」に定められた要介護でない障害が併存したときは併合繰り上げを行い、「併合第1級」として、1級の弁護士基準である2800万円の後遺障害慰謝料が目安となります。

※「民事交通事故訴訟・損害賠償額算定基準2019年版上巻」190頁

裁判例

東京地裁平成23年1月20日判決

被害者が、高次脳機能障害(別表第一、2級相当)、左肘の関節可動域制限等(別表第二、10級相当)のケースで、裁判所は、後遺障害慰謝料2900万円を認めました。

(自保ジャーナル1849号14頁)

併合と弁護士基準の後遺障害逸失利益

自賠責保険では、併合による等級が認定されれば、その等級に応じた労働能力喪失率(※)によって逸失利益が算定されます。

※労働能力喪失率は、前出「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準」の別表Ⅰ「労働能力喪失率表」に定められています。

もちろん、裁判所や弁護士は、この労働能力喪失率表にも縛られるものではありませんが、判断の客観性・統一性を担保するため、労働能力喪失率表にしたがって喪失率を認定しているのが実務の傾向です。

もっとも、その運用が硬直化しているとの批判もあるため、喪失率表が具体的な被害の実情に合致しないときにまで画一的・定型的な処理がされないよう、実情に応じ、被害者の年齢・職業・後遺障害の部位程度・当該被害者の職業に対する具体的な影響の程度等、諸般の事情を総合判断して、喪失率を認定するべきとされています(※)。

※東京地裁民事交通部・蛭川昭彦裁判官講演録「労働能力喪失の認定について」民事交通事故訴訟・損害賠償額算定基準2006年版下巻(日弁連交通事故相談センター東京支部)177頁。なお同書2019年版上巻95頁も同旨。

したがって、弁護士基準では、後遺障害逸失利益も後遺障害慰謝料と同様に、併合の結果、より重い等級と扱われることとなっても、それだけで金額が決まるわけではないのです。

併合の適用にあたっての注意点

旧労働省通達では、併合の適用にあたって注意するべき点を「準則」として定めています。

併合により「序列」を乱してはならない

障害の「序列」についても前記通達が定めています。「順列」とは、同一系列の障害相互間における等級の上下関係のことです。

通達では、併合繰り上げの結果、障害の序列を乱す場合は、障害の序列にしたがって等級を定めなくてはならないと定めています。

例えば、右上肢を手関節以上で失い(第5級4号)、かつ、左上肢をひじ関節以上で失った(第4級4号)ときは、前記アのルールにしたがって併合繰り上げをすると、重い4級を3段階繰り上げるので第1級となるはずです。

しかし、上肢については「両上肢をひじ関節以上で失ったもの」が第1級3号として定められており、この被害者には右上肢のひじ関節が残っている以上、併合1級としてしまうと、序列を乱してしまいます。そこで、このケースでは併合第2級にとどめられるのです。

併合繰り上げは、第1級で頭打ちである

併合繰り上げをすると第1級を超えるはずのときでも、等級表の最上位は第1級なので、あくまでも第1級にとどめることになります。

例:両眼の視力が0.02以下になり(第2級2号)、かつ、両手の手指の全部を失った(第3級5号)ときは、前記アのルールにしたがって併合繰り上げをすると、重い2級を3段階繰り上げるので第1級では足りないはずです。

しかし、第1級を超える等級はないので、「併合第1級」にとどまります。

組み合わせ等級に注意

系列を異にする身体障害であっても、「組み合わせ等級」が定められているときは、併合することなく、組み合わせ等級にしたがいます。

「組み合わせ等級」とは、複数の障害を組み合わせて、ひとつの等級で評価されるもので、併合ルールの例外を定めたもののひとつです。

例:「右上肢の欠損障害」と「左上肢の欠損障害」は系列を異にします。「右下肢の欠損障害」と「左下肢の欠損障害」も系列を異にします。本来なら併合繰り上げの対象です。

しかし、等級表では次の組み合わせ等級が定められています

後遺障害等級 後遺障害の内容
1級3号 両上肢をひじ関節以上で失ったもの
2級3号 両上肢を手関節以上で失ったもの
1級5号 両下肢をひざ関節以上で失ったもの
2級4号 両下肢を足関節以上で失ったもの

そこで、この組み合わせ等級に該当する限りは、併合することなく、組み合わせ等級にしたがうことになるのです。

ひとつの障害を複数の観点から評価しているに過ぎないとき

系列を異にする身体障害があっても、実は、ひとつの障害を複数の観点で評価しているにすぎないときがあります。この場合は、障害はひとつなので併合することなく、重い方の等級にしたがいます。

例えば、右下肢の大腿骨に変形を残した(第12級8号)ために、右下肢が1センチメートル短縮した(第13級8号)ときは、下肢短縮は大腿骨変形の結果に過ぎませんから、併合することなく、重い方の12級となります。

ひとつの身体障害に、他の身体障害が通常派生する関係にあるとき

系列を異にする身体障害があっても、ひとつの身体障害に、他の身体障害が通常派生する関係にあるときには、重い等級にしたがいます。

例えば、一上肢に偽関節が残り(第8級8号)、その箇所に「がん固な神経症状」を残したとき(第12級13号)は、前者があるときは後者が派生することが通常なので併合せず、重い等級である第8級となります。

まとめ

後遺障害等級の併合、12級や14級について説明しました。非常に複雑で、この記事を読んでも、理解するのは難しいかもしれません。

しかも、上に説明した内容は、複数の後遺障害があるときの取扱いルールのごく一部に過ぎず、後遺障害の「併合」についてもすべてを説明しているわけではありません。ほんの導入部分に過ぎないとご理解ください。

このような次第ですので、実際に、複数の後遺障害の問題でお悩みの方は、交通事故事件に強い弁護士に相談されることを強くお勧めします。

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