理不尽・おかしい!子供の飛び出し事故の過失割合の考え方を解説
子供の飛び出し事故で、小学生に責任を負わせようとするドライバーも少なくありません。事故に巻き込まれた場合、親としてど…[続きを読む]
一緒に車に同乗していた子供が、交通事故で怪我をしてしまった。親としては自分が被害に遭うよりも辛いことです。
心配ありません。子供でも、大人と同様に賠償金を受け取ることができます。
この記事では、同乗した子供が交通事故で骨折などの怪我をしたとき、もしくはPTSD(うつ)になったケースの賠償金について、主に入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料を中心に解説します。
なお、慰謝料の計算には「過失割合」も関わってきます。特に飛び出し事故の場合の過失割合については下記ページが詳しいので併せてご参考ください。
また、子供に通院の際の付き添い看護料や駆けつけ費用なども請求できる可能性がありますので、こちらの内容についても解説して参ります。
目次
交通事故の怪我に対する慰謝料には、以下の2種類があります。
「入通院慰謝料」は、受傷それ自体の苦痛や入通院を余儀なくされた肉体的・精神的な苦痛に対する補償です。
「後遺障害慰謝料」は、身体が不自由となってしまった肉体的・精神的な苦痛に対する補償です。
もちろん、被害者が子供であっても同じ苦痛を感じるため、子供でも入通院慰謝料、後遺障害慰謝料を請求することができます。
たとえ同乗してた被害者が赤ちゃんで、具体的に辛さ苦しさを言葉で訴えることができなくても、苦痛を感じていることは容易に推測できますから、区別する理由は全くありません。
同乗した子供が交通事故で怪我をした場合の各慰謝料・示談金の相場は、大人が被害者の場合と変わりはありません。
怪我による苦痛は、子供と大人を比較して、どちらがより大きいどちらがより小さいとは言えないからです。
ただ、被害者が未成年者の場合、慰謝料を含む損害賠償金を請求する権利は、子供本人が取得する権利ですが、実際に加害者側に対して、慰謝料などの賠償金を請求する行為は親権者など、未成年者の法定代理人が未成年者を代理して行うことになります(民法第5条1項)。
親が子供の慰謝料を請求する場合は、その部分は、親自身が自分の権利を行使することになります。
示談交渉や訴訟を弁護士に依頼するときは、この2つの権利行使の両方とも一括して弁護士に任せることが通常です。
なお、各慰謝料を含む損害賠償金の相場には、次の3つの基準があります。
自賠責基準は損害賠償額のうち、最低保障である自賠責保険が支払ってくれる金額です。
一方、弁護士基準は各種の弁護士団体が過去の裁判例などを参考に公表しているもので、弁護士による示談交渉や裁判所における訴訟で使われる基準です。
以下では主に、実務にもっとも影響力のある通称「赤い本」と呼ばれる、「民事交通事故訴訟・損害賠償額算定基準」(財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部編集発行)の基準で解説します。
また、示談交渉において、加害者側の任意保険会社が提示する示談金の金額基準を、「任意保険基準」と呼びますが、これは、その会社の内部基準に過ぎず、たんなる加害者側の希望金額に過ぎませんから、考慮する必要はありません。
弁護士基準による入通院慰謝料の相場金額は、入通院の期間に応じて決まります。
通院だけのときは、下記表の縦軸の通院期間に対応する金額、入院して退院後に通院した場合は、横軸の入院期間と縦軸の通院期間が交差した箇所の金額となります。
例えば、通院だけ3ヶ月のときを確認してみると、以下の表の通り、73万円になります。
一方、入院3ヶ月、その後2ヶ月通院のときは、177万円です。
入通院慰謝料・別表Ⅰ(単位:万円)
入院 | 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
通院 | 53 | 101 | 145 | 184 | 217 | 244 | |
1月 | 28 | 77 | 122 | 162 | 199 | 228 | 252 |
2月 | 52 | 98 | 139 | 177 | 210 | 236 | 260 |
3月 | 73 | 115 | 154 | 188 | 218 | 244 | 267 |
4月 | 90 | 130 | 165 | 196 | 226 | 251 | 273 |
5月 | 105 | 141 | 173 | 204 | 233 | 257 | 278 |
6月 | 116 | 149 | 181 | 211 | 239 | 262 | 282 |
次に「別表Ⅱ」を確認しましょう。
むち打ち症で他覚的所見のない場合や、軽い打撲、軽い挫傷(挫創)など「軽傷の場合」は、下記の「別表Ⅱ」が適用されます。
金額は別表Ⅰと比べると下がっていること分かります。
入通院慰謝料・別表Ⅱ(単位:万円)
入院 | 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
通院 | 35 | 66 | 92 | 116 | 135 | 152 | |
1月 | 19 | 52 | 83 | 106 | 128 | 145 | 160 |
2月 | 36 | 69 | 97 | 118 | 138 | 153 | 166 |
3月 | 53 | 83 | 109 | 128 | 146 | 159 | 172 |
4月 | 67 | 95 | 119 | 136 | 152 | 165 | 176 |
5月 | 79 | 105 | 127 | 142 | 158 | 169 | 180 |
6月 | 89 | 113 | 133 | 148 | 162 | 173 | 182 |
「自賠責保険」から支払われる入通院慰謝料は、1日4300円で計算します。
その日数は、「総治療期間」と「実治療日数の2倍」を比較して、短い方の日数を採用します。
例えば、通院期間が、7月1日から8月31日までで、その間の通院回数が20回だったときは、「総治療期間」は62日、「実治療日数の2倍」は40日ですから、短いほうの40日に4300円を乗じた17万2000円が自賠責保険の負担額です。
自賠責保険基準の入通院慰謝料の計算例
通院期間:7月1日~8月31日(62日間)
実治療日数 × 2:20日 × 2 = 40日40日 × 4,300円 = 17万2000円
子供が後遺障害認定された場合は、後遺障害慰謝料も請求可能です。
後遺障害慰謝料の相場金額は、弁護士基準でも自賠責基準でも、後遺障害等級に応じて決まります。次の表をご覧ください。
後遺障害等級に応じた後遺障害慰謝料の基準
1級 | 2級 | 3級 | 4級 | 5級 | 6級 | 7級 | 8級 | 9級 | 10級 | 11級 | 12級 | 13級 | 14級 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
弁護士基準 | 2800万円 | 2370万円 | 1990万円 | 1670万円 | 1400万円 | 1180万円 | 1000万円 | 830万円 | 690万円 | 550万円 | 420万円 | 290万円 | 180万円 | 110万円 |
自賠責基準 | 1150万円 | 998万円 | 861万円 | 737万円 | 618万円 | 512万円 | 419万円 | 331万円 | 249万円 | 190万円 | 136万円 | 94万円 | 57万円 | 32万円 |
※ 介護を要する後遺障害の場合、自賠責保険基準では、1級で1650万円、2級で1201万円が慰謝料の相場となります。
後遺障害慰謝料についての詳細は、次の記事もご覧ください。
軽傷であっても、事故による怪我である以上、入通院慰謝料を請求できます。
前述のとおり、弁護士基準では、軽傷の場合「入通院慰謝料・別表Ⅱ」によって、慰謝料金額の相場が決まります。
自賠責保険から支払われる入通院慰謝料も、軽傷であっても、前記の基準(1日4300円)にしたがって計算されます。
子供の怪我・後遺障害について、子供本人の慰謝料とは別に、親も独自に慰謝料を請求することが可能です。
基本的には、後遺障害等級1級から3級では親独自の慰謝料が認められ、4級以下でも子供の後遺障害による介護の負担の程度など、個別事情によって判断されます。
名古屋地裁平成25年3月19日判決
被害者が小学生10歳(症状固定時)、高次脳機能障害(5級)のケースで、両親に各250万円(計500万円)の近親者固有の慰謝料が認められました。
この裁判例では、被害者本人の慰謝料は、入通院慰謝料200万円、後遺障害慰謝料1400万円でしたので、慰謝料総額は2100万円となりました。
(交通事故民事裁判例集46巻2号419頁)
近親者固有の後遺障害慰謝料の金額には、相場となる基準はありません。近年の裁判例では、「被害者本人分の5%~20%程度に集中しており、30%を超えることは少ないようである」と報告されています(※)。
※「交通賠償のチェックポイント」(弁護士高中正彦他編著・弘文堂)146頁
他方、入通院慰謝料については、近親者固有の慰謝料請求は認められていません。
なお、参考までに、万一、子供が死亡してしまった場合の死亡慰謝料の金額をあげておきます。
必要があれば請求できます。
弁護士基準では、入院付添費(看護料)は、医師の指示または受傷の程度、被害者の年齢等により必要が認められれば、請求できます。
近親者の付添人は、1日6500円で計算しますが、被害者が幼児、児童のときは、10%~30%の範囲で増額される場合があります。なお、入院付添のための親の交通費も請求できます。
弁護士基準の入院付添費
- 近親者の付添人:1日6500円
- 被害者が幼児・児童の場合:10%~30%の範囲で増額される場合あり
自賠責保険からは、原則として12歳以下の子供に近親者が付き添った場合につき、1日4200円で計算した金額が支払われます。
自賠責保険基準の入院付添
- 近親者の付添人:1日4200円
弁護士基準では、通院付添費は、症状の内容や被害者が幼児であることなどから必要が認められれば請求できるとされています。その場合、1日3300円で計算しますが、事情に応じて増額が考慮されます。なお、通院付添のための親の交通費も請求できます。
弁護士基準の通院付添費
- 1日3300円
事情に応じて増額
自賠責保険からは、通院看護料は、医師が必要性を認めた場合に支払われます。但し、12歳以下の子供の通院に近親者が付き添った場合は医師の証明は必要ありません。これらの場合、1日2100円で計算した金額が支払われます。
自賠責基準の通院付添費
- 1日2100円
同乗した子供が、交通事故で怪我をした場合、注意したい点がいくつかあります。ここでは、ポイントを絞って解説致します。
子供が自動車事故で、骨折してしまうこともあります。
大人の骨と違い、子供の骨は成長途中であり、変化の著しい時期でもあります。その分、子供の骨は、骨癒合しやすいため治癒が早く、ずれて骨癒合しても、自分でまっすぐに矯正する力を持っています。
しかし、自家矯正力にも限度がありますし、「過成長」といって骨折した骨が過度に成長し、長くなってしまったり、傷害を負った箇所によっては、骨折した部分が成長するにつれ曲がってしまう成長障害を起こす可能性もあります。交通事故で子供が骨折した場合は、必ず整形外科で受診するようにしてください。
なお、骨折したときの慰謝料については、次の関連記事をお読みください。
追突事故の急ブレーキなどで子供がむちうちになって、なかなか治らない場合「整骨院」に通院することは自由です。
しかし、損害賠償として請求できるのは「必要かつ相当な治療費」であり、医療機関ではない整骨院、整体院などの施術費は、必要かつ相当と認められない危険があります。
そこで、整骨院等への通院は、必ず医師の指示をあおぎ、整骨院への通院と並行して、病院へも通院してください。
さらに、後の紛争を防止するため、医師に、整骨院等での「施術が有効と認める」などの記載をした診断書を作成してもらうことがお勧めです。
整骨院などへの通院についての詳細は、次の記事をご覧ください。
PTSD(Post Traumatic Stress Disorder、「心的外傷後ストレス障害」)は、強い精神的肉体的ショック体験による強度の精神的ストレスから心にダメージを受け、トラウマが残り、その体験から時間を経ても、強い恐怖を感じ続けるものです。
唐突にショック体験の記憶がよみがえり、不安感・緊張感が収まらない、眠れないなどの症状が何ヶ月、何年も続いてしまいます。
PTSDも、症状固定に至れば、それ自体が「後遺障害」です。
非器質性の精神障害として、その程度に応じ、9級10号、12級13号、14級9号の後遺障害等級が認定される可能性があり、認定された場合は、入通院慰謝料に加えて、等級に応じた後遺障害慰謝料、後遺障害逸失利益を請求できます。
さらに、他の後遺障害に加えて、PTSDも発症したときは、後遺障害等級における「併合」という取扱いによって、後遺障害等級が引き上げられる場合があり、それに応じた後遺障害慰謝料、後遺障害逸失利益を請求できます。
ただし、2002(平成14)年に東京地裁が、PTSDの要件を厳格に考える判決(※)を出して以降、裁判所においてPTSDが認められる例は、ごく少数となっており、難しい訴訟となります。
※東京地裁平成14年7月17日判決・判例時報1792号92頁
事故後、子供に精神面の症状が見られた場合には、自賠責保険の後遺障害等級認定を受ける前に、弁護士に相談されるべきでしょう。
また、PTSDの治療費については、症状固定前は、当然に必要かつ相当な範囲で実費が認められます。実費ですから、PTSDだからといって治療費が多く認められるわけではありません。
他方、症状固定後の治療費は認められないことが原則であって、PTSDでも同じです。
PTSDの後遺障害についての詳細は、次の記事をご覧ください。
子供に後遺障害が残った場合「後遺障害逸失利益」を請求することができます。
後遺障害による労働能力の低下で今後の収入に影響が及ぶのは、大人であろうと子供であろうと変わりがありません。むしろ、これから先の人生が長い子供の方がより損失が大きいと言えます。
計算方法も、下記のとおり、大人と同じです。
後遺障害逸失利益 =
基礎収入(年収)× 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に応じたライプニッツ係数
ただし、18歳未満の未就労者の場合、「労働能力喪失期間に応じたライプニッツ係数」の算出に注意が必要です。
例えば、10歳で症状固定の場合、通常の就労可能期間である67歳まで、57年間が就労可能年数です。
しかし、実際には、通常18歳から就労を開始するので、10歳から18歳までの8年間は逸失利益は発生していませんから、8年分に相応するライプニッツ係数を差し引きます。
つまり、「57年間に対応するライプニッツ係数」マイナス「8年分に対応するライプニッツ係数」の数値(20.131)を用いることになります(※)。
※2020(令和2)年4月1日以降の事故に適用される法定利率3%による係数です。
さらに、子供の場合、現実には収入を得ていないので、基礎収入には統計数値を利用します。
具体的には、男子の場合、賃金センサスの「産業計・企業規模計・学歴計・男性全年齢平均賃金(つまり男性労働者の平均)」の数字です。
女子の場合は、「産業計・企業規模計・学歴計・男女計平均賃金(つまり男女を区別しない平均)」の数字です。女子労働者の平均を用いると男女間格差が激しすぎるからです。
例えば、男性の場合、2019(令和元)年の「産業計・企業規模計・学歴計・男性全年齢平均賃金」は、560万9700円となります(※)。
※「賃金構造基本統計調査」|厚生労働省
では、以下の事例の逸失利益を計算してみましょう。
事例
被害者:10歳男子
後遺障害等級:10級(労働能力喪失率27%)
10歳のライプニッツ係数:20.131560万9700円 × 27% × 20.131 = 3049万0795円(後遺障害逸失利益)
親であれば、子供の被害に心配・不安はつきませんが、わからないままでは、正当な賠償金を受け取る、子供の権利を守ってやることはできません。
交通事故をめぐる法律の専門家である弁護士のアドバイスを受け、子供の心のケアも行い、きちんと対応することこそが、親としてなすべきことではないでしょうか。
是非、一度、弁護士に御相談ください。心配も不安も解消できるはずです。