交通事故の休業損害の計算方法|弁護士基準で解説

休業損害

交通事故に遭い、事故が原因で仕事ができない期間が発生すると、その分減収や有給が発生して損害を受けることになってしまいます。

このような場合、被害者は事故の相手に対して「休業損害」を請求することができます。

一方で、休業損害については、多くの方が次のような疑問をお持ちです。

  • 休業損害の計算方法はどうなっているの?
  • 保険会社が払わない可能性があるの?どうすればいいの?

この記事では、交通事故の休業損害の請求方法、稼働日数をもとにした計算方法などについて詳しく解説して参ります。

なお、休業損害と休業補償は異なります。本記事では休業損害の概要について解説します。

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交通事故の休業損害とは

休業損害の概要

休業損害とは、交通事故で仕事を休んだことによって、本来得られたはずの利益が得られなくなったことによる損害に対する補償のことです。

追突事故に遭ってむち打ち等になって、仕事が一定期間できなくなった場合、収入が減って損害を被ることになります。

サラリーマンの場合には欠勤で減収となることがありますし、自分で店を経営している自営業者などの場合でも、例えば店舗を閉めざるを得ない期間があると、その間の売り上げが完全に途絶えてしまいます。

このような場合に、相手に対してサラリーマンは休業損害を請求することができますし、個人事業主も休業損害を請求できます。

休業損害の計算方法は3種類ある

休業損害を算出する公式は1つですが「基礎収入」の算出方法は複数存在します。

「自賠責基準」「任意保険基準」「弁護士基準」という用語を覚えておくと便利です。

「自賠責基準」では基礎収入の金額は最も低くなり、一方で「弁護士基準」では最も高額になります。

ただし、弁護士に相談する必要のない交通事故の場合、基礎収入の計算には「自賠責基準」をすることになります。

具体的な計算方法については別のコラムで説明します。今回は「弁護士基準」の計算方法に焦点を当てます。

交通事故の休業損害の計算方法とは

休業損害の計算式

次に、休業損害の計算方法をご紹介します。

基本的に以下の計算方法を利用します。

休業損害 = 「1日当たりの基礎収入」 × 「休業日数」

上式の「1日当たりの基礎収入」は、自賠責基準と弁護士・裁判基準で異なります。

「弁護士・裁判基準」の1日当たりの基礎収入とは

弁護士に依頼をして計算する場合、休業損害の金額は増額します。

なぜなら、弁護士・裁判基準の場合の1日当たりの基礎収入は、事故前の「実収入」を基準にするからです。

以下では、それぞれのケースで具体例を見てみましょう。

稼働日数を元にした基礎収入の計算方法|給与所得者の場合

サラリーマンなどの給与所得者の場合は、事故前の3ヶ月の給料の合計額を、90日もしくは稼働日数で除することで算出します(ただし、季節によって給与の金額が大きく変動するケースなどでは、「前年度の収入」などを参考にする例もあります)。

サラリーマンの事故前の3ヶ月の月給がそれぞれ20万円、24万円、23万円で、その稼働日数が91日間である例を考えてみます。

この場合には、次の計算方法で1日あたりの基礎収入を算出します(実際には90日で割るケースが多いです)。

なお、計算方法は給与所得者である限り、アルバイト、パート、公務員すべて同じです。

給与所得者の基礎収入の算出

事故前の3ヶ月の月給:20万円、24万円、23万円
給与支給の日数:91日

(20万円 + 24万円 + 23万円)÷ 91日間 = 7,362円

基礎収入の計算方法|自営業・個人事業主の場合

自営業者・個人事業主の基礎収入は、事故前年度の収入を、365日で除することで算出します。

事故が起こった年の前年度の確定申告書の記載にもとづいて、基礎収入を算出します。

たとえば、事故前年度の収入が400万円だった人の例を考えてみます。この場合には、10,959円が1日あたりの基礎収入となります(※)。

自営業者の基礎収入の算出

事故前年度の収入:400万円

400万円 ÷ 365日 = 10,959円

※ただし、自営業者の場合は、様々な算定方式があり、むしろ事故前年の確定申告上の所得から、事故当年の所得を差し引いた残額をもって休業損害とする方式のほうが一般的です。自営業者の所得は、サラリーマンのように定期的に一定額を得られるものではありませんし、こちらの算定方法のほうが、端的に「現実の減収」を明らかにできるからです。

基礎収入の計算方法|主婦・就業前の人の場合

前述の通り、主婦であるからといって休業損害が受けられないということはありません。

たとえば、就職前の人や専業主婦の場合、平均賃金を用いる場合には、賃金センサスの1年分の平均賃金を365日で除算して、1日あたりの基礎収入を計算します。

専業主婦の場合、基礎収入はおおよそ1日あたり1万円程度になることがあります。

主婦の休業損害に関する詳細は、以下の記事もご参照いただけます。

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必要書類

なお、事故前の基礎収入を証明するためには、サラリーマンやアルバイトの場合、事故前の給与明細書、源泉徴収票などが必要です。

自営業者の場合には、事故の前年度の確定申告書の控え(税務署の受領印あるもの)を用意する必要があります。

休業日数と通院日数・数え方の注意点

休業損害の金額を計算する際、「休業日数」の数え方も大きな問題になります。

休業日数は、実際に仕事を休んだ日数ですが、必ずしも休んだ日数がすべて認められるとは限らないので注意が必要です。

休業日数に含めてもらえるのは、仕事内容や症状から、休業が必要で相当と認められる限度に限られます。

仕事を休んで自宅療養の場合

交通事故で仕事を休んで自宅療養しても治療の一環ですから、治療に必要かつ相当な範囲内でのみ休業日数と認められますので、数え方を考える際には注意をしましょう。

つまり、自宅療養の必要性と予定日数を記載した「診断書」を作成してもらう必要があります。

休業損害証明書

休業日数を証明する資料としては、サラリーマンやアルバイトの場合には、勤務先に「休業損害証明書」を記載してもらう必要があります。

休業損害証明書は、具体的に休業した日付や日数などを記載してもらう書類で、保険会社に書式があります。

また、この証明書を作る際に、休業損害について嘘や水増し的な記載をすると処罰される可能性があるので注意しましょう。

交通事故において休業損害がもらえる・もらえないケース

休業損害は、どのような人でも認められるわけではありません。基本的には事故前に仕事をして収入があったことが必要です。

サラリーマン・個人事業主・アルバイトの場合はもらえる

たとえば、サラリーマンや個人事業主も休業損害が認められる典型的なケースです。

また、アルバイトやパート、派遣社員でも休業損害は認められます。現実の収入があるためです。

不労所得者・無職無収入の場合はもらえない?

これに対して、家賃収入だけで生活している「不労所得者」には休業損害が支給されないのです。

その理由は「減収が発生しない」からです。同様に、「無職無収入」の人々も、休業損害の請求資格を持っていません。

ただし、交通事故が発生した時点では働いていなかったとしても、将来の近い時期に具体的な就業先での労働が確定していた場合、休業損害を請求できることがあります。

たとえば、内定を受けている大学生がこのケースに該当し、就労時に予定されていた収入を基に休業損害が計算されることになります。学生であるからといって、休業損害を請求できないわけではありません。

また、就職先が具体的に決まっていない場合でも、本人が「仕事をする意欲や能力」を有し、実際に就職活動を積極的に行っていた場合、賃金センサスの平均賃金を利用して休業損害を算定することがあります。

専業主婦などの家事従事者

ただし、専業主婦(主夫)などの家事従事者は、現実にはお金は稼いでいなくても家事労働に経済的な価値があると評価されます。

この場合、賃金センサスの全年齢の女性の平均賃金を利用して休業損害を計算して、主婦は休業損害を請求できます。

また、仕事(正社員、パートにかかわらず)を持っている兼業主婦の場合には、収入が平均賃金より低い場合には、少なくとも家事労働に相応する経済的損失を補償する観点から、平均賃金を利用して休業損害を計算します。

休業損害は休んでないともらえない

また当然の話ですが、休業損害は交通事故が原因で仕事を休んでいない場合は、もらうことができません。

ただし、休んでないとはいえ、有給休暇の場合は別扱いになるので注意をしましょう。

詳しくは後述します。

休業損害をサラリーマンが請求する場合の注意点

サラリーマンが休業損害を請求する場合、いろいろな問題が起こることがあります。たとえば、「有給を利用して通院した場合」や「ボーナス・賞与が減額された場合」、「昇級が行われなくなった場合」、「退職を余儀なくされた場合」などがあるので、以下で順番に見てみましょう。

休んでないけど有給休暇を利用した場合|半日も可

休んでない場合は原則休業損害はもらえないですが、有給休暇は別です。

有給休暇を利用して通院をした場合にも休業損害が認められます。通院のために、半日有給を消化した場合には、半日分のみが休業損害としてが認められます。

有給休暇は、勤め先からみれば休んでいないものとして扱われますが、有給休暇とは「就労しなくても給与の支払を受ける権利」であり、余暇それ自体に経済的価値があります。それを怪我で無駄にしたのですから、損害と言えるのです。

ボーナス・賞与が減額された場合

交通事故による休業によって、ボーナスが減額されることがあります。休業自体で査定評価を下げられることもありますし、営業の成績などが下がってボーナスが減額されることも多いです。このような場合には、ボーナスの減額分についても休業損害を求めることができます。

そのためには、勤務先に「賞与減額証明書」という書類を書いてもらい、具体的なボーナス減額分を明らかにする必要があります。

昇進が遅れたり、なくなったりした場合

交通事故によって、予定されていた昇進が遅れたり、昇進の話がなくなったりすることがあります。

このような場合には、「昇進があったことを前提にして休業損害を計算」してもらえることがあります。

たとえば、もともと400万円の年収だったけれども、事故がなければ収入が500万円に上がる予定だった場合には、500万円の年収を基本として基礎収入を算定してもらえるということです。

この場合、公務員などのように昇進基準、昇給基準が明確な場合には、減収分を算定しやすいですが、そうでない民間企業では算定とその立証に苦労することになります。

客観的な基準は、就業規則、賃金規程などが証拠資料となる場合がありますが、実際に昇進が予定されていたかどうかは、こういった資料では明らかにならないので、雇用主、上司、人事部署に依頼して、報告書を作成してもらう必要があります。

昇進や昇給を証明できなかった場合には、事故前の実収入によって基礎収入を算定することになります。

退職を余儀なくされた場合

サラリーマンなどの場合、休業が長引くことによって退職を余儀なくされることがあります。

このような場合にも、休業損害がもらえないわけではなく、対象になります。

退職による損害を請求するためには、退職が交通事故によって起こったものであるという因果関係を証明する必要があります。これはまさか会社に証明書を作成してもらうわけには行きませんから、本人の陳述書、法廷での供述、それに元職場の同僚などの協力者の陳述書、証言がとても重要となります。

なお、退職による休業損害を請求する場合の退職後の休業日数は、症状固定までの日数です。

たとえば、1日当たりの基礎収入が8000円の人が、交通事故によって仕事を続けることが困難になって退職を余儀なくされたとして、退職後80日が経過してから症状固定したケースでは、次の休業損害を請求できます。

1日当たりの基礎収入8,000円 × 退職後80日 = 休業損害64万円

ただし、これは症状固定までは休業が必要だったと認定された場合です。

症状固定に至らずとも、その症状や治療内容から不必要な休業と判断されれば、休業日数に含めて貰えません。

逆に、その症状から、症状が固定したからといって、すぐに再就職することは困難という場合に、症状固定から数ヶ月間を休業日数に含めて算定した裁判例もあります。

休業損害補償金はいつもらえるの|先払いは可能か

休業損害補償金を実際にいつもらえるでしょうか?

休業損害は、示談成立前に先払いしてもらうというわけにはいきません。

「交通事故の損害賠償金」は、すべての損害額が確定してからまとめて支払われるのが基本なので、休業損害だけを独立して先払いで受け取ることはできず、後で示談が成立した際にまとめて受けとる形になるからです。

すぐにお金が必要な場合には、「自賠責の仮渡金」などを利用する必要があります。

また、労災保険が利用できる場合には、労災による休業補償給付を利用すると、示談が成立していなくとも休業損害の補償を受け取ることは可能です。

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休業損害と休業補償の違い

交通事故が起こった場合、それが「勤務中」や「通勤中の事故」であったケースでは、労災保険の適用があります。

労災保険から休業補償給付という「休業補償」を事故後4日目以降、受けとることが可能です(労基法上の災害補償制度により、3日目までの分は、その60%を、労働者から使用者に請求することが認められています)。

労災による休業補償給付は、「休業損害」とは異なる制度です。

労災の休業補償を請求すると、相手との示談が成立していなくとも、速やかに休業補償金を受け取るメリットがあります。

労災保険の休業補償給付の金額

労災保険の休業補償給付は、事故前3ヶ月間の平均給与額である「給付基礎日額」(休業補償の1日あたりの基礎収入と同じ考え方です)の60%と定められていますが、これとは別に、「休業特別支給金」という福祉事業としての給付を受けることもできます。

休業特別支給金は、休業4日目から給付基礎日額の20%なので、労災による休業補償を受ける場合には、休業補償給付の60%と休業特別支給金20%の、合計80%を受け取ることができるます。

休業補償の金額はどれだけ減額されるか

労災から休業補償を受ける場合には、交通事故によって相手に請求できる休業補償の金額がその分減額されます。

ただ、福祉事業である「休業特別支給金」の分については、減額の対象になりません。

ですから、労災によって休業補償を受けとる場合でも、損害賠償金から減額されるのは給与基礎日額の60%の範囲にとどまり、残り20%の分は減額の対象になりません。

この部分については労災保険と相手方保険会社から「2重に金銭をもらえる」のです。

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交通事故の休業損害は弁護士相談する

休業損害の提示に納得いかない場合

交通事故によって休業損害が発生した場合に相手方の任意保険会社に休業損害を請求しても、納得のいく金額の提示がもらえないことがあります。

たとえば、専業主婦などの場合に、1日あたりの基礎収入を自賠責基準の5700円に設定されたり、「専業主婦で実収入がないので休業損害が発生しない」などと言われたりすることがあります。

サラリーマンの場合に、ボーナス分の減収が認められなかったり、昇級・昇進分が考慮されなかったりすることもあります。

休業日数についても、休業の必要性がないとして、日数をかなり減らして休業損害を計算されることなどもあります。

弁護士に相談して示談交渉

休業損害について、弁護士に相談して示談交渉を依頼しましょう。

弁護士であれば、どのようなケースでどのような証明書類が効果的であるかなどを熟知しており、適切な対処をして、正当な金額の休業損害を請求することができるからです。

勤務先にどのような書類を書いてもらったら良いのかわからない場合などにも、弁護士にアドバイスをもらえば、勤務先に適切な証明書を発行してもらうことなどが可能になります。

休業損害の請求手続などにも慣れている弁護士に手続を依頼することが一番の近道になります。

まとめ

今回は、交通事故によって発生する休業損害について、請求できる休業損害とその計算方法、休業損害にまつわる問題点、もらえる・もらえない条件、いつもらえるか、先払いは可能かなどについて解説しました。

休業損害とは、交通事故によって働けなくなったことによって発生する減収分に対する補償のことであり、1日の基礎収入に休業日数をかけ算して計算する例が多いです。

休業日数が認められるのは、基本的に追突事故などに巻き込まれてむちうち等になる前から、仕事をしていた人であり、無職無収入の人の場合などには休業損害を受けることはできません。

休業損害の金額に納得ができない場合、交通事故に強い弁護士に請求手続を依頼したら、適切な金額の休業損害を請求することができてメリットが大きいです。

今回の記事を参考にして、交通事故後の休業分について、正当な休業損害を請求しましょう。

分からないことがあれば、交通事故に強い弁護士の無料相談を活用してみるとよいでしょう。

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