交通事故慰謝料の自動計算機
※上記金額は個別事情は考慮せず、一般的な計算方法で弁護士基準の相場を算出しております。正確な金額を計算したい方は各事…[続きを読む]
交通事故で頭部に衝撃を受け、昏睡状態などに陥ったケースでは、無事に意識を取り戻したにもかかわらず、事故前とは人が変わってしまったように無気力で配慮がなく、物事を記憶したり判断したりすることにも支障を生じてしまうことがあります。
これが高次脳機能障害であり、その原因のひとつが「びまん性軸索損傷」です。
ここでは、びまん性軸索損傷の症状、原因、びまん性軸索損傷による高次脳機能障害の後遺障害等級とその認定基準、後遺障害慰謝料、逸失利益の相場、実際の裁判例、適正な賠償金を受け取るためのポイントについて説明します。
目次
びまん性軸索損傷とは、大脳の中に張り巡らされた神経繊維が、広範囲で断線してしまった状態です。
英語では、「diffuse・axonal・injury」、すなわちdiffuse(広がった)、axonal(軸索)、injury(損傷)、略してDAIと称されます。
びまん性軸索損傷によって引き起こされる後遺障害が、高次脳機能障害です。
脳には、視覚、聴覚などの感覚や筋肉の運動などをコントロールする動物的な機能だけでなく、言語の能力、空間を認識する能力、目的や計画をもって行動する能力、記憶する能力など、人間らしい理性的・社会的な生活をするうえで欠くことのできない高い次元の機能(高次脳機能)があります。
びまん性軸索損傷が原因となり、このような高次脳機能が正常に働かなくなってしまうのです。
これにより、次のような典型的症状が現れます。
1.認知障害
2.行動障害
3.人格の変化
交通事故でびまん性軸索損傷が生じるのは、頭部に衝撃を受けることで神経繊維に強い負荷がかかるためです。
例えば、事故の衝撃で、「脳に回転力が生じた場合、脳深部は脳表部よりも遅れて回転するため、脳がねじれます。その結果、軸索が強く引っ張られ、広範囲に断裂し、機能を失うと考えられています。」(※)
※引用元:「脳と神経の病気のデータベース・外傷性疾患・びまん性軸索損傷」大阪市立大学大学院医学研究科脳神経外科学
びまん性軸索損傷による高次脳機能障害で認定される後遺障害等級とその認定基準は次のとおりです。
別表1 | 1級1号 | 認定基準 | 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの |
---|---|---|---|
補足的 考え方 | 身体機能は残存しているが高度の痴呆があるために、生活維持に必要な身の回り動作に全面的介護を要するもの | ||
2級1号 | 認定基準 | 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの | |
補足的 考え方 | 著しい判断能力の低下や情動の不安定などがあって、一人では外出することができず、日常の生活範囲は自宅内に限定されている。身体的動作には、排泄、食事などの活動を行うことができても、生命維持に必要な身辺動作に家族からの声かけや看視を欠かすことができないもの | ||
別表2 | 3級3号 | 認定基準 | 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの |
補足的 考え方 | 自宅周辺を外出できるなど、日常の生活範囲は自宅に限定されていない。また声かけや、介助なしでも日常の動作を行える。しかし記憶や注意力、新しいこと学習する能力、障害の自己認識、円滑な対人関係維持能力などに著しい障害があって、一般就労が全くできないか、困難なもの | ||
5級2号 | 認定基準 | 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの | |
補足的 考え方 | 補足的考え方単純繰り返し作業などに限定すれば、一般就労も可能。ただし新しい作業を学習できなかったり、環境が変わると作業を継続できなくなるなどの問題がある。このため一般人に比較して作業能力が著しく制限されており、就労の維持には、職場の理解と援助を欠かすことができないもの | ||
7級4号 | 認定基準 | 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの | |
補足的 考え方 | 補足的考え方一般就労を維持できるが、作業の手順が悪い、約束を忘れる、ミスが多いなどのことから一般人と同等の作業を行う事ができないもの | ||
9級10号 | 認定基準 | 神経系統の機能または精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの | |
補足的 考え方 | 一般就労を維持できるが、問題解決能力などに障害が残り、作業効率や作業持続力などに問題があるもの |
※「補足的考え方」は、現在の損害保険料率算出機構が平成12年に公表した基準で、自賠責保険の認定実務は、これによって運用されています
(「自賠責保険における高次脳機能障害認定システムについて・平成12年12月18日」高次脳機能障害認定システム確立検討委員会)
びまん性軸索損傷による高次脳機能障害が後遺障害等級認定されるためには、次の2つを満たす必要があります。
自賠責保険では、びまん性軸索損傷による高次脳機能障害を認定するについて、次の3つのポイントを総合的に考慮して判断しています。
びまん性脳損傷による神経の断線はX線、CT、MRIでは撮影できませんが、脳全体が萎縮して大脳内の空間(脳室)や脳のしわ(脳溝)が拡大する特徴があり、びまん性脳萎縮と呼ばれ、自賠責では、この萎縮が認められるか否かを判定材料としています。
この脳萎縮は事故後3ヶ月程度で固定するので、事故直後から脳の画像を撮影して経過を観察することが重要です。
高次脳機能障害は、頭部に外傷を受けた後、一定期間意識を失った場合(意識障害)に生じやすく、半昏睡~昏睡で開眼・応答しない状態が6時間以上継続すると障害発生のおそれがあるとされています。
そこで、自賠責保険では、この場合の等級認定審査は、専門の高次脳機能障害審査会で行うこととしてます。
びまん性軸索損傷となる前と比較して、人格、行動に次のような変化が見られるかどうかがポイントです。
あくまでも、事故の前にはこんなことはなかったという場合です。このため家族、同僚などの身近な人々からの報告書が重要な証拠となります。
びまん性軸索損傷による高次脳機能障害の後遺障害診慰謝料の相場は、次のとおりです。
等級 | 自賠責基準 | 任意保険基準 | 弁護士・裁判基準 |
---|---|---|---|
1級 | 1,100万円 | 1,300万円 | 2800万円 |
2級 | 958万円 | 1,120万円 | 2370万円 |
3級 | 829万円 | 950万円 | 1990万円 |
5級 | 599万円 | 700万円 | 1400万円 |
7級 | 409万円 | 500万円 | 1000万円 |
9級 | 245万円 | 300万円 | 690万円 |
自賠責基準は、最低限の補償を公的に定めた自賠責保険の基準であり、任意保険基準は、各保険会社が独自に定めている損害賠償額を提示する際の金額です(したがって、一般に公開されておらず、上記の金額は、旧任意保険の統一支払基準を参考に記載しています)。
弁護士基準とは、裁判基準とも呼ばれ、裁判所でも用いられる基準です。ご覧になってお分かりのとおり、保険会社が提示する金額よりも高額で、法的にも妥当な基準ですから損害賠償を請求する際は弁護士基準によって計算することが重要です。
次に参考として、裁判におけるびまん性軸索損傷で実際に認定された後遺障害慰謝料を挙げておきましょう。
裁判例1
札幌地裁平成19年5月18日判決
びまん性軸索損傷などで高次脳機能障害(5級)が認定された被害者(症状固定時30歳男性・アルバイト)に後遺障害慰謝料1400万円を認めた
(自保ジャーナル1771号)
裁判例2
東京地裁平成23年1月20日判決
びまん性軸索損傷などで高次脳機能障害(2級相当)が認定された被害者(症状固定時40歳男性・会社員)に後遺障害慰謝料2800万円(近親者分含め)を認めた
(交通事故民事裁判例集44巻1号32頁)
びまん性軸索損傷による高次脳機能障害の労働能力喪失率は次のとおりです。
等級 | 労働能力喪失率 |
---|---|
1級 | 100% |
2級 | |
3級 | |
5級 | 79% |
7級 | 56% |
9級 | 35% |
逸失利益の計算式は、次のとおりです。
「就労可能年数に応じたライプニッツ係数」は、以下の国土交通省のサイトで調べることができます。
参考外部サイト:国土交通省「就労可能年数とライプニッツ係数表」
逸失利益を上記の裁判例を使って計算してみましょう。
前出の裁判例1
札幌地裁平成19年5月18日判決(前出)
びまん性軸索損傷などで高次脳機能障害(5級)が認定された被害者(症状固定時30歳男性・アルバイト)の事例では、労働能力喪失率は79%、基礎収入は事故発生時である平成15年の賃金センサスにおける男性30~34歳の平均賃金488万9900円と認めました
この裁判例における逸失利益の計算例(※)は次のとおりです。
※ 以下に示す本記事での計算例は、裁判例で認定された数字を交通事故事件一般の計算式にあてはめた計算例です。実際の裁判例では、過失相殺・損益相殺などがされている可能性もあり、常にこの計算どおりの数字となっているわけではありません。
逸失利益の計算
基礎収入:488万9900円
労働能力喪失率:79%
ライプニッツ係数(※):16.711
488万9900円 × 79% × 16.711 = 約6455万4943円
※ 就労可能年数(30歳から67歳まで)37年のライプニッツ係数
前出の裁判例2
東京地裁平成23年1月20日判決(前出)
びまん性軸索損傷などで高次脳機能障害(2級相当)が認定された被害者(症状固定時40歳男性・会社員)の事例では、労働能力喪失率100%、基礎収入は事故当時の年収510万1451円を認めました
この裁判例における逸失利益の計算例は次のとおりです。
逸失利益の計算
基礎収入:510万1451円
労働能力喪失率:100%
ライプニッツ係数(※):14.643
510万1451円×100%×14.643=約7470万0546円
※就労可能年数(40歳から67歳まで)27年のライプニッツ係数
高次脳機能障害では、認知障害・行動障害を抱えながらも復職がかない、明らかな収入減少が認められない場合もあります。
しかし、たとえ実際の減収がなくとも、それは職場の上司や同僚が理解して配慮してくれていたり、本人が努力をしていることが寄与している場合があるうえ、現在は収入減がなくとも、将来的に転職する場合には後遺障害が不利に働く可能性が否定できません。
そこで多くの裁判例では、減収がないケースでも、労働能力の喪失と逸失利益を否定する扱いはしていません。
もっとも、実際に労働能力の喪失が現実化してはいないことから、自賠責保険の労働能力喪失率よりも相当控えめな(低い)喪失率の認定にとどまる傾向にあります。
裁判例3
大阪地裁平成28年6月14日
高次脳機能障害で自賠責保険から7級の等級認定を受けた町役場公務員(男性・症状固定時54歳)が自賠責保険の基準どおり、56%の労働能力喪失率を主張したところ、裁判所は35%しか認めませんでした。
被害者は職場復帰後減収がなく、町役場での事務作業をおこなえていることから、高次脳機能障害の労働能力に及ぼす影響は限定的とし(したがって、56%は認めない)、他方で減収がないのは公務員としての給与体系、同僚らの配慮、本人の努力による部分もあるとして、35%の限度で認めました。
(自保ジャーナル1980号12頁)
この裁判例は、基礎収入を事故前年の実収入606万0982円とし、就労可能年数は67歳までの13年間と認定しています。
そこで、これを前提に、労働能力喪失率56%と35%では、金額にどのような差がつくか、計算すると次のとおりになります。
就労可能年数(54歳から67歳まで)14年のライプニッツ係数は、9.899です。
労働能力喪失率 | 計算式 | 逸失利益 |
---|---|---|
56% | 606万0982円×56%×9.899 | 約3359万8690円 |
35% | 606万0982円×35%×9.899 | 約2099万9181円 |
高次脳機能障害が重い場合、生涯にわたって介護や随時の看視・見守りが必要となる場合が珍しくありません。
要介護1級、同2級の場合はそもそも介護や看視を要する症状が前提ですが、その程度に達していない等級の場合でも、必要性があれば将来の介護等の費用が損害として認められます。
弁護士基準では、職業付添人が必要な場合はその実費全額、近親者による付添は1日あたり8000円としつつ、具体的な看護状況に応じて増減されるとしています。
例えば、次の裁判例が参考になるでしょう。
裁判例4
大阪地裁平成20年4月28日判決
びまん性軸索損傷等による高次脳機能障害等の被害者(男性会社員・症状固定時26歳)につき、裁判所は、高次脳機能障害の程度を3級にとどまると認定しました。
他方で、日常生活はおおむね独りでこなせるものの、就労は不可能で、社会的適応力に欠け、随時看視や見守りが必要な状況にあることを認めました。
こうして、母親が67歳までは母親による近親者介護に一部職業介護人の併用を想定して日額3500円を認め、母親が67歳となってから被害者本人の平均余命までは、職業介護人の費用日額1万5000円を認めました。
裁判所が認めた将来介護費は合計7146万5289円となりました。
(交通事故民事裁判例集41巻2号534頁)
この裁判例では、後遺障害慰謝料2400万円も認められています。
また、平成15年賃金センサス男子大卒全年齢平均658万7500円を基礎収入として、就労可能年数41年間の労働能力喪失率100%が認められています。
そこで、これを前提にした逸失利益の計算例は次のとおりとなります。
基礎収入:658万7500円
労働能力喪失率:100%
ライプニッツ係数:17.294(※)
685万7500円 × 100% × 17.294 = 1億1859万3605万円
※就労可能年数(26歳から67歳まで)41年のライプニッツ係数
この計算例からは、後遺障害慰謝料、逸失利益、将来介護費だけでも合計すると次のとおりです。
ご自分の損害賠償額についてお知りになりたい方は、次の「慰謝料の自動計算機」を是非お試しください。
びまん性軸索損傷で適正な後遺障害等級の認定を得るために最も重要なことは、「後遺障害を見過ごさない」ことです。
被害者が、びまん性軸索損傷による高次脳機能障害となっていること自体が気づかれない危険があるのです。その主な原因は次のとおりです。
このように、びまん性軸索損傷による高次脳機能障害は、交通事故の後遺障害が残っていること自体を見過ごされてしまい、適正な損害賠償を受けることができなくなる大きな危険があるのです。
これを避けるためには、高次脳機能障害の被害者を担当した経験を含む、交通事故に強い弁護士に相談をし、その的確なアドバイスを受けることがとても重要です。