盗難車の事故で車両の所有者責任ってあるの?最新判例を徹底解説

裁判所

どんな裁判?

今回の事件がどんな裁判だったのか、簡単にご説明します。

  • 交通事故が発生したことによる車の損傷について、不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)がされた事案
  • 被告(訴えられた側)は会社で車の所有者
  • 原告(訴えた側)は事故相手

被告は、独身寮に居住する従業員が通勤のために車を使用させていました。

ある日の深夜「その車が盗まれ、その約5時間後に盗んだ人が居眠り運転で事故」を起こしました。

この事故により車を損傷された原告は、被告の「自動車保管上の過失」があったから事故が発生したとして損害賠償請求した、という裁判の事案です。所有者としての責任が問われたわけです。

なぜ所有者の責任が問われ、損害賠償請求される?

今回のような事故の場合、泣き寝入りで終わらないように、車を盗んだ人に対して損害賠償請求でき、裁判もできるのは当然です。

ただ、盗んだ人が自動車保険に入っていなかったり、支払い能力さえない場合は、結果的に被害者側は賠償を受けることができない事態が発生します。

そこで「車両の所有者」に対して損害賠償請求をすることになるわけです(今回は物損でしたので自賠責ではなく民法上の問題になりました)。

実際に車両の所有者の責任があると言えるためには、簡単に説明すると次の2点が必要です。

  • ①車両管理についての過失
  • ②その過失と事故との因果関係があること(相当因果関係)

今回の事故についても、裁判は1審からこれらの点が争いになり、1審、2審、最高裁と全てで異なる判断が出ています。

最高裁は車を盗まれた会社の賠償責任を否定

結論から言えば、この裁判で、最高裁は2020年1月21日、被告(車を盗まれた会社)の損害賠償責任を否定しました。

判決では、会社は従業員に車を使用させるにあたって、厳密な内規を定めることで盗難防止措置をしており、管理上の過失がないため、不法行為責任もないと判断されています。

そのため、1審や2審で争われた、事故まで5時間が経過していたことや深夜に盗まれたことなどの因果関係については判断していません。

なお、2審では①管理上の過失も②因果関係もあるとして、最終的に790万円の賠償を命じていました。

盗難車での事故の所有者責任|過去の裁判例

実は、こうした裁判例は今回に限ったものではなく、過去様々な事例の蓄積があります。

車の所有者の賠償責任を認めた裁判例

例えば、今回の2審である東京高判平成30年7月12日や、福岡地判昭和62年10月13日があります。

福岡の判決は、駐車禁止の道路上に「キーを挿したまま施錠せずに買い物」していたときに盗難被害にあいました。

そして、その5時間後にその盗難車による事故が発生したものです。

車の所有者の賠償責任を否定した裁判例

管理上の過失を認め、因果関係を否定したもの

先ほどの事例と同様に、車のキーを挿したままにしていた事案が多くあります。

ただ、例えば盗難から5日以上経過していたものや(名古屋地判昭和61年6月27日)、7時間後でも30km離れていたもの(東京地判平成7年8月30日)など、時間や距離が離れており、因果関係が認められないというものが多いです。

管理上の過失自体を否定したもの

今回の最高裁と同様の判断パターンです。

例えば、広島地判平成元年6月30日や、東京地判平成8年8月22日などがあります。

最高裁判決と今後の注意点

今回紹介した裁判のケースでは、盗難車事故の所有者側の責任を過失がないものとして否定しました。

ただ、気をつけていただきたいのは、常に所有者の責任が否定されるわけではない点です。

車両の施錠をしなかったり、車内にキーを置きっぱなしにしたりなど、所有者に車両を管理するうえでの過失がある場合は、十分に所有者について事故の損害賠償責任が認められる可能性があります。

ご自分の車については盗難防止に注意し、会社では車両管理について規定を設けるなどの対策は忘れないようにしましょう。

また、事故被害者の方は泣き寝入りをしないためにも、対策を講じましょう。

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