危険運転致死傷罪とは?~点数・罰則、量刑相場、懲役何年、執行猶予~

危険運転致死傷罪

あおり運転や暴走事故が多発し、危険運転致死傷罪に対する関心が高まっています。

この記事では、危険運転致死傷罪が新設された経緯から、適用される状況、起訴・不起訴、懲役何年なのか、執行猶予なのか、量刑の相場、点数・罰金などについて解説します。

また、似たような罪名である「過失運転致死傷罪」については、下記記事が詳しいので併せてご参考ください。

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危険運転致死傷罪とは

「危険運転致死傷罪」は現在は刑法ではなく、「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」(略称:自動車運転死傷行為処罰法)に定められています。

2000年代に、悪質な飲酒運転による重大な死亡事故(※)が重なったことから、悪質な態様による事故の厳罰化を求める声、運動が広がりました。

その結果、危険な運転行為による交通事故を重く処罰する危険運転致死傷罪が制定されました。

それまでは、最高刑が懲役5年の「業務上過失致死傷罪」が適用されてきました。

※1999(平成11)年、東京都の東名高速道路上で飲酒運転による追突事故で幼い女児2名が焼死した事件(東名高速飲酒運転事故)。
※2000(平成14)年、神奈川県における飲酒、無免許、無車検で運転し、検問から逃走したあげく、被害者2名を死亡させた事件(小池大橋飲酒運転事故)。

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危険運転致死傷罪は懲役何年?罰則と時効

量刑・罰則は、結果が傷害か死亡かによって異なります。さらに、無免許運転の場合には、より刑が重くなります

また、公訴時効期間は、法定刑によって異なるので、便宜上、ここで一緒に説明しておきます。

危険運転致死傷罪の罰則 公訴時効期間
人を負傷させた者(危険運転致傷罪) 15年以下の懲役(2条1号) 10年(刑訴法250条2項3号)
無免許運転のときは 6月以上の有期懲役(6条1項)
但し、技能欠如危険運転の場合を除きます。
人を死亡させた者(危険運転致死罪) 1年以上の有期懲役(2条1号) 20年(刑訴250条1項2号)

最近もニュースで、懲役23年を求刑された事件がありましたが、この表を見ると、量刑に関して罰金刑はなく「懲役刑」の規定しか無いことが分かります。

ただし、後述しますが、必ずしも刑務所に収監されるわけではなく「不起訴」になったり「執行猶予」が付される場合もあります。

危険運転致死傷罪の適用件数

どのような状況で危険運転致死傷罪(準危険運転を含む)が適用されることが多いのかは、次の統計を見てください。

酩酊危険運転、準危険運転が突出しています。

他方、通行妨害目的危険運転(あおり)は事件としては注目を集めますが、事件数としては少ないこともわかります。

平成29年 危険運転致死傷罪による公判請求人員 総数408名
危険運転の内容 人数 割合
酩酊危険運転 129 31.6%
高速度危険運転 18 4.4%
通行妨害目的危険運転 11 2.6%
信号無視危険運転 87 21.3%
通行禁止道路危険運転 5 1.2%
準危険運転 132 32.3%
危険運転+無免許 26 6.3%

*平成30年犯罪白書4-1-2-3図「危険運転致死傷による公判請求人員(態様別)」より

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危険運転致死傷罪の不起訴の可能性|起訴率が高い

危険運転致死傷罪の量刑などを先述しましたが、罪に問われた場合に「不起訴処分」となる可能性はあるのでしょうか?

2017(平成29)年の危険運転致死傷罪の検察庁での処理は次の統計のとおりです。

危険運転致死傷罪 一般事件(※1) 過失運転致死傷等 道路交通法違反
公判請求 74.7% 22.9% 1.2% 2.6%
略式命令請求 0%(※2) 14.3% 9.6% 53.6%
不起訴 15.8% 51.6% 86.2% 39.2%
家裁送致(※3) 9.5% 11.3% 3.1% 4.5%

平成30年犯罪白書4-1-2-1図「交通事件 検察庁終局処理人員の処理区分構成比」より

危険運転致死傷罪では、約75%が起訴され、法廷での正式裁判にかけられています。

同じく交通事件である過失運転致死傷等や単純な道路交通法違反で公判請求されたのは1.2%から2.6%に過ぎません。

また、一般事件でも公判請求されたのは約23%に過ぎません。

つまり、他の罪名の場合と比較すると、危険運転致死傷罪で公判請求される確率は高いと言えます。

しかし同時に、不起訴処分となる場合が確かにあることが分かります。

※1:ここで、一般事件とは危険運転致死傷罪、過失運転致死傷罪等、道路交通法違反以外の事件です。
※2:危険運転致死傷罪には罰金刑はありません。
※3:家庭裁判所に送致されるのは未成年者の少年事件です。

危険運転致死傷罪の量刑相場は何年?執行猶予はもらえるのか?

危険運転致死傷罪で起訴されてしまったとき、量刑の相場は何年くらいでしょうか?

また、執行猶予はもらえるのでしょうか?

平成29年に、交通事件で第一審で懲役・禁錮刑を受けた者の刑の年数は、次の統計のとおりです。

被害者が死亡した場合でも、「過失運転致死」であれば、1329人のうちの1252人(94%)が執行猶予付き判決です。

一方「危険運転致死」では、31人のうち全員(100%)が実刑判決であり、そのうち22人(70%)が5年を超える重い刑です。

また、死亡ではなく、受傷をした場合も見てみると「過失運転致死』の場合は、2670人のうちの2624人(98%)が執行猶予付き判決です。

他方「危険運転致傷」では、執行猶予付き判決となったのは、341人のうち308人(90%)です。

以上から、量刑相場という観点で、危険運転致死の場合はほぼ確実に実刑になり、危険運転致傷の場合は執行猶予となる場合も多いことが見て取れます

致傷 致死
過失運転 危険運転 過失運転 危険運転
総数 2670人 341人 1329人 31人
10年超 0人 0人 0人 4 人(12.9%)
10年~7年超 0人 0人 0人 9人(29.0%)
7年~5年超 0人 2人(0.58%) 0人 9人(29.0%)
5年~3年超 2人(0.7%) 6人(1.7%) 11人(0.82%) 6人(19.3%)
3年の実刑 0人 3人(0.87%) 7人(0.52%) 3人(9.6%)
3年の刑で全部執行猶予 25人(0.9%) 17人(4.9%) 110人(8.27%) 0人
2年以上3年未満の実刑 3人(0.07%) 6人(1.7%) 39人(2.9%) 0人
2年以上3年未満の刑で全部執行猶予 160人(59%) 55人(16.1%) 302人(22.7%) 0人
1年以上2年未満の実刑 8人(0.29%) 12人(3.5%) 17人(1.27%) 0人
1年以上2年未満の刑で全部執行猶予 157人(59.0%) 19人(57.4%) 828人(62.3%) 0人
6月以上1年未満の実刑 20人(0.74%) 4人(1.17%) 3人(0.22%) 0人
6月以上1年未満の刑で全部執行猶予 862人(32.2%) 40人(11.7%) 12人(0.9%) 0人

平成30年犯罪白書「4-1-3-1表 交通事件 通常第一審における有罪人員(懲役・禁錮)の科刑状況」から抜粋

危険運転致死傷罪の点数は?

危険運転致死傷罪に問われた場合、行政処分を決める基準となる点数制度における点数についても、確認しておきましょう。

危険運転致死傷は、その内容により特定違反行為として、次の基礎点数がつき「免許取消」となります。

特定違反行為に付する基礎点数(道路交通法施行令別表第二) 欠格期間
(前歴0回の場合)
危険運転致死 62点 8年
危険運転致傷 治療期間3ヶ月以上又は後遺障害 55点 7年
治療期間30日以上 51点 6年
治療期間15日以上 48点 5年
治療期間15日未満 45点 5年
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危険運転致死傷罪が成立するきっかけ、東名高速あおり運転事件とは?

危険運転致死傷罪の成立するきっかけとしては、2017(平成29)年6月に発生した、いわゆる「東名高速あおり運転事件」が有名です。

被告人は、被害者に文句を言うために、その車両を停止させようと、高速道路上で、被害者の車両を追い越し、その前で減速して著しく接近するという妨害行為を4回も繰り返しました。

その後、被告人は被害車両の直前で停止したため、被害車両もその後方に停止を余儀なくされました。

降車した被告人が、停止した車中の被害者に暴力を振うなどしていたところ、後方から来た大型トラックが被害者の車両に追突し、被害者ら2名が死亡、同乗者2名が負傷した事案です。

裁判所は、最終的に被害車両の直前に停止した行為それ自体は、速度が「0」であることから、「③重大な交通の危険を生じさせる速度であること」という要件を満たさず、通行妨害目的危険運転には該当しないとしました。

しかし、そうだとしても、4度の妨害行為が通行妨害目的危険運転に当たることは明らかで、被害車両の直前に停止した行為や被害者に暴力を振るった行為も、4度の妨害行為と密接に関連した行為であることなどから、死傷事故は、4度の妨害行為の危険が現実化したものといえるとし、通行妨害目的危険運転致死傷罪などの成立を認め、検察官の懲役23年の求刑(別件の強要罪なども同時に起訴)に対し、懲役18年と判示しました(※)。

横浜地裁平成30年12月14日判決

なお、この事件は非常に悪質な事案として耳目を集め、殺人罪(死刑・無期懲役・5年以上の懲役刑)を適用するべきではないかとの世論もありました。

しかし、被告人に殺す意思があったり、被害者らが死んでもかまわないと考えていたりしない限り、殺人の故意がないので、殺人罪は成立しません。

危険な高速道路上で車を停止させている以上、被害者らが死亡してもかまわないという認識(未必の故意)を認めるべきだという意見もあろうかと思いますが、それは暴論です。

被告人が殺人の未必の故意を有していたか否かを証拠をもって、合理的な疑いを容れない程度に立証できなくては殺人罪に問うことはできません。

危険運転致死傷罪がかかえる問題点とは?

危険運転致傷罪は、裁判例が集積されつつあるとはいえ、まだ新しい法律であり、適用範囲には議論があるなど、法律論的な問題点を多数抱えています。

例えば、前記のとおり、東名高速あおり運転事件で、横浜地裁は、高速道路上で被害者車両の直前で停止した被告人の行為それ自体は、速度が0であるから、危険速度を要件とする通行妨害目的危険運転には該当しないと判示しました。

このため、高速道路上で停止する行為を危険運転とする条文を追加するべきだという論者もいれば、高速道路上で速度が0となることは、まさに危険な「速度」だと主張する論者もいます(同事件での検察官の主張はそうでした)。

同事件の控訴審判決(東京高裁令和元年12月6日判決)が、横浜地裁判決を破棄して差し戻したこともあり、今後が注目されます。

また、現段階では、準危険運転致死傷(病気危険運転)の病気には認知症が指定されていませんが、高齢者の暴走事故が多発している現状では、いずれ対応を迫られることは必定です。

危険運転致死傷罪の今後については、注視してゆく必要があるでしょう。

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