自転車事故の加害者にはどのような刑事上・民事上の責任があるのか

私達の身近な乗り物である自転車。しかし、何時起こるかわからないのが、交通事故です。

今回は、自転車事故で人を死傷させてしまった場合には、どんな刑事上・民事上の責任があるのか、警察は動くのか、また損害賠償金を支払うことができない場合は、どうすればいいのかについて解説します。

自転車事故の刑事上の責任

自転車による人身事故で成立する犯罪の刑事罰・罰金

自転車での事故であっても、被害者が怪我をしたり、死亡したりすれば、刑事上の責任が発生し、次の犯罪が成立します。

罪名内容刑罰
過失傷害罪
(刑法209条)
過失により人を傷害した者
(親告罪)
30万円以下の罰金又は科料
過失致死罪
(刑法210条)
過失により人を死亡させた者50万円以下の罰金
重過失傷害罪
(刑法211条)
重大な過失により人を傷害した者5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金
重過失致死罪
(刑法211条)
重大な過失により人を死亡させた者

過失の程度が軽く、過失傷害・過失致死にとどまる場合は、不起訴処分または罰金刑となる略式起訴が多く、一般の目に触れる記録として残りにくいと思われます。

このため正式に起訴され、公判請求される(公開の法廷での裁判を受ける)のは、過失の程度が著しい重過失傷害、重過失致死のケースがほとんどでしょう。

しかし、公判請求された場合でも、ほとんどの場合、執行猶予判決となり、本当に刑務所にゆくことになる実刑判決はごく少数です。

そこで次に、自転車事故の刑事裁判例をいくつかご紹介します。

自転車事故の刑事裁判例

スマホのながら運転が重大な過失とされた刑事裁判例

被告人は元大学生の女性(20歳)で、電動自転車で歩行者専用道路の商店街を走行中の事故でした。左耳のイヤホンで音楽を聴きながら、飲み物を持つ右手でハンドルを握り、左手でスマホを操作しながら走行し、メッセージの送受信を終えてスマホをズボンのポケットにしまう動作に気をとられて脇見運転をし、被害者(女性・77歳)を死亡させました。

判決は重過失致死罪で禁錮2年執行猶予4年でした(横浜地裁川崎支部平成30年8月27日判決※)。

※朝日新聞デジタル・2018年8月27日記事「ながらスマホの自転車死亡事故、元大学生に有罪判決」から

対バイクの事故で、自転車運転者が重過失傷害罪で起訴された刑事裁判例

被告人(70歳)は、自転車で道路を右折する際に、道路中央付近で一時停止または徐行して左方向から進行してくる車両の有無、安全を確認するべきだったのに、これを怠って進行した重大な過失により、左方向から走ってきた被害者(58歳)のバイクと衝突し、被害者に加療397日を要する頭蓋骨骨折などの傷害を負わせたとして起訴され、罰金30万円を求刑されました。

但し、公訴事実を裏付ける証拠がないとして、判決は無罪でした(京都地裁平成15年5月23日判決)。

信号に注意を払わず重過失が認定された刑事裁判例

車道上を時速10キロメートルで、いわゆる「けんけん乗り」で走行させ、赤信号を見落として、青信号で横断歩道を歩行中の被害者に衝突した事案(※)です。

この事案の第一審では、示談が成立していないこと、被告人の反省が顕著でないことなどから、執行猶予付きの禁固6月という判決でした。

これに対し高裁は重過失であることを認めつつ、被害者は69歳と高齢で、かねてから腰椎の症状で通院などしていたことが傷害の結果(加療6ヶ月)に影響したこと、被告人は前科前歴のない主婦で、当日は銀行にゆく途中で、たまたま注意義務を怠った一過性の犯行に過ぎないことなどから、禁固刑は酷に過ぎるとして、罰金15万円の判決を下しました。

※ 東京高裁昭和57年8月10日判決・刑事裁判月報14巻7・8号603頁

未成年でも警察の捜査・家庭裁判所に送られる場合がある

前述のとおり、自転車事故でも過失傷害罪などの犯罪ですから、警察・検察から捜査を受けます。加害者が未成年であれば、少年法によって、家庭裁判所へ事件が送致されます。逮捕により身柄を拘束されていれば、身柄ごと家庭裁判所に送致されます。

被害者が死亡し、加害者の少年が家庭裁判所へ送致されたケース

加害者16歳男性(高校1年生)の運転する自転車が、左右の安全確認等をせずに交差点を横断しようとして被害者60歳女性(保険外交員)の自転車に衝突し、頭蓋骨骨折、脳挫傷などで死亡させた事案です。

被害者の遺族らが損害賠償を求めた民事裁判で、裁判所は賠償金総額3137万7198円を認めましたが、その民事事件の判決書の中で、加害者の少年が重過失致死罪の被疑事実によって、さいたま家庭裁判所に送致されたことが指摘されています(さいたま地裁平成14年2月15日判決)。

自転車による人身事故には示談が大切

自転車による人身事故では、被害者との示談を成立させ、刑事告訴をとどまってもらう、あるいは、すでになされている刑事告訴を取り下げしてもらうことが非常に重要となります。

単なる過失による過失傷害罪は親告罪なので、重過失にあたらない限り、刑事告訴がなければ起訴できないからです。

次に挙げる裁判例では、被害者の告訴がなかったために、重過失が否定され公訴が棄却されました。

重過失が否定され過失傷害罪となったが、告訴がないので起訴が却下された刑事裁判例

大阪高裁昭和42年1月18日判決

被告人が荷台に約70キロの荷物をのせた自転車で、青信号に従って交差点を走行しました。被害者は赤信号を無視して横断歩道の横断を開始し、気づかないまま自転車と衝突してしまいました。

被告人は、赤信号なので被害者が注意してくれると思った、被害者の前を通過できると思ったなどと供述したこと等から、第一審は、被告人は徐行・進路変更・一時停止する義務を怠ったとして重過失を認定しました。

しかし、高裁は、70キロの重量物を搭載した自転車に、徐行・進路変更・一時停止を要求するのはかえって危険だなどとして重過失を否定しました。

そして、被告人の過失は自転車の警音器(ベル)を鳴らして被害者に注意を促すべきだったのにそれをしなかった点にあり、これは重大な過失ではなく、単なる過失に過ぎないとしました。

さらに、単純な過失による過失傷害罪は親告罪であるが、本件では、被害者の刑事告訴がないから、検察官による起訴自体が違法であるとして公訴を棄却(※)しました。

(判例タイムズ208号206頁)

※公訴棄却とは、検察官による起訴(公訴提起)が法の要求する条件を満たしていないとして、起訴自体を却下する判決です(刑事訴訟法338条4項)。

賠償金を支払えない場合の対処法

自転車で人身事故を起こした場合、刑事罰の対象となるだけでなく、加害者には、民事上の損害賠償義務も発生し、怪我の治療費や慰謝料などを支払わなければなりません。

その場合、損害賠償金を支払える資力があるか、もしくは自転車事故の損害を補償する保険に加入していれば対処は可能です(「損害を補償してくれる保険」については、次の記事も併せてお読みください)

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しかし、もしも被害者に賠償金を支払うことができなければ、加害者には次のような事態が待ち受けています。

賠償金を支払えなければ強制執行を受けてしまう

賠償金が支払えない場合は、被害者に訴訟を提起され、裁判所から賠償金の支払いを命ずる判決が出されます。

判決が確定すると、被害者は、その判決書をもとに、加害者の財産に強制執行を行います(被害者との示談内容が、強制執行認諾文付き公正証書、調停調書、和解調書になっている場合は判決がなくとも強制執行が可能です)。

具体的には、加害者の次のような財産の差し押さえです。

  1. 給与の差し押さえ
  2. 預貯金の差し押さえ
  3. 株式や債券など有価証券の差し押さえ
  4. 自宅の土地、建物の競売
  5. 生活必需品を除いた家財道具
  6. 加害者が個人事業主であれば売掛金などの債権の差し押さえ

上記のような差し押さえ・強制執行をされて、もしも生活が立ちゆかなくなるならば、被害者側と改めて「分割払い」などの交渉を行うべきです。

弁護士を代理人として交渉し、自宅の土地建物を売却し、その代金の全額を賠償金として支払うことで、残債務を免責してもらうという例もあります。

なお、交通事故の賠償金と強制執行については、次の記事も併せてご覧ください。

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加害者がとれる最後の手段「自己破産」について

また、話合いに応じてくれない、話合いがまとまらないという場合は、最後の手段として自己破産を申し立てしましょう。

交通事故の加害者として負担した損害賠償債務も、支払うことができない場合は、自己破産が認められます。

ただし、交通事故が加害者(破産者)の「重大な過失」による場合は、交通事故の損害賠償債権が「非免責債権」に該当すると判断され、支払義務を免れない場合もあります(破産法第253条1項3号)。

この場合の「重大な過失」とは、「故意に匹敵するほどの著しい注意義務違反」とされていますが、どのような場合がこれにあたるかは、ケースバイケースです。

自転車事故の賠償債務の免責を認めなかった裁判例

自転車と歩行者の事故で、次のような事実があったこを指摘して、「重大な過失」があり免責を認めないと判断しました。

1.歩行者優先の歩道上
2.自転車が危険な速度で走行
3.無灯火
4.前方や左右の確認を怠った
など

(東京地裁平成28年11月30日判決・自保ジャーナル1990号)

なお、交通事故の損害賠償責任と自己破産の関係については次の記事をご覧ください。

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まとめ

このように自転車の事故であっても、高額の民事賠償義務を負担するケース、刑事処分を受けるケースがあるのですから、軽く考えることは厳禁です。

自転車事故を甘く見て人生を誤らないように、自動車事故と同様に、人身事故に強い弁護士に相談することがベストです。



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