交通事故の慰謝料は100万を超えることはあるか?徹底解説

交通事故に巻き込まれると、身体的な痛みや治療に伴う負担が生じ、精神的に非常につらい経験をすることがあります。
このような精神的な苦痛に対処するために「慰謝料」が支払われる場合があります。
一部の人々は、「むちうちの場合、慰謝料は100万円を超えることは滅多にないだろう」と思うかもしれません。
しかし、実際には、むちうちであっても、治療の進行状況に応じて、100万円を超える慰謝料が支払われることもあるのです。では、具体的にはどのような状況で100万円を超える慰謝料が支払われるのでしょうか。
この記事では、交通事故において100万円を超える慰謝料が支払われるケースについて詳しく説明します。
目次
1.交通事故の慰謝料とは?
100万円を超えるかどうかの前にまず、交通事故の慰謝料とはどのようなものなのでしょうか。
(1)慰謝料とは
交通事故の慰謝料とは、交通事故によって被害者が受けた精神的苦痛に対して支払われるお金です。交通事故の被害に遭った被害者は、以下のようなことで精神的苦痛を受けることになります。
- 交通事故に巻き込まれたことによる恐怖
- 怪我の治療や手術による痛み
- 後遺症が残ったことによる将来への不安
- 誠意のない加害者への怒り
- 大切な家族を失ったことによる悲しみ
このような精神的苦痛を和らげるために、慰謝料が支払われます。金額相場については後述します。
(2)慰謝料は3種類ある
交通事故の慰謝料には、以下の3つの種類の慰謝料があります。
- 傷害(入通院)慰謝料(交通事故の怪我に対する慰謝料)
- 後遺障害慰謝料(後遺障害が残ったことへの慰謝料)
- 死亡慰謝料(被害者が死亡したことへの慰謝料)
上記のうち、後遺障害慰謝料や死亡慰謝料については、慰謝料額が100万円を超えるケースがほとんどです。
そのため、以下では「傷害慰謝料のみで100万円を超えることがあるのか?」に絞って解説していきます。
2.傷害慰謝料の計算方法
傷害慰謝料の金額は、100万円になるのかどうか考える際に、どのように計算するのが重要です。以下では、傷害慰謝料の計算方法について説明します。
(1)慰謝料の算定基準には3つの種類がある
交通事故の実務では、慰謝料を計算する際には、客観的な基準に基づいて計算を行います。
その際に利用されるのが、以下の3つの基準です
①自賠責保険基準
自賠責保険とは、交通事故被害者を救済することを目的とする保険制度です。自動車を運転する際には、自賠責保険への加入が義務付けられていますので、交通事故の被害者は、加害者が加入する自賠責保険から最低限の補償を受けることができます。
自賠責保険基準とは、このような自賠責保険から被害者が慰謝料を受け取るときの計算で利用される基準です。
②任意保険基準
加害者が任意保険に加入している場合には、被害者は、加害者の任意保険会社から賠償金を支払ってもらうことができます。
任意保険基準とは、任意保険会社が慰謝料の支払いをする際に利用する基準です。
③裁判基準
裁判基準とは、裁判所が慰謝料を算定する際に利用する基準です。
弁護士が保険会社との示談交渉で利用する基準であることから「弁護士基準」と呼ばれることもあります。
(2)傷害慰謝料の計算方法|100万円は超えるか?
傷害慰謝料の計算は、どの算定基準を利用するかによって異なってきます。任意保険基準については、一般に公表されていませんので、以下では、自賠責保険基準と裁判基準による傷害慰謝料の計算方法について説明します。
①自賠責保険基準での傷害慰謝料の計算方法
自賠責保険からは、日額4300円の傷害慰謝料が支払われます。慰謝料の支払いの対象となる日数は、以下のうちいずれか短い方が適用されます。
- 通院期間
- 実通院日数×2
ただし、2020年3月31日以前に発生した事故については、日額4200円となります。
例えば、通院期間より実通院日数*2のほうが短くなった場合で、実通院日数が90日とします。
そうすると、90*2*4300=774000円となります。
この場合は、自賠責基準で計算をした場合、100万円は超えないということになります。
②裁判基準での傷害慰謝料の計算方法
次に裁判基準で計算をしてみましょう。
裁判基準では、入通院期間を基準に、以下の表に基づいて計算をします。別表Ⅰは、怪我の程度が重傷である場合に用いられる表で、別表Ⅱは、むちうち、打撲、擦り傷など比較的軽症な場合に用いられる表です。
入院期間と通院期間が交わる部分が傷害慰謝料の金額を示しています。100万円を超える金額も多い事がわかります。
(別表Ⅰ)
入院 | 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | |
通院 | 53 | 101 | 145 | 184 | 217 | 244 | 266 | 284 | 297 | 306 | |
1月 | 28 | 77 | 122 | 162 | 199 | 228 | 252 | 274 | 291 | 303 | 311 |
2月 | 52 | 98 | 139 | 177 | 210 | 236 | 260 | 281 | 297 | 308 | 315 |
3月 | 73 | 115 | 154 | 188 | 218 | 244 | 267 | 287 | 302 | 312 | 319 |
4月 | 90 | 130 | 165 | 196 | 226 | 251 | 273 | 292 | 306 | 316 | 323 |
5月 | 105 | 141 | 173 | 204 | 233 | 257 | 278 | 296 | 310 | 320 | 325 |
6月 | 116 | 149 | 181 | 211 | 239 | 262 | 282 | 300 | 314 | 322 | 327 |
7月 | 124 | 157 | 188 | 217 | 244 | 266 | 286 | 304 | 316 | 324 | 329 |
8月 | 132 | 164 | 194 | 222 | 248 | 270 | 290 | 306 | 318 | 326 | 331 |
9月 | 139 | 170 | 199 | 226 | 252 | 274 | 292 | 308 | 320 | 328 | 333 |
10月 | 145 | 175 | 203 | 230 | 256 | 276 | 294 | 310 | 322 | 330 | 335 |
11月 | 150 | 179 | 207 | 234 | 258 | 278 | 296 | 312 | 324 | 332 | |
12月 | 154 | 183 | 211 | 236 | 260 | 280 | 298 | 314 | 326 | ||
13月 | 158 | 187 | 213 | 238 | 262 | 282 | 300 | 316 | |||
14月 | 162 | 189 | 215 | 240 | 264 | 284 | 302 | ||||
15月 | 164 | 191 | 217 | 242 | 266 | 286 |
(単位:万円)
(別表Ⅱ)
入院 | 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | |
通院 | 35 | 66 | 92 | 116 | 135 | 152 | 165 | 176 | 186 | 195 | |
1月 | 19 | 52 | 83 | 106 | 128 | 145 | 160 | 171 | 182 | 190 | 199 |
2月 | 36 | 69 | 97 | 118 | 138 | 153 | 166 | 177 | 186 | 194 | 201 |
3月 | 53 | 83 | 109 | 128 | 146 | 159 | 172 | 181 | 190 | 196 | 202 |
4月 | 67 | 95 | 119 | 136 | 152 | 165 | 176 | 185 | 192 | 197 | 203 |
5月 | 79 | 105 | 127 | 142 | 158 | 169 | 180 | 187 | 193 | 198 | 204 |
6月 | 89 | 113 | 133 | 148 | 162 | 173 | 182 | 188 | 194 | 199 | 205 |
7月 | 97 | 119 | 139 | 152 | 166 | 175 | 183 | 189 | 195 | 200 | 206 |
8月 | 103 | 125 | 143 | 156 | 168 | 176 | 184 | 190 | 196 | 201 | 207 |
9月 | 109 | 129 | 147 | 158 | 169 | 177 | 185 | 191 | 197 | 202 | 208 |
10月 | 113 | 133 | 149 | 159 | 170 | 178 | 186 | 192 | 198 | 203 | 209 |
11月 | 117 | 135 | 150 | 160 | 171 | 179 | 187 | 193 | 199 | 204 | |
12月 | 119 | 136 | 151 | 161 | 172 | 180 | 188 | 194 | 200 | ||
13月 | 120 | 137 | 152 | 162 | 173 | 181 | 189 | 195 | |||
14月 | 121 | 138 | 153 | 163 | 174 | 182 | 190 | ||||
15月 | 122 | 139 | 154 | 164 | 175 | 183 |
(単位:万円)
入院をもしなかった場合は、表の左から2列目を見ることになります。
上記の通り、100万円以下になることもありますし、100万円以上になるケースもあります。
3. 交通事故の慰謝料が100万円を超えるケースとは?
以下では、傷害慰謝料が100万円を超える可能性があるケースを紹介します。
(1)骨折で6か月間通院したケース
交通事故で、腕の骨を折った場合には、裁判基準でいうところの重傷に該当します。
別表Ⅰを利用して傷害慰謝料を計算します。
別表Ⅰの通院期6か月の部分は「116」とありますので、このケースでは、傷害慰謝料として116万円を請求することができます。
(2)むちうちで8か月通院したケース
交通事故でむちうちと診断された場合には、裁判基準でいうところの軽症に該当します。
つまり、別表Ⅱを利用して傷害慰謝料を計算します。
別表Ⅱの通院期間8か月の部分は、「103」とありますので、このケースでは、傷害慰謝料として103万円を請求することができます。
このように軽症といわれているむちうちであっても慰謝料が100万円を超えることがあります。
4. 交通事故の慰謝料請求をお考えの方は弁護士に相談を
上記の通り、交通事故の傷害慰謝料は、治療期間や治療実日数に応じて計算します。治療期間や治療実日数が長くなれば慰謝料も高額になり、100万円を超える慰謝料になることもあります。
ただ上記で解説した通り、3つの基準のうち最も慰謝料が高額になるのは裁判基準です。
被害者としては、当然裁判基準で計算した慰謝料を請求したいと考えますが、被害者自身での示談交渉では、裁判基準による慰謝料を請求することはできません。
そのため、交通事故の慰謝料請求をお考えの方は、弁護士に相談することをおすすめします。
裁判基準による慰謝料を請求するためには、弁護士に示談交渉を依頼する必要があるからです。
保険会社から提示された慰謝料を増額したいという場合には、100万円クラスであってもそうでなくても、弁護士への依頼が不可欠となりますので、まずは、弁護士に相談するようにしましょう。