無保険事故の加害者が自己破産!被害者は請求できなくなるのか?
加害者が損害賠償を払えない時、自己破産を申し立てるケースがあります。交通事故の加害者が自己破産したときの賠償義務の免…[続きを読む]
交通事故の被害にあったとき、相手(加害者)が運転していた車両が、運転していた者が所有している車ではなく、加害者の友人・知人・親戚が所有する車を借りて運転していたというケースは少なくありません。
しかも、その車の任意保険には家族限定特約がついており、今回は家族以外の者が運転していたので保険がおりない!無保険だ!という悪夢のようなケースもあります。
このような場合に、被害者は誰に責任を追及すれば良いのでしょう?
この記事では、Yahoo!知恵袋やブログでも話題の、このようなケースで、被害者の泣き寝入りとならないように、無保険の場合など、誰に損害賠償を請求することができるか、借りた車や友人の車での事故などについて解説します。
目次
交通事故の被害者となったら、誰に損害賠償責任をとってもらうか?被害者なら、誰でもまず加害者、つまり相手の車を運転していた者に対して賠償請求したいと思うでしょう。
しかし、その運転手に賠償金を支払う財力がなければ、たとえ裁判で勝ったとしても、実際には賠償金を受け取ることはできません。
また、財力のある相手がいても、その者に対する損害賠償請求が認められるための法的な条件が厳しく、ハードルが高ければ、やはり賠償金を受け取ることは困難です。
したがって、交通事故の損賠賠償請求は、より賠償金を支払う財力があり、法的に責任追及がより容易な相手を選択して重点的に責任を追及することが基本的な戦略です。
どんなに運転手が憎くても、その者に財力がないのであれば、賠償金を得るという観点からは相手にするのは時間の無駄です。運転手への制裁は、刑事処分に任せておくべきです。
さて、上の基本的な戦略からすると、最初に検討するべきは「加害車両の所有者」に対する運行供用者責任(自動車損害賠償保障法3条)の追及です。友人の車で事故が起きた場合を中心に、運転供用者責任について考えてみましょう。
運行供用者責任とは、「自己のために自動車を運行の用に供する者」に、その車両の運行によって生じた人身事故の賠償責任を負わせる制度です。
運行供用者が責任を免れるためには、①自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと、②被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと、③自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことという3つの免責要件の全部を証拠をもって立証しなくてはなりませんが、それは実際には困難なので、事実上の無過失責任を課したものと言えるのです。
したがって、運行供用者に該当すれば、実際上、責任を免れることはできませんから、被害者が責任を追及するハードルは著しく低いことになり、第一に賠償請求を検討するべき相手と言えます。
ここに運行供用者とは、車両を運行することで利益を得て(運行利益)、運行を管理コントロールできる(運行支配)立場にある者を言います。
車という危険なものの運行から利益を得ているもの、運行を管理できるものは、その危険が現実化したときの責任を負担するべきという考えに基づきます(報償責任、危険責任)。
そこで、友人の車を借りて運転していた運転手(加害者)は当然に運行供用者です。
さらに、加害者に車を貸した所有者である友人も運行供用者に該当します。
事故時に自ら運転していなくとも、その車両を運行する利益が帰属し、運行を管理できる「立場」にあると判断されるからです。
したがって、車の所有者である友人に運行供用者責任としての損害賠償請求をすることが可能です。請求できる金額は「全損害額」です。
さて、車の所有者に損害賠償請求をしたとしても、その所有者も財力がない場合があります。その場合は、どのように賠償金をとれば良いのでしょうか?
まず、車の所有者が任意保険に加入しているときは、その任意保険会社が所有者に代わって窓口となり、治療費などの支払いや示談交渉を担当することになります。
任意保険に加入している限り、通常は保険会社から賠償金が支払われますから、車の所有者に財力がなくても支払いの心配をする必要はありません。
運行供用者の任意保険に家族限定特約がついていた場合は別です。
家族限定特約は、正式名称を「運転者家族限定特約」といい、この特約がある場合は、家族以外の者が運転している間に生じた事故については原則として保険金は支払われません。
保険が適用される家族とは、例えば夫A(所有者)、妻Bとした場合、次のとおりです(※)。
※「自動車保険の解説2012」保険毎日新聞社261頁
そこで、友人が車を借りた場合は、任意保険は適用外ですので、任意保険会社が関わることはありません。
つまり無保険状態であり、もちろん任意保険会社から賠償金が支払われることもありません。
ただし、任意保険の適用がない場合でも、車の所有者が自賠責保険に加入しているケースが多いはずで完全な無保険状態は少ないでしょう。
「人身損害である限り」、自賠責保険から賠償金を受け取ることができます。
この場合、被害者自らが自賠責保険に対して賠償金を請求する手続をおこなうことができます(自賠法16条「被害者請求」)。
もっとも、自賠責保険は最低限の保障をおこなう強制保険なので、支払われる限度額が法令で決まっています。
自賠責保険の限度額 | |
傷害 | 総額120万円まで |
後遺障害 | 総額4000万円から75万円 |
死亡 | 総額3000万円 |
そこで、損害額が自賠責保険の限度額を上回ってしまった場合や所有者が自賠責保険にも加入していなかった場合は、さらに別途の請求先を検討することになります。
例えば、加害者が会社員で、仕事の営業中に友人から借りた車を運転をしていた場合は、加害者の勤務先会社に対して、使用者責任(民法715条)に基づく損害賠償請求が認められます。
使用者に請求できる金額は「全損害額」です。
会社は従業員の活動で利益をあげているのだから、その活動から生じた損害の責任も負担するべきという考え方に基づきます(報償責任)。
使用者責任を問うためには、運転が「事業の執行につき」行われたことが必要ですが、これは被害者保護の見地から、その従業員が担当している業務の範囲外であっても、客観的外形的に業務活動と認められれば良いと緩く理解されています。
したがって、例えば、会社員が友人の車を借りて出張中に事故を起こした場合、会社が自家用車での出張を禁止していたなどの事情がなければ使用者責任が認められます(※)。
※参考:最判昭和52年9月22日判決
会社側は、(a)使用者の選任監督について相当な注意をしたこと、(b)相当な注意をしても損害が生じたことのいずれかを証拠をもって立証しなくては免責されませんが、この免責が認められることはほとんどありません。
したがって、使用者責任を追及するハードルも高くはないのです。
加害者が友人の車を借りて飲酒運転で事故を起こしたときは、飲酒運転に関与した者に対して、共同不法行為責任(民法719条)に基づいて損害賠償を請求できます。
飲酒運転に関与した者とは、次のような者です。
これらの者は、飲酒運転をそそのかした、飲酒運転を容易にした・助けた、自らも共同して飲酒運転を行ったと評価されて責任を負担するのです。
裁判例
6時間以上にわたり乙と一緒に飲酒した甲が、乙が相当量の飲酒をしたことを知りながら、運転を止めずに、かえって自宅まで送るよう頼んで、乙に運転をさせて事故が発生したケースで、裁判所は飲酒運転を援助・助長した甲に賠償責任を認めました(仙台地裁平成19年10月31日判決・判例タイムズ1258号267頁)
飲酒運転関与者への責任を追及するには、飲酒をすすめた、一緒に飲んだ等の具体的な事実を被害者側が証拠をもって立証しなくてはならないので、必ずしもハードルが低いものではありません。
しかし、飲酒運転関与者が負う共同不法行為責任は賠償額「全額」の連帯責任です(不真正連帯責任と言います)から、これらの者に財力があれば、全額を回収することも可能です。
したがって、運転者、運行供用者からの支払が期待できないときは、弁護士に相談して、飲酒運転関与者への責任追及も検討するべきです。
友人から車を借りた加害者が未成年者というケースも少なくありません。
車両所有者である友人もまた未成年者で、共に財力がなく、またそれゆえに任意保険にも自賠責保険にも未加入ということもあり、特にバイクの事故では、そのような例は珍しくありません。
そのような場合は、加害者の親に対する損害賠償請求を検討する余地があります。
民法は、責任能力(※)が欠ける未成年者の賠償義務を否定する一方、責任能力がない子どもの親など監督義務者は、監督義務を怠らなかったことを立証しない限り賠償責任を免れないとされています。これを「責任無能力者の監督責任」と言います(民法714条)。
※責任能力とは、自己の行為が法律上の責任を生じさせるものであることを認識できる能力とされます。
親の免責が認められることはほとんどないので、この民法714条が使えれば、親の責任を問うハードルはとても低いものとなります。
しかし、未成年者であっても、責任能力がある年齢(おおよそ12歳~13歳程度)に達しているときは、この民法714条は適用されません。車やバイクによる事故では、このパターンがほとんどでしょう。
未成年者であっても責任能力がある年齢の場合は、民法714条は適用できませんが、①親など監督義務者が監督責任を怠ったこと、②監督責任を怠ったことと事故による損害発生の間に直接の因果関係があることを、被害者側が証拠をもって立証できれば、民法709条の不法行為責任の原則に基づく賠償請求が認められます(※)。請求できる金額は「全損害額」です。
この場合、民法714条が使えない以上、立証する責任は被害者側にあるので、親に対する責任追及のハードルは高くなりますが、親に財力がある場合には、弁護士に相談して親への責任追及を検討するべきでしょう。
被害者自身が加入している保険には、交通事故による被害者自身の損害を補償してくれる、次のような保険があります。
保障される金額は、各保険契約で定められた上限額で、かつ約款に定められた基準で算定された金額となります。
これらは自動車保険の特約となっていることが多く、被害者自身の保険会社に確認することをお勧めします。
現実的に賠償金をどこからも払ってもらえない場合は、「政府補償事業」が最後の砦です。
加害者が自賠責保険に未加入のときや、ひき逃げで加害者が不明などで自賠責保険からの補償を受けることができない場合があります。
この場合、政府が「自賠責保険と同じ水準の損害補償」をしてくれるものです。
国土交通省が所轄し、各損害保険会社の窓口で手続を受け付けてくれます。
今回は、Yahoo!知恵袋やブログでも話題の、友人の車で事故をした場合の保険や損害賠償について解説しました。
加害車の車が、他人から借りた車で、加害者に財力がないだけでなく、その車の任意保険が家族限定だったというケースでも、あきらめないでください。
事案によって、他にも責任を問える相手がいるのです。
現実的に賠償金を受け取ることができる損害賠償の請求先を探すには、幅広い法的知識が必要です。交通事故に強い弁護士への相談を強くお勧めします。