無保険事故の加害者が自己破産!被害者は請求できなくなるのか?

自己破産

無保険事故、すなわち交通事故の加害者が保険に加入していない場合は、加害者本人に損害賠償金の支払いを求めることになります。

ところが、加害者が自己破産を申し立てるケースがあります。この場合、損害賠償責任まで免責されてしまうのでしょうか?

ここでは交通事故の加害者が自己破産したときの賠償義務の免責と、免責された場合の対応策について説明します。

1.無保険事故は加害者本人に請求する

無保険には2種類あります。

  • ①加害者が自賠責保険には加入しているが、任意保険には加入していない場合
  • ②加害者が自賠責保険も任意保険も加入していない場合

人身事故では、自賠責保険から最低限の損害賠償が補償され、その限度額を超える損害が任意保険によって補償されます。

任意保険に加入していない、①の場合は、自賠責保険の限度額を超える部分を加害者本人に請求することになります。

さらに自賠責保険にも加入していない②の場合は、損害額全額について、加害者本人に請求することになります。

どちらの場合も、支払わないときは、訴訟を提起して判決をもらい、加害者の給与を差し押さえたり、住居を競売にかけるなど、その財産に強制執行をすることになります。

しかし、加害者が自己破産を申し立てるケースがあります。その場合、もはや責任を追及できないのでしょうか?

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2.非免責債権に該当するかが問題

破産制度は、債務者の財産を処分して債権者への配当(返済)とする代わりに、残りの責任を免除し(免責)、債務者の経済的更生を図るものです。

しかし、全ての債務が免責の対象となるものではなく、一定の例外があります。それが「非免責債権」です。

破産法は複数の非免責債権を定めていますが、交通事故の損害賠償債務について問題となるのは次の2つです。

  • 破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権(破産法第253条1項2号)
  • 破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(同条同項3号)

2-1.「悪意」で加えた不法行為にあたるか

ここでは、「悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」とだけ規定しており、3号のように生命身体の損害に限定していません。

そこで、これに該当すれば、人損(治療費、休業損害、慰謝料、逸失利益など)であると物損(修理代等)あるとを問わず、免責の効力は及びません。

しかし、一般の交通事故は、この「悪意で加えた不法行為」には該当しません

不法行為とは、故意又は過失によって他人の権利、利益を侵害する行為ですから、交通事故はまさに不法行為です。

けれど、ここに言う「悪意」とは、単なる故意(※1)ではなく、「不正に他人を害する意思ないし積極的な害意」を意味するとされています。

交通事故の場合でいえば、被害者に保険金をかけて、あえてひき殺すような、著しく悪質なケースが想定されます。

このようなケースは極端な例外です。普通の過失に基づく交通事故は、これに該当しないのです。

※1「故意」とは、「事実の認識及び認容」を言います。交通事故の場合でいえば、「この交差点を、赤信号を無視して、今のこのスピードで進行すれば、横から来る車と衝突するかも知れないが、それでもかまわない」という場合、つまり事故の結果が発生するかも知れないが、それでもよしとする主観を含みます(これを「未必の故意」と言います)。いわば結果が発生しようとしまいとどちらでも良いという無頓着な態度も「故意」に含まれるのです。
これに対し、上の「悪意」=「積極的な害意」とは、「あの車に衝突させて運転者にケガをさせてやろう」という、むしろ積極的な意図がある場合に限定されます。

2-2.故意又は「重大な過失」による生命身体に対する不法行為にあたるか

ここでは「生命身体に対する」としているので物損は対象外です(したがって、物損は前記の「悪意」がない限りは全て免責されます)。

通常の交通事故は過失による事故ですから、問題の中心は「重大な過失」とは何かです。

「重大な過失」とは、「故意に匹敵するほどの著しい注意義務違反」を指します。

具体的には酒酔い、無免許、危険運転致死傷罪に該当する危険運転などの場合が想定されます。また、そのような場合でなくとも、事故の具体的な態様によっては、重大な過失と認定される可能性があります。

明確な基準があるわけではありません。結局は、当該事故の態様から、加害者が強く非難される場合としか言えず、ケースバイケースの判断となるでしょう。

裁判例も、免責を認めた例もあれば、否定した例もあります。

3. 裁判例

3-1.非免責債権と判断された裁判例

自転車対歩行者の事故ケースです。

裁判所は、次の事故態様を指摘して、加害者である自転車運転者の過失は、故意に比肩する程度の重い過失であって免責されないと判断しました。

・歩行者が優先する歩道上の事故
・自転車の時速約25㎞から30㎞(原付バイクの法定最高速度程度の危険な速度と指摘)
・薄暗いにもかかわらず無灯火
・進路前方、左右の歩行者等の有無及びその安全の確認を懈怠した
(東京地裁平成28年11月30日判決)

3-2.非免責債権ではないとされた裁判例

二人乗りバイクと自動車の事故ケースです。

Aが無免許で飲酒運転のうえ、赤信号を無視して交差点に進入し、被害者の車と衝突した事故で、バイクの同乗者Bの賠償責任が問題となった事案です。

同乗者と運転者が一緒に飲酒した後の飲酒運転による事故のように、同乗者も飲酒に関与していた場合は、飲酒運転を制止するべき義務違反の過失があるとして賠償責任を負担するケースがあります(山形地裁米沢支部平成18年11月24日判決など)。本件のBもこのような理由から賠償責任を問われたと思われます。

Bが破産したので、その賠償責任が非免責債権にあたるかが争いとなりました。

裁判所は、次の諸点を指摘して、故意又は重大な過失はなく、非免責債権にはあたらないとしてBの免責を認めました。

・事故の直接の原因は信号無視であり、飲酒運転、無免許運転ではないこと。
・Aが運転が危険なほど酩酊していたことをBが認識していたとはいえないこと。
・Aが無免許であることをBが認識していたともいえないこと。
・Bは停止するよう、繰り返しAに求めて、危険な運転を制止しようと努めていたこと。
(東京地裁平成24年5月23日判決)

4.加害者が自己破産を申し立たときに、被害者はどのように対応するべき?

上のように、交通事故の損害賠償責任が破産免責の対象となるかどうかは、事案によりケースバイケースです。

したがって、加害者が自己破産を申し立てたからといって、必ずしも諦める必要はありませんが、その場合、具体的に被害者側としては何をするべきでしょうか?

4-1. 被害者は損害賠償請求訴訟を提起する

裁判所の免責決定が確定しようとも、非免責債権であれば免責の効力は及ばないのですから、被害者は非免責債権であることを前提として損害賠償請求訴訟を提起すれば良いのです(※2)。

その訴訟の中で、加害者側が損害賠償債務は免責されたと主張すれば、非免責債権に該当するかが争いとなり、裁判所の判断を受けることになるのです。

※2なお、非免責債権による強制執行を希望する場合、破産手続きを経て「破産債権者表」にその債権が記載されていれば、別途判決をとらずとも、裁判所書記官によって、強制執行のための執行文を付与してもらえるのが原則です(破産221条1項、民事執行法26条1項)。

しかし、上記のように、交通事故の損害賠償請求権が非免責債権となるかどうかは、個別具体的な判断です。そのため破産債権者表の記載からは非免責債権にあたるかどうか書記官には判断できません。したがって、別途の訴訟を提起して、改めて判決をもらう必要があるのです(最高裁平成26年4月24日判決参照)。

5.免責されてしまった場合の被害者保護

訴訟を行っても、非免責債権ではないと判断されてしまった場合、被害者の損害を補償するには、どのような手段があるでしょう。

5-1.被害者自身の自動車保険による補償

被害者が加入している自動車保険の特約等によって、その保険会社から損害の補償を受けることができる場合があります。
このような保険には、次のものがあります。

  • 無保険者傷害保険
  • 搭乗者傷害保険
  • 人身傷害保険

これらの保険は、各保険会社によって、名称や内容が違いますが、いずれも加害者から現実の補償を得られない場合であっても、自分の保険会社から支払いを受けられる保険である点では同じです。

ただし、あなたがこのような保険に加入していたとしても、保険会社は積極的には教えてくれない場合があると言われています(※3)。したがって、事故にあったならば、自分の保険会社にも連絡をして、上記のような保険に加入していないかどうかを必ず確認するべきです。

※3「交通事故被害者のための損害賠償交渉術」弁護士谷原誠外著、同文館出版48頁

4-2.政府保障事業

加害者が、自賠責保険にだけでも加入していれば、最低限の補償を受けることはできますが、自賠責保険にすら加入していないときは、最後の救済措置として、政府の「自動車損害賠償保障事業」(自動車損害賠償保障法71条)があります。

これは加害者が無保険の場合やひき逃げで加害者が不明など、損害の賠償を受けることができない場合に、政府の事業で、自賠責保険と同額の補償を受けることができる制度であり、国土交通省の担当です。

政府保障事業は、各損害保険会社(損害保険組合)で受付をしています。

まとめ

無保険事故の加害者が自己破産を申し立てた場合、非免責債権となるかどうかはケースバイケースの微妙な判断になります。交通事故事件の経験が豊富な弁護士に相談されることがお勧めです。

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