無保険事故の加害者が自己破産!被害者は請求できなくなるのか?

自己破産
  • 交通事故の加害者にお金がない!払えない!
  • 損害賠償金を請求したら、加害者が払わずに自己破産した!被害者は泣き寝入りなの?

民事事件全般で、上記のような悩みを抱えたとき心理的に追い詰められることがあります。

それは「交通事故」のケースでも同様です。

例えば、交通事故の加害者が保険に加入していない場合は、加害者本人に損害賠償金の支払いを求めることになります。

しかし、その際、加害者が「お金がない」など損害賠償を払えない時、自己破産を申し立てるケースがあります。

この場合、加害者の自己破産は、損害賠償責任まで免責されてしまうのでしょうか?

この記事では、Yahoo!知恵袋などの掲示板やTwitterなどのSNSでも話題になる、交通事故の加害者がお金がなく、自己破産したときの賠償義務の免責と、免責された場合の対応策、泣き寝入りになるのか、非免責債権について説明します。

相手に自己破産された!交通事故の損害賠償・慰謝料請求で泣き寝入り?

交通事故の加害者がお金がないという理由で、賠償金や慰謝料を支払わないケースを考えてみましょう。

この際には、以下のようなことを行います。

  • 訴訟を提起して判決をもらいます。
  • 加害者の給与を差し押さえます。
  • 住居を競売にかけるなど、その財産に強制執行をすることになります。

しかし、交通事故の損害賠償を払えない時は、相手が「自己破産」を申し立てるケースがあります。

その場合、お金がない加害者の責任を追及できないのでしょうか?被害者は泣き寝入りになってしまうのでしょうか?

結論から言うと、自己破産できるかどうかは、ケースバイケースの微妙な判断になります。具体的に解説します。

損害賠償金が「非免責債権」に該当するかが問題

交通事故事案における非免責債権

泣き寝入りを回避するための、重要なキーワードは「非免責債権」です。

自己破産は、債務者の財産を処分して債権者への配当(返済)とします。

そして、残った責任を免除して(これを免責と言います)、債務者の経済的更生を図ります。

ただその際、全ての債務が免責の対象とはなりません。これが「非免責債権」です。

破産法は複数の非免責債権を定めていますが、交通事故の損害賠償債務について問題となるのは次の2つです。

  • 破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権(破産法第253条1項2号)
  • 破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(同条同項3号)

「悪意で加えた不法行為」とは?

「悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」についてです。

これに該当すれば、人損の賠償金(治療費、休業損害、慰謝料、逸失利益など)であっても、物損の賠償金(修理代等)であっても、免責の効力は及びません。

しかし、一般の交通事故は、この「悪意で加えた不法行為」には該当しません

不法行為とは、故意又は過失によって他人の権利、利益を侵害する行為ですから、交通事故はまさに不法行為です。

しかし、ここに言う「悪意」とは、単なる故意(※)ではなく、「不正に他人を害する意思ないし積極的な害意」を意味するとされています。

交通事故の場合でいえば、被害者に保険金をかけて、あえてひき殺すような、著しく悪質なケースが想定されます。

このようなケースは極端な例外です。

つまり、普通の過失に基づく交通事故は、これに該当しないのです。

上の破産法上の「悪意」=「積極的な害意」とは、「あの車に衝突させて運転者にケガをさせてやろう」という、むしろ積極的な意図がある場合に限定されるのです。

※1「故意」とは、「事実の認識及び認容」を言います。交通事故の場合でいえば、「この交差点を、赤信号を無視して、今のこのスピードで進行すれば、横から来る車と衝突するかも知れないが、それでもかまわない」という場合、つまり事故の結果が発生するかも知れないが、それでもよしとする主観を含みます(これを「未必の故意」と言います)。いわば結果が発生しようとしまいとどちらでも良いという無頓着な態度も「故意」に含まれるのです。

故意又は重大な過失による生命身体に対する不法行為とは?

「破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権」についてです。

ここではまず「生命身体に対する」としているので「物損は対象外」であることが分かります*。

*したがって、「物損」は悪意がない限りは全て免責されます。

また、「重大な過失」とは、「故意に匹敵するほどの著しい注意義務違反」を指します。

具体的には酒酔い無免許危険運転致死傷罪に該当する危険運転などの場合が想定されます。また、他にも、事故の具体的な態様によっては、重大な過失と認定される可能性があります。

明確な基準があるわけではありません。結局は、当該事故の態様から、加害者が強く非難される場合としか言えず、ケースバイケースの判断となるでしょう。

裁判例も、免責を認めた例もあれば、否定した例もあります。

交通事故における非免責債権の裁判例

非免責債権と判断された裁判例

自転車(じてんしゃ)と歩行者の事故ケースです。

裁判所は、次の事故態様を指摘して、加害者の過失は、故意に比肩する程度の重い過失であって「免責されないと判断」しました。

  • 歩行者が優先する歩道上の事故
  • 自転車の時速約25㎞から30㎞(原付バイクの法定最高速度程度の危険な速度と指摘)
  • 薄暗いにもかかわらず無灯火
  • 進路前方、左右の歩行者等の有無及びその安全の確認を懈怠した(東京地裁平成28年11月30日判決)

非免責債権ではないとされた裁判例

バイクと自動車の事故ケースです。

Aが無免許で飲酒運転のうえ、赤信号を無視して交差点に進入し、被害者の車と衝突した事故で、バイクの「同乗者Bの賠償責任」が問題となった事案です。

同乗者と運転者が一緒に飲酒した後の飲酒運転による事故のように、同乗者も飲酒に関与していた場合は、飲酒運転を制止するべき義務違反の過失があるとして賠償責任を負担するケースがあります(山形地裁米沢支部平成18年11月24日判決など)。本件のBもこのような理由から賠償責任を問われたと思われます。

ここで「同乗者Bが破産」したので、その賠償責任が非免責債権にあたるかが争いとなりました。

裁判所は、次の諸点を指摘して、故意又は重大な過失はなく「非免責債権にはあたらない」としてBの免責を認めたのです。

  • 事故の直接の原因は信号無視であり、飲酒運転、無免許運転ではないこと。
  • Aが運転が危険なほど酩酊していたことをBが認識していたとはいえないこと。
  • Aが無免許であることをBが認識していたともいえないこと。
  • Bは停止するよう、繰り返しAに求めて、危険な運転を制止しようと努めていたこと。(東京地裁平成24年5月23日判決)

加害者が損害賠償を払えない!相手が自己破産を申し立てた時の対処法

上記のように、交通事故の損害賠償責任が破産免責の対象となるかどうかは、事案によりケースバイケースです。

したがって、相手が損害賠償金を払えない、自己破産を申し立てたからといって、必ずしも被害者は諦める必要はありません。即、泣き寝入りとは言えません。

最低限の抵抗にはなりますが、被害者側としては相手の自己破産の申立について以下のような対応を試みましょう。

①被害者は損害賠償請求訴訟を提起する

すぐに泣き寝入りしてしまわずに、被害者は非免責債権であることを前提として、まず損害賠償請求訴訟を提起すれば良いでしょう(※)。

そして、その訴訟の中で、加害者側が損害賠償債務は免責されたと主張すれば、非免責債権に該当するかが争いとなります。

そして、裁判所の判断を受けることになります。非免責債権であれば、もちろん免責の効力は及びません。

※2なお、非免責債権による強制執行を希望する場合、破産手続きを経て「破産債権者表」にその債権が記載されていれば、別途判決をとらずとも、裁判所書記官によって、強制執行のための執行文を付与してもらえるのが原則です(破産221条1項、民事執行法26条1項)。しかし、上記のように、交通事故の損害賠償請求権が非免責債権となるかどうかは、個別具体的な判断です。そのため破産債権者表の記載からは非免責債権にあたるかどうか書記官には判断できません。したがって、別途の訴訟を提起して、改めて判決をもらう必要があるのです(最高裁平成26年4月24日判決参照)。

②免責されてしまった場合、以下の被害者保護制度を利用する

しかし、訴訟を行っても、賠償金が非免責債権ではないと判断されてしまった場合、被害者の損害を補償するには、どのような手段があるでしょう。

被害者自身の自動車保険による補償

被害者が加入している自動車保険の特約等によって、その保険会社から損害の補償を受けることができる場合があります。
このような保険には、次のものがあります。

  • 無保険者傷害保険
  • 搭乗者傷害保険
  • 人身傷害保険

各保険会社によって、名称や内容は違います。

ただ、いずれも加害者から現実の補償を得られない場合であっても、自分の保険会社から支払いを受けられる保険である点では同じです。

ただし、あなたがこのような保険に加入していたとしても、保険会社は積極的には教えてくれない場合があると言われています(※)。

したがって、事故にあったならば、自分の保険会社にも連絡をして、上記のような保険に加入していないかどうかを必ず確認するべきです。

※「交通事故被害者のための損害賠償交渉術」弁護士谷原誠外著、同文館出版48頁

政府保障事業

加害者が、自賠責保険にだけでも加入していれば、最低限の補償を受けることはできます。

ただ、保険にすら加入していないときは、最後の救済措置として、政府の「自動車損害賠償保障事業」(自動車損害賠償保障法71条)があります。

これは加害者が無保険の場合やひき逃げで加害者が不明など、損害の賠償を受けることができない場合に、政府の事業で、自賠責保険と同額の補償を受けることができる制度であり、国土交通省の担当です。

政府保障事業は、各損害保険会社(損害保険組合)で受付をしています。

まとめ

Yahoo!知恵袋などの掲示板やTwitterなどのSNSでも話題の、交通事故の加害者や民事事件全般の訴訟で、慰謝料や損害賠償が払えない、責任から逃れようとして自己破産してしまうケースについて解説致しました。

無保険事故の加害者が自己破産を申し立てた場合、非免責債権となるかどうかはケースバイケースの微妙な判断になります。

泣き寝入りせずに、交通事故事件の経験が豊富な弁護士に相談されることがお勧めです。

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本記事は交通事故弁護士カフェを運営するエファタ株式会社の編集部が執筆・監修を行いました。
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