人身事故と自賠責保険|自分で被害者請求!やり方、流れ、必要書類を解説
任意保険会社の支払い拒否や示談交渉の長期化で、交通事故の賠償金の支払いが遅れることがあります。その場合には、自賠責保…[続きを読む]
コロナの収束に伴い、観光客として訪日する中国人、アメリカ人、インド人、韓国人、欧米人などの外国人は増加してきました。また外国人労働者の受け入れも本格化しつつあります。
外国人が増えれば、その運転する車による交通事故の増加も避けがたくなります。事故の相手が外国人となるのです。
この記事では、中国人、アメリカ人、インド人、韓国人、欧米人などの外国人が加害者の交通事故で被害にあったときに、確実に損害賠償を受け、逃げて泣き寝入りとならないために知っておくべき知識を解説します。
目次
事故後、中国人、アメリカ人、インド人、韓国人、欧米人などの外国人は帰国する危険、つまり逃げる可能性があります。
日本国内での交通事故であれば、加害者が外国人でも、賠償責任の問題には日本の法律が適用され(法の適用に関する通則法第17条)、日本の裁判所で裁判を行うことができます(民事訴訟法第5条1号及び9号、最高裁平成9年11月11日判決)。
しかし、日本の裁判所から判決をもらっても、加害者が自国に帰ってしまえば、実際に賠償金を取り立てることは非常に困難となります。
加害者が任意に送金してこない限り、その自国にある財産に強制執行をかけることになりますが、それが不可能な場合や、可能だとしても過大な費用を要する場合が珍しくありません(この点の詳細は、この記事の最後に改めて説明します)。
また、たとえ当人が帰国を望まなくとも、オーバーステイ(不法滞在)、不法就労、薬物犯罪などで検挙されて強制退去させられてしまう危険があります。
したがって、そのようなリスクがつきまとう加害者本人より、確実に損害賠償金を回収することができる「他の相手」がいないかどうかをまず検討するべきなのです。
検討の余地があるのが、次の相手です。
加害者の外国人が自賠責保険や任意保険に加入しているケースでは、被害者は自賠責保険会社や任意保険会社に対して、直接に賠償金を請求することができます。これを被害者請求と言います。
この権利は、自賠責保険では法律(自動車損害賠償保障法16条)で、任意保険では約款で認められており、被害者請求がなされると、自賠責保険会社、任意保険会社が交渉相手となります。
ただし、自賠責保険は人身損害にしか適用がないことと、賠償金の上限額が決まっていること(例えば、傷害では120万円が上限)から、加害者が任意保険に加入していないときは、自賠責保険では損害をまかないきれない場合がある点は注意をしましょう。
外国人が他人の車を運転していた場合についてですが、車の所有者が「運行供用者」として、賠償責任を負う場合があります。
「運行供用者」とは、車の運行から利益を得る立場にあり、かつ車の運行を管理・支配できる立場にあるものです。これを運行利益、運行支配と呼びます。
自動車事故の賠償責任を定める自動車損害賠償保障法3条では、車の運転者でなくとも、運行供用者に該当すれば人身損害の賠償義務を負わせて、被害者保護を図っているのです。
車の所有者は、多くの場合、運行供用者と言えます。運行供用者に関する過去の裁判例に加害者を外国人としてあてはめた場合、次のようなケースで所有者の運行供用者責任を問える可能性があります。
他方、たとえ所有者でなくとも運行供用者として責任を問える場合もあります。
外国人の加害者を雇っていた雇用主・会社は、外国人が事業の執行について起こした交通事故の賠償責任を負わなくてはなりません。これが使用者責任(民法715条)です。
例えば、外国人が勤務中に会社の車で起こした事故は、ほぼ問題なく、会社に対する使用者責任を追及することができますし、マイカーで勤務していた際の事故であっても、会社が許容していたなどの事情があれば、やはり使用者責任が認められます(最判昭和52年9月22日判決など)。
被害者が自分で契約している保険の中には、自らの交通事故被害の補償に利用できるものがあります。
「人身傷害補償保険」、「搭乗者傷害保険」、「無保険車傷害保険」などです。自動車保険の特約となっていることが通例ですので、事故にあったときは、ご自分の自動車保険の保険会社に確認しましょう。加害者が外国人で帰国されてしまった場合に役に立つでしょう。
加害者が外国人で、自賠責保険にも任意保険にも未加入の場合、政府補償事業が最後の救済となります。
これは、自賠責保険が利用できない場合(加害者が未加入、ひき逃げで不明など)に、政府が自賠責保険と同じ水準の損害補償をする制度で、国土交通省が担当し、各損害保険会社が窓口となっています。
自賠責保険も任意保険も未加入の場合や自賠責保険には加入しているが損害額が限度額を超えてしまった場合で、しかも運行供用者責任や使用者責任を負担する者もいないとなれば、外国人の「加害者本人」に賠償請求をすることになります。
冒頭に触れましたように、日本国内での交通事故の賠償問題には、加害者の国籍を問わず、日本の法律が適用されます(「法の適用に関する通則法」第17条)。
そして日本の裁判所で裁判を行うことが可能です(民事訴訟法第5条1号及び9号、最高裁平成9年11月11日判決)。
日本の裁判所から賠償金を支払えとの判決をもらった場合、被告である加害者が任意に支払わなければ、その財産に強制執行をかけることができます。
具体的には、土地、建物、宝石、貴金属などを競売にかける、預貯金や給与債権を差し押さえるなどの方法です。
加害者が外国人であっても、その財産が日本にある限り、日本人に対するのと同様に強制執行ができるので問題はありません。
しかし、外国人の海外にある財産に対して強制執行を行うことは非常に困難です。
問題点は2つあります。
ひとつは、日本の裁判所の判決の効力は、外国には及ばないという点です。
日本での判決は、日本の主権の及ぶ範囲内でしか効力はありません。他の国が、外国である日本の判決に強制力を認めてくれるかどうかは、その国次第なのです。
もっとも、その国次第ですから、日本の判決を尊重して、その国の裁判所の判決と同様に扱ってくれる場合もあります。これを「外国判決の承認」と言います。
同様に、海外の判決に基づいて日本国内での強制執行ができるかという問題がありますが、日本は、その判決内容が我が国の公序に違反しないことなどの一定の要件のもとに、海外の判決を「承認」する取扱いとしています(民事訴訟法118条)。
その我が国の要件のひとつに「相互の保証があること」(同118条4号)があります。
これは、ひらたく言えば、日本の判決を日本と同様の条件で「承認」してくれる外国ならば、日本もその判決を「承認」しますよということです(最高裁昭和58年6月7日判決参照)。
つまり、この「相互保証」がある外国であれば、日本の判決を承認して、その国にある加害者の財産に強制執行をしてくれるわけです。
この相互保証がある国には、次の例があります。
相互保証がない国には、次の例があります。
参考文献:「国際関係私法入門」松岡博編・有斐閣322頁
相互保証がない国の場合は、日本の判決をもって、加害者がその国内に有する財産に強制執行をすることは不可能です。
どうしても加害者の国の財産から賠償金を回収する場合は、その国の裁判所に提訴して判決をもらうしかありません。
たとえ、加害者の財産がある国が、相互保証のある国であったとしても、ことは簡単ではありません。
日本の判決を「承認」してもらい、実際に強制執行手続を実行するには、当然ですが、その国の裁判所に申立てを行う必要があります。それには、その国の弁護士に代理人を依頼しなくてはなりません。
判決を含めて、裁判所に提出する資料は、すべてその国の言語に翻訳する必要があります。
これらの弁護士費用、翻訳費用、渡航費、通信費などは、国によっては膨大なものになる危険があります。
しかも実は、日本の判決を「承認」してもらう条件のひとつとして、加害者である被告のもとに判決を含む裁判の書類が「送達」されていなくてはならないのです。ここでの送達とは郵便で加害者の手元に判決が届けられたということです。
そして、この送達は、日本の最高裁から相手国の政府を通じて行わなくてはなりません。これにも費用がかかるうえに、手続に数ヶ月から1年程度もかかることは珍しくないのです。
このため海外の財産を差し押さえるのは、現実問題として時間もコストもかかりすぎるのです。
損害額が非常に高額で、かつ、加害者が裕福で、豊富な資産が母国にあり、強制執行さえできれば確実に賠償金を取ることができるという非常にレアなケースでない限り、費用倒れに終わる可能性が高く、お勧めできる方法ではありません。
このような事情から、加害者が外国人の場合は、その加害者以外から賠償金を得る方法を検討する方が絶対に優先するというわけです。
交通事故の加害者が外国人の場合、無保険だったりすると逃げる場合もあります。
確実に賠償金を受け取るためには、加害者が日本人のケースとは異なる検討も必要です。
是非、弁護士に相談されることをお勧めします。