従業員が犯した交通事故に対する会社の責任とは?
従業員が犯した交通事故で、会社に賠償責任が生じたときの従業員の賠償責任との関係や会社が支払った賠償金を事故を起こした…[続きを読む]
もちろん、自転車事故であっても、人身事故になれば、四輪車と同様に、自転車の運手手にも刑事罰が下されますし、民事上の損害賠償の責任も負うことになります。
この記事では、
など、自転車と歩行者との事故を網羅的に解説します。
目次
まず、自転車との接触事故であっても、人が死傷すれば、刑事上の責任が問われるのは、自動車事故と変わりありません。
自転車での事故であっても、被害者が怪我をしたり、死亡したりすれば、刑事上の責任が発生し、警察に逮捕され、次の犯罪が成立する可能性があります。
罪名 | 内容 | 刑罰 |
---|---|---|
過失傷害罪 (刑法209条) |
過失により人を傷害した者 (親告罪) |
30万円以下の罰金又は科料 |
過失致死罪 (刑法210条) |
過失により人を死亡させた者 | 50万円以下の罰金 |
重過失傷害罪 (刑法211条) |
重大な過失により人を傷害した者 | 5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金 |
重過失致死罪 (刑法211条) |
重大な過失により人を死亡させた者 |
上表の通り「過失傷害」「過失致死」にとどまる場合は、罰金刑となる場合が多いです。
正式に起訴され、法廷で裁判となるのは、過失の程度が著しい重過失傷害、重過失致死のケースがほとんどでしょう。
「不起訴処分」になることも多く、たとえ、裁判となった場合であっても、ほとんどの場合執行猶予判決となり、本当に刑務所にゆくことになる実刑判決はごく少数です。
加害者が未成年であれば、少年法によって、家庭裁判所へ事件が送致されます。
具体例として、下記のように被害者が死亡し、加害者の少年が家庭裁判所へ送致されたケースがあります。
さいたま地方裁判所 平成14年2月15日判決
加害者16歳男性(高校1年生)の運転する自転車が、左右の安全確認等をせずに交差点を横断しようとして被害者60歳女性(保険外交員)の自転車に衝突し、頭蓋骨骨折、脳挫傷などで死亡させた事案がありました。
被害者の遺族らが損害賠償を求めた民事裁判で、裁判所は賠償金総額3137万7198円を認めましたが、その民事事件の判決書の中で、加害者の少年が重過失致死罪の被疑事実によって、さいたま家庭裁判所に送致されたことが指摘されています(※)。
※裁判所
自転車事故の場合、加害者と被害者が示談を成立させて「刑事告訴を思いとどまってもらう」あるいは「すでになされている刑事告訴を取り下げてもらう」ケースも多いです。
単なる過失による過失傷害罪は親告罪なので、重過失にあたらない限り、刑事告訴がなければ起訴できないのです。
そこで、次に、示談をする際に知っておかなければならない、民事上の損害賠償責任について解説します。
自転車事故で請求できる賠償項目の算定方法は「車の接触事故における算定方法と全く同じ」です。
事故で生じた損害の内容が同じである以上、算定方法も同じなのは当然です。
ただ「自転車事故は自動車事故と異なる基準で算定するべき」とする主張がされた裁判例(※1)や、「賠償範囲を自転車事故から通常生じうる相当な範囲に限定するべき」という主張がなされた裁判例(※2)もありました。
ただ、いずれも裁判所はそのような主張を退けています。
※1:東京地裁平成6年10月18日判決(交通事故民事裁判例集27巻5号1436頁)
※2:大阪地裁平成6年2月18日判決(自動車保険ジャーナル判例レポート117号18頁)
自転車と歩行者の事故と、車と歩行者との事故は性質が異なります。そのため、下記のような6つの違いが生じます。
以下、車の接触事故と異なる点を説明していきます。
たとえば「車 対 歩行者の事故」では、自動車損害賠償保障法によって、被害者に対して損害賠償責任を負う運転者や車両所有者などは、以下3つの要件を全部立証しない限り損害賠償の責任を免れることはできません(自賠法3条)。
しかし、加害者側でこれらの要件を全部立証することは非常に困難です。
したがって、運転者や車両所有者などの責任は、事実上の「無過失責任」と評価され、被害者は加害者側の過失を立証しなくとも損害賠償請求をすることができます。
一方、自賠法は自転車には適用されないため、事故の被害者は、損害賠償制度の本来の原則に従い、加害者に過失があることを証拠をもって立証しなくては損害賠償請求は認められないのです。
たとえば、車 対 歩行者の事故では自賠法によって運転者だけでなく、車両所有者やレンタカー業者などの運行供用者にも責任を追及することができます。
しかし、自賠法は自転車には適用されないので、運転者以外に責任を追及できる者がいないことが通常です。
ただ、新聞配達中の事故などの場合は、運転者の使用者に使用者責任(民法715条)を追及することはできます*。
*例えば新聞配達中の事故:東京地裁昭和50年8月25日判決・交通事故民事裁判例集8巻4号116頁など
加害者側が車の場合、自賠責保険が後遺障害の内容と程度に応じた後遺障害等級を認定しますが、自転車にはそのような制度がありません。
そこで、自転車事故の示談交渉では、後遺障害が何級程度に該当するものかをめぐって話合いを行います(※)。
訴訟となった場合は、裁判官が独自に等級を判断して算定することになります。
※後遺障害等級の判断は、実務では、「労災補償 障害認定必携」(財団法人労災サポートセンター)に記載された認定基準によって判断します。
加害者側が車の場合、自賠責保険によって最低限の賠償(例えば、傷害事故なら120万円まで)を受けることができます。
しかし、自転車にはそのような制度がないので、運転者の賠償責任が認められたとしても、実際に支払ってもらえるかどうか不安は残ります。
また自賠責保険の限度額を超える損害が出た場合でも、車の事故の場合は任意保険でカバーされることが多いですが、自転車の事故の場合、任意保険も自動車ほど普及していません。
つまり加害者の責任が認められても、保険でカバーされなければ、実際に支払を受けることができるかどうか不安が残ります。
自転車の人身事故を補償する任意保険には次のものがあります。
加害者側の保険 | 自転車総合保険、自動車保険等に特約として付加された個人賠償責任保険、TSマーク保険 などがありますが、いずれも販売実績は少ないとされています。 |
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被害者側の保険 | 傷害保険、自動車保険に特約として付加された人身傷害保険 |
これらの保険のうち、自動車保険の特約となっている保険の場合、契約内容に「示談の代行」が含まれています。
しかし、それ以外の保険では示談代行の有無は保険商品ごとに異なります。示談代行の適用がなければ、被害者が自分で交渉しなくてはなりません。
運転免許のない自転車では、児童が加害者となってしまう場合もあります。
しかし、未成年者が他人に損害を与えても、責任能力*が欠けるときには賠償義務を負いません(民法712条)。
*「責任能力」とは、自己の行為が法律上の責任を生じさせるものであることを認識できる能力
民法では、責任能力が認められる年齢を定めていませんが、概ね「12歳前後が分かれ目」だと理解されています。
ただし、11歳でも責任能力が認められるケースもあれば、12歳でも否定されるケースもあります。
そのときの自分の行いが法的責任を生じさせるものと理解できたかどうかは、子どもの成長度合いによって個人差があるからです。
また、それがどのような行為なのかによっても異なるので、ケースバイケースの判断となります。
子どもに責任能力がないと判断される場合は、親などの監督義務者の責任を問うことができます(民法714条)。
この場合、親は監督義務を怠らなかったことを立証できれば免責されますが、親権を持つ親の監督義務は日常生活一般に広く及ぶので、実際上、免責が認められる場合はほとんどなく、自転車事故に関する複数の裁判例で親の責任が認められています。
他方、子どもに責任能力があると判断されると、民法714条の適用はありません。それでは支払能力のない子どもの責任を問うしか方法がないのかと言うと、そうではありません。
監督義務者が監督責任を怠ったことと損害の発生に直接の因果関係があることを「被害者側が立証できれば」、民法709条の不法行為責任の原則にしたがって、監督義務者が責任を負うとするのが判例です(※)。
東京地方裁判所 平成19年5月15日判決
自転車同士の事故で、責任能力のある子ども(13歳)が無灯火かつ相当に早い速度で被害者に衝突したケースで、裁判所は、高速度で自転車を運転する危険を知りながら放任していたことなどを指摘して、親に対し、民法709条に基づいて賠償金752万円の責任を認めました。
(交通事故民事裁判例集40巻3号644頁)
自転車事故と自動車事故では、適用される過失割合の基準が異なります。
一つ目の理由は、自転車は、四輪車・単車と比べれば、軽量・低速・簡単な構造のため運転・停止も容易で、衝突した相手に与える力や衝撃も少ないためです。
二つ目の理由には、自転車は道路交通法上は車両でありながら(道路交通法2条1項8号、同11号)、歩道の通行が許される場合(同法63条の4)があるなど、自動車・単車と異なる交通ルールに服していることが挙げられます。
実務上、過失割合を決める際に参考とされる資料は、東京地裁民事交通部が発表している「別冊判例タイムズ38 民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準 全訂5判」です。
例えば、横断歩道も信号もない交差点を歩行者が横断しようとした際の、自転車との接触事故の過失割合は、自転車:歩行者=85:15となります。この道路に横断禁止の規制があれば、歩行者の過失割合は、5~10%加算されることになり、歩行者が児童や高齢者の場合には、自転車の過失割合が5%加算されることになります(※)。
示談の際には、この類型の中から事故に似たものを選び出して、当事者同士で示談において検討することになります。示談で決着がつかなければ、当然、調停や裁判にもつれ込むことになります。
裁判における実際の損害賠償額については、以下の記事を参考にしてください。
※【出典】「別冊判例タイムズ38 民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準 全訂5判「イ 横断歩道のない交差点又はその直近における事故」179頁より
の4つが、自転車事故で注意すべきことになります。
の3つが、自転車事故と自動車事故の示談の違いと注意点です。
自転車対歩行者の接触事故は、多くの場合は保険会社の示談代行がありません。
このため、交通事故の損害賠償問題についての知識がない当事者による示談交渉が行われます。
しかし、これまで説明したとおり、自転車の人身事故の賠償問題を解決するには、専門的な知識と判断が不可欠です。
弁護士に相談・依頼することで、たしかな知識と経験に基づいて示談交渉を進めることができますし、万一、相手が示談内容どおりの支払いを怠ったときの対応も任せることができますので、交通事故を得意とする弁護士に是非一度、御相談ください。