人身事故と物損事故の「罰金と点数」を完璧に知っておく!【2020年度版】
人身事故と物損事故とでは、行政処分の点数や、刑事責任(刑事罰)、罰金などの考え方が大きく違います。この記事では、交通…[続きを読む]
交通事故の被害者が、加害者に対して「反省がなさそうだな」と感じれば、しっかりとペナルティを受けて償ってしてほしいと思うのは、無理からぬことです。また、最近の高齢者事故など、大事故を起こした相手の人生がその後どうなったのか関心を持つ方もおられるでしょう。
今回は交通事故の被害者にはあまり知られていない「加害者のその後の人生」についての真実をお伝えします。
*なお、具体的な加害者の「行政処分」「謝罪方法」については、別途記事をあわせてご参照ください。
物損事故であれば、刑事罰もなく、軽微な傷害の加害者であれば、 不起訴処分や罰金で済ませることができるでしょう。
しかし、犯罪加害者の家族を支援するNPO法人World Opne Hear(WOH)が、1年間で受けた37件の交通事故の相談のうち約1割に当たる4件で加害者が自殺していることが分かっています。
また、WOHに相談した家族のうち半数以上の20件が「家族関係が悪化した」と回答し、失業(12件)や離婚・結婚破談(11件)で生活が一変することも多かったとしています。
相談の内訳は、死亡事故が23件、重傷が7件、軽傷3件、加害者死亡が4件ということです(※)。
【出典】日経新聞2015/11/2
交通事故は一度起こしてしまうと、被害者だけでなく、加害者本人、加害者家族のその後の人生も大きく変えてしまうのです。
被害者からの嫌がらせで悩んでいる加害者がいます。特に人身事故で被害者が死亡すると、被害者の家族が加害者宅のドアを叩きながら、大声で、「人殺し!」と叫ばれたり、ご近所や会社周りでビラをまかれたりといった行為を受けることがあります。
また、メディアで取り上げられた事故などでは、嫌がらせをするのは被害者やその家族だけとは限りません。ネット上で、実名や写真、住所を晒されてしまうこともあるでしょう。
今住んでいる場所に住み続けられなくなり引っ越しをしても、引っ越し先でもまた嫌がらせを受けるケースもあります。
特にニュースになった人身事故であれば、その後一生息を潜めて生活しなければならなくなる可能性があります。
人身事故の加害者が任意保険に加入していなければ、破産してしまうことがあります。
任意保険の対人・対物賠償責任保険に入っていれば、被害者に発生した損害は保険会社が負担してくれます。しかしこれらの保険に入っていなければ、自賠責保険を超える分は加害者の自己負担となります。払えなかったら被害者から裁判を起こされて資産を差し押さえられる可能性もあり、どうしても支払えなかったら破産するしかないのです。
しかも、悪質な交通事故では、破産しても損害賠償が「免責」されない可能性があるため、その後の人生は、損害賠償債務を抱えて生きていかねばならないことになります。
即、破産に繋がるわけではありませんが、自転車の事故であっても損害賠償金が、高額になるケースが一時話題となりました。
平成25年7月4日 神戸地方裁判所 判決
11歳男児の小学生が自転車に乗っていて当時62歳の歩行中の女性に衝突した事例です。女性は頭蓋骨骨折して意識が戻りませんでした。この事件で加害者側には9,521万円の支払い命令が出ました。
(交通事故民事裁判例集46巻4号883頁)
この他にも、高校生が起こした、自転車事故で、語機能喪失などの重大な後遺障害を負わせた会社員(当時24歳)に対して、9,266万円の損害賠償命令が認められた事例もあります(平成20年6月5日東京地方裁判所判決)。
このように、たかが自転車と侮っていると、後々大変なことになってしまいます。
交通事故が原因で離婚する加害者もいます。
たとえば事故が周囲に知られて嫌がらせを受けるようになり、家族を巻き込まないために離婚する加害者がいる一方で、配偶者が人を死なせてしまったことを受け入れられず、夫婦関係にヒビが入って離婚に至る加害者もいます。
また、交通事故を起こしたことで、結婚をあきらめる加害者もいます。
事故を起こしてしまったことが原因で本人が自暴自棄となり、その後、家族が壊れてしまうパターンもあります。離婚だけではなく親子関係や兄弟関係が断絶するケースも少なくありません。
交通事故をきっかけに職を失う加害者もいます。
就業規則や社長の判断などで、悪質な加害者であれば、会社を懲戒解雇になる可能性もあります。重大事故を起こして免許取消となり欠格期間が数年発生したら、もはや退職せざるを得ないでしょう。
幸いに、解雇にならなくて済んだとしても、停職処分や減給処分となる可能性は大でしょう。
トラックの運転手やタクシードライバーなど車の運転を職業としているのであれば、重大事故を起こすと免許停止や取消となって仕事を続けられなくなりますし、会社で噂になって居づらくなるケースもあるでしょう。
自営業の場合には、重大事故を起こしたことを知られれば、顧客が離れていってしまいます。
冒頭でご紹介した通り、交通事故の加害者が自殺してしまう事例は、数多くあります。
山口県美祢市で、死亡事故を起こした78歳になる男性ドライバーが、国道に飛び出して、大型トラックと大型観光バスに相次いで跳ねられ死亡した自殺の例や(※1)、三重県の長谷山の山道で停車中の乗用車から発見された3人の男女の遺体は、別々の交通事故加害者が集団自殺を図ったものとみられる(※2)といったものが、ネット上でも探すことができます。
※1 死亡事故を起こした運転者、飛び込み自殺|Response 20th
※2 交通事故の加害者が集団自殺か|同
加害者だけではありません。加害者家族が自殺してしまうこともあるのです。
昭和時代の話ではありますが、北海道の日高で38歳のご主人が飲酒運転で対向車と正面衝突し亡くなってしまい、遺された妻がそれを苦に、5歳と3歳の子どもを道連れに自殺した際に残した遺書を、ネットでも読むことができます(※3)。
※3 交通死亡事故加害者の実態|秋田県広報ライブラリー
もっとも、この話については、ネット上で真偽が争われているようです。
被害者だけでなく、交通事故の加害者も、事故のショックからPTSDやうつ病などの精神疾患となり、トラウマが残る可能性があります。
日経新聞は、次のように報じています。
「実際、警察庁科学警察研究所が02年度、死亡事故の加害者23人と遺族418人を対象に心的外傷後ストレス障害(PTSD)に関係する症状の度合いを調査したところ、いずれも加害者の方が多かった。」
不眠やイライラがある 遺族 22% 加害者 60% 感情がなくなる 遺族 17% 加害者 55% 突然、事故のことを思い出す 遺族 41% 加害者 73% 【出典】日経新聞2010/8/14付
このように、多くの加害者は、長期にわたる悔恨の念から事故の遺族よりも精神に受傷をしてトラウマも残ることがあるのです。
交通事故で加害者になることは、自殺につながることもあり、メンタルケアが必要なのです。
国が犯罪被害者等基本法を制定するなど、交通事故だけでなく、犯罪被害者に対する支援は着実に拡充してきました。
一方で、日本での加害者支援は、なかなか進みませんでした。
しかし、少しずつでも、加害者に対する支援は広がってきています。その中のいくつかをご紹介しましょう。
交通事故を起こした加害者の家族は、基本的には、事故について責任がありません。
しかし、事故を起こした家族に対しても、世間の風がとても冷たい風潮があることは、否めません。
そんな中で、日本で初めて犯罪加害者家族を対象とした支援を始めたWorld Open HeartというNPO法人があります。
このNPO団体は、2014年から「交通事故加害者家族支援」の専門窓口を設置して交通事故の加害者家族に対応しています。
交通事故では、加害者が、精神疾患を罹患し、働けなくなるなど、精神的・経済的負担が大きくなるため、加害者本人への支援も行っているとのことです。
【参考外部サイト】特定非営利活動法人 World Open Heart
加害者であっても精神疾患を患うことがあるのは、前述した通りです。そこで、臨床心理士や弁護士らが設立した加害者支援の団体が、スキマサポートセンターです。
スキマサポートセンターでも、加害者家族に対するに対する支援を行っています。
加害者本人・家族のカウンセリングや法律相談、裁判への付き添いのほか、社会福祉士が相談にのることもあります。
【参考外部サイト】非営利活動法人 スキマサポートセンター
電話や面談による相談を受け付けています。電話相談と1回目の面接は、無料で行われています。
高齢ドライバーによる事故が問題となり、対策として、70歳から74歳の高齢者には高齢者講習を受講の義務付けや、75歳以上の高齢者には認知機能検査を行うなど、既に一定の取り組みがなされてきました。
また、2020年6月3日には、一定の違反歴がある75歳以上の高齢者に対して、実車による試験を行い、不合格者には免許を更新しないことを柱とした道路交通法の改正案が、衆議院で可決・成立し、2022年には、施行される予定となっています。
なお、高齢者事故については、下記記事も併せてご参照ください。
交通事故を起こした加害者は、立ち直りが不可能になるケースも少なくありません。家族の理解や周りの支援などによって結果が大きく変わってくるのです。
交通事故で被害者になるのか加害者になるのかは、紙一重です。確かに、事故を起こしてしまったことには、責められるべき点があります。しかし、加害者家族に対するバッシングは行き過ぎた行為でしかありません。
交通事故の加害者であっても、再起のチャンスがある社会が必要です。