即決和解とは?その効力や調停・公正証書との違いを徹底解説

即決和解

たとえば、交通事故で被害者になった場合、加害者との示談が成立すると、通常は速やかに「示談金(賠償金)」が振り込まれます。

しかし、加害者が任意保険に入っていないときは、示談書を作成しても、まだ本当に払ってもらえるかどうかわかりません。

ここでは、そのような危険を回避する「即決和解」という手段について解説します。また、即決和解と訴訟・調停・公正証書との違いについても見て参りましょう。

示談金の不払いのリスクがあるケースとは

示談が成立しても、次の場合は不払いの危険があります。

  • ①加害者が自賠責保険にも任意保険にも加入していない場合
  • ②加害者が自賠責保険には加入しているが、任意保険には加入しておらず、損害額が自賠責保険の限度額を超えた場合の超過分

自賠責保険や任意保険で補償されるケースでは、賠償金が不払いとなる危険は事実上ありませんが、それ以外のケースでは、加害者が本当に示談書どおりに支払ってくれるとは限りません。

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賠償金が不払いで強制執行をするには債務名義が必要

加害者が示談書どおりの支払をしないときには、どうすればよいのでしょう?

加害者の財産(不動産、預貯金、給与など)に強制執行をかけて差し押さえてしまう?そのとおりです。相手がどうしても支払わないなら、最終的には強制執行を行うしかありません。

しかし、示談書があるだけでは強制執行はできないのです。

強制執行は文字どおり裁判所という国家権力を利用して無理矢理に相手の財産を奪うものです。万一、間違いであったら大変な人権(財産権)侵害となってしまいます。

そこで、強制執行をするには、たしかに相手には支払義務があるという裁判所等からの「お墨付き」が必要なのです。これを「債務名義」と言います(民事執行法22条)。

債務名義となるものには、裁判所の確定判決、和解調書、公正証書などがありますが、示談書は債務名義ではないのです。

示談書は、当事者が作成したもので、裁判所等がその内容を確認したものではないからです。

このため示談書のとおりに支払われない場合は、あらためて訴訟を起こして裁判所の判決から判決をもらうなどして、債務名義を入手する必要があります。

示談書は、その裁判において、相手の支払義務を証明する証拠として利用できます。

債務名義を入手する方法とは

債務名義を入手する方法としては、即決和解を含めて、主に次の5つの方法があります。

  • ①訴訟を起こし、裁判所の判決書をもらう
  • ②訴訟を起こし、裁判上の和解を成立させて和解調書をもらう
  • ③民事調停を申し立て、調停での和解を成立させて調停調書をもらう
  • ④公証役場の公証人に、示談書の内容を公正証書にしてもらう
  • ⑤簡易裁判所に即決和解を申し立て、和解調書をもらう

①「訴訟で判決をもらう」方法は、もっとも時間・手間・費用がかかります。

②「訴訟で裁判上の和解を成立させる」方法は、裁判を起こしたうえで、裁判官を仲介役とした話し合いをまとめるものですが、正式な訴訟手続の中で行うものですから、やはり時間・手間・費用が負担です。

③「民事調停での和解を成立させる」方法も、訴訟ほどではないものの、時間と手間はそれなりに必要です

④「公証役場で公正証書にしてもらう」方法は、もっとも手間がかかりません。示談書に書かれた内容に、「強制執行認諾文(強制執行認諾条項)」(※)という一言を加えた公正証書を作成してもらうだけです。

加害者も公証役場に出向いてもらう必要がありますが、加害者の代理人でもよく、手数料も、数万円のレベルで済みます。

※「債務者○○は、本合意による金銭債務を履行しないときは、直ちに強制執行に服する旨を陳述した」という記載が強制執行認諾文です。この一文がないと公正証書は債務名義となりません。

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⑤「即決和解」は、簡易裁判所で和解を成立させる方法です。それでは訴訟や調停と同様に時間・手間・費用がかかってしまうのでは?と思うかもしれませんが、そうではないのです。以下で詳しく説明致します。

債務名義をもらうための「即決和解」(訴え提起前の和解)

即決和解とは?

即決和解とは、民事上の争いのある当事者が、簡易裁判所に対しておこなう和解の申立て手続です(民事訴訟法275条1項)。

即決和解と民事調停との違いとは?

簡易裁判所での和解なら、民事調停とどこが違うの?と疑問に思われるでしょう。

民事調停では話合いの仲介をするのは調停委員ですが、即決和解では簡裁の裁判官です。

また民事調停では話がまとまらず調停が不調となった後に、あらためて訴訟を提起する必要がありますが、即決和解では当事者が希望すれば、即決和解の申立てをした時点で訴訟が提起されたものとみなされ、あたらめて提訴する必要がないという特別な扱いがされます(同法275条2項)。

このため即決和解は、正式には「起訴前和解(訴え提起前の和解)」と呼ばれます。ここでの「起訴前」とは民事訴訟の提訴前を意味しています。

即決とは何?

でも、もうひとつ疑問がありますね。簡易裁判所で和解の話合いをするなら「即決」ってどういうことでしょう?

実は、実際にはほとんど話合いはしないのです。というのは、起訴前和解は、申立ての時点で当事者間で和解する内容について合意が出来上がっており、その合意内容の債務名義をもらうために利用されているのが実情だからです。

つまり簡易裁判所を利用して公正証書を作るようなイメージです。

起訴前和解は、当事者が合意した内容の和解条項を事前に簡易裁判所に提出しておき、指定された期日に双方が出頭して、裁判官が当事者と内容を確認すれば、その時点で和解が成立するので「即決」和解とも呼ばれているのです

「民事上の争い」として即決和解を利用することに何ら問題ある?

あれ?先ほど、即決和解は「民事上の争い」のある当事者がするものと説明していたのに、合意ができている場合でも利用できるの?と疑問がわきます。

たしかに、条文にも「民事上の争い」と明記されているのですが、この点、裁判所は堅苦しく考えてはいません。

即決和解を利用して債務名義をもらう理由は、当事者だけの合意では、

  • ①裁判所に確認してもらわなければ合意したかどうかをめぐって将来争いになる不安がある
  • ②相手が支払ってくれるかどうか不安があるという点にあるので、これらも広く「民事上の争い」と言ってよいとされているのです(※)。

交通事故の示談がまとまっていても、本当に支払ってくれるかどうか不安は残りますから、「民事上の争い」として即決和解を利用することに何ら問題はありません。

※①の点につき、大阪地裁平成3年5月14日決定(判例時報1455号・119頁)、②の点につき、田川簡裁平成8年8月6日決定(判例タイムズ927号・252頁)

即決和解手続の流れ・費用

それでは即決和解手続の流れについて説明しましょう。

管轄裁判所

即決和解の申立ては、賠償額にかかわらず、相手方の住所地の簡易裁判所に対して行います(民事訴訟法275条1項)。

申立書

即決和解の申立ては、申立書を作成し、裁判所に提出して行います。

申立書の書式は各裁判所のサイトからダウンロードできます。

申立書には、当事者目録、和解条項案、その他基本的な証拠書類のコピーを添付します。

和解条項案

和解条項案は、事前に合意されている内容を裁判所に伝えるためのものです。

いかに当事者が納得していても、合意の内容が違法であったり公序良俗に反する場合は、裁判所は和解の成立を認めません。

また、適法な合意内容でも、和解条項の記載方法に間違いや法的問題があって、そのままでは債務名義にできないケースがあります。

そこで、事前に和解内容の案文を提出させて、内容に問題がないか審査するのです。

申立て費用

収入印紙:1件2千円(申立人及び相手方が各1名の場合)
予納郵券:635円(相手方1名、東京簡易裁判所の場合)

郵券は担当裁判所によって異なりますので、必ず事前に担当の裁判所に確認してください。

基本的な証拠書類のコピー

これは必須のものではありませんが、和解案の内容を裁判所が審査するうえで、事案の基本的な証拠書類があれば、理解もチェックも容易となり、間違いも防ぐことができます。

そこで交通事故であれば、例えば事故証明書(事故の事実が確認できる)や修理代明細書(損害金額が確認できる)のコピーも提出しておくことがお勧めです。

物損事故での即決和解申立書、当事者目録、和解条項(案)の記載例をここにご紹介します。

【PDFダウンロード】即決和解申立書、当事者目録、和解条項(案)の記載例

  • 即決和解を申立てすると、裁判所が内容を審査します。不備などがあると、裁判所から書類の訂正や追加提出を求められます。
  • 裁判所とのやりとりで審査や和解条項の訂正などが終了すると、当事者が裁判所に出頭する期日を決めることになります。裁判所に当事者双方が出頭できる希望日を複数伝えて調整します。
  • 即決和解の期日に、当事者双方が出頭し、和解条項の内容で間違いなく合意することを裁判官が確認すると、当日、和解調書が双方に交付されます。この和解調書が債務名義となって強制執行が可能となるのです。
  • 即決和解は内容の審査、和解条項の修正などのやりとりがあるので、通常は、申立てから成立まで1ヶ月半から2ヶ月程度かかります。

即決和解のメリットとデメリット

即決和解と公正証書は、当事者が事前に合意した内容を、専門機関に確認してもらって、債務名義という強制執行可能な「お墨付き」にしてもらうという点で共通しています。

費用の面では、公正証書が(賠償額次第ですが)通常は数万円かかるのに対し、即決和解は3千円程度で済んでしまうメリットがあります。

即決和解と公正証書の手間ひまの違い

合意内容を事前に伝えておき、当日、当事者双方が出向いて確認してもらう必要があるという点は、即決和解も公正証書も同じです。

なお、代理人が出頭することも認められる点も、即決和解と公正証書は同じです。

ただし、実は、一般の方にとっては、公正証書よりも即決和解の方がハードルが高いのです。

公正証書の場合、当事者が合意している内容を事前に公証役場に伝えておけば、それをもとに公証人のほうで法律的に正しい条項案を作成してくれます。

しかし、即決和解では、先にご覧いただいたような申立書と和解条項案は自分で作成しなくてはなりません。

もちろん裁判所は、内容の不備・不足を指摘したり、訂正を求めるなどして、当事者にわからない点はある程度相談に乗ってはくれますが、サービス機関ではないので、対応には限界があります。

申立書や和解条項案の書き方がわからないとか、書類を作成して提出はしたけれど不備がありすぎて受け付けられないという場合、裁判所が詳しい話を聞いて熱心に指導してくれるわけではないのです。

つまり、格安な費用で示談内容を債務名義とすることができるけれど、一般の方がこれを利用するには、とても時間と労力がかかってしまうのが即決和解のデメリットです。

弁護士に依頼して、即決和解を利用する

この即決和解のデメリットを解消する方法が、弁護士に依頼して代理人として即決和解手続をおこなってもらうことです。

弁護士に依頼すれば、申立書も和解条項案も、法的に正しい文章を作成して提出してくれますし、その後の裁判所とのやりとり、当日の裁判所への出頭も全部お任せできるので、本人の時間と手間の負担は一切ありません。

しかも弁護士ならば、万一、和解した賠償金の支払いがなされないときは、即決和解の和解調書を債務名義として、ただちに相手の土地、建物、預貯金、給与を差し押さえて賠償金を回収することができるので、安心して任せることができます。

まとめ

交通事故の加害者と示談がまとまっても、示談書をつくるだけでは支払が不安だという場合、弁護士に即決和解を依頼することで不安をなくすことができます。

即決和解については、是非、交通事故に強い弁護士に、ご相談ください。

交通事故に強い弁護士に無料相談できます

  1. 保険会社が提示した示談金・慰謝料に不満だ
  2. 事故の加害者・保険会社との示談交渉が進まない
  3. 適正な後遺障害等級認定を受けたい

弁護士に相談することで、これらの問題の解決が望めます。
保険会社任せの示談で後悔しないためにも、1人で悩まず、今すぐ弁護士に相談しましょう。

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