交通事故被害者が裁判所に提出する陳述書の書き方と例文
- 交通事故被害者が裁判所に提出する陳述書の書き方を知りたい!
交通事故は急な出来事であり、その影響は被害者にとって大きなものとなることがあります。
交通事故の損害賠償をめぐる裁判では、裁判官から被害者側に対して、陳述書の提出を求められます。陳述書は、事故の詳細を説明し、被害者の立場を示す重要な文書です。
この記事では、交通事故被害者が裁判所に提出する陳述書とは何か、何のために提出するのか、陳述書の書き方と例文を解説します。
陳述書とは
陳述書とは、民事訴訟の当事者が、その事件について語った内容を文書にしたもので、裁判所に証拠のひとつとして提出する書類です。
記載される内容は事件に応じて様々ですが、交通事故では、①どのようにして交通事故が起きたのかという「事故の態様」と、②傷害、後遺障害による苦痛や日常生活の不便などの「被害の内容」がメインとなります。
陳述書が利用されるようになった歴史は浅く、提出が一般化したのは、平成3年~平成7年ころの時期です(※1)。
※1:「新民事訴訟法の理論と実務(下)第3版」元裁判官塚原朋一外編、ぎょぅせい発行49頁。「民事証拠法体系第3巻」門口正人編、青林書院発行、178頁。
ところが、今では陳述書を提出しない民事事件は、ほとんど考えられません。陳述書の作成は、弁護士にとっても、重要な業務のひとつとなっています。
陳述書の提出は慣行となっている?
このように民事訴訟では不可欠とされる陳述書ですが、法律上、特に陳述書について規定した条文は存在せず、その提出を要求する制度はないのです。
しかし、陳述書は後述のような事実上の有用性故に、当然のように提出されており、また裁判官から提出を求められます。
もはや民事裁判実務における慣行となっているのです。
陳述書は、訴状、答弁書、準備書面、書証とどう違うのか?
訴状、答弁書、準備書面は「当事者の主張」
民事訴訟で裁判所に提出する書類というと、原告が訴訟を提起する際に提出する「訴状」、被告が訴状の内容を認めるか否かを返答するために提出する「答弁書」、訴訟の進行にしたがい原告被告双方が提出し合う「準備書面」などがあります。
これらはいずれも、当事者の「主張」を記載したものです。民事訴訟は、当事者双方が主張をぶつけ合いますが、それが真実かどうかはわかりません。裁判官が、当事者の主張のうち何が真実かを判断する根拠とするものが事実の裏付けとなる「証拠」です。
陳述書は主張を裏付ける「書証」
陳述書は、書証のひとつです。
例えば、原告Aが「自分の対面信号は青だった」と訴状に記載し、被告Bが「いいや、Aの対面信号は赤だった」と答弁書に記載した場合、それらはいずれも当事者の主張に過ぎません。
これに対して、事故時の信号状況が録画されているドライブレコーダーの動画がBから提出され、Aの対面信号は赤だったことが判明する場合、その動画が証拠です。
この証拠が書類の形となっているものを「書証」と呼びます。
例えば、上のケースで、ドライブレコーダーの動画が存在しない場合、「私は、Aの対面信号が赤信号であることを、はっきりとこの目で見ました。間違いありません。」と記載したBの陳述書は、答弁書に記載したBの主張を裏付けるための書証なのです。
陳述書の機能
しかし、証拠といっても、陳述書は当事者である被告Bの話を文書にしただけです。
この点、実質的には、Bの説明を弁護士が聞いて作成した訴状や準備書面と大差ないわけで、信用性の高い証拠というわけにはいかないはずです。
それにもかかわらず、今日、当然のように陳述書が利用されているのは、陳述書には訴訟を進行させる上で有用な各種の機能があるからです。
裁判官の理解を容易にし、証拠調べの時間を節約する手段
現在のように広く利用されるようになる以前にも、もともと古くから、陳述書は一部の特定事件においては活用されていました。次のようなケースです。
- 帳簿の内容や医療記録などのように、客観的に記載されている文書を専門的な知識をもって説明、整理する場合
- 離婚事件のように、長期間にわたって発生した当事者間の事実関係を、時間の経過にしたがって感情を交えずに整理する場合など(※2)
※2:「陳述書をめぐる諸問題」坂本倫城(判例タイムズ954号4頁)
これらの場合は、全てを法廷での尋問によって明らかにするよりも、文書で説明してしまったほう理解が容易で時間の節約にもなります。
もっとも、その文書の説明内容が真実かどうかは、争う側が尋問で確認する必要がありますので、反対尋問は必須です。
そこで陳述書は、主尋問の代替手段、補完手段と位置づけられてきたのです。
今でも陳述書には当然にこの機能があり、むしろ現在では上のような特定のケースに限らず、交通事故事件を含め、広くあらゆる事件について、裁判官の理解を容易にし、証拠調べの時間を節約する手段として活用されるに至ったと言えます。
効率的かつ効果的に民事訴訟を進める
さらに、陳述書には、次のような機能もあるとされています。
・陳述書の作成によって、弁護士が訴状や準備書面作成の段階よりも、より詳しく依頼者の事情聴取を行うことによって、事件の全貌を把握できるようになり、その結果提出された陳述書は、裁判官にとっても事案の筋道が認識しやすいものとなる(事前準備促進機能)
・訴訟の争点整理の段階で、陳述書を提出させることで、早い段階で証拠を開示させることにつながる。これにより相手方の反対尋問の準備も充実する(証拠開示機能)
・準備書面などは、弁護士が法律的に構成した主張にすぎず、相手の出方を見ながら小出しにしたり、主張を変更したりすることが多いが、陳述書は当事者が事実を語った内容として提出される建前なので、後に大幅に変更されにくい(主張固定機能)
これらは、すべて裁判所の限られた時間の中で、効率的かつ効果的に民事訴訟を進めるために有用な機能と理解されています(※3)
※3:「東京地裁における審理充実方策」大藤敏裁判官(判例タイムズ886号51頁参照)
陳述書は誰が作成するのか
実際に陳述書を作成するのは、ほとんど弁護士ですが、事案や内容によって様々な作成方法があります。
弁護士が全部作成するケース
弁護士が当事者から聴取した内容を文書にまとめ、内容を確認してもらったうえで、本人の署名と押印をもらう場合です。
陳述書は、ほとんどがこの方法で作成されます。
それでは、本人の陳述ではなくて、弁護士の作文ではないか?裁判所に通用しないのでは?と疑問に思われるかもしれませんが大丈夫です。
裁判所も陳述書は弁護士が作成していることを前提としています。
陳述書は、裁判所が事実の内容を理解することを容易にし、争点を明確にし、尋問時間を節約するためなどの目的で提出されるものですから、当事者の話を弁護士が整理して記載してくれたほうが、裁判所にとってもありがたいのです。
当事者本人が作成する陳述書は、本人の経験が直接に記載されるという意味で貴重ではありますが、どうしても感情が先行したり、争点とは無関係な内容で埋め尽くされたりすることがあり、適切とは言えない場合が多いのです。
法廷で尋問を実施する際、陳述書を提出している当事者や証人に対しては、弁護士は、陳述書を示して必ず次の質問をします。
これは弁護士が陳述書を作成していることを当然の前提としていることを示してます。
本人に下書きを作成させ、弁護士が完成させるケース
多くの弁護士は、当事者の話を聴取したうえで、最初から最後まで弁護士が文書を作成します。
これと異なり、必ず、まず本人に書いてもらうという方針の弁護士や、事案によっては最初に本人に書いてもらうという弁護士もいます。この場合、本人が書いた陳述書を、打ち合わせをしながら添削、加筆などをして、最終的に弁護士が文章をまとめることが多いと思われます。
このような作成方法は、次のような理由で選択されます。
- まず本人に書かせることで、本人の記憶を喚起させる
- これまでの聴取で弁護士が聞き漏らしている事実を発見できる
- 作成過程で、本人が裁判の記録、相手方の書面、各証拠を読み込むことになり、本人の裁判に対する理解が深まる
- 弁護士任せにしないで、本人が主体的に戦う気持ちとなってもらえる
本人に最後まで作成させるケース
陳述書でも、弁護士がアドバイスはしつつも、最初から最後まで本人に作成をまかせる場合があります。これは例えば次のようなケースです。
- 後遺障害による日常生活の不便さ、精神的なつらさを説明する内容
- 被害者の介護を余儀なくされる生活の苦労を説明する内容
- むち打ち症のように自覚症状しかない後遺症の痛みを説明する内容
- 死亡事故で肉親を亡くした家族の悲しみを訴える内容
これらはいずれも弁護士が筆を入れるべきではないもの、あるいは筆を入れることは最小限とする方が良い内容となるものといえます。
陳述書の書き方と文例
あなたの担当の弁護士から、陳述書の下書きの作成や陳述書そのものの作成を指示された場合、上に説明したうち、どのような意図で本人に作成を指示したのかをよく確認することが大切です。
ただ、そのうえで、まずは自由に書いてみて下さい。なんと言っても、その裁判で問題となっている事実を経験したのは、あなたであって、弁護士ではないのです。本当の事実を書くことができるのは、あなたしかいないのですから、遠慮無く書いてみることです。
弁護士は、あなたの味方なのですから、何を書こうとも怒られることはありません。
ただ、陳述書を書いてみるにあたって、次の各点にだけ、少し注意を払っていただけると、良い陳述書を書くことができるでしょう。
一枚目に記載する基本事項
陳述書の一枚目には、「陳述書」との表題と、その作成日、住所氏名を記載し、押印します。氏名は自署でも記名でもかまいません。押印は認印で大丈夫です。
事件番号、原告被告の名称、裁判所の担当部担当係を記載することも通例ですが、必須のものではありません。
です、ます調 主語は「私」
陳述書に決まった形式はないものの、慣行として、A4用紙を縦長として、横書き(左綴じ)です。
文末は、ですます調。あなたが経験した事実を語るのですから、主語は基本的に「私」です。
5W1Hを意識すること
いつ(When)誰が(Who)どこで(Where)何を(What)どうして(Why)どのように(How)を意識してみましょう。
そして、時間の流れ(時系列)にしたがって、何があったのかを書いていくと良いでしょう。
事実と感想を分けること
何があったのかという事実と、その時にあなたがどう思ったのかという感想は、読み手が明確に区別できるように書いて下さい。
過激な表現に注意
陳述書を書いていると、つい交通事故の加害者に対する感情が昂ぶって、相手を攻撃する語句を入れたくなります。しかし、控えましょう。そのような言葉を書いたからとって、裁判官が同感してくれるわけではなく、かえって悪い印象を持たれてしまうかもしれません。
自筆かワープロか? どちらでも良いが、読みやすさを優先して
陳述書は、自筆でもワープロでも、どちらでもかまいませんが、重要なことは、最終的に裁判官に読んで理解してもらうことが文書の目的であるということです。この観点から、何が適切かを弁護士と相談して下さい。
交通事故では、現場見取り図など適宜使用
交通事故事件では、現場の状況など、文章だけでは説明が難しいケースも多々あります。陳述書には、図面、表、写真などを添付することも可能です。それらが必要だと思ったら、弁護士に相談して下さい。
陳述書の例文
私は、○○病院の整形外科にて診察を受けました。医師の検査の結果、むち打ち症との診断を受ました。〇日〇日 午後3時頃
・・・・
まとめ
ほとんどの方にとって、ご自分の陳述書を作成することは一生に一度のことでしょう。たった数頁の書面でも、わからないことだらけで不安だと思います。ご心配の場合は、何でも弁護士に相談してみることです。
なお、本記事の全般につき、下記文献を参考とさせていただきました。
「現行民事訴訟法改正前後における陳述書の役割の変遷」高倉太郎弁護士(千葉大学法学論集 第23巻第3号)