交通事故の時効|5年?20年?起算はいつから?【民法改正版】
交通事故の示談の折り合いがつかず示談が成立しないまま時間だけが過ぎることがあります。交通事故で示談をする際に注意しな…[続きを読む]
交通事故で、損害賠償を請求する権利があるとき、加害者や加害者側の保険会社からの支払いが遅れたら「延滞金」を請求できるのでしょうか?
今回は、遅延損害金の計算方法や請求方法、裁判和解の場合、利率、数年前に行われた「民法改正の影響」等に関して、解説致します。
なお、交通事故と時効については下記記事が詳しいので併せてご参考ください。
目次
交通事故の損害賠償金(慰謝料や示談金)において、延滞金を請求することは法律で認められています。
ただ、その場合、正式名称は延滞金ではなく、「遅延損害金*」といいます。
*遅延損害金は、厳密には「利息」ではありません。金銭債務の支払いが遅れたことによって、発生した損害の「賠償金」です。このため遅延「損害金」が正式名称なのです。
交通事故の遅延損害金の利率(民事法定利率)は、年5%です(民法404条)。
なお、平成29年に改正され、2020年4月1日から施行予定の改正民法では、法定利率は年3%とされ、かつ3年に1回見直されて変動するものとなります(改正民法404条)。
また、民法改正により、交通事故の逸失利益の算定に影響も与えています。
では、交通事故の遅延損害金は、いつから起算するのでしょうか。
これは交通事故の「当日」から起算します。
不法行為*に基づく損害賠償債務は、その損害の発生の時から、直ちに遅滞となると理解されています(最高裁昭和37年9月4日判決)。
*交通事故のように、故意又は過失で他人の権利、利益を侵害する行為を「不法行為」と言います。
例えば、平成29年1月1日の交通事故で、車が破損し、修理代が100万円かかったという場合、一年後の平成30年12月31日まで支払いがなければ、100万円×5%=「5万円の遅延損害金」が生じていることになり、被害者は105万円を請求できるわけです。
上記のように交通事故の遅延損害金の計算方法はすごく簡単に思えますが、本当にこの計算方法であっているのでしょうか?
次の例を考えてみて下さい。
上記と同じ計算方法を使うと、答えは、10万円(毎月の治療費)×12回×5%=「6万円」が請求できる遅延損害金となります。
でも、ちょっと待って下さい。
この場合、治療費という損害は、平成29年1月末に10万円、2月末にさらに10万円というように、毎月10万円ずつ増加していきます。
ですから遅延損害金も、平成29年1月末日から10万円に対して年5%、2月末日から10万円に対して年5%という具合に、毎月末の損害発生(治療費支払い)ごとに計算することが論理的なはずです。
しかし、交通事故の損害賠償金(慰謝料や示談金)に関しては、このような計算は行いません。
平成30年12月31日までに治療費合計120万円の支出があり、それが交通事故による損害額と認められれば、120万円全額について、「交通事故当日からの遅滞である」として、年5%の遅延損害金が認められるのです(最高裁平成7年7月14日判決)。
論理的に考えると、どの治療費の支払いも、事故から1年経っていないのであって、1年分の遅延損害金を請求できるとするのはおかしいはずです。
しかし、現在の裁判実務では、交通事故の日に、すでに「治療費120万円を要する傷害」という「損害」が発生したと考えるのです。
これは煩雑な計算を避けるメリットもありますし、早い段階で遅延損害金の発生を認めるので、賠償金の支払いが促進されて、被害者保護に資するメリットもあります。
そこで、交通事故に関する損害賠償金は、その内容を問わず「すべて事故発生日から」遅延損害金が発生することが原則です。
弁護士費用も事故発生日から遅滞となります。弁護士と委任契約を結んだ日からではありません(最高裁昭和58年9月6日判決)。
休業損害も事故発生日から遅滞となります。実際に休業した日からでも、給料日からでもありません。
上記ではちょうど1年後の支払で計算しましたが、遅延損害金の計算式は正確には下記のように求めることができます。
遅延損害金
賠償金の総額 × (法定利率 (年利)÷ 365日)× 交通事故からの経過日数
つまり、2020年の民法改正により法定利率が5%→3%に下がることで、当然、遅延損害金の額は下がります。
したがって、遅延損害金が減額されるという面では、法定利率が5%から3%に引き下げられたことは、交通事故の被害者にとって不利な改正と言えます。
では、示談金や慰謝料の遅延損害金はどれくらい減額されるのでしょうか?
賠償の総額が1,200万円、1,500万円、事故から1年6ヶ月(540日)後に支払われたと想定して計算してみます。
損害賠償額 | 法定利率 | 遅延損害金 | 遅延損害金を含む損害賠償総額 |
---|---|---|---|
1,200万円の場合 | 5% | 88万7671円 | 1288万7671円 |
3% | 53万2602円 | 1253万2602円 | |
1,500万円の場合 | 5% | 110万9589円 | 1610万9589円 |
3% | 66万5753円 | 1666万5753円 |
当たり前の話ですが、法定利率が5%と3%では、年利2%の差ですから、遅延損害金については、「賠償金が支払われるまでの年数」×「年2%」の違いになります。
交通事故での遅延損害金が年3%や年5%というと、示談金や慰謝料と比較するとあまり大きな金額ではないよう受け取るかたもいますが、そんなことはありません。
実例を紹介しましょう。
タクシーとバイクの事故で、バイクの運転手が脳幹部を損傷し、遷延性意識障害、いわゆる植物人間状態となってしまい、要介護1級の後遺障害を認定された事案で、約2億4000万円の賠償金を認める判決が出されました。
この事案では、症状固定まで5年以上を要したことと、タクシー会社側が頑なに責任を認めようとしなかったことから、事故から判決まで約6年10ヶ月も経過してしまいました。
判決では、2億4000万円に対する年5%の遅延損害金の支払いも命じたため、判決時点までの遅延損害金だけで、約8000万円となりました。
しかも、実際にこの金額が支払われるまで、2億4000万円の部分だけでも、年1200万円もの遅延損害金が増加してゆくことになります(京都地裁平成24年10月17日判決)。
このように、交通事故においては遅延損害金も決して脇役にとどまるわけではないのです。
ところで、加害者側の保険会社は、示談交渉において遅延損害金の支払いを提示してくることはありません。
そしてまた、たとえ弁護士が代理人となった場合であっても、保険会社と示談で合意する場合に、保険会社が遅延損害金の支払いを認める内容で合意することは、まずありません。
弁護士が遅延損害金を請求しないわけではありませんが、保険会社は、遅延損害金の支払いに頑なに応じません。
示談は、あくまでも当事者が最終的に合意できなければまとまらないので、保険会社側が遅延損害金は支払わないという態度を崩さない以上は、仕方ありません。
保険会社側は、示談において遅延損害金を支払う扱いを認めてしまえば、すべての案件において、早期に支払いをしないと保険金額がどんどん増えてしまいます。
そのため、十分に事故の調査を行ったり、時間をかけて被害者と交渉することができなくなってしまいます。
保険会社が遅延損害金の支払いに応じないのは、そのような事態を懸念してのことと推察されます。もちろん、支払う金額を低くしたいということも当然にあるでしょう。
このような保険会社の態度は、訴訟の段階で、裁判官を間にいれた裁判上の和解においても貫かれています。裁判所での和解であっても、保険会社側は遅延損害金の支払いには応じません。
もっとも、示談交渉でも、裁判所での和解でも、事故から相当な期間が経過しており、仮に判決となった場合には、かなりの金額の遅延損害金が見込めるという事案においては、保険会社としても、遅延損害金の存在を全く無視することはできません。
そのような態度をとり続ければ、被害者側弁護士に訴訟による判決を選択されてしまい、結局、満額の遅延損害金を支払う羽目になるからです。
そこで、そのようなケースでは、遅延損害金は払わないというスタンスは崩さないまま、慰謝料の金額を増額したり、「解決金」、「調整金」などの名目で賠償額に加算をすることによって、歩み寄る姿勢を見せることになります。
裁判所での和解であれば、近年は、裁判官が判決となった場合の遅延損害金額の何割かを、このような「解決金」名目で加算する和解案を斡旋するケースも増えているようです。
なお、これまで説明したのは、まだ示談や和解で合意する以前の損害賠償請求の遅延損害金についてです。
示談や和解で、賠償額と支払期限について合意した後は、遅延損害金の発生時期と利率は、その合意内容次第です。
保険会社が相手の場合、一括払いであり、支払い遅延はまず考えられませんが、念のために年利10%~14%程度の遅延損害金を合意しておくことが通常です。
交通事故の損害賠償、慰謝料や示談金請求では遅延損害金を請求する権利はあります。
ただ上に説明したように、示談交渉や慰謝料金額の交渉、裁判の和解において保険会社が遅延損害金の支払いを認めることは、まずありません。
遅延損害金請求をお考えの方は、「交通事故に強い弁護士」に相談されることがベストです。