交通事故で少額訴訟にすべきケースとは?
交通事故で訴額が小さく事実認定に争いがないケースなどは、簡易裁判所の「少額訴訟」という制度を利用することが考えられま…[続きを読む]
交通事故で被害者と加害者・保険会社がもめた時や、示談がまとまらない場合には、調停や民事裁判などの裁判手続きを利用する必要があります。
民事裁判はどのような手続きで、訴えたり訴えられたりすると、どのくらいの費用がかかるのかを知っておくと弁護士に相談するときにも役立ちます。
今回は、交通事故で利用する民事裁判の流れ、保険会社から訴状が届いて裁判になった場合などのメリット・デメリット、加害者の出廷、本人尋問などについて解説します。
なお「少額訴訟」になるケース、また加害者側の保険会社から訴えられたケースなどについては、次の関連記事も併せてご参照ください。
目次
交通事故で利用できる手続きには、訴訟と調停、示談斡旋などの手続きがありますが、これらの中で、特に民事裁判にはどのようなメリットがあるのかをご説明します。
交通事故で民事裁判を起こすメリットは、次の通りです。
一審判決には控訴、控訴審判決には上告ができますが、上告審の判断にさらに不服申立をすることはできず、裁判が確定したら、その内容を争う方法はありません。
一方で、調停では裁判所が何らかの判断を下してくれることはありません。
また、示談斡旋で仲裁してもらっても、判断内容に異議申し立てができることがあるので、結局終局的な解決にはつながりません。
このように、裁判利用によって終局的に問題が解決できる点は、民事裁判のメリットです。
民事裁判では、相手方と合意ができなくても紛争を解決できる点がメリットです。
途中で和解することも可能ですが、和解ができない場合であっても、裁判官が終局的な解決方法を示してくれます。
他方、調停や示談斡旋では、基本的に相手方と合意ができない限り解決ができません。合意が整わなければ、手続きが終了し、問題が解決しないまま放り出されてしまいます。
この点、民事裁判なら、お互いの合意に関係なく、裁判所が解決方法を決めてくれるのです。
実際の示談では、保険会社が支払いに応じることがない遅延損害金を受け取ることができるのが裁判のメリットです。
裁判で判決に至れば、交通事故発生から賠償金が支払われるまでの期間について、賠償額の年利3%の遅延損害金を受け取ることができます。
裁判で慰謝料の金額を争うケースがあります。
この場合、慰謝料の計算する際に採用されるのは「裁判基準」です。
被害者個人が保険会社と交渉を進めてもらえる慰謝料は「任意保険基準」の金額です。
これだけでも、示談金の総額は、大きく変わります。
また、裁判になれば、保険会社には、一顧だにされなかった被害者の事情なども、過去の裁判例に照らして考慮され損害賠償額が増額される可能性があります。
次に、民事裁判のデメリットをご紹介します。
民事裁判の手続きは、調停や示談斡旋などの他の解決方法に比べて非常に専門的で複雑です。
主張のための書類の作成方法や証拠の提出方法、裁判官が使う言い回し1つとっても、一般の民間人にはなじみが薄いものばかりです。
さらに、手続きに非常に手間がかかります。書類の作成も大変です。すべての書類や証拠を何部も揃えて提出し、膨大な書類を管理しなければならず、相手方から反論が提出されたら、それに対して適切な内容の反論書面を作り証拠を揃えて、さらにそれをまた何部も用意して裁判所に提出しなければなりません。
しかし、このデメリットは、弁護士に依頼すれば裁判手続きすべてを任せることができ解消します。
民事裁判は、費用が高額になることが多いのがデメリットです。
自分で裁判をするなら数万円程度で済むことが多いでしょうが、実際には弁護士に依頼しないと有利に進めることができません。数十万円の費用を支払って、弁護士に依頼することになります。
この点、調停や示談斡旋なら自分一人でも手続出来るので、弁護士費用が不要になり、一般的には1万円~数万円程度で済みます。
なお、弁護士費用特約を利用すれば、弁護士費用倒れになることははないでしょう。
民事裁判では、解決までに非常に長い期間がかかる点がデメリットになります。
判決までにかかる期間はだいたい半年以上で、長いケースでは1年2年かかることもあります。万が一、一審で思わしくない判決が出れば、控訴することも考えなければなりません。
これに対し、調停や示談斡旋では2ヶ月や3ヶ月で終結することが一般的です。
民事裁判にも、敗訴リスクがあり、それがデメリットです。敗訴リスクとは、裁判に負ける可能性があることです。
民事裁判では、原告と被告双方がそれぞれ自分の主張と立証を展開しますが、必ずしも自分の主張が通るとは限りません。
被害者が原告となり、賠償請求のために訴訟を起こしても、主張・立証に失敗すると、期待した賠償が認められない可能性もあります。
この点、調停や示談斡旋なら、お互いが譲歩する内容になるので、どちらかが完全に負けてしまうと言うことはありません。
民事裁判では、敗訴リスクを避けるためにも、交通事故に強い弁護士に依頼して、適切に裁判きを進めてもらう必要があります。
民事裁判の具体的な流れをまずご説明します。
民事裁判を自分ですすめる場合、提訴前に主張を法律的に整理して、証拠を集める必要があります。
裁判では、事故が映ったドライブレコーダーの記録映像や目撃者の証言といったもの以外に、次のものも証拠になります。
民事裁判を提起するためには、「訴状」という書類を作成する必要があります。訴状には「相手方に請求したい内容」「請求の理由」などを詳しく記載します。
訴状は、3通用意し、その後2通を裁判所に提出し、1通を自分の控えとして手元に残しておきます。
裁判所は、訴状1通を被告に送達します。
また逆に、保険会社によって被害者側が訴えられた場合は、被害者側に訴状が届きます。
提訴手続きが済むと、おおよそ1ヶ月後程度で「第一回口頭弁論期日」が開催されます。
「被告側」は、期日までの間に答弁書を提出することが一般的です。
なお、原告が相手方の答弁書に反論する場合には、次の口頭弁論期日までに反論を用意することになります。
このようにして、双方が主張と立証を何回か繰り返すことで、裁判官が原告・被告双方の主張・争点を整理します。
口頭弁論期日には、弁護士が代理人として出廷していれば、原告・被告双方の加害者・被害者本人が出廷する必要はありません。
尋問には、当事者尋問(本人尋問)と証人尋問があります。
原告・被告は、当事者尋問には当然出廷しなければなりません。
また、証人尋問には、目撃者などが出廷して尋問を受けることになりますが、証人がいなければ、原告や被告の当事者尋問のみで終わることもあります。
当事者尋問は、依頼した弁護士から質問を受け、次に相手方の弁護士から質問を受け、最後に裁判官から補足の質問を受けることになります。
弁護士に依頼していれば、当然、予行演習などを行い、どのような質問がされるのか対策も行いますから心配ありません。
裁判所は早期に解決を図るために、多くの場合和解を勧めます。和解は、裁判が係属している間は、いつでもすることができます。
もちろん、被害者・加害者ともに納得できず、お互い合意できなければ、和解をする必要はありません。
なお、和解には、確定判決と同等の効果があり、もし和解調書通りに支払いが行われなければ、相手方の財産を差し押さえる、もしくは差し押さえられることになります。
また、白黒はっきりつけることなく和解することにより、敗訴のリスクを避けることができるので、和解条件を弁護士とよく相談のうえ受諾するか決めましょう。
判決によって裁判が終結したら、その内容に従って相手方から損害賠償金の支払いを受けることができます。
また、判決に不服があるときは、判決書を受け取った日から2週間以内は、控訴することができます。控訴するかどうかについても、弁護士とよく相談してから決めましょう。
原告・被告双方から2週間以内に控訴がなければ、判決は確定します。
次に、民事裁判に訴えられたり裁判を起こされたりすると、どれくらいの費用がかかるのか弁護士費用を除く費用についてご説明します。
まず、裁判を起こすには、手数料がかかります。裁判での請求額が高くなるほど手数料も高くなります。
たとえば、300万円を請求するなら2万円、500万円を請求するなら3万円の手数料がかかります。手数料は、収入印紙の形で支払い、提訴時に訴状に貼り付けて提出します。
民事裁判で必要な裁判手数料については、以下の早見表からご確認ください。
さらに、予納郵券も必要です。予納郵券とは、裁判所から原告被告、証人などに郵便を送る際の郵送料金のことで、郵便切手を購入して納付します。
予納郵券の金額は、各裁判所によってまちまちですが、だいたい被告1人について5000円~6000円くらい、被告が一人追加されると2000円くらい追加でかかります。
よって、交通事故で民事裁判を起こすときには、だいたい数万円程度の金額がかかります。訴額が少ない場合には1万円程度で済みますし、高額な請求をするなら5万円程度になる可能性もあります。
民事裁判では、手続き中にも料金がかかるケースがあります。
まずは、証人を呼んだ場合の旅費日当です。交通事故の訴訟でも目撃者などを証人として呼ぶことがありますが、このとき、証人は裁判所に旅費日当を請求することができます。請求があったら、当事者がその費用を負担しなければなりません。
旅費日当の金額は、証人がどこから来ているか(交通費)などによっても異なりますが、だいたい1日1万円くらいかかります。
さらに、証人尋問の記録などを謄写(コピー)する必要もあります。裁判所の記録を謄写する場合、裁判所内の専門の業者を利用しなければなりませんが、この謄写費用は通常のコピー台よりも極めて高額になっており、1枚20円~40円くらいかかります。謄写枚数が増えると、数千円~1万円近い金額になってしまうこともあります。
さらに、専門的な鑑定が必要になった場合には、鑑定料金が必要です。鑑定料金は鑑定の内容やどのような専門家を呼ぶかにもよりますが、数十万円になることが普通です。
弁護士に依頼すると、これら以外に弁護士費用がかかります。
最近では相談料無料、着手金無料で完全成功報酬制の事務所なども増えているので、なるべくリーズナブルな法律事務所を探して依頼すると良いでしょう。
弁護士費用について詳しくは、後述致します。
確かに、国民には裁判を受ける権利が保障されているので、誰でも裁判を利用する事ができ「当事者本人」ですすめることができます。
もちろん「弁護士」をつけなければならないことはなく、簡易裁判所でも地方裁判所でも、高等裁判所でも最高裁判所でも、自分の権利に関することなら誰でも1人で裁判ができます。
実際に、訴額の小さな簡易裁判所の事件などでは、弁護士費用を節約するために本人が自分で訴訟を起こしているケースが多く見受けられます。
しかし、裁判は非常に専門的で複雑な手続きで、素人が1人で進めることはとても困難です。加害者側も、通常、加入する保険会社の弁護士が代理人として出廷します。被害者である原告1人が素人では、とても太刀打ちできません。
裁判こそ、交通事故に強い弁護士に依頼するか否かで結果がまったく違ってしまいます。
日本では弁護士費用についての敗訴者負担制度はないので、相手方の弁護士費用まで支払う義務は発生しません。ただし認容額の10%を弁護士費用として請求できるケースがあります。
一般的な訴訟の場合は、原則的に相手方に対して弁護士費用を請求することはできません。
どんな裁判でも提訴する段階で「必ず勝てる」と確信をもてるケースというのはありません。どんな訴訟においても少なからず原告側が敗訴するリスクは少なからずあります。
ですから、「敗訴した人が相手方の弁護士費用も負担する」ということを原則とすると、訴える側である原告も最悪の場合返り討ちにあう可能性を考えなければなりません。
そうなると、もともと弱い立場にある一般消費者などが、裁判で負けることを恐れて大企業相手の訴訟に踏み切れなくなる可能性があります。
そのため、日本では弁護士費用は敗訴した側ではなく、訴訟当事者各自で負担することが原則となっているのです。
裁判に勝訴すると、訴訟費用について請求することができます。これらは敗訴した側の負担となります。
また、交通事故による訴訟の場合は、加害者側に損害額の約1割程度を弁護士費用として負担させることができる可能性があります。
しかし、実際は損害額の1割以上の弁護士費用を支払っているケースが多いため、その差額分は自己負担となってしまいます。
では、民事裁判では、どんな場合に弁護士費用倒れになってしまうのでしょうか?
例えば、示談で保険会社の提示額1,000万円に納得ができず、裁判を起こしたとします。弁護士報酬が、旧日本弁護士連合会の報酬規定と同様に、「10%+18万円」であれば、損害賠償額が1,100万円+18万円以下の判決では、弁護士費用倒れになってしまいます。
まず、弁護士に依頼する前に、保険会社の提示額が妥当なのか、示談ではこれ以上増額が望めないのか、裁判をして増額が見込めるのかなどをしっかり弁護士と相談しましょう。
交通事故の民事裁判では、被害者側から訴えを起こす場合、訴訟の相手方は通常、加害者だけでかまいません。
多くの場合、自動車保険の約款には、加害者に損害賠償を命ずる判決が確定すれば、加害者が加入する保険会社は、被害者に対して損害賠償金を支払うことが記載されているからです。
対して、約款の免責事由に該当するなどとして保険会社が支払い義務を争っているのであれば、保険会社も加害者として訴える必要があります。
民事裁判を利用すると、紛争を終局的に解決できますが、大変に複雑な手続きであり、手間や費用、期間がかかるデメリットがある上、敗訴リスクにも注意する必要があります。
弁護士に依頼せず自分で手続きをすることもできますが、その場合でも裁判費用はかかります。
法律や裁判手続きについて門外漢の被害者が一人で奮闘するよりも、民事裁判を有利に進めるためには、訴訟のプロである交通事故に強い弁護士に依頼すべきです。
今回の記事を参考にして、交通事故の損害賠償請求手続きを適切に進めて、正当な金額の賠償金を受け取りましょう。