人身の交通事故と略式起訴・略式裁判をわかりやすく解説

裁判所

人身事故では、検察は加害者を「起訴するか不起訴にするか」を決定します。しかし、加害者の刑事手続きが裁判も開かれずに簡単に終了してしまうことがあります。

このような簡易な手続きのことを「略式手続き」と言います。

今回は、略式起訴とはどういったものなのか、略式手続きの流れや罰金の金額、また略式手続きが選択されるのはどういったケースなのかなど「略式裁判」「略式命令」「略式手続き」について解説します。

人身事故と刑事事件について

人身事故の加害者の3つの責任

略式手続きを説明する前提として、交通事故の加害者が負う「刑事責任」について理解しておく必要があります。

交通事故を起こすと、次の3つの責任が生じます。

  1. 行政上の責任
  2. 民事上の責任
  3. 刑事上の責任

行政上の責任とは、重大な交通事故を起こすと、免許の点数が加算されて免許停止になったり取り消されたりする、いわゆる免許の点数の問題です。

民事上の責任とは、被害者が被った損害に対してする金銭的な損害賠償責任のことであり、刑事責任とは、犯罪を犯したことに対する責任です。

交通事故の中でも人身事故を起こすと「自動車運転過失致死傷罪」や「危険運転致死傷罪」などが成立する可能性があり、これらの罪によって禁錮や懲役、罰金刑などが科される可能性があります。

今回問題になる「略式手続き」は、これらの3つの責任のうち「刑事責任」における手続きです。

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原則的には刑事事件は裁判が行われる

人身事故であろうと、犯罪を行った加害者に対して刑事責任を科す場合には、原則的に「刑事裁判」が行われます。

刑事裁判というのは、裁判所で審理が行われ、その審理にもとづいて判決が言い渡される一連の手続きです。

刑事裁判が行われる場合には、加害者は被告人として法定に出廷しなければならず、証拠調べや加害者の尋問などを行った結果、加害者に対して裁判官から判決として刑が言い渡されることになります。

加害者は、略式起訴・略式裁判でもデメリットがある

加害者には一方的に罰金刑

見方を変えれば、略式命令は、加害者の「正式な裁判を受ける権利」を制限する手続きです。

本来であれば、正式に裁判を開いて加害者に弁明の機会という手続きを保障すべきだからです。しかし、略式起訴や略式裁判では、その手続きが省略されてしまい、加害者にとっては一方的に罰金刑が科されてしまうことになります。

略式起訴や略式裁判が行われたからと言って、必ずしも加害者にとってメリットばかりがあるわけではないのです。

加害者には前科がつく

略式命令により罰金刑が科された場合にも、正式な刑事裁判が行われた場合と同様「前科」がつきます。

略式起訴や略式裁判では加害者には何の痛手もないように見えますが、一生消えない前科がつくことは念頭においておきましょう。

略式起訴・略式裁判を簡単に解説

それでは、略式手続きとはいったいどのような手続きなのでしょうか?どのような流れで行われるのでしょうか?

略式手続きとは?

略式手続きとは、通常の刑事裁判を簡素化した刑事手続きのことです。すべての交通事故事件について刑事裁判を開くと、裁判所に多くの手間がかかってしまいます。

そこで、軽微な交通事故事件については通常の刑事裁判を開かずに、書類だけで加害者の処分を決めてしまう手続きが採られており、「略式起訴」に始まり、「略式命令」に終わるこの手続きを「略式手続き」と呼んでいます。

略式手続きの流れと罰金刑の金額は?

略式手続きでは、検察官は書類を揃えて簡易裁判所に提出し、簡易裁判所の裁判官がその内容を確認して「100万円以下の罰金刑」を下すことになります。

略式起訴が選択された場合、加害者は一回も裁判所に行く必要がありません。

加害者に対する尋問も行われず、裁判官が加害者に対して直接判決を言い渡すこともありません。

罰金刑の通知書が加害者宛に送られてくるので、加害者は通知書に記載された金額通りの罰金を納付すればすべての刑事手続きが終了し、事故の刑事責任を果たした、ということになります。

この時、略式手続きによって行われる裁判のことを、略式裁判といい、略式裁判によって裁判官が加害者に対して下す命令のことを、略式命令と言います。

なお、略式命令が出た後14日以内の期間、命令を受けた加害者に不服があれば、正式な刑事裁判を求める申立をすることもできます。

その場合には、略式命令の効果は失われて正式な刑事裁判が開かれます。

交通事故事件で略式起訴が選択される場合どうなる?

略式起訴が選択できるのは、100万円以下の罰金刑か科料に相当する「軽微な事件」です。

それより重い刑が相当な事件(懲役刑など)では、略式手続きを選択することはできません。

ただ、交通事故事件の刑罰は一般的な感覚より軽いケースも多く、被害者が重大な事件だと感じていても、検察官や裁判官からは「軽微な事件」と判断されて略式起訴が選択されてしまうことが少なくありません。

そうなると、加害者は裁判所に呼び出されることもなく日常生活を送ることができ、罰金さえ支払えば手続きが終了するため、反省するきっかけが与えられません。

被害が加害者に対する厳罰を希望しているケースでは、略式起訴が選択されると被害者に強い不満が残ることがあります。

略式手続きに被害者が納得できない場合の対処法

略式手続きが採られた場合に、被害者が納得できないときはどのように対処すれば良いのかが問題となります。

被害者が検察に働きかける

刑事被告人の刑事手続きについては、検察が選択権を持っており、検察が略式手続きを選択する以上、基本的に被害者にできることはありません。

ただし、略式請求するか正式裁判の請求をすべきか微妙なケースなどには、被害者が「検察に働きかける」ことによって、正式裁判を選択してもらえる可能性も残されています。

被告人の処遇については事件に関する様々な事情が斟酌されますが、被害感情も、そこに影響を及ぼす重要な要素になるからです。

つまり、被害者が「特に処罰は望みません」と言えば、科されるであろう刑罰が軽くなるため、略式裁判が採用される可能性が高くなり、反対に、被害者が「どうしても許せないので厳罰を与えてほしい」と希望すれば、科されるであろう刑罰が重くなるため、正式な刑事裁判が行われる可能性が高くなります。

通知はないので、事故後初期の段階が重要

ただし、検察が略式手続きを選択するにしても、被害者に対して何らの連絡・通知もありません。

したがって、被害者が正式な刑事裁判を望むなら、事故後初期の段階から検察に伝える必要があります。

例えば「略式ではなく正式な刑事裁判にしてほしい。できるだけ重い刑罰を与えてほしい」という強い被害感情を伝えておく必要があります。

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まとめ

今回は、加害者の刑事手続きのうち「略式手続き」について解説しました。

人身事故は、刑事事件となり加害者に刑罰が科される可能性がありますが、このときに正式な刑事裁判が開かれずに簡単な書類上の手続きだけで終わる「略式手続き」が選択されることがあります。

もし、被害者がどうしても略式手続きで終わらせたくない場合には、検察官に積極的に働きかけましょう。

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