人身事故と物損事故の「罰金と点数」を完璧に知っておく!【2023年最新】
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交通事故の加害者になると、「自動車運転処罰法」という法律により、罰則を受ける可能性があります。ただ、すべての交通事故のケースで処罰されるわけではありません。
自動車運転処罰法が適用されるのは、どのような事案・事件なのでしょうか?その場合に受ける刑罰の内容についても、押さえておきましょう。
今回は、自動車運転処罰法について説明します。
目次
自動車運転処罰法とは、交通事故の加害者を処罰するための法律です。正式名称は、「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」です。
交通事故の加害者に適用される罪というと、「『業務上過失致死傷罪』ではないのか?」と思われる方がいるかもしれません。
確かに、以前、交通事故の加害者は、一律に業務上過失致死傷罪で処罰されていました。業務上過失致死傷罪は、業務上必要な注意を怠って、人を傷つけたり死亡させたりした場合に適用される罪で、刑法211条に規定されています。
車の運転は、業務として行っているものと言えますし、運転中に過失によって人を死傷させるので、交通事故を起こすと業務上過失致死傷罪が適用されたのです。
業務上過失致死傷罪の法定刑は、非常に軽いです。具体的には、5年以下の懲役もしくは禁錮又は100万円以下の罰金です。つまり、交通事故で人を死亡させたとしても、最高で5年間の懲役刑しか適用されないのです。
ところが、近年、悪質な交通事故事案が相次ぎました。
人がたくさん集まっている場所に車で突っ込んできたり、飲酒状態や薬物を摂取した状態で運転して人を死傷させたりなど、「故意とも同視出来るような悪質な交通事故」が起こり、こういったケースまで「業務上過失致死傷罪」で処罰することが問題視されたのです。
そこで、平成19年、刑法内に「自動車運転過失致死傷罪」という犯罪類型が作られて、刑罰が重くなりました。懲役刑の上限が引き上げられて、7年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金刑となりました。
さらにその後、平成26年に交通事故加害者の処罰を専門にした、自動車運転処罰法が制定されたのです。
自動車運転処罰法では、刑法の自動車運転過失致死傷罪を「過失運転致死傷罪」という形で引継ぎ、さらに故意とも同視できるような凶悪な交通事故事案に備えるため「危険運転致死傷罪」という犯罪類型を作りました。
このようにして、交通事故の加害者に適用される刑罰を全体的に重く引き上げるとともに、事案に応じた適切な処理ができるようにしました。
現在、交通事故を起こすと、自動車運転処罰法によって処罰を受けるので、悪質な事案の場合、非常に重い刑罰を受ける可能性があります。
それでは、自動車運転処罰法が適用される場合、どのような犯罪類型があるのでしょうか?
自動車運転処罰法は、人身事故のケースにしか適用されません。物損事故を起こしても、自動車運転処罰法の適用はありません。
自動車運転処罰法には、大きく分けて、以下の2つの犯罪類型があります。
また、以下の場合、過失運転致死傷罪と危険運転致死傷罪の中間的な刑罰によって処罰されます。
そして、以下のような加重類型があります。
以下で、それぞれについてどういった場合なのか、確認していきましょう。
過失運転致死傷罪(自動車運転処罰法5条)は、原則的な交通事故の加害者処罰のための犯罪類型です。
たとえば、前方不注視やハンドル操作ミス、脇見運転などによって人をはねたり他車に衝突したりした場合などには、過失運転致死傷罪が適用されます。
交通事故を起こしたとき、被害者が重傷を負ったり死亡したりすると、過失運転致死傷罪を適用される可能性が高くなります。
また、スピード違反など、道路交通法違反をしていた場合にも、やはり過失運転致死傷罪を適用される可能性があります。過失運転致死傷罪による刑罰は、自動車運転過失致死傷罪と同様、7年以下の懲役または禁錮もしくは100万円以下の罰金刑です。
危険運転致死傷罪(自動車運転処罰法2条)は、自動車運転処罰法制定と同時に、新たに作られた犯罪類型です。
悪質な交通事故犯を適切に処罰するための罪なので、法定刑は非常に重いです。
危険運転致死傷罪が適用されるのは、故意による傷害や殺人とも同視出来るような、非常に悪質な交通事故事案に限られます。具体的には、以下のようなケースです。
アルコールや薬物の影響により、「正常な運転ができない」状態で運転をして交通事故を起こすと、危険運転致死傷罪が適用されます。たとえば、酒に酔った酩酊状態で運転をした場合などです。
平成26年に危険運転致死傷罪で検挙された人は463人いましたが、その中で121人(26%)は飲酒や薬物による影響で運転をしていました。
また、飲酒運転は、道路交通法違反になるので、たとえ人を傷つけなくても処罰される可能性があります。
自動車の制御ができないほど著しい速度超過をして交通事故を起こした場合にも、危険運転致死傷罪が適用されます。
また、スピード違反も道路交通法違反となるので、たとえ事故を起こさなくても処罰を受ける可能性があります。
スピード違反の法定刑は、6か月以下の懲役または10万円以下の罰金です。
免許を持たず、自動車の運転を制御できないのに運転をして交通事故を起こすと、危険運転致死傷罪が適用される可能性があります。免許証を未取得のケースだけではなく、免許取消期間中や免許停止期間中に運転した場合にも、適用対象となります。
無免許運転も、道路交通法違反となるので、交通事故を起こさなくても処罰されます。法定刑は、3年以下の懲役または50万円以下の罰金刑です。
人や車の通行を妨害しようとして、走っている車の直前に進入したり、高スピードで通行中の人や車に接近したりした場合には、危険運転致死傷罪が適用されます。
たとえば、相手をあおろうとして急に接近したり、歩行者が歩いている歩道に入ったりして人を死傷させた場合などです。
危険なスピードで信号無視をして、人を死傷させた場合にも危険運転致死傷罪が適用される可能性があります。
道路標識や道路標示などにより、通行禁止道路となっている場所や自動車の通行が禁止されている道路を危険なスピードで走行して人身事故を起こした場合には、危険運転致死傷罪が適用される可能性があります。
たとえば、歩行者専用道路を高スピードで走行していた場合などです。
必ず懲役刑が選択される
危険運転致死傷罪の法定刑は、被害者がケガをした場合と死亡した場合とで、異なります。
被害者がケガをした場合には、15年以下の懲役刑となります。
被害者が死亡したときは、1年以上の有期懲役刑となります。
有期懲役刑の限度は20年なので、死亡事故を起こすと、最低1年、長い場合には20年間刑務所に行かなければなりません。飲酒運転など、他の罪と併合加重されると、最高で30年の懲役刑を言い渡される可能性があります。
また、危険運転致死傷罪には、禁錮刑も罰金刑もありません。必ず懲役刑が選択されるので、執行猶予がつかない限りは、必ず刑務所に行かなければならないのです。
このように危険運転致死傷罪が適用されると、非常に重い刑罰が適用されるので、絶対にそのようなことのないようにすべきです。
危険運転致死傷罪が適用される類型は、交通事故の中でも悪質なものばかりなので、上記で紹介したような非常識な行動をしなければ、危険運転致死傷罪は適用されません。
自動車運転致死傷罪は、アルコールや薬物の影響により、正常な運転ができないおそれがある状態で運転した場合について、特別な犯罪類型としています(自動車運転処罰法3条)。
この場合、アルコールや薬物を摂取しているので、通常の過失運転致死傷罪の事案よりも悪質と言えます。ただ、正常な運転が「困難」とまでは言えない(運転できない「おそれ」があるだけ)ので、危険運転致死傷罪を適用することはできません。
そこで、両方の罪の中間的な罪として、この類型が定められました。
自動車運転処罰法3条が適用される場合、法定刑は、以下の通りです。
危険運転致死傷罪の場合と同様、被害者がケガをした場合と死亡した場合とで、刑罰が分けられています。どちらの場合でも、禁錮刑や罰金刑はなく、必ず懲役刑が選択されます。
以上のように、飲酒運転や薬物摂取状態で運転すると、交通事故を起こしたときに非常に重い罪が適用されることがほぼ確実といえます。
自動車を運転する場合には、飲酒運転や薬物摂取状態での運転は絶対にしてはいけません。
自動車運転致死傷罪は、アルコール等発覚免脱罪という犯罪類型を定めています(自動車運転処罰法4条)。あまり耳慣れない言葉かもしれませんが、どのような犯罪なのでしょうか?
これは、飲酒状態や薬物摂取をした状態で交通事故を起こした人が、その場から逃げたり、さらにアルコールを摂取したりした場合に、処罰を重くする規定です。
ここまで説明してきたように、アルコールや薬物を摂取した状態で交通事故を起こすと、非常に重い罪が適用されます。自動車運転処罰法のみならず、道路交通法も適用されるため、併合加重されて、本当に10年以上刑務所に行かないといけない可能性も十分出てきます。
交通事故を起こした後、「酒が抜けるまで逃げてやろう」と考え逃げた人が、酒や薬物の影響が抜けた頃に出頭する一方、「交通事故後に飲酒したことにして飲酒運転はしていないことにしよう」と考える人もいます。
しかし、このようなことは、もちろん許されるべきではありません。そこで、自動車運転処罰法は、こういった行為を「アルコール等発覚免脱行為」として、通常の過失運転致死傷罪を加重しています。
アルコール等発覚免脱罪が適用されると、12年以下の懲役刑となります。禁錮や罰金刑はありません。
もともとの過失運転致死傷罪の場合には、7年以下の懲役または禁錮刑、100万円以下の罰金刑ですから、大幅に加重されていることがわかります。
また、人身事故を起こしてその場から立ち去ると、ひき逃げが成立して、道路交通法違反にもなります。ひき逃げの場合の刑罰は、10年以下の懲役及び100万円以下の罰金刑となっており、非常に重いです。
もし、飲酒運転をしても、正直に出頭していたら、7年以下の懲役で執行猶予がついたかもしれないのに、飲酒発覚を防ごうとしてその場から逃げてしまったら、アルコール等発覚免脱罪と道路交通法が重畳適用されて、18年の懲役刑が適用される可能性も出てくるわけです。
飲酒運転や薬物摂取状態で運転してしまった場合、発覚を恐れて隠そうとするとさらに罪が重くなるので、絶対に逃げたり、さらにアルコールをあおるような行為をしたりしてはいけません。
自動車運転処罰法では、無免許運転をすると、刑が加重されます(自動車運転処罰法6条)。順番に加重内容を確認していきます。
危険運転致傷罪(危険運転により、被害者がケガをしたケース)の場合、無免許運転をしていると、6ヶ月以上の有期懲役となります。有期懲役の上限は20年なので、6ヶ月以上20年以下の懲役刑になるということです。
危険運転致傷罪の刑罰は、もともと15年以下の懲役なので、大きく加重されていることがわかります。
なお、危険運転致死罪(危険運転により、被害者が死亡したケース)の場合には、無免許運転による加重はありません。
アルコールまたは薬物の影響で、正常な運転ができないおそれがある状態で交通事故を起こした人が無免許だった場合、被害者がケガをすると15年以下の懲役刑、被害者が死亡すると6ヶ月以上(20年以下)の有期懲役となります。
もともと、ケガの場合には12年以下の懲役刑、死亡の場合には15年以下の懲役刑だったので、やはり大きく刑が加重されます。
過失運転致死傷罪で、アルコールや薬物の摂取がバレないように工作した場合のアルコール等発覚免脱罪にも、無免許運転による加重があります。
この場合、もともとの刑罰は12年以下の懲役刑ですが、無免許運転の場合、15年以下の懲役刑に加重されます。
過失運転致死傷罪の場合にも、無免許運転をすると刑が重くなります。もともと7年以下の懲役または禁錮、100万円以下の罰金刑ですが、無免許運転をすると、10年以下の懲役刑になります。
無免許運転で過失運転致死傷罪に相当する事故を起こすと、禁錮も罰金刑もなくなり、必ず懲役刑が選択されることとなっています。
以上のように、自動車運転処罰法は、いろいろな類型の交通事故の加害者に対応できるように、犯罪類型と刑罰を定めています。
中でも罪が重くなるのは、アルコールや薬物を摂取していた場合や、無免許運転のケースです。また、アルコールや薬物による影響がバレるのを免れようとした場合にも、罪が重くなります。
そこで、車を運転する場合には、決してアルコールや薬物を摂取しないこと、免許停止や免許取消中には、たとえ運転に自信があっても決して運転をしないことが重要です。
自動車運転処罰法では、昔の業務上過失致死傷罪と異なり、非常に重い刑罰が定められています。懲役刑しか選択の余地がないケースも多いので、甘く考えてはいけません。
今回は、自動車運転処罰法について解説しました。
自動車運転処罰法は、昔の交通事故に適用されていた「業務上過失致死傷罪」よりも、大幅に刑罰が加重されています。昔の感覚で車を運転していると、予想していなかったような重い刑罰を受けることになりかねません。
特に、アルコールや薬物の影響によって交通事故を起こした場合や無免許の場合などに刑罰が重くなる傾向があります。
自動車を運転するときには、絶対にアルコールや薬物を摂取しないこと、無免許状態では運転しないことが大切です。
万が一、自動車運転処罰法に定められた各罪によって逮捕された場合や家族が逮捕された場合には、すぐに刑事事件や交通事故問題に強い弁護士に相談しましょう。
ただ、交通事故の加害者の無料相談を受け付けていない法律事務所もありますので、加害者弁護(刑事事件弁護)に取り組む事務所を探して相談するとよいでしょう。