交通事故の症状固定はどう決まる? 後遺障害認定や慰謝料との関係
医師から症状固定と言われると、保険会社からの治療費の支払いは終了します。被害者は、その後の治療や示談金への不安があり…[続きを読む]
交通事故に巻き込まれた際に、加害者が加入する自賠責保険に慰謝料や治療費を請求することがあります。
損害保険料率算出機構の「自動車保険の概況2018年度」によれば、74.6%の自動車が自動車保険、いわゆる任意保険に加入しているとのことです(※)。
言い換えれば、自賠責保険だけに加入している車が1/4も走行しています。
※ 自動車保険の概況2018年度(2017年度統計)P.139|損害保険料率算出機構
交通事故被害に巻き込まれた際に、もしも相手が「自賠責保険だけ加入したドライバー」であれば、次のことが気になってくるでしょう。
今回は、自賠責保険の慰謝料などの損害賠償について徹底的に解説します。
なお、自賠責保険の賠償基準は2019(令和元)年に改訂されました。
例えば、休業損害の賠償額が従来は1日5,700円だったものが、1日6,100円となるなど賠償額が引き上げられています。この新基準は、2020(令和2)年4月1日以後の交通事故から適用されます(※)。
※「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準」平成13年金融庁・国土交通省告示第1号・令和2年4月1日施行
自賠責保険の慰謝料などの損害賠償は、下記のように3つに大別されます。
まず交通事故が原因の「傷害に対する損害」について解説致します。
自賠責保険では、「傷害に対する損害」として、入通院慰謝料など以下の項目すべてを合計し、最大で合計120万円を上限として保険金(賠償金)を請求することができます。以下120万円の内訳を解説致します。
「傷害に対する損害」として請求することができるのは、事故による怪我が治癒するか、医師が症状固定と判断するまでに生じた損害です。
必要かつ妥当と認められる範囲で、治療費の実費の請求が可能です。
では、追突事故でヘルニアなどを患い、整骨院や鍼灸院などに通ったときの施術費用は、必要かつ妥当なのでしょうか?
整骨院や鍼灸院などは、医療機関ではないため医師の指示などがない限り、施術費用が治療費として認められることはないのが通常です。
まずは、事故後すぐに整形外科など病院で受診することが基本です。
通院するために使用した公共交通機関や自家用車のガソリン代などについて、必要かつ妥当な実費の請求をすることができます。
タクシー代についても、バスや鉄道がない地方や、脚を怪我している場合など、利用が必要かつ妥当であれば、請求することができます。
休業損害とは、事故で傷害を負ったため、仕事ができず、減収となったことに対する補償です。1日6,100円を原則とし、それを超えること明らかな場合は、1日1万9,000円を限度して支払われます。
家事労働には経済的な価値があると評価されているので、主婦であっても休業損害の請求が可能です。休業損害の計算方法などについては、以下の関連記事をご覧ください。
傷害を負い精神的苦痛を感じたことに対する慰謝料で、傷害慰謝料とも呼ばれます。
自賠責保険の入通院慰謝料の計算方法は、後述致します。
これら以外にも、以下のものが自賠責保険の傷害に対する損害の120万円に含まれます。
医師が症状固定と判断した後は、後遺障害等級の認定を受けることで、後遺障害に対する損害を請求することができるようになります。
自賠責保険であっても、傷害に対する保険金の上限120万円以外に、「後遺障害に対する損害賠償」の請求も認められています。
後遺障害に対する保険金は、後遺障害として認められる等級に応じて、賠償額が75万円から4,000万円の範囲で定められています。
この金額は、後遺障害慰謝料、後遺障害逸失利益などの合計の金額となります。
後遺障害慰謝料とは、後遺障害が残った精神的苦痛に対する慰謝料です。
自賠責保険に申請し、後遺障害等級の認定を受けることができれば、各等級に応じた慰謝料額の請求ができるようになります。
金額相場については後述致します。
後遺障害逸失利益は、事故後の後遺障害によって労働能力が一定程度失わることにより仕事に支障を来し、将来得られるはずだった収入が減ってしまうことに対する補償です。
後遺障害逸失利益について詳しくは、以下の関連記事をご覧ください。
死亡による損害については、以下の費目について、合計で被害者1人につき3,000万円を限度として保険金が支払われます。
被害者が死亡した場合、遺族は死亡慰謝料を請求することが可能です。金額相場は後述致します。
被害者が死亡した場合にも、逸失利益を請求することができます。
原則として、60万円を請求できますが、それ以上かかったことを領収書などで証明できれば、上限100万円まで請求することができます。
【参考外部サイト】自動車総合安全情報~自動者の安全な交通を目指して~「自賠責保険について知ろう」|国土交通省
次に、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料の計算方法を具体的に解説します。
自賠責保険における入通院慰謝料の計算式は下記のとおりです。
※ 2020年3月1日以前に発生した事故については、4,200円で計算
例えば、追突事故でヘルニアを患い、3ヶ月間、週3回通院したとすると、入通院慰謝料はいくらくらいになるでしょうか?
◆1. 実治療日数×2
3ヶ月 × 4週間 × 週3回 = 36日
36日×2=72日◆2.治療期間
3ヶ月 ×30日 = 90日◆3.1と2の比較
72日<90日◆4. 3ヶ月週3回通院したときの入通院慰謝料
72日 × 4,300円 = 309,600円
実治療日数×2が72日、治療期間が90日ですから、72日に4,300円を乗じると、入通院慰謝料は、309,600円となります。
次に交通事故で骨折してしまい、3ヶ月入院し3ヶ月間週4回通院した場合を考えてみます。
◆1. 実治療日数×2
入院3ヶ月 × 30日 + 3ヶ月 × 4週 × 4日 = 138日
138日 ×2 = 276日◆2. 治療期間
入院3ヶ月 × 30日 + 通院3ヶ月 × 30日 = 180日◆3.1と2の比較
180日 < 276日◆4. 入通院慰謝料
180日×4,300円=774,00円
実治療日数×2が276日、治療期間が180日ですから、180日に4,300円を乗じると、774,00円となります。
以下は、自賠責保険における各等級における後遺障害慰謝料と後遺障害に対する損害に支払われる限度額です。
介護を要する後遺障害
後遺障害等級 | 後遺障害慰謝料 | 限度額 |
---|---|---|
1級 | ・1,650万円 ・初期費用等として500万円加算 | 4,000万円 |
2級 | ・1,203万円 ・初期費用等として205万円加算 | 3,000万円 |
要介護以外の後遺障害
後遺障害等級 | 後遺障害慰謝料額 | 限度額 |
---|---|---|
1級 | 1,150万円 (被扶養者がいるときは1,350万円) | 3,000万円 |
2級 | 998万円 (被扶養者がいるときは1,168万円) | 2,590万円 |
3級 | 861万円 (被扶養者がいるときは1,005万円) | 2,219万円 |
4級 | 737万円 | 1,889万円 |
5級 | 618万円 | 1,574万円 |
6級 | 512万円 | 1,296万円 |
7級 | 419万円 | 1,051万円 |
8級 | 331万円 | 819万円 |
9級 | 249万円 | 616万円 |
10級 | 190万円 | 461万円 |
11級 | 136万円 | 331万円 |
12級 | 94万円 | 224万円 |
13級 | 57万円 | 139万円 |
14級 | 32万円 | 75万円 |
なお、後遺障害の等級について知りたい方は、下記ページから該当の等級についての記事をご参照ください。
ヘルニアを患った被害者が、後遺障害等級「12級」に認定されると、後遺障害慰謝料額は上表の通り94万円です。
後遺障害12級の場合は、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益など後遺障害で認められる賠償の合計で、後遺障害12級の支払限度額である224万円まで請求することができます。
一方、骨折した被害者が、後遺障害等級「14級」に認定されると、後遺障害慰謝料額は上表のとおり32万円です。
後遺障害14級の場合は、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失などとの合計で、後遺障害14級の支払限度額である75万円まで請求することができます。
自賠責保険の死亡慰謝料については、被害者本人に対する慰謝料として400万円が支払われます。
遺族に対する慰謝料については、慰謝料を請求できる被害者の父母、配偶者、子の人数によって異なります。本人に対する慰謝料以外に、請求権を持つ人数によって以下の額が支払われ、被害者に被扶養者がいるときは、さらに200万円が加算されます。
請求権者 | 死亡慰謝料の額 |
---|---|
1人 | 550万円 |
2人 | 650万円 |
3人以上 | 750万円 |
被害者に被扶養者がいる場合 | +200万円 |
なお、自賠責保険の「傷害慰謝料」「後遺障害慰謝料」「死亡慰謝料」の相場を計算したい方は、当サイトの慰謝料相場自動計算機をご利用ください。
通院期間、治療期間や後遺障害等級を入れるだけで、自分の慰謝料相場を弁護士基準で計算することができます。
では、加害者が任意保険に加入していない場合の自賠責保険に対する損害賠償の請求は、どのようにすればいいのでしょうか?
補償上限額までは、「被害者請求」を行います。
「被害者請求」とは、被害者が直接自賠責保険に損害賠償の請求をすることです。
被害者請求であれば、示談の前であっても、治療費や慰謝料を請求できるというメリットがあります。
また、被害者請求をすれば、「重過失減額*」をした賠償額を受け取ることができます。
被害者請求の方法など詳しくは、以下の関連記事をお読みください。
*重過失減額とは
交通事故の損害賠償では、被害者・加害者の過失割合に応じて賠償が「過失相殺」されます。
例えば、被害者と加害者の過失割合が6:4の場合、本来100万円の賠償が発生していれば、6割が過失相殺され、40万円が支払われることになります。これは、加害者が任意保険に加入している場合でも同じです。
しかし、自賠責保険では、被害者の過失割合が「7割未満では、減額の対象とならず」、7割以上の場合にはじめて、2割から5割までの定められた割合で減額される制度となっています。
前述した例では、被害者が100万円全額受け取ることができ、仮に過失割合が7:3であった場合にはじめて、受け取る額が、2割減額である80万円に減額されます。
したがって、被害者の過失割合が大きいケースでは、任意保険の保険金よりも、高額になることがあり、自賠責保険を利用したほうが有利になるケースがあるのです。
自賠責保険の補償上限額を超えた額について、相手が任意保険に加入していない場合は「加害者と直接示談交渉」をし、その後、交わした示談書に従った請求をすることになります。
しかし、加害者が任意に支払わない場合、示談書を証拠として訴訟を提起し、判決を得なければ、相手の財産を差し押さえるなどの強制執行を行うことはできません。そこで、強制執行認諾文言付きの公正証書としておけば、万一、支払いが滞ってしまっても裁判手続きを経ずに強制執行が可能です。
任意保険は、自賠責保険の限度額を超える損害部分に対する補償です。
したがって、例えば、傷害による損害が200万円となり、自賠責保険の限度額120万円を超えた場合、超過部分の80万円は加害者の任意保険が負担することになります。
もっとも通常は、任意保険会社が自賠責保険の負担部分もまとめて被害者に支払い、後で、自賠責保険に対して、その限度額部分を求償する「一括払い」という取扱いがなされます。
なお、任意保険と自賠責保険については下記記事も詳しいので、併せてご参照ください。
自賠責保険の慰謝料は、被害者請求の必要書類の提出が完了した日から30日以内に保険金を支払うとされています(自動車損害賠償責任保険普通保険約款15条1項)。
ただし、自賠責保険は保険金額を確定するために、「事故の原因、事故発生の状況、損害発生の有無および被保険者に該当する事実について確認する必要があり」(同約款15条1項1号)、警察などの捜査の照会をする場合は180日、後遺障害の内容・程度を確認するための医療機関による診断・後遺障害の認定に係る専門機関による審査等の結果の照会については30日など、「支払いまでの期間を延長できる場合」があり(同約款15条各項)、時間がかかってしまうこともあるので注意しましょう。
なお、金額確定後、3営業日以内に振り込まれるのが一般的のようです。
【関連外部サイト】自動車損害賠償責任保険普通保険約款
ここまで、自賠責保険の慰謝料を含む損害賠償金の計算や最大120万円の内訳、補償額、いつ振り込まれるか、支払いまでの期間について解説してきました。
自賠責保険への被害者請求は、揃えなけれならない書類も多く、手続きも難しため、弁護士の助けを借りることがカギとなります。
適正な賠償を得るため、また、治療に専念するためにも、交通事故に精通している弁護士にご相談いただくことをおすすめします。