賃金センサスとは?表の見方と交通事故問題【主婦休損計算など】
交通事故では、賠償額の算定にあたり、「賃金センサス」の数字を利用する機会が数多くあります。この記事では、賃金センサス…[続きを読む]
交通事故の被害にあって、働けなくなった場合、日数分の休業損害(いわゆる主婦の休損)を相手に補償してもらえます。
しかし、専業主婦(家事従事者)の場合、もともと具体的な収入がないため、次のような悩み・疑問を持っている方も多いかもしれません。
特に追突事故では、むちうちになってしまうことが多いです。むちうちで通院し、働くことができなかった期間についても、専業主婦・パートの休損・休業損害の請求はどうなってしまうのでしょうか。
そこで今回は、専業主婦や兼業主婦(アルバイト、パート)などの家事従事者が、交通事故に遭った場合、ケースごとの主婦の休業損害(主婦休損)の計算方法を解説します。
目次
専業主婦でも収入はありませんが、休業による損害(主婦休損)の請求は可能です。
主婦は家族のために無償で家事労働を行っていますが、その労働に対価を払えば、相当の人件費がかかることになります。主婦が家事に従事することで、その人件費相当額を家計において節約できているのです。
つまり、交通事故や怪我で主婦が家事できなくなれば、家政婦を雇う必要が出てくるわけです。その人件費相当分が、主婦の休業損害として請求の対象となるのです。
現金収入はなくても、主婦の無償の家事労働には経済的価値があると認められているため、その損害を請求できるというわけです。
収入の有無に関わらず、主婦の方も適切に休損を受けられることになります。
まず、休業損害(主婦休損)の計算方法をご紹介します。休業損害の計算方法には3つの基準があります。
上記の3つの基準の中では自賠責基準が一番安く、任意保険基準が中くらい、弁護士・裁判基準が最も主婦休損の計算としては高額になります。
どの基準においても、主婦休損の計算方法は以下のとおりです。
休業損害額 = 1日あたりの「基礎収入」額 × 休業日数
ここでポイントなのが「1日あたりの基礎収入額」が、自賠責基準・任意保険基準・弁護士基準で異なる点です。
自賠責基準では、基礎収入は通常、1日あたり6,100円として統一されています。
「6100円ってアルバイトより安いじゃないか!」と驚かないで、最初にこの金額を使って主婦休損の計算を行ってみましょう。
この状況では、休業損害の計算方法は以下の通りです。
休業損害額 = 日額6,100円(※)× 休業日数
※ 2020年3月31日以前に発生した事故については、5,700円で計算します。
上記の式は会社に勤めている方だけではなく、専業主婦や兼業主婦であっても同様です。
1日あたり6,100円分の主婦休損を自賠責保険に請求できます。
また資料などによって証明できる場合には「実際の基礎収入」を基準にすることも可能です。
ただ、この場合19,000円が限度額となります。
休業損害額 = 1日あたりの基礎収入額(19,000円が上限)× 休業日数
計算方法は、自賠責基準だけではありません。
任意保険基準がありますが、保険会社が事案によって様々な数字を使い分けているため、相場については明確ではありません。
実際の収入で算定した金額が提案されるケースもあれば、自賠責基準と同様、1日あたり6,100円の計算方法を提示されることもあります。
任意保険会社が主婦の休業損害を日額6,100円で計算してきたとしても、現実の収入の方が大きい場合は、たとえ大手の東京海上日動火災保険や損保ジャパン日本興亜であっても受諾することなく、現実の収入を主張するのが良いでしょう。
最後に「弁護士基準」での計算方法です。
弁護士基準で休業損害を計算する場合には、現実の収入を基礎収入とします。
たとえばサラリーマンの場合には、交通事故前3ヶ月分の収入の平均をとって基礎収入とします。
事故前の3ヶ月間の収入の合計が120万円の人の場合、1日あたりの基礎収入、つまり日額は、以下のようになります。
120万円 ÷ 90日 = 約13,333円
また個人事業主が休業損害を請求する場合には、事故前1年間の確定申告書に記載されている収入から1日あたりの基礎収入を計算します。たとえば、前年度の確定申告書における収入が400万円の場合には、以下のように1日あたりの基礎収入額が決まります。
400万円 ÷ 365日 = 約10,958円
また、主婦の場合は実際の収入がないじゃないかと考えがちですが「賃金センサス」を利用する方法があります。
「賃金センサス」については詳しくは後述しますが、平成29年の場合は、1日当りの基礎収入額は10,351円とすることができるため、専業主婦でも10,000円を超える休業損害を請求可能というわけです。
ただ、専業主婦が休業損害の請求をする場合、現実的な収入がないので「基礎収入をいくらにするか」ということが問題になります。
この場合には賃金センサス(厚労省の統計資料)の女子平均賃金(産業計、企業規模計、学歴計、女子労働者の全年齢平均賃金)の基準を使います。
平成29年の平均賃金は「377万8200円」ですので、これを1日あたりに換算すると、1日当りの基礎収入額は10,351円となります。
専業主婦であっても、だいたい1日1万円程度の休業損害を請求できるということです。
つまり、任意保険会社と示談交渉している際に現実の収入がないことを理由に「1日あたり6,100円」の基礎収入を提示されることが多いですが、専業主婦でも賃金センサスを基準として1日あたり1万円程度の請求ができます。
このような提示に応じるべきではありません。法律の専門家に相談し、弁護士基準で計算しましょう。
「基礎収入」の説明の次に「休業日数」を数える時に盲点になりやすい点を解説します。専業主婦の休業日数の数え方や証明方法はどうなるか以下解説致します。
主婦の休業日数について、判例では「負傷のため家事労働に従事することができなかった期間について」認められるとされています(※)。
では「家事労働に従事することができなかった期間」とはどのように判断するのでしょう?
「入院していた日数」が家事労働に従事できなかった日であることは明らかですが、それ以外の「通院した日」をすべて主婦の休業日に含めて良いかどうかは問題です。
例えば、むちうちでの通院日に家事労働が全く不可能となるわけではありません。他方、両腕を骨折すれば、通院日でなくとも家事労働はできません。
このように、怪我の内容・程度によって、通院中であっても家事労働が可能なケース、不可能なケースがあり、一律に考えることはできないのです。
そこで、ひとつの算定方法として、治療期間をいくつかに分けたうえ、それぞれの期間における回復情況に応じ、家事労働に支障をきたした程度が何%程度かを示す「休業率」を認定して計算する方法もあります。これを「逓減方式」と呼びます。
たとえば、治療期間200日のケースで、これを4等分した上で、最初の50日は100%休業、次の50日は75%休業、次の50日は50%休業、最後の50日は25%休業とするなどの方法です。
この場合の具体的な計算は、以下の通りになります。
基礎収入を1日1万円とした場合
- 1万円×100%×50日=50万円
- 1万円×75%×50日=37万5000円
- 1万円×50%×50日=25万円
- 1万円×25%×50日=12万5000円
- 合計125万円
なお、常に4等分するわけではありません。2等分や3等分の例もありますし、等分ではなく、最初の100日間、次の50日間、最後の20日間のようにわける場合もあります。要は、回復の情況次第です。
また、逓減させずに、全治療期間に対して一定の休業率を乗ずる裁判例もあります。どのような算定方法を採用するかは事案に応じた裁判官の裁量です。
前述のとおり、主婦の休業期間の判断方法は事案によって異なります。
しかし、被害者側としては、事故日から怪我の治癒又は症状固定日までの100%全部が休業期間であると主張することを基本とするべきです。
したがって最終通院日を証する診療報酬明細書又は診断書で治癒日を証明し、後遺障害診断書で症状固定日を証明することになります。
アルバイト、パート労働をしながら家事労働もこなしている兼業主婦の場合、実収入を基準にすると専業主婦よりも補償額が少なくなるという問題が発生します。
たとえば、パートの兼業主婦で月5万円の収入があるケースにおいて、これを基礎収入とすると、その3ヶ月分は15万円なので、1日の基礎収入の金額は15万円÷90日=1,666円程度で専業主婦よりも低額になります。
そうなると、まったく仕事をしていない専業主婦が1日あたり約1万円も休業損害がもらえることと比べて金額がかなり減ってしまい、不合理です。
そこで、兼業主婦の場合、実収入の金額が賃金センサスの女子平均賃金(産業計、企業規模計、学歴計、女子労働者の全年齢平均賃金)より少ない場合、基礎収入は実収入ではなく賃金センサスの女子平均賃金を利用して計算します。
もちろん、兼業主婦の収入が女子平均賃金より高額な場合には、実収入を基礎収入として計算します。
なお、兼業主婦の場合、仕事も家事も両方しているのだから「パートの実収入と賃金センサスの女子平均賃金を足した合計金額を基礎収入とするべきではないか」という議論もあります。
しかし、「兼業主婦は、家庭外での労働に従事する分、家事労働を十分に行えないから、結局、現金収入と家事労働の評価額を合計したものは、専業主婦の家事労働の評価額と等しくなる」(※)という理由から、認められていません。
※「注解交通事故損害賠償算定基準・三訂版(上)」(損害賠償算定基準研究会編・ぎょうせい)193頁
ただし、アルバイト・パートの実収入が相当程度あり、専業主婦と同程度とすると不平等を無視できないケースもあります。
そのような場合、パートの実収入を加算することはしませんが、女子の全年齢平均賃金よりも高い、女子の年齢別平均賃金を採用して金額を引き上げる裁判例がいくつかあります。
休業損害は、事故を原因として「働けなくなった場合」に補償されるものです。
つまり、事故と無関係に働けない期間は、休業損害の補償対象とはなりません。
したがって、女性の被害者が、治療期間中に、出産のために入院した場合、その入院期間は休業期間に含むことはできません。
判例は以下の通りです。
裁判例 東京地裁平成15年12月8日判決
妊娠中の専業主婦が交通事故で受傷し、治療期間中に出産のため8日間入院したケースで、裁判所は、出産ための入院日数8日間は休業損害を認めませんでした。
(交通事故民事裁判例集36巻6号1570頁)
もっとも、事故と無関係に家事労働が困難であった期間がどの程度かは、個別の事案次第です。
例えば、全治療期間約200日のうち、出産前後の60日は家事労働が困難であるとして、休業期間と認めなかった裁判例などがあります(東京地裁平成10年1月28日・交通事故民事裁判例集31巻1号106頁)。
男性である専業主夫・兼業主夫の休業損害も、女性と同様に算定します。
ただし、男性であっても、基礎収入は「女子平均賃金」を使います。
男子平均賃金は女子平均賃金よりも高額なので、男子平均賃金を利用すると、同じ家事労働なのに男女格差が生じ不合理だからです。
主婦や家事労働に従事する家事従事者には、自らが主となって家事をしている主たる家事従事者ではなく「従」として家事を助ける役割をする人がいます。
たとえば、実母と同居する「娘」が母親の家事を手伝っていたり、嫁と同居している「姑」が、嫁の家事を手伝っていたりする場合などです。
これらの「従たる家事従事者」の場合、現実に分担している家事労働の内容や、従事できる労務の程度を考慮して、「何%か減額した金額を基礎収入とする例」があります。
主婦が高齢者の場合には、全年齢の女子平均賃金を用いると年齢に不相応な高すぎる金額となります。
そのため、その高齢者の該当する年齢別の女子平均賃金が用いられるケースがあります。
また、かなりの高齢者の場合、家事労働に従事しているといっても、実際の働きは、健康状態や家族との生活環境によって様々です。
そのため、事案によっては、その高齢者の該当する年齢別の女子平均賃金を用いたうえで、さらに「何%か減額して基礎収入」とする例もあります。
また家事従事者たる主婦の休業損害でも「家政婦を雇った場合」は、それにかかった実費分の費用が休業損害として支払われます。
もしこれと主婦の休業損害を両方請求できることとなると、同じ損害について賠償金を二重取りしてしまうことになります。
そこで、家政婦を雇って家政婦にかかった費用を休業損害として請求する場合には、別途、基礎収入×休業日数分の「休業損害を請求することができません」。
今回は、専業主婦やパートをしている兼業主婦が交通事故でむちうちなどの怪我をした結果、休業損害いわゆる休損について請求すること、また自賠責保険の基準や弁護士基準を踏まえつつ解説しました。
主婦の場合、実際に外で働いて収入を得ているわけではありませんが、女性の全年齢平均賃金を用いることによって、休んだ損害を補償されます。
今回の記事を参考にして、主婦が交通事故に遭った場合でも、上手に休業損害を請求しましょう。
また休業損害だけではなく慰謝料などについても不満がある場合は、交通事故に強い弁護士に依頼して保険会社と示談交渉をすることをおすすめします。