妊娠中に交通事故!胎児への影響、妊婦の切迫早産、流産と慰謝料

妊婦の交通事故

妊婦が交通事故に遭うと、子どもへの影響が心配です。

事故のショックで流産してしまうかもしれませんし、切迫早産したり、生まれてきた子どもに障害が残ってしまったりする可能性も否定できません。

もしも妊婦が交通事故に遭って子どもに何らかの影響が出たら、どのように対応すれば良いのでしょうか?

この記事では、妊娠中の方が交通事故に遭った場合の慰謝料やその他の損害賠償金についての法的な考え方について、解説していきます。

妊婦が交通事故に遭ったらどうする?直後の対応について

妊婦が交通事故の被害に遭ったら、すぐに車を降りて警察を呼びましょう。動ける状態であれば可能な限り二次被害を避けるための措置を行い、警察が来たら実況見分に立ち会って事故の詳しい状況を説明します。

ただし妊婦の場合、事故のショックで流産などの深刻な事態に陥る可能性もあります。

大怪我をした場合はもちろんのこと、お腹が痛んで動けない、あるいは違和感があればすぐに周囲の人や加害者に救急車を呼んでもらうか、自分で呼びましょう。救急隊員が来たら妊娠中であることと、妊娠週数や普段妊婦健診で通っている病院や主治医などを伝えて適切な病院に搬送してもらう必要があります。

自分で動ける、あるいは軽傷や外傷がないケースでも、実況見分が終わった後、念のために病院で診察を受けておくべきです。自覚症状がなくても何らかの異常が発生している可能性があるからです。

追突事故に遭ったときにはむちうちになりやすいので整形外科に行くべきですし、子どもについては普段から健診を受けている産婦人科で状況を確認してもらいましょう。

病院で、「母子ともに何もなかった」と確認されて、初めて安心できます。

妊婦は治療中にも注意点がある!

妊婦の場合、治療中にも注意しなければならないことがあります。

治療のために赤ちゃんを諦めなければならない可能性?

たとえば腹部のレントゲン撮影をする場合、子どもへの影響が懸念されるので中絶を余儀なくされると誤解されている方が多くいますが、間違った情報です。通常のX線検査やCT検査の被爆線量では胎児に影響を与える危険性はありません。過度に不安を持つべきではないのです(※)。

※参考サイト:公益社団法人日本放射線技術協会「妊娠と医療での放射線について」
公益社団法人日本産婦人科医会「放射線被爆と先天異常」

妊娠中は治療方法が制限される?

妊娠中は、胎児に悪影響を与えるから、薬を飲んだり、麻酔を受けたりすることはできないと信じている方もいますが、これも誤解です。

麻酔は薬剤や投与の量、服用の時期などによって影響が異なる

もちろん、全ての薬が安全というわけではなく、服用を避けなくてはならない薬もありますし、どのような麻酔でも大丈夫というわけでもありません。

しかし、胎児への影響に配慮する必要があるかどうかは、個別の薬によって違いますし、服用する時期(妊娠周数)によっても異なります。麻酔の影響は、その薬剤や投与量等に左右されます(※)。

※参考サイト:公益社団法人日本放射線技術協会「妊婦の薬物服用
日本臨床麻酔学会誌VOL.38 No.4「妊娠期の薬理学

医学的知識について素人判断は禁物

「妊娠しているから、薬は怖い」、「赤ちゃんのために痛みを我慢しよう」という気持ちになるのは理解できますが、やみくもに薬や麻酔を敬遠して、母胎の健康回復が遅くなったり、ストレスから余計に体調を崩すことになれば、かえって胎児に悪影響を及ぼします。

医学的知識について、素人判断は絶対に禁物です。必ず医師に妊娠中であることを告げて相談したうえで治療に臨むべきです。現在では、大学病院などの大きな病院であれば、妊婦と薬の専門外来が設置されているケースもあります。

妊娠中の「うつ伏せ」も神経質になる必要はない

また妊娠中は「うつ伏せ」の姿勢になることも胎児に良くないと言われることがありますが、これも神経質になる必要はありません(※)。

※参考サイト:医療法人社団正寿会秋山記念病院「妊婦のうつぶせ寝について

ただし、うつ伏せの姿勢に限らず、腹部に強い圧力をかけることが好ましくないことは明らかですから、整体院、整骨院だけでなく、整形外科での治療においても、妊娠中であることへの配慮をしてもらうことは不可欠です。

病院でも、それ以外の施設でも、必ず初診時に「妊娠しています」と伝えましょう。

妊娠している可能性があれば必ず調べてから治療を受ける

ときには本人も妊娠していることに気がつかないまま、過度のレントゲン被爆や催奇形性のある投薬治療を受けてしまい、後日、中絶を決断せざる得ないケースもあります。

このような悲劇を避けるため、少しでも妊娠している可能性があるなら、きちんと調べてから交通事故の治療に取りかかるのが良いでしょう。

妊婦が示談するタイミング

妊婦の場合、加害者の保険会社と示談するタイミングにも注意が必要です。

早期に示談をしてしまうと、その後に事故の影響で中絶をすることになったり、赤ちゃんに障害を残す早産をしたり 、子どもが生まれたときに初めて気づく後遺障害が残っていたりという場合に問題を生じます。

このような示談の時点で予期できなかった損害が生じた場合には、示談の成立にかかわらず、新たな損害の賠償を求めることができますが、再度、示談交渉をスタートさせなくてはなりません。

示談のやり直しについて、詳しくは次の記事をご覧下さい。

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わずか数ヶ月先には子どもが生まれるのですから、必ず、子どもが無事に生まれ、健康であることを確認してから示談を成立させて下さい。

加害者・保険会社の意向に応じる必要はない

被害者が承諾しなければ示談は成立しませんから、加害者や保険会社が出産前の示談を望んでも、これに応じる必要は一切ありません。

相手の保険会社に対しては「妊娠中なので、子どもが健康に生まれてから示談します」と伝えればよく、相手の意向を気にする必要はありません。

出産前の示談で出産後の賠償を約束させても意味がない

出産前に示談を成立させて母親の治療費や慰謝料などの賠償金を受け取り、生まれてきた子どもに後遺障害が発生していたなどの場合には、後日別途支払ってもらう約束をとりつけることはできないのか?と考える方もいますが、これはできません。

何故なら、その時点では障害が発生しているか否かも、その内容も程度も不明であり、「損害」の有無・内容が確定できないのに、その賠償を約束する保険会社は存在しないからです。

また、万一、そのような約束をする保険会社があったとしても、結局は、その損害の内容や金額をめぐって争いとなり、再度、交渉しなくてはならないので、意味がありません。

せいぜい、「出産後、本件交通事故を原因とする何らかの障害の存在が明らかとなったときには、別途協議に応じる」程度の約束ができる程度です。

予期していなかった損害は示談後に別途請求可能

もっとも、前述のとおり、このような約束をしていなくとも、予期していなかった損害については別途請求することができますし、間もなく子どもは生まれるのですから、このような約束をあえてする必要もありません。

いずれにしても、妊娠中に自分で示談交渉を進めるのは大変な精神的ストレスとなり、赤ちゃんにも良い影響を及ぼしません。不用意な対応によって損失を被らないためにも、示談交渉は弁護士に依頼するのが良いでしょう。

パターン別妊婦が交通事故に遭った場合の慰謝料の考え方

以下では、妊婦が中絶・流産した場合、早産した場合、子どもに後遺障害が残った場合のパターンに分けて、妊婦が交通事故に遭った場合の慰謝料やその他の損害賠償金についての考え方をご紹介していきます。

中絶、流産した

交通事故の衝撃で妊婦が中絶、流産した場合、誰にどのような慰謝料が認められるのでしょうか?

中絶、流産したら子ども自身の損害賠償請求権は認められない

民法は、「私権の享有は、出生に始まる」(第3条)として、人間は生まれて来ないと権利の主体になれないとする一方、その例外のひとつとして「胎児は損害賠償の請求権については既に生まれたものとみなす」とも規定しています(第721条)。

この例外規定は、胎児が生きて生まれた場合には、お腹の中で損害を受けた時点にさかのぼって「人」として生まれていたとみなし、その時に受けた損害の賠償を認める趣旨だと理解されています(※)。

※大審院昭和7年10月6日判決(阪神電鉄事件)

これによると、交通事故当時には妊娠中でも、子どもが後日生まれてきた場合、例えば、その子どもに事故を原因とする障害があれば、その子ども自身が損害賠償を請求することが認められます(実際には、親権者が法定代理人として、子どもの権利を行使することになります)。

しかし、子どもが生まれてこなかった場合には、「既に生まれたものとみな」されないので、事故による損害を受けた時点でも、権利の主体である「人」と認められず、子ども自身の損害賠償請求権は認められません。

妊婦の慰謝料が相場より増額され、父親にも慰謝料が認められる

生まれなかった子ども自身に慰謝料等の損害賠償請求が認められないとしても、事故を原因として中絶や流産してしまった母親の精神的苦痛は非常に大きいといえます。そこで中絶・流産したケースでは、母親である妊婦の慰謝料が相場よりも増額されます。

また、胎児の死亡は「人」の死亡ではないので、死亡した者の近親者の慰謝料請求を認める民法711条の適用はありませんが、胎児が生まれなかったことによって、父親も精神的な苦痛を受けることは当然ですから、民法711条の適用を待つまでもなく、損害賠償制度の一般原則である民法709条によって、父親の慰謝料請求も認められます(※)。

※東京地裁昭和51年12月23日判決(判例時報857号90頁)など

慰謝料の金額は妊娠周期によって異なり、一般的に出産時期が近づくほど相場より高額になります。

これは予定日に近くなればなるほど、子どもの出生に対する親の期待・喜びは大きくなり、

それが叶えられなかったときの精神的苦痛も大きいと考えるからです。

参考となる裁判例をあげておきます。

時期慰謝料額判決を出した裁判所
妊娠2か月150万円大阪地裁平成8年5月31日判決
(交通事故民事裁判例集29巻3号830頁)
妊娠27週250万円横浜地裁平成10年9月3日判決
(自保ジャーナル1274号2頁)
妊娠36週母700万円、父300万円東京地裁平成11年6月1日判決
(交通事故民事裁判例集32巻3号856頁)
出産予定日の4日前800万円高松高裁平成4年9月17日
(自保ジャーナル994号2頁)

早産した

交通事故のショックで早産してしまった場合の慰謝料はどのように計算されるのでしょうか?

この場合、2つのクリアすべき問題があります。

まずは、早産によって「損害」が発生したかと言えるかが問題です。

早産しても特に母体にも子どもにも影響がなく健康な子どもが生まれてきたなら損害が発生したとは言いにくいでしょう。ただし、新生児集中治療室に入り、特別な治療が必要になって、その治療費がかかったケースや、子どもに後遺障害が残った場合などには損害が発生したといえるので、賠償金を請求できます。

次に、早産と交通事故の因果関係が問題となります。

事故後、早産までの期間が空いている場合には、事故以外の原因で早産となった可能性も考えられます。そうなると、事故と早産に因果関係がないとして、賠償請求が認められない可能性があります。

以上のように早産の場合、必ずしも賠償金が認められるとは限らないので注意が必要です。適切な補償を受けるには、交通事故賠償問題に詳しい弁護士に相談して対応を依頼するのが良いでしょう。

子どもに後遺障害が残った

中絶も流産もせず無事に生まれてきたけれど、交通事故の影響で子どもに後遺障害が残るケースがあります。

この場合、子どもは生まれているので民法721条により「子ども自身の損害賠償請求権」が認められます

後遺障害慰謝料

交通事故の被害者に後遺症が残った場合、自賠責保険の後遺障害認定基準に該当すれば、等級ごとの後遺障害慰謝料や逸失利益を請求できます。なお、後遺障害の程度が酷ければ、これを原因として両親にも近親者としての慰謝料請求が(親自身の怪我に対する慰謝料とは別個に)認められます。

後遺障害の等級は1級から14級まであり、等級ごとの後遺障害慰謝料の金額は以下の通りです(弁護士基準の金額です)。

後遺障害等級後遺障害慰謝料
1級2800万円
2級2370万円
3級1990万円
4級1670万円
5級1400万円
6級1180万円
7級1000万円
8級830万円
9級690万円
10級550万円
11級420万円
12級290万円
13級180万円
14級110万円

後遺障害慰謝料について詳しくは次の記事をご覧下さい。

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後遺障害逸失利益

また後遺障害が残ると逸失利益も請求できます。逸失利益とは、後遺障害が残って労働能力が低下したために得られなくなった将来の収入です。胎児の時の事故で後遺障害となった場合は、労働能力喪失期間が長い(18歳から67歳までの49年間)ので、賠償金が億単位になることも少なくありません。

ただし、出生前の事故で子どもに後遺障害が残った場合も、交通事故との因果関係が問題になりやすいので注意が必要です。特に交通事故と出産時期の間が空いている場合には、争いになりやすいと言えます。

早産の場合も後遺障害が残った場合にも、交通事故との因果関係を証明するには医師による協力が不可欠です。

当該事故によって早産や後遺障害が発生する可能性があるのか、その蓋然性はどの程度かなど、慎重に検討してもらい、根拠のある意見書などを書いてもらったり、証人として出廷してもらう必要があります。

自分では医師にどのように説明して良いかわからないときでも、交通事故に普段から熱心に取り組んでいる弁護士であれば、適確に説明してくれるでしょう。

妊婦本人に認められる慰謝料などについて

もちろん妊婦本人にも慰謝料や治療費などの賠償金が認められます。

具体的には、主に以下のような損害賠償金の項目があります。

  •  治療費
  •  付添看護費用
  •  雑費
  •  介護費用
  •  休業損害
  •  入通院慰謝料
  •  後遺障害逸失利益
  •  後遺障害慰謝料

妊婦自身に後遺障害が残ったら、妊婦の後遺障害慰謝料や逸失利益が別途認められます。

仕事をしていた妊婦がけがの治療のために仕事を休んだら休業損害が認められますし、主婦の場合にも平均賃金を基礎収入とした休業損害金が支払われます。

主婦の休業損害、主婦の後遺障害逸失利益については次の各記事をご覧下さい。

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賠償請求は弁護士に相談を

妊婦が交通事故に遭ったときには、通常の事案とは異なる配慮が必要です。因果関係の立証も難しくなりがちで、素人には対応が困難でしょう。まして妊娠中の身体では、示談交渉のストレスも大敵です。

困ったときには、一度、交通事故に積極的に取り組んでいる弁護士に相談してみることをお勧めします。きっとあなたの助けになってくれるでしょう。

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