交通事故における自営業(個人事業主)の休業損害を弁護士が徹底解説

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仕事をしている人が交通事故に遭うと、治療などのために仕事ができない期間が発生することがあります。その場合、得られなくなった収入について、加害者に「休業損害」を請求することができます。

サラリーマンや公務員の場合には、給与額が明らかになるため、休業損害を計算しやすいですが、自営業者の場合には、そうはいきません。

たとえば、正確に確定申告書に収入を記載していないこともありますし、赤字のケース、開業準備中のケースなどもあります。今回は、自営業の個人事業主が交通事故に遭った場合の休業損害について、弁護士が解説します。

休業損害は、交通事故で発生する損害の1種

休業損害は、交通事故が原因で、働けない期間が発生したときに、その期間に収入が得られなくなってしまったことにより発生する損害です。

休業損害は交通事故で発生する賠償金の1種です。
交通事故が原因で発生する損害には、積極損害と消極損害、精神的損害という3種類があります。

積極損害

積極損害とは、交通事故によって実際に支払いが必要になった治療費や通院交通費、入院雑費や器具装具などの費用です。

消極損害

消極損害とは、交通事故によって失われた利益のことです。休業損害も、消極損害の1つです。消極損害には、逸失利益もあります。逸失利益とは、後遺障害が残った場合に、労働能力が低下するので、本来よりも収入が減ってしまって失われた利益です。

精神的損害

精神的損害とは、慰謝料のことです。

交通事故が発生すると、上記のようなすべての損害金をすべて合計して、加害者に請求する必要があります。
なるべく多くの賠償金を獲得するためには、個別の損害について、的確に計算を行い、確実に支払いを受けることが重要です。そこで、休業損害についても、正しい計算方法を理解しておく必要があります。

休業損害をもらえる人

交通事故が起こっても、すべての被害者が休業損害を請求できるわけではありません。休業損害をもらうことができるのは、基本的に「交通事故前に仕事をしていた人」のみです。

たとえば、会社員や公務員の場合、問題なく休業損害が認められます。自営業者でも、仕事をして収入を得ていた以上、当然に休業損害を請求することができます。また、アルバイトやパートであっても休業損害が認められますし、主婦の場合にも、家事労働が経済的な対価性を持つと考えられるので、休業損害を請求することができます。

これに対し、無職無収入のケースや年金生活者、不労所得の人(不動産収入や株式配当などで生活している人)などが被害者になった場合、休業損害の請求はできません。

休業損害が発生するケース

自営業者が交通事故に遭った場合でも、休業損害が発生するケースとしないケースがあります。

休業損害が発生するのは、人身事故(傷害)のケース

休業損害が発生するのは、人身事故で、被害者がケガをしたケースです。後遺障害が残った場合でも、残らなかった場合でも、休業損害が発生します。

物損事故では、休業損害が発生しない

これに対し、物損事故の場合には、休業損害は発生しません。ケガをしていないので、休業する必要がないと考えられるからです。車の修理のために仕事を休んだとしても、休業損害を請求することはできません。ただし、仕事に使っている車が壊れてしばらく仕事ができなかった場合には、休車損害を請求することが可能です。

死亡事故の場合

また、被害者が死亡したケースでも、基本的に休業損害は発生しません。ただし、即死ではなく、死亡前に治療が必要となることがあります。その場合、入院治療中で、働けなかった期間の休業損害を請求することができます。

休業損害の計算方法

以下では、休業損害の基本的な計算方法について、ご説明します。
休業損害の計算方法には、大きく分けて2つの基準があります。

自賠責基準

1つ目の基準は、自賠責基準です。自賠責基準とは、自賠責保険が保険金を計算するときに利用する基準です。
自賠責保険は、被害者に対する最低限の補償を目的とする保険ですから、その補償金額も小さいです。
具体的には、被害者の属性にかかわらず、一律で以下の通りとなります。

  • 休業損害=5700円(1日あたりの基礎収入)×休業日数

ただし、実際の収入が、1日あたり5700円を超えることを証明することができる場合には、実収入の金額を基準として計算します。その場合でも、限度額が1日19000円までとなります。

弁護士基準

もう1つの基準が、弁護士基準です。

弁護士基準とは、弁護士が示談交渉をする場合や、裁判をしたときに裁判所が認定するときに採用される計算基準です。これまで積み重ねられてきた判例や研究によって作られた基準で、裁判所が認めているものですから、法的な根拠があります。

計算された結果の金額も、自賠責基準より高額になります。

具体的な計算方法は、以下の通りです。

  •  休業損害=1日あたりの基礎収入(実収入を基準とする)×休業日数

1日あたりの基礎収入を証明できない場合には、平均賃金を使って計算することが多く、自賠責基準のように、19000円などの上限はありません。

任意保険会社の場合

加害者の任意保険会社と示談交渉をするときには、どのような基準が適用されるのでしょうか?
この場合、各任意保険会社やケースによって、対応が異なります。

具体的には、自賠責基準の5700円×休業日数か、実収入×休業日数のどちらかを採用されます。

たとえば、パートやアルバイトなどで、実収入が少ない人の場合には、実収入を採用されると、自賠責基準より低くなってしまう可能性があります。
また、主婦などで、本来は平均賃金によって日額1万円くらいの休業損害を認めてもらえるケースでは、日額5700円の自賠責基準を当てはめられることにより、大幅に休業損害を減額されてしまうこともあります。

任意保険会社と自分で示談交渉を進めるときには、相手の提示してきた休業損害が妥当なものとなっているか、正しい知識を持ってチェックすることが必要です。

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自営業者の休業損害

以下では、いよいよ自営業者の休業損害の計算方法を説明していきます。
計算方法としては、法的な根拠を持った正当な基準である弁護士基準を前提とします。

基本の計算方法

休業損害を計算するときには、事故前の実収入を基準とします。自営業者の場合には、事故の前年度の確定申告書の記載によって、計算を行います。

青色申告をしていた場合には、青色申告決算書に記載されている「売上」の金額から、商品仕入れ原価や人件費、地代家賃、減価償却日や水道高熱被等の諸経費を引いた「収益」の金額を基本とします。

ただし、休業損害を計算する場合、収益の金額に固定経費を加えることができます。固定費は、休業しても必ず支払いをしなければならないので、休業で無駄になってしまった「損害」と言えるからです。たとえば、固定資産減価償却費や不動産賃借料(地代家賃)、従業員への支払い給与や損害保険料などが、固定経費となります。

これを、365日(うるう年の場合には366日)で割り算すると、1日あたりの基礎収入を計算できます。

  • 自営業者の1日あたりの基礎収入=(収益+固定経費)÷365日

基礎収入に足せる損害

また、事業主が働けなくなった分、外注を利用することによって事業の継続を図ったケースでは、外注の発注分の費用も損害として足すことができます。

また、事業を再開するために広告を出すなど、余分な出費が発生したケースでも、相当額が損害として、認められます。

裁判例の紹介

この点において、寿司店を経営していた被害者が、休業後に事業を再開するに際して広告を出したケースにおいて、広告料についての損害を休業損害として認定した事案があります(東京地裁昭和61年10月30日)。

専従者給与について

自営業者が基礎収入を算定する際、「専従者給与」を収益から差し引くべきかどうかという問題があります。専従者給与の制度は、配偶者に給与を払っていることにして、その分の税金を控除してもらえる制度です。

これは、実際に働いてもらって支払った給与というよりも、税金控除の手段として使っているだけであることが多く、実際には配偶者が働いていないケースもよくあります。

こういった事情があるため、一般的に、休業損害を計算するときに、専従者給与を引かなくて良いと考えられています。

実収入が確定申告書より高いケース

上記で説明をしたのは基本の計算方法ですが、自営業の場合、正確に税務申告しておらず、実収入が確定申告書の数字より高いケースがあります。

その場合、必ずしも確定申告書によって計算されず、実収入を証明できれば、実収入ベースで休業損害を計算することができます。

ただし、確定申告における収入が少ないということは、正しく税金を納めていなかったということになりますから、裁判所からは厳しい目で見られることが多く、実際に、確定申告書を超える収入があることを証明することは、かなり難しくなります。

確定申告書を超える収入が認められるのは、たとえば、申告書の所得によっては普通に生活することすら難しいケースなどに限られてきます。

赤字の場合

自営業者の場合、「赤字決算」になることがあります。赤字の場合、収益がマイナスということですから、基本の計算方法によると、休業損害が0ということになってしまいます。

しかし、赤字の場合であっても、実際に交通事故に遭って仕事ができなくなり、減収が発生しているのですから、休業損害が認められないのは不合理です。

そこで、赤字の個人事業者の休業損害も認められます。計算方法はいくつかあるので、以下で順番にご紹介します。

固定経費を基礎収入にする方法

1つ目は、固定経費を基礎収入として捉える方法です。

事業を休業した場合であっても、固定経費の支払いは必要です。このことは、赤字経営であっても同じことです。そこで、休業によって無駄な支出になってしまった固定経費分を、基礎収入として算定します。

計算するときには、確定申告書の「収支内訳書」の欄における地代家賃(店舗家賃、駐車場など)保険料(自動車保険料や火災保険料など)、租税公課(自動車税や個人事業税など)などの合計額を、365日で割って計算します。

ただ、この方法によって計算できるのは、無駄になった固定経費の分だけあり、事業ができなくなってしまった補償としては、不十分な面があります。

実際の減収分を基準にする

2つ目の方法は、事故の前年度の所得金額から、事故が発生した年度の所得金額を引き算した金額を、休業損害とする方法です。

交通事故に遭うと、事故の前年度よりも減収が発生するものです。前年度は、休業せずに健全に営業を続けることができていたところ、今年は事故によって働けなくなるからです。

そこで、前年度の所得と今年度の所得を比べて、実際の減収分を休業損害として把握することができます。この計算方法を利用すると、固定経費を足しただけのケースより、実情に近い計算をすることが可能となります。

ただし、加害者の保険会社からは「事故以外の原因で減収が発生した可能性がある」と反論される可能性があります。また、減収が発生していない場合、一切休業損害が認められないという問題もあります。

賃金センサスを利用する方法

赤字の場合の休業損害については、賃金センサスを利用する方法があります。

賃金センサスとは、国が国民全体の賃料について調査を行い、統計的にまとめた資料のことです。赤字経営の個人事業者の場合、同年齢や学歴別の男女の平均賃金を基礎収入とすることになります。

賃金センサスを利用すると、被害者の年齢や学歴によって、金額が相当高額になる場合があります。その場合、平均賃金と同じだけの収入を得られる蓋然性ないと判断されるので、平均賃金を何割か減額した金額を基準にして、基礎収入を算定します。

平均賃金と同額を得ることができる蓋然性や、何割を基準とすべきかについて、保険会社と争いになることもあります。

以上のように、赤字の個人事業者でも休業損害を請求することはできますが、計算方法はケースによってさまざまです。なるべく自分にとって有利な計算方法をあてはめる必要があります。方法がわからない場合には、弁護士に相談しましょう。

開業前の場合

個人事業者の場合、開業準備中であるケースがあります。その場合、まだ一回も確定申告をしていませんし、実際に収入を得た実績もありません。それでも、休業損害が認められるのでしょうか?

開業前の準備中の場合、もし交通事故がなかったら、無事に開業して収入を得ることができたわけですから、休業損害を認めるべきです。

ただし、どのような場合でも、常に休業損害が認められるものではなく、認められるためには、これまでの職歴、職種、準備の程度などからして、開業の蓋然性が高いことが必要です。そして、収入の算定にあたっては、前職での収入や職種などを考慮して、平均賃金を基準に計算します。

裁判例の紹介

たとえば、東京地裁平成21年11月12日の判決では、そば屋の開店準備中であった被害者について、これまでの側職人としての職歴や実際に開業準備を進めていたことなどを考慮して、平均賃金の7割の金額を、基礎収入として認定し、休業損害を認めています。

事業拡大中の場合

個人事業者が事業展開するとき、事業を拡大することがよくあります。事業の拡大中に交通事故に遭った場合、前年度の所得を基準にすると、実態よりかなり収入金額が少なくなってしまうケースがあります。

すると、確定申告書の内容が実態に合っていないため、休業損害をどのようにして計算すべきかが問題となります。このようなケースでは、順調に事業拡大が進んでいたことや、交通事故がなかったとした場合の収入金額を、証拠によって証明する必要があります。

きちんと証明ができれば、前年の収入とは無関係に、今年度の事業をベースにして、休業損害を請求することが可能となります。

確定申告していない場合

自営業者の場合「そもそも確定申告していない」ケースがあります。その場合であっても、実際に収入があって、事故によって休業を余儀なくされたわけですから、休業損害の請求自体は可能です。

ただし、確定申告書を資料として使うことができないため、減収があったことや減収額については、被害者が自分で証明しなければなりません。この証明は、かなり難しくなります。

たとえば、売り上げが入金されている通帳や領収証、経費の支払いについての記録(振込証や通帳の引き落としなど)を使って、1つ1つ計算します。売上帳や出納帳があれば、そういったものも資料にすることができます。

ただ、確定申告をしていない場合、税金を支払っていないということですから、裁判所からは厳しい目で見られることになります。

夫婦で自営業を営んでいる場合

自営業者の場合、夫婦で営業をしていることも多いです。その場合、確定申告書の収入金額は、夫婦2人の協力によって得られたものとなりますから、被害者1人の収入と言うことができません。

そこで、夫婦で自営業を営んでいる場合には、配偶者による寄与分を控除する必要があります。

具体的にいくら控除すべきかについては、夫婦それぞれの担当業務や職種、収入額などを考慮しながら、個別のケースに応じて判断されます。

裁判例の紹介

この点において、衣料品の卸業者(夫)が交通事故に遭った事案では、で、3割が妻による寄与分であるとして、利益の7割を基礎収入と認めた裁判例があります(大阪地裁平成5年4月8日)。

減収が発生していない場合

交通事故に遭っても、実際には減収が発生しないことがあります。その場合、休業損害は基本的に認められません。休業損害は、交通事故によって働けなくなり、得られなくなった収入について認められるものだからです。

しかし、家族や従業員が代わりに仕事をしてくれたので、減収が発生しなかった、というケースもあります。このような場合、実際に減収が発生していないとしても、その収入は、家族や従業員が余分に働いたことによって維持されたわけですから、事業主が働けなかった分については、休業損害が認められます。

また、外注を利用して減収を回避した場合などにおいても、必要かつ相当な費用につき、休業損害として認めてもらうことができます。

休業期間について

休業損害を計算するときには、休業期間も重要です。サラリーマンや公務員などの場合、勤務先に「休業損害証明書」を作成してもらうことにより、簡単に休業期間を証明することができますが、自営業者の場合には、そういったことができないので、すべて自分で立証しなければなりません。

まず、入院期間については、問題なく休業期間とみなしてもらうことができます。

また、通院期間も、基本的には休業期間となります。ただし、傷害の内容や病院との距離などによっては、通院期間が休業期間と認められない可能性があります。

たとえば、受傷の程度が軽く、通院の必要性がないケースや、病院との距離が近く、1日休業しなくても済んだと言える場合、保険会社は休業損害を否定したり減額してきたりする可能性があります。

自宅療養

さらに問題になるのが、自宅療養のケースです。この場合、自宅療養の必要性があることを、医師の診断書によって証明しなければ、休業損害として認めてもらうことが難しくなります。自己判断で、身体が痛いから仕事を休んだ、と言っても、休業期間にはならないので、注意が必要です。

廃業する場合

自営業者が交通事故に遭うと、廃業を余儀なくされるケースがあります。その場合、単に収入が減少するだけではなく、さまざまな費用が発生しますし、事業の資産なども処分することになるので、加害者に対して請求をする必要性が高いです。

そこで、廃業によって生じた損失分も、休業損害として加害者に請求することができます。

具体的には、事業を営むために必要な事業用資産(設備や施設等)の金額を基礎として、資産の売却可能性や事故前の設備利用状況などを考慮して、処分した資産の何割か減額した分の費用を、損害として認定することが多いです。

裁判例の紹介

たとえば、自動車板金塗装業の男性が、交通事故によって廃業した事案において、事故があった年度の設備投資金440万円のうち、売却可能性(スクラップとして)や事故前の利用状況などを考慮し、200万円を損害として認定した裁判例があります(大阪地裁昭和61年2月13日)。
また、美容院を経営していた女性が交通事故に遭った事案では、事故がなかったら、美容院を継続していたはずであるとして、開業の際に投資した金額である564万円のうち、約5割の金額を休業損害として認めた裁判例もあります(高松高裁平成13年3月23日)

まとめ

今回は、自営業者の休業損害について、解説しました。

自営業者の場合、給与所得者と比べて基礎収入や休業日数を把握しにくいため、加害者側の保険会社と争いが発生することが多く、不当に減額されやすいです。赤字経営の場合、事業拡大中の場合、過少申告の場合、確定申告していない場合など、いろいろなケースがあり、それぞれに応じた対処方法をとらねばなりません。

被害者が自分で示談交渉を進めても、スムーズに支払いを受けることが難しくなります。

確実に高額な休業損害を獲得するためには、交通事故に強い弁護士によるサポートを受ける必要があると言えます。自営業で交通事故に遭った場合には、なるべくお早めに交通事故に積極的に取り組んでいる弁護士を探して、相談を受けるようにしましょう。

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