休業損害の稼働日数とは|数え方、有給、土日、時間休、早退は?
休業損害の金額を計算するためには、休業日数や稼働日数が重要な要素となります。 そして、給与所得者の場合は特に「休業損…[続きを読む]
交通事故の問題で仕事を休まざるを得ない方は、自賠責保険を利用して「休業損害」を補償できることをご存知かもしれません。
実際に自賠責保険を申請する際、1日あたりの休業損害が5,700円以下か、それ以上か、あるいは実際の月収を1日あたりの金額に換算すべきか、悩むことがあるでしょう。
また、自賠責の基準だけではなく「弁護士基準」を利用すると高額になるケースをご存じの方もいるかもしれません。
本記事においては、自賠責保険における休業損害の算出方法と、1日あたりの金額が5,700円以下か6100円以下か、それ以上か、また弁護士基準の計算、また弁護士基準でなぜ90日で日数を計算することなどについて説明します。
目次
休業損害とは、交通事故で仕事を休んだことによって、本来得られたはずの利益が得られなくなったことによる損害に対する補償のことです。
追突事故にまきこまれて、むち打ち等になって、仕事が一定期間できなくなった場合、収入が減って損害を被ることになります。
サラリーマンの場合には欠勤で減収となることがありますし、自分で店を経営している自営業者などの場合でも、例えば店舗を閉めざるを得ない期間があると、その間の売り上げが完全に途絶えてしまいます。
このような場合に、相手に対してサラリーマンは休業損害を請求することができますし、個人事業主も休業損害を請求できます。
弁護士基準の計算方法もありますが、まずは自賠責の休業損害の計算方法をご紹介します。
基本的に休業損害では、以下の計算方法を利用します。
休業損害 = 「1日当たりの基礎収入」 × 「休業日数」
「自賠責基準」の場合の1日当たりの基礎収入は、原則的に1日6,100円で計算されます。
例えば、5日休んだ場合、10日休んだ場合は、下記になります。
計算してみると、確かにそれなりの金額にはなりますが、1日6,100円という金額ではやはり少ないと感じることがあります。
なぜなら、日雇いのアルバイトでも1日6,100円以上の報酬が得られる場合があるからです。
一方で、給与が少ない人にとっては有り難い金額相場と言えるかもしれません。
ただ原則的には、自賠責基準で計算すると、交通事故の休業損害の金額が比較的低くなることがあります。
なお、2020年3月31日以前に発生した事故については、1日5,700円で計算されます。
上記同様の条件の場合は、下記の通りとなります。
休業損害の計算方法において、通常は1日あたり6,100円が基準とされています。
ただし、実際の損害が6,100円を超えることを立証できる場合、1日あたりの金額は最大で1万9,000円まで増額されることがあります。
そのため、一律で6100円とされているわけではないことは念頭に置いておきましょう。
これまで自賠責基準の計算方法について説明しました。
しかし自賠責基準ではなく「弁護士基準」を使用すると計算される金額は通常より高くなります。
ただし、弁護士基準で計算するには、まず弁護士に相談し、依頼する必要があります。
怪我が治りにくく長期的な治療が必要な場合は、弁護士に依頼した方が、最終的には弁護士費用を差し引いても、受け取れる金額が増えることが多いです。
まず、交通事故に詳しい弁護士と相談し、弁護士基準での計算がどのようになるかを検討してみることをお勧めします。
弁護士に依頼をして計算する場合、休業損害の金額は増額します。
なぜなら、弁護士・裁判基準の場合の1日当たりの「基礎収入」は、事故前の「実収入」を基準にするからです。
以下では、それぞれのケースで具体例を見てみましょう。
サラリーマンなどの給与所得者の場合は、事故前の3ヶ月の給料の合計額を、90日もしくは稼働日数で除することで算出します(ただし、季節によって給与の金額が大きく変動するケースなどでは、「前年度の収入」などを参考にする例もあります)。
サラリーマンの事故前の3ヶ月の月給がそれぞれ20万円、24万円、23万円で、その稼働日数が91日間である例を考えてみます。
この場合には、次の計算方法で1日あたりの基礎収入を算出します(実際には90日で割るケースが多いです)。
なお、計算方法は給与所得者である限り、アルバイト、パート、公務員すべて同じです。
給与所得者の基礎収入の算出
事故前の3ヶ月の月給:20万円、24万円、23万円
給与支給の日数:91日(20万円 + 24万円 + 23万円)÷ 91日間 = 7,362円
保険会社が休業損害の日額算定で問題視される点があります。簡単に要約すると下記のようになります。
保険会社の休業損害日額算定方法の問題点が、休日労働を考慮しないため被害者に不利となることが指摘されています。
被害者サイドからすれば、より適正な日額算定を求める必要があるという重要なポイントとなります。
なお、自営業者・個人事業主の基礎収入は、事故前年度の収入を、365日で除することで算出します。
事故が起こった年の前年度の確定申告書の記載にもとづいて、基礎収入を算出します。
たとえば、事故前年度の収入が400万円だった人の例を考えてみます。この場合には、10,959円が1日あたりの基礎収入となります(※)。
自営業者の基礎収入の算出
事故前年度の収入:400万円
400万円 ÷ 365日 = 10,959円
※ただし、自営業者の場合は、様々な算定方式があり、むしろ事故前年の確定申告上の所得から、事故当年の所得を差し引いた残額をもって休業損害とする方式のほうが一般的です。自営業者の所得は、サラリーマンのように定期的に一定額を得られるものではありませんし、こちらの算定方法のほうが、端的に「現実の減収」を明らかにできるからです。
就職前の人や専業主婦の場合、平均賃金を用いる場合には、賃金センサスの1年分の平均賃金を365日で除算して、1日あたりの基礎収入を計算します。
専業主婦の場合、基礎収入はおおよそ1日あたり1万円程度になることがあります。
なお、事故前の基礎収入を証明するためには、サラリーマンやアルバイトの場合、以下など必要です。
自営業者の場合には、以下を用意する必要があります。
休業損害の金額を計算する際、「休業日数」の数え方も大きな問題になります。
休業日数は、実際に仕事を休んだ日数ですが、必ずしも休んだ日数がすべて認められるとは限らないので注意が必要です。
休業日数に含めてもらえるのは、仕事内容や症状から、休業が必要で相当と認められる限度に限られます。
交通事故で仕事を休んで自宅療養しても治療の一環です。
そのため、治療に必要かつ相当な範囲内でのみ休業日数と認められます。
数え方を考える際には注意をしましょう。つまり、自宅療養の必要性と予定日数を記載した「診断書」を作成してもらう必要があります。
休業日数を証明する資料としては、サラリーマンやアルバイトの場合には、勤務先に「休業損害証明書」を記載してもらう必要があります。
休業損害証明書は、具体的に休業した日付や日数などを記載してもらう書類で、保険会社に書式があります。
また、この証明書を作る際に、休業損害について嘘や水増し的な記載をすると処罰される可能性があるので注意しましょう。
休業損害は、どのような人でも認められるわけではありません。基本的には事故前に仕事をして収入があったことが必要です。
たとえば、サラリーマンや個人事業主も休業損害が認められる典型的なケースです。
また、アルバイトやパート、派遣社員でも休業損害は認められます。現実の収入があるためです。
これに対して、家賃収入だけで生活している「不労所得者」には休業損害が支給されないのです。
その理由は「減収が発生しない」からです。同様に、「無職無収入」の人々も、休業損害の請求資格を持っていません。
ただし、交通事故が発生した時点では働いていなかったとしても、将来の近い時期に具体的な就業先での労働が確定していた場合、休業損害を請求できることがあります。
たとえば、内定を受けている大学生がこのケースに該当し、就労時に予定されていた収入を基に休業損害が計算されることになります。学生であるからといって、休業損害を請求できないわけではありません。
また、就職先が具体的に決まっていない場合でも、本人が「仕事をする意欲や能力」を有し、実際に就職活動を積極的に行っていた場合、賃金センサスの平均賃金を利用して休業損害を算定することがあります。
ただし、専業主婦(主夫)などの家事従事者は、現実にはお金は稼いでいなくても家事労働に経済的な価値があると評価されます。
この場合、賃金センサスの全年齢の女性の平均賃金を利用して休業損害を計算して、主婦は休業損害を請求できます。
また、仕事(正社員、パートにかかわらず)を持っている兼業主婦の場合には、収入が平均賃金より低い場合には、少なくとも家事労働に相応する経済的損失を補償する観点から、平均賃金を利用して休業損害を計算します。
また当然の話ですが、休業損害は交通事故が原因で仕事を休んでいない場合は、もらうことができません。
ただし、休んでないとはいえ、有給休暇の場合は別扱いになるので注意をしましょう。
詳しくは後述します。
サラリーマンが休業損害を請求する場合、いろいろな問題が起こることがあります。たとえば、「有給を利用して通院した場合」や「ボーナス・賞与が減額された場合」、「昇級が行われなくなった場合」、「退職を余儀なくされた場合」などがあるので、以下で順番に見てみましょう。
休んでない場合は原則休業損害はもらえないですが、有給休暇は別です。
有給休暇を利用して通院をした場合にも休業損害が認められます。通院のために、半日有給を消化した場合には、半日分のみが休業損害としてが認められます。
有給休暇は、勤め先からみれば休んでいないものとして扱われますが、有給休暇とは「就労しなくても給与の支払を受ける権利」であり、余暇それ自体に経済的価値があります。それを怪我で無駄にしたのですから、損害と言えるのです。
交通事故による休業によって、ボーナスが減額されることがあります。
休業自体で査定評価を下げられることもありますし、営業の成績などが下がってボーナスが減額されることも多いです。このような場合には、ボーナスの減額分についても休業損害を求めることができます。
そのためには、勤務先に「賞与減額証明書」という書類を書いてもらい、具体的なボーナス減額分を明らかにする必要があります。
交通事故によって、予定されていた昇進が遅れたり、昇進の話がなくなったりすることがあります。
このような場合には、「昇進があったことを前提にして休業損害を計算」してもらえることがあります。
たとえば、もともと400万円の年収だったけれども、事故がなければ収入が500万円に上がる予定だった場合には、500万円の年収を基本として基礎収入を算定してもらえるということです。
この場合、公務員などのように昇進基準、昇給基準が明確な場合には、減収分を算定しやすいですが、そうでない民間企業では算定とその立証に苦労することになります。
客観的な基準は、就業規則、賃金規程などが証拠資料となる場合がありますが、実際に昇進が予定されていたかどうかは、こういった資料では明らかにならないので、雇用主、上司、人事部署に依頼して、報告書を作成してもらう必要があります。
昇進や昇給を証明できなかった場合には、事故前の実収入によって基礎収入を算定することになります。
サラリーマンなどの場合、休業が長引くことによって退職を余儀なくされることがあります。
このような場合にも、休業損害がもらえないわけではなく、対象になります。
退職による損害を請求するためには、退職が交通事故によって起こったものであるという因果関係を証明する必要があります。これはまさか会社に証明書を作成してもらうわけには行きませんから、本人の陳述書、法廷での供述、それに元職場の同僚などの協力者の陳述書、証言がとても重要となります。
なお、退職による休業損害を請求する場合の退職後の休業日数は、症状固定までの日数です。
たとえば、1日当たりの基礎収入が8000円の人が、交通事故によって仕事を続けることが困難になって退職を余儀なくされたとして、退職後80日が経過してから症状固定したケースでは、次の休業損害を請求できます。
1日当たりの基礎収入8,000円 × 退職後80日 = 休業損害64万円
ただし、これは症状固定までは休業が必要だったと認定された場合です。
症状固定に至らずとも、その症状や治療内容から不必要な休業と判断されれば、休業日数に含めて貰えません。
逆に、その症状から、症状が固定したからといって、すぐに再就職することは困難という場合に、症状固定から数ヶ月間を休業日数に含めて算定した裁判例もあります。
休業損害の補償金を実際にいつもらえるでしょうか?
休業損害は、示談成立前に先払いしてもらうというわけにはいきません。
「交通事故の損害賠償金」は、すべての損害額が確定してからまとめて支払われるのが基本なので、休業損害だけを独立して先払いで受け取ることはできず、後で示談が成立した際にまとめて受けとる形になるからです。
すぐにお金が必要な場合には、「自賠責の仮渡金」などを利用する必要があります。
また、労災保険が利用できる場合には、労災による休業補償給付を利用すると、示談が成立していなくとも休業損害の補償を受け取ることは可能です。
また、交通事故の「休業損害」と「休業補償」は別物です。自賠責保険と労災保険は独立した制度なので、被害者は両方を利用できます。
ただ、自賠責保険から休業損害の支払いがあれば、労災保険はその分を控除して給付します。逆に、使用者や労災保険から休業補償や給付を受けていれば、休業損害からその分が控除されます。
そのため、この部分については労災保険と相手方保険会社から「2重に金銭をもらえる」のです。
なお、国土交通省と厚生労働省の申し合わせでは、自賠責保険からの支払いを優先する扱いとなっていますが、実際に先に受け取るのは被害者の意思が尊重されます。
つまり、制度は別個なので併用できますが、同じ損害について重複した受け取りはできない、ということです。
交通事故によって休業損害が発生した場合に相手方の任意保険会社に休業損害を請求しても、納得のいく金額の提示がもらえないことがあります。
たとえば、専業主婦などの場合に、1日あたりの基礎収入を自賠責基準の5700円に設定されたり、「専業主婦で実収入がないので休業損害が発生しない」などと言われたりすることがあります。
サラリーマンの場合に、ボーナス分の減収が認められなかったり、昇級・昇進分が考慮されなかったりすることもあります。
休業日数についても、休業の必要性がないとして、日数をかなり減らして休業損害を計算されることなどもあります。
そんなときは、弁護士に相談して示談交渉を依頼しましょう。
弁護士であれば、どのようなケースでどのような証明書類が効果的であるかなどを熟知しており、適切な対処をして、正当な金額の休業損害を請求することができるからです。
今回は、交通事故によって発生する休業損害について、請求できる休業損害とその計算方法、弁護士基準などについて、なぜ90日で計算するか、また休業損害にまつわる問題点、もらえる・もらえない条件かなどについて解説しました。
休業損害とは、交通事故によって働けなくなったことによって発生する減収分に対する補償のことであり、1日の基礎収入に休業日数をかけ算して計算する例が多いです。
休業日数が認められるのは、基本的に追突事故などに巻き込まれてむちうち等になる前から、仕事をしていた人であり、無職無収入の人の場合などには休業損害を受けることはできません。
休業損害の金額に納得ができない場合、交通事故に強い弁護士に請求手続を依頼したら、適切な金額の休業損害を請求することができてメリットが大きいです。
今回の記事を参考にして、交通事故後の休業分について、正当な休業損害を請求しましょう。
分からないことがあれば、交通事故に強い弁護士の無料相談を活用してみるとよいでしょう。