自賠責保険への請求で120万円を超えた場合はどうなるのか?
自賠責保険から支払われる金額には、「傷害による損害」、「後遺障害による損害」、「死亡による損害」それぞれについて限度…[続きを読む]
自動車保険は、大きく分けると「自賠責保険」と「任意保険」があります。
しかし、この2つの保険の違いを正しく理解していない方が意外と多いかもしれません。
自賠責保険と任意保険について、下記のような、疑問が浮かぶ方もいるのではないでしょうか。
そこで、今回は上記のようなお悩みをお持ちの方向けに、自賠責保険と任意保険の補償内容の違い、自賠責保険のみの加入はダメなのか、また任意保険や自賠責保険を使うとどうなるのか?等級はどうなるかについて両方簡単に解説します。
目次
最初に、自賠責保険と任意保険の違いについて、両方をまとめたチャートをご覧ください。
このチャートに従って簡単に詳しく解説して参ります。
自賠責保険 | 任意保険 | |
---|---|---|
保険加入 | 国が法律で強制加入を義務付け | 任意で加入 |
保険の目的 | 怪我もしくは死亡をした人に対する最低限の補償 | 自賠責保険の不足分を補う |
補償内容 | 対人賠償のみ(*物損は含まない)(限度額・金額は後述) | 限度額は、加入者が選択する。保険商品プランによって異なる。 |
示談交渉 | 事故相手との示談代行サービスはない。 | 事故相手との示談代行サービスあり |
過失相殺 | 被害者の過失割合70%未満まで過失相殺なし 被害者にそれ以上の過失があると減額措置(後述) |
過失相殺は厳密に行う |
自賠責保険は「強制保険」として、法律に基づき契約が義務付けられています*1。
そのため、自賠責保険は自動車・バイクに乗る際には必ず加入していなければなりません。万が一加入しないまま走行すると「1年以下の懲役又は50万円以下の罰金と罰則」が科せられます。
つまり圧倒的に「自賠責保険のほうが、加入する優先順位は高い」です。
一方で、任意保険はその名の通り、加入するかどうかは本人の意思に委ねられており、必ずしも加入する必要はありません。
ただし、多くの方が任意保険に加入しているのが実情です。損害保険料率算出機構の「自動車保険の概況 2019年版」によれば、2019年3月末時点での任意保険の加入率は74.8%*2となっています。そのため、優先順位の高低は別として、原則どっちの保険も加入すべきと言えるでしょう。
*「自動車損害賠償保障法」。*【参考外部サイト】「自動車保険の概況」143頁|損害保険料率算出機構
自賠責保険の目的は、簡単に言うと、交通事故被害者の「生命や身体の被害に対する最低限の救済」です。
補償の対象は「対人賠償」のみに限定され「物損事故は補償の対象外」です。
もしも、車と車がぶつかり、お互い怪我がなかった場合は、自賠責保険から保険金をもらうことはできません。
その点は、任意保険とのとても大きな違いです。
一方で、任意保険は、自賠責保険では、補償しきれない損害をカバーするために加入します。
例えば、自賠責保険を使っても、被害者の損害を賠償しきれなくないほどの大きな事故になった場合、加害者は「実費で被害者に賠償」をしなければならなくなります。
そんな事態を回避するために、自賠責保険に「上乗せ」する形で加入するのが任意保険です。
したがって、被害者は、自賠責保険と任意保険両方から同時に二重で保険金をもらえるわけではありません。
まずは自賠責保険が負担することになり、それでも足りない部分を任意保険会社が負担することになります。
もしも、自賠責保険の範囲内で済んだ場合には任意保険会社には負担が発生しません。
また、任意保険は自賠責保険とは異なり「物損事故などの対物賠償」や自損事故でも保険金が下ります。
つまり、物損事故の場合は自賠責と任意保険どっちも使うということにはならず、任意保険のみを利用することになります。
もちろん、人身傷害でも保険は下り、非常に幅広い範囲を任意保険はカバーすることができます。
自賠責保険によって支払われる保険金には、その項目ごとに次のような「限度額」が設定されています。
「自賠責保険」の補償金額の限度額を簡単な表にすると下記のとおりです。
損害の種類 | 上限額 |
---|---|
傷害による損害 | 120万円 |
後遺障害による損害 | 75万円~4,000万円 |
死亡による損害 | 3,000万円 |
上表の通り、自賠責保険は限度額がありますが、一方、任意保険の補償限度額は、自動車保険を契約する際に設定する事ができ、対物賠償や対人賠償などは「無制限」とすることも可能で、その点は自賠責と大きく違う点と言えます。
なお、現在すでに事故に巻き込まれて治療中の方もいらっしゃるかと思います。
この際に、すでに傷害の限度額120万円を超えてしまっている方もいるでしょう。
「自賠責の範囲を超えてしまい任意保険になったけど大丈夫か」と気になるケースも多いです。
下記の記事も詳しいので併せてご参照ください。
自賠責保険は被害者の救済を目的とするので、交通事故の示談交渉を代行するようなサービスはありません。
つまり、任意保険に加入せず、自賠責保険のみ加入の場合、示談金の金額や過失割合について「相手と自分で示談交渉」しなければなりません。
これに対して、任意保険の場合は、保険会社が示談交渉をしっかりと代行してくれます。
通常、示談交渉の代行は、弁護士にしかできない業務のため、一般の人が行なえば非弁行為となりますが、保険会社の場合は、保険金を支出する当事者であり、利害が直接関係するため、示談交渉を代行することができるのです。
また、交渉を弁護士に依頼したい場合にも、任意保険のオプションである「弁護士費用特約」を付帯すれば、弁護士費用を通常300万円を限度として保険会社が負担してくれるのでお得と言えます。
なお、先述の通り、交通事故が起こった場合、基本的にはまず自賠責保険の負担部分が発生して、それを超える場合に任意保険会社の負担が発生します。
つまり、たとえ交通事故の被害者になったとしても「自賠責保険と任意保険の両方を相手にして、どっちとも示談交渉をしないといけない」ということはありません。
相手が任意保険に加入している場合、被害者の「示談交渉の相手は任意保険会社一本」になります。
これは、任意保険会社が自賠責保険の分も含めて「一括対応」しているからです。
交通事故では、被害者にも一定の「過失割合」がつく事があり、そのため、被害者がもらえる賠償金が減ってしまう可能性があります(過失割合の解説は別途ページをご参照ください)。
ただし、自賠責保険の場合は、被害者に70%以上の過失がなければ、保険金は、過失相殺なく支払われます。
また、たとえ被害者に70%以上の過失があっても、下表の通り、被害者に有利な減額割合となります。
被害者の過失割合 | 減額割合 | |
---|---|---|
後遺障害・死亡 | 傷害 | |
70%未満 | 減額なし | 減額なし |
70%以上80%未満 | 20%減額 | 20%減額 |
80%以上90%未満 | 30%減額 | |
90%以上100%未満 | 50%減額 |
一方、任意保険では被害者に過失がある場合は、しっかりと過失相殺されて「保険金が減額」される点が、自賠責と比較すると違う点といえます。
ここまで解説してお分かりいただいた通り、任意保険は自賠責保険を補う関係にあります。
つまり、任意保険と自賠責保険どっちを先に使うといった並列の関係にはありません。
任意保険と自賠責保険は「2階建て構造」と理解すると簡単でわかりやすいでしょう。
1階部分は支払限度額がある自賠責保険です。その上に限度額を補う2階部分として、任意保険があります。
つまり「自賠責保険に入っているから大丈夫だ」「両方加入しなくてもいいんだ」「交通事故は自賠責保険のみ加入で良い」という認識は誤りです。
もしも交通事故の加害者になった場合、自賠責保険から支給される保険金では足りなかった場合、残りは全額「実費で賠償」しなければなりません。現実的にお金がなければ損害賠償で「自己破産に追い込まれる可能性」すらあります。
その上、飲酒運転やひき逃げなど重過失によって事故を起こした場合などは、自己破産をしてもその損害賠償請求権は免責されません。
そのくらい重い十字架を背負う事になるのです。そんなリスクを負うくらいであれば、自分自身のために加入すべきでしょう。
また、交通事故の加害者になると自分と自分の家族どっちにも多大な影響を及ぼします。
自賠責保険と任意保険は同じ会社に加入しないとダメなのでは?と考える人もいるようです。
自賠責保険と任意保険を加入する保険会社が異なっていても、特に問題は発生しません。
保険会社が異なっていても、任意保険会社が窓口となって自賠責保険の保険金の支払いも一括して行う、「一括払い」のサービスも利用することができるからです。
最後に、実際に自賠責保険と任意保険を使うことになった際の話もしておきます。特に保険料が使うとどうなるのか、上がってしまうのかという点が実際的な悩みでしょう。
誤解しがちですが、自賠責保険には、任意保険にあるような等級制度はありません。
つまり、加害者が自賠責保険を使ったからといって、保険料が上がるようなことはないのです。
もちろん、逆に無事故・無違反を継続しても、保険料が下がるといったこともありません。
他方、任意保険は、使うと等級が下がります。
任意保険には、等級制度があり、物損事故でも人身事故でも保険を使うと、等級が下がります。
保険の等級とは、保険料を決める基準となるものですので、結果的に「保険料が上がってしまう」ことになります。
一部例外を除き、通常、人身事故・物損事故を起こすと「3等級」下がります。
また、等級は、保険料の割引率にも結び付いており、事故を起こせば割引率も下がります。
3等級下がると翌年度から「3年間、事故ありの等級」が続きます。
割引率の低下も加味されその分保険料は上がります。
詳しくは、ご加入の保険会社にご確認ください。