自賠責保険の「加害者請求」とは何か?必要書類もわかりやすく解説!

自賠責保険の加害者請求

交通事故における人身損害の賠償金を自賠責保険に請求する方法として、「被害者請求」と「加害者請求」があります。

このうち被害者請求についてはネット上にも様々な解説がされていますが、もう一方の加害者請求についてはあまり情報がありません。

そこで、ここでは、加害者請求について知りたい方のために、加害者請求とは何か?加害者請求をするときの要注意点、加害者請求の必要書類、加害者請求で保険金を受け取れる時期などについて詳細な解説を行います。

加害者請求とは何か?

加害者請求とは、自賠責保険の「被保険者」が自賠責保険会社に対して「保険金」の請求を行うことであり、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」)15条に定められています。

加害者請求は自賠責保険の本来の姿

自賠責保険は「責任保険」という種類の損害保険です。

責任保険とは、その保険契約の「被保険者」が損害賠償の責任を負うことで損害が生じたときに、その損害を保険会社が補てんしてくれる損害保険契約です(保険法第17条2項)。

「被保険者が損害賠償の責任を負うことで損害が生じた」とは、少々わかりにくいですね。

自賠責保険に即していえば、被保険者が交通事故の運行供用者責任(自賠法第3条)によって被害者への賠償義務を負担し、その賠償金を支払って損をしたことを意味します。

賠償金の支払いを、保険契約との関係では、被保険者の「損害」ととらえて、それを補償するのが責任保険なのです。

したがって、運行供用者責任を負う者が被害者に賠償金を支払った後に、自賠責保険会社に対して補てんを求めることが加害者請求なのです。

あくまで賠償金の先払いが必要です。これを「加害者請求の先履行主義」といいます。

「加害者」請求と呼ばれていても、例えば、車の所有者が友人に車を貸したところ事故を起こしたという場合、運転していない所有者は直接の加害者ではありませんが、運行供用者責任を負担するので、賠償金を支払えば、自賠責保険会社に加害者請求が可能です。

このように加害者請求ができるのは、事故の直接の「加害者」に限定されないことを頭に入れておいてください(※)。

※なお厳密には、自賠責保険で誰が「被保険者」となるかは、自賠法で「保有者」及び「運転者」と定められています(自賠法第11条、第2条3項及び4項)。

しかし、自賠責保険は運行供用者責任が発生したときに支払われる制度なので(第11条)、ここでは大雑把に「被保険者は運行供用者」と理解してしまってかまいません。

被害者請求は特別な例外

さて、責任保険である自賠責保険では、加害者が被害者に賠償金を支払ってから、自賠責保険に加害者請求をすることが本来の原則形態でした。

したがって、責任保険という本来の形からは、被害者が自賠責保険に直接に賠償金を請求することはできないはずなのです。

しかし、加害者からの支払いを待たなくとも、被害者が直接に保険会社に請求することを認めた方が被害者保護となります。そこで自賠法16条で特別に認められたのが被害者請求です。

なお、加害者請求は保険契約に基づく「保険金」を請求するものであるのに対し、被害者請求は法律によって、特別に被害者から自賠責保険会社に対し「賠償金」を請求できることを認めたものなので、前者は加害者による「保険金請求」、後者は被害者による「賠償金請求」と呼ばれています。

被害者請求についての詳細は、次の記事をお読みください。

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加害者請求のメリット・デメリットとは?

被害者側からみた加害者請求のメリット

被害者側からは、加害者が(後の加害者請求を見込んで)自己資金などで賠償金を支払ってくれた方が、早く賠償金を受け取ることができます

自ら被害者請求の手続をする手間がないという点に、加害者請求のメリットがあります。

加害者側からみた加害者請求のデメリット

加害者側からは、自分で加害者請求の手続をする手間がかかるという点がデメリットで、被害者請求をしてもらった方が手間がかかりません。

なお、任意保険会社の一括対応(一括払い対応)がなされる場合には、最終的に任意保険会社が取得した加害者請求を行使するので、被害者も加害者も手間がかからないというメリットがあります。

加害者請求の必要書類と流れ

さて、加害者請求を行う具体的な流れです。

加害者請求をするためには、自賠責保険会社に必要書類・資料を提出します。

書類・資料は、自動車損害賠償責任保険普通保険約款(※)に下記のとおり明記されています。

※「自動車損害賠償責任保険普通保険約款」とは、自賠責保険契約の内容を定める各自賠責保険会社に共通の約款です(以下、これを「約款」と呼びます)。

加害者請求の必要書類(自動車損害賠償責任保険普通保険約款第14条)

保険金請求書(約款14条1項1号)
印鑑証明書など、保険金請求者の本人確認資料(14条1項2号)
交通事故証明書(14条1項3号)
事故発生状況報告書(14条1項4号)
支払い済み損害賠償金の算出根拠を証明する書類
死亡に関する保険金
(14条1項5号)
・死亡診断書
・被害者の収入額を証明する書類(死亡逸失利益の算定根拠)
・被害者及び請求権者の戸籍抄謄本(損害賠償請求権を有する者への支払いであることを明らかにするため)
後遺障害に関する保険金(14条1項6号)・後遺障害診断書
・被害者の収入額を証明する書類(後遺障害逸失利益の算定根拠)
傷害に関する保険金
(14条1項7号)
・診断書
・診療(調剤)報酬明細書などの領収書
・休業損害証明書など休損額を明らかにする書類
・交通費などの通院費の額を証明する資料
・示談書
・支払った事実を証明する書類(領収書、振込明細書など)
(14条1項8号)
事案に応じ、上記以外の書類・資料の提出や自賠責保険会社の調査への協力を求められることがあります(14条2項)。
自賠責保険会社が、特に必要があると認めるときは、同保険会社の費用負担で、同保険会社の指定する医師による診断書の提出を求められる場合があります(14条3項)。

但し、上記の書類・資料は、常に全部が必要なものではなく、これらの中から、当該の自賠責保険会社が要求するものを提出することになりますので(同14条1項)、加害者請求の際には、必ず自賠責保険会社に確認をとってください。

加害者請求の保険金はいつ支払われるのか?

加害者請求の保険金支払期限は30日以内が原則

自賠責保険会社に対する必要書類・資料の提出を完了した日を「請求完了日」と呼びます。

自賠責保険会社は、請求完了日から(その日を含めて)30日以内に保険金を支払うこととされています(約款15条1項)。

加害者請求の保険金支払が遅れる場合とは?

もっとも、自賠責保険会社は、この30日以内に、事故原因、事故態様、損害額、治療内容、保険契約の有効性など、保険金支払義務の有無と保険金額を確定するための様々な事実を調査する必要があります(約款15条1項)。

しかし、事案によっては特別な調査や照会を必要とするため、30日以内に必要な調査を終えられない場合もあります。これを「延伸事由」と言います。

延伸事由があるときは、自賠責保険会社は、その延伸事由の内容とその確認を終えるべき時期を保険金請求者に対して通知しますから、支払が遅れる理由や支払時期がわからないという事態はありません(約款15条2項)。

この延伸事由があるときの支払時期は、請求完了日から(その日を含めて)次の各期間を経過するまでの間です。

加害者請求における保険金支払時期の延伸期間(約款15条)

延伸事由延伸期間
警察・検察・消防その他の公の機関による捜査・調査結果の照会。
弁護士法に基づく照会その他法令に基づく照会を含む。
(15条2項1号)
180日
医療機関・検査機関その他の専門機関による診断・鑑定等の結果の照会(15条2項2号)90日
後遺障害の内容・程度を確認するための、医療機関による診断・後遺障害の認定に係る専門機関による審査等の結果の照会
(15条2項3号)
120日
災害救助法が適用された災害の被災地域における確認のための調査
(15条2項4号)
60日
海外における調査(日本国内で調査する代替手段がない場合)
(15条2項5号)
180日
保険契約者または被保険者が、正当な理由なく必要事項の確認を妨げたり、応じなかったり、協力を拒んだりしたことにより確認が遅延したときは、その期間は、延伸期間に含まれません(15条3項)。

加害者請求の時効とは?

加害者請求にも消滅時効期間があり、期間内に権利を行使しないと、保険金を受け取ることはできなくなります。

加害者請求の消滅時効期間は?

加害者請求の消滅時効期間は3年間です(保険法95条)。

加害者請求の消滅時効の起算点は?

では、その3年間は、いつからスタートするのでしょうか?

時効期間がスタートする時点を起算点と言い、消滅時効では「権利を行使することができるとき」が起算点です(民法166条)。

加害者請求における先履行主義から、加害者は被害者に賠償金を支払った場合に、その金額を限度として加害者請求ができますから、加害者請求の消滅時効起算点は被害者への賠償金支払時です。

任意保険による一括対応と加害者請求の関係とは?

加害者側が任意保険に加入しており、任意保険会社が自賠責保険の負担部分も含めた「一括対応(一括払い対応)」をしているケースがあります。

このときに、被害者と任意保険会社の示談が成立すれば、任意保険会社が自賠責保険の負担部分も含めて被害者に支払います。

加害者に代わって賠償金を支払った任意保険会社は、加害者が自賠責保険会社に対して行使できる加害者請求の権利を取得します。これを「弁済による代位」と言います(民法第500条)。

つまり、一括対応(一括払い対応)の場合、任意保険会社が自賠責保険会社に対して、加害者請求をするという関係になるわけです。

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加害者請求と後遺障害の事前認定の関係とは?

なお、一括対応(一括払い対応)の場合、後遺障害の等級認定は、任意保険会社が自賠責保険に資料等を送付して等級認定を求める「事前認定」の方法がとられます。

しかし、事前認定は保険会社相互の内部手続に過ぎませんから、事前認定がなされても、被害者が自賠責保険に被害者請求することは何ら問題ありません。

逆に、後遺障害のある被害者が自賠責保険に被害者請求を行った場合に、加害者自らが賠償金を支払って、その後、自賠責保険に加害者請求をすることも可能です。

このように後遺障害の事前認定と加害者請求は、必然的に結びつくものではないのです。

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加害者請求と被害者請求どちらが優先するのか?

特別に被害者請求を認めたため、加害者請求と被害者請求が同時になされて競合してしまうケースが発生することになってしまいました。

例をあげましょう。

傷害事故で被害者の損害額が200万円。加害者が被害者に賠償金の一部として90万円を支払い、自賠責保険に90万円の加害者請求を行いました。

ところが、これとは別に、被害者が賠償金の不足額110万円を自賠責保険に被害者請求しました。

この加害者請求と被害者請求はどちらが優先するのでしょうか?

傷害における自賠責保険の限度額は120万円しかありません。この120万円の枠を、どちらが優先して使えるのかという問題です。

  • (A)加害者請求を優先させると、加害者は支払い済みの賠償金90万円を回収できますが、限度額の残額は30万円しか残らないので、被害者は不足額110万円のうち30万円しか受け取ることができません。この場合、被害者は90万円+30万円=合計120万円しか受け取れません。
  • (B)逆に被害者請求を優先させると、被害者は110万円を受け取ることができ、限度額の残額は10万円しか残らないので、加害者は支払い済みの90万円のうち10万円しか回収できません。この場合、被害者は90万円+110万円=合計200万円を受け取ることができます。

この点、実務では、(A)の加害者請求を優先する扱いとされています

自賠責保険は責任保険なので、賠償金を支払った被保険者からの保険金請求に応えることが基本だからです。

先の例で、120万円しか受け取れなかった被害者は、不足する80万円を加害者に請求することになります。加害者は保険金90万円を受け取っていますから、加害者が任意に支払わなければ、被害者側としては、この90万円が振り込まれた口座の差し押さえを早急に行うことになります。加害者側としては、いつまでも口座に保険金を残しておくべきではないということになります。

自賠責保険の支払基準を超える金額の加害者請求は認められるか?

加害者が支払った賠償金額よりも、自賠責保険がその支払基準によって算定した金額が低い場合、自賠責保険の算定額しか支払ってもらえないのでしょうか?

例をあげましょう。

被害者が損害は100万円だと主張するので、加害者は100万円を賠償して、自賠責保険会社に100万円の加害者請求をしました。

ところが自賠責保険会社は、自賠責保険の基準では損害額は50万円と計算されるので50万円しか支払えないと言うのです。

たしかに自賠法では、自賠責保険から支払われる保険金・賠償金は「支払基準(※)」に依らなくてはならないとされています(自賠法16条の3第1項)。

※「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準」平成13年金融庁・国土交通省告示第1号

しかし、これは自賠責保険会社が訴訟によらずに保険金・賠償金を支払う場合に、公平かつ迅速な支払を実現するためです。

これに対し、訴訟の場では、当事者の主張・立証に基づいた個別的な事案ごとの結果の妥当性が尊重されます。

したがって、自賠責保険の「支払基準」は、あくまでも自賠責保険が訴訟外で保険金・賠償金を支払う場合の基準に過ぎず、訴訟の場では、裁判所は「支払基準」に依らずに適正な損害賠償額を算定したうえ、自賠責保険に対して支払を命ずることができます。裁判所は支払基準には拘束されないのです(※)。

最高裁平成24年10月11日判決(加害者請求の保険金についての事案)
最高裁平成18年3月30日判決(被害者請求の賠償金についての事案)

裁判所は自賠責保険の限度額を超えた支払を命じることができるか?

このように訴訟の場では、裁判所が「支払基準」を超える保険金・賠償金の支払いを自賠責保険に命ずることができます。

しかし、自賠責保険は、あくまでも保険制度ですから、補償は定められた限度額の枠内に限られるので、いかに裁判所といえども、自賠責保険の限度額を超える金額の支払いを命ずることはできません(自賠法13条、15条、16条第1項)。

加害者請求で訴訟を利用すると損をするケース

訴訟では裁判所は「支払基準」にとらわれません。しかし、常に自賠責保険に対して訴訟を起こした方が加害者請求にとって有利かと言えば、そうではありません。

裁判所が「支払基準」に縛られないということは、自賠責保険の「重過失減額」にも縛られないことになるからです。

自賠責保険では、被害者保護の観点から、被害者に過失があっても過失割合が7割未満であれば減額はしませんし、7割以上の場合も減額の割合を2割から5割の範囲に抑えています。これを自賠保険の「重過失減額」と言います。

しかし、訴訟の場では、裁判官はこの「重過失減額」には縛られませんから、例えば被害者の過失が7割未満でも過失相殺することができます。

例えば、被害者の損害額が100万円、被害者の過失が5割の傷害事故において、加害者が過失相殺を主張せずに自費で賠償金100万円を支払ってから、自賠責保険に加害者請求した場合、自賠責保険からは重過失減額の対象となりませんから、加害者は100万円全額の保険金を回収することができます。

しかし、加害者が自賠責保険に訴訟を起こした場合は、被害者の過失が5割であると裁判所が判断すれば、5割の過失相殺を行って、自賠責保険に対し、50万円だけの支払を命じる場合があり得るのです。

実際、先にあげた判例(最高裁平成24年10月11日判決)は、被害額7500万円、被害者の過失8割の死亡事故における加害者請求の事案でした。

これに自賠責保険の「支払基準」による重過失減額を適用すると、死亡保険金の限度額3000万円を3割減額した2100万円が保険金となります。

しかし、最高裁は「支払基準」の適用を認めず、被害額7500万円に対する8割の過失相殺をおこなって、保険金を1500万円しか認めませんでした。

結局、訴訟によったために、自賠責保険から回収する保険金が600万円も減ってしまったのです。

このように訴訟によると、かえって損をするケースもあるので、提訴するかどうかは弁護士による慎重な判断が必要となります。

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まとめ

加害者請求に関する知識を解説しましたが、これらは、ほんの基礎知識に過ぎません。

加害者請求について疑問、質問がある方、加害者請求を行おうとしている方は、交通事故分野に明るい専門家の弁護士に法律相談されることをお勧めいたします。

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