交通事故の後遺障害認定|認定されるには?等級は?わかりやすく徹底解説
交通事故で後遺障害認定受けるために必要なことをご存知ですか?後遺障害とは何か、後遺障害として認定されるメリットやデメ…[続きを読む]
交通事故で後遺障害が残ったときには、自賠責保険による後遺障害等級の認定を受けて、その等級に応じた慰謝料や逸失利益の賠償を受けることができます。
また、業務災害・通勤災害であれば、労災保険も利用可能です。
労災保険による後遺障害等級の認定を受け、その等級に応じた保険給付等を受けることができます。
では、この二つの後遺障害等級制度とその認定手続には、どのような違いがあるのでしょうか?両方使えるのでしょうか?
ここでは、労災保険による後遺障害等級認定手続について、労災と自賠責との違いを説明します。
なお、自賠責保険の後遺障害申請については、下記の記事が詳しいので併せてご参考ください。
目次
同じく後遺障害等級認定といっても、自賠責保険と労災保険の認定申請の手続は全く違います。
自賠責保険では、被害者の主治医が作成した後遺障害診断書や診療報酬明細書などの医療記録に基づいて、損害保険料率算出機構の自賠責損害調査事務所が審査を行います。
判断が難しい事案などでは、より上部の機関である本部、地区本部や専門の自賠責保険審査会で審査されることもありますが、いずれにしても「書面審査」です*。
これは、大量に生じる交通事故の損害調査を統一化・定型化することで、被害者に迅速かつ公平な賠償を行うためです。
*ただし、外貌醜状の後遺障害についてだけは、醜状の大きさなどを確認するために調査事務所の調査員による面接が実施されます
労災保険では、自賠責保険よりも丁寧かつ詳細な調査をおこなったうえで等級認定を行います。認定申請の流れは具体的には、次のとおりです。
まず、後遺障害診断書やレントゲンなどの資料を労働基準監督署に提出するところから手続が始まり、その後、労基署による詳細な調査がスタートします。
労基署は、主治医に直接あたって後遺障害に関する意見を聴取し、検査データなどを集めます。
さらに、被災労働者から後遺障害に関する言い分(主張)を聞き取ります。書面にして提出させる場合もありますが、ほとんどの場合は「面談」して直接に聴取します。
必要性があれば、被災労働者に労基署まで来てもらいます。
面談の内容は、後遺障害の症状を肉眼で確認したり、関節の機能障害の可動域を測定したりします。その際、労基署が委嘱した医師に検査を実施してもらうこともあります。
主治医の意見だけでは判断が難しい場合など、必要に応じて、その症状に関する専門医の意見を求めます。労基署が委嘱している医師に限らず、専門的知見をもつ医師の意見を聞きます。
こうして詳細な調査をしたうえで、等級認定をするのです。
*参考文献:「労災保険における障害認定実務と第三者行為災害」横田道明厚生労働省中央労災医療監察官講演録「民事交通事故訴訟・損害賠償額算定基準2019年版下巻」(財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部)88頁
それは各保険制度の対象が異なるからです。
労災保険で扱う後遺障害の原因は、自賠責保険と異なり交通事故に限られません。
職場で長期間にわたり重い物を運搬し続けたことによって生じた腕や肩の痛み、キーボード入力から来る腱鞘炎、塗装の溶剤を吸引し続けたことによる肺疾患、長時間労働からくるうつ病……症状の多様さだけでなく、原因である可能性のある職場環境や職務内容も多彩であり、業務との因果関係を認定することも簡単ではありません。
後遺障害の原因が交通事故という単一の原因に限られているが故に、迅速・公平な賠償を優先して、書面審査による定型的な審査を実施している自賠責保険に対し、様々な原因に基づく後遺障害を対象とするが故に、詳細な調査に基づく慎重な判断を実施しているのが労災保険の特徴ということになります。
このような手続の違いを反映しているのが、各保険の後遺障害診断書の違いです。
自賠責保険も労災保険も、それぞれ専用の後遺障害診断書の書式を定めています。
自賠責保険の書式が詳細であるのに対し、労災保険の書式は素っ気ないほど簡素です。
*正式名称はそれぞれ、「自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書」労働者災害補償保険診断書・障害(補償)給付請求用」です。
これは、自賠責保険では、この後遺障害診断書等に基づいて書面審査を行うのに対し、労災保険では、この診断書は調査を開始するきっかけに過ぎないからです。
自賠責保険と労災保険の等級認定手続が違うことはわかりました。
では、次の点はどうでしょうか。
「自賠責保険の後遺障害等級表」(*1)と「労災保険の後遺障害等級表」(*2)の内容を比較してみましょう。
障害内容の番号(何級の「何号」にあたる番号)が違っている部分がありますが、そのような形式上の違いがあるだけで、実際の内容は一言一句全く同じです。
したがって、自賠責保険と労災保険の等級は同じです。
*1 自動車損害賠償保障法施行令の「別表第一」及び「別表第二」に定められています。 *2 労働者災害補償保険法施行規則の「別表第一、障害等級表」に定められています。
各保険の後遺障害等級表に定められた障害の内容は、例えば「局部にがん固な神経症状を残すもの」(12級)のように抽象的です。
そこで、より具体的な「認定基準」が重要ですが、この点は自賠責保険と労災保険で違うのでしょうか?それとも同じでしょうか?
まず、労災保険の認定基準は、厚生労働省による複数の通達(昭和50年9月30日付け基発第565号など)に詳細に定められています。
他方、自賠責保険の支払基準を定めた国土交通省の通達では、「等級の認定は、原則として労働者災害補償保険における障害の等級認定の基準に準じて行う」と定められています(※)。
※「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準」平成13年金融庁・国土交通省告示第1号
したがって、各保険の認定基準は共通していることが原則です。
しかし、全部が全く同じではありません。上の通達にも、「原則として」、「準じて」と表現されていますし、通達は法律ではないので拘束力がありませんから、違う認定基準を用いることも許されているのです。
そもそも、被災労働者を対象とした労災保険と、高齢者や子ども、幼児、乳児までが含まれる交通事故被害者を対象とした自賠責保険で、完全に同じ認定基準を用いることは無理がありますから、異なる扱いをしている場合があるわけです。
では、自賠責保険と労災保険の等級認定基準が異なる例をあげてみましょう。
むち打ちなどの末梢神経障害は、12級「局部にがん固な神経症状を残すもの」、14級「局部に神経症状を残すもの」に該当することが考えられます。
労災保険の認定基準は、12級は「通常の労務に服することはでき、職種制限も認められないが、時には労務に支障が生じる場合があるもの」が該当するとし、14級は「第12級よりも軽度のものが該当する」としています。
※前出「労災補償障害認定必携」第15版2刷139頁
これに対し、自賠責保険では、12級は「障害の存在が他覚的に証明できるもの」、14級は「障害の存在が医学的に説明可能なもの」という独自の基準を用いています。
実は、この基準は、労災保険についての古い通達(※1)に記載されていた基準なのです。この古い通達の基準は、平成15(2003)年に改正されており(※2)、既に労災保険では使われていませんが、自賠責保険では依然として古い基準をそのまま使っているわけです。
※1:昭和50年9月30日付け基発第565号別冊「障害等級認定基準」
※2:平成15年8月8日付け基発第0808002号
上肢または下肢の露出面に、手のひらの大きさの醜いあとを残すものは自賠責保険でも労災保険でも14級とされています。
労災保険の認定基準では、この「上肢の露出面」とは「ひじ関節以下(手部を含む)」、「下肢の露出面」とは「ひざ関節以下(足背部を含む)」とされています。
ところが、自賠責保険の実務では、「上肢の露出面」とは「上腕(肩関節以下)から指先まで」、「下肢の露出面」とは「大腿(股関節以下)から足の背まで」とされており、労災保険よりも自賠責保険の方が広い範囲を対象としています(※)。
※「改訂版・後遺障害等級認定と裁判実務訴訟上の争点と実務の視点」(弁護士高橋真人編著・新日本法規)608頁
労災保険における高次脳機能障害の1級及び2級の認定基準は、食事・入浴・用便・更衣等の介護を要する程度や認知症、幻覚・妄想などによる監視を要する程度によって判断します。
また、3級以下については、高次脳機能障害で失われる4つの能力、①意思疎通力(記憶・記銘力、認知力、言語力等)、②問題解決能力(理解力、判断力等)、③作業負荷に対する持続力・持久力、④社会行動能力(協調性)に着目して、それぞれの喪失程度に応じて、3級から14級の範囲内で等級を認定します。
しかし、これは労働者を対象とし、高次脳機能障害による就労場面における支障を念頭に置いた基準なので、自賠責保険の認定基準として、そのまま流用することはできません。
そこで自賠責保険では、労災保険と異なる独自の基準(「補足的な考え方」と呼びます(※))を用いています。
例えば、3級の「神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの」については、その判断をするための「補足的な考え方」として、「自宅周辺を外出できるなど、日常の生活範囲は自宅に限定されていない。また声かけや、介助なしでも日常の動作を行える。しかし記憶や注意力、新しいこと学習する能力、障害の自己認識、円滑な対人関係維持能力などに著しい障害があって、一般就労が全くできないか、困難なもの」という詳しい基準を設けています。
※「自賠責保険における高次脳機能障害認定システムについて(平成12年12月18日)」自動車保険料率算定会(現損害保険料率算出機構)高次脳機能障害認定システム確立検討委員
ただし、労災保険の判断とあまりに違ってしまうことは好ましくないので、自賠責保険の「補足的な考え方」の基準で判断をした後に、念のため労災保険の基準による評価も行って認定の妥当性を検証するとされています(※)。
※「交通事故損害額算定基準26訂版」(日弁連交通事故相談センター本部)330頁
また、そもそも事故による高次脳機能障害か否かを判断する段階でも、若干の相違があります。
自賠責保険では、高次脳機能障害の認定において、交通事故の外傷による脳の受傷を裏付ける証拠として、CTやMRIの画像によって異常所見(脳出血や脳室拡大・脳萎縮)が確認できることが重視されています(※1)。
他方、労災保険の認定基準では、「MRI、CT等による他覚的所見は認められないものの、脳損傷のあることが医学的にみて合理的に推測でき、高次脳機能障害のためわずかな能力喪失が認められるもの」も14級と取り扱います(※2)。
※1:前出「交通事故損害額算定基準26訂版」325頁
※2:「労災補償障害認定必携」(財団法人労災サポートセンター)第15版2刷144頁
では、自賠責保険と労災保険では、どちらの方がより被害者に有利な等級認定がなされるのでしょうか。
この点、どちらが被害者に有利かを比較検証した調査があるわけではないので正確な実態は不明としか言いようがありません。
ただネット上では「労災保険の方が被害者に有利な等級が認定されやすい」という記事が広まっており、これは次の文献の記述を根拠にしているようです。
*「後遺障害等級認定をめぐる諸問題」弁護士佐久間豊「弁護士専門研修講座・民事交通事故訴訟の実務Ⅱ」東京弁護士会弁護士研修センター運営委員会編174頁から引用
これは、交通事故問題の権威ともいえる弁護士による弁護士の研修会での報告なので、労災保険の方が有利というのが現場の偽らざる実感なのかも知れません。
ただ、等級認定手続で説明したとおり、認定労災保険が「診断書の記載内容をそのまま前提にして判断しているようなのです」というのは事実と異なります(※1)。
むしろ逆に、書面審査の自賠責保険と異なり、労災保険の認定手続の方が慎重で丁寧に行われる結果、書類審査では拾い切れない後遺障害の症状をすくい上げることができているというのが正しい評価ではないでしょうか。
なお、少なくとも東京地裁民事交通部では、昔から弁護士に対し、自賠責保険の等級認定を済ませるよう事実上うながしていますから(※2)、労災保険の等級認定だけで頑張る戦略ですと、却って裁判官の心証を悪くするリスクがあり、あまりお勧めとは言えません。
※1:前出「「労災保険における障害認定実務と第三者行為災害」(損害賠償額算定基準2019年版下巻)89頁
※2:「別冊判例タイムズ38 民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準 全訂5判」(東京地裁民事交通訴訟研究会編)2頁
労災保険の方が被害者に有利な等級認定がされるなら、労災保険を選択した方が良いのか?と思われるでしょうが、それは間違いです。
交通事故が業務災害・通勤災害に該当している以上は、どちらの保険も利用できるのですから、どちらかを選ぶのではなく、両方とも利用するべきなのです。
もちろん、同じ補償の二重取りはできませんが、それは各保険制度間で調整される問題です。例えば、自賠責保険から支払われた金銭があれば、労災保険は、これを控除して保険給付を行います(労災保険法第12条の4第2項)。
では、両方とも利用できるとして、どちらを先に利用するべきなのでしょうか?
厚労省と国交省の間では、自賠責保険の支払いを先行させる取り決めとなっており(昭和41年12月16日基発第1305号)、被害者にも、そのように指導するとされています。これを「自賠先行」と言います。
しかし実はこれは省庁間の事務処理の便宜を図るためのもので、被害者に対する強制力はありません。
つまり、被害者は、どちらからの支払を先に受けるかを「自由に選択」できます。
そして、どちらを先行させた方が良いかは、「いずれを使用するのが当該事件の被害者救済に適切であるかは、各事案に応じて検討しなければならない」(※)、ケースバイケースの判断となります。
※「改訂版交通事故実務マニュアル」(東京弁護士会法友全期会・交通事故実務研究会、ぎょうせい)73頁
その判断をするための自賠責保険と労災保険の条件や内容の違いについては、さらに別の記事で解説しましたので、そちらをご参照ください。
交通事故の後遺障害等級認定手続における自賠責保険と労災保険の違いを説明しました。
自賠責保険と労災保険のどちらの手続を先行させるかは、個別の判断になりますので、交通事故に強い弁護士に相談されることをお勧め致します。