交通事故の後遺障害と既往症!慰謝料、逸失利益は認められるか?

交通事故の被害者が、常に事故前に健康だとは限りません。ケガや病気を抱えている人が不運にも交通事故の被害者となって、さらに後遺障害に苦しむ場合もあります。

中には、交通事故で後遺障害となった後に、再度の交通事故被害で症状を悪化させてしまう方もいます。

ところが、そのような場合、保険会社から「それは後遺障害ではなく、もともとの既往症に過ぎないから後遺障害慰謝料や後遺障害逸失利益はお支払いできません。」と主張される場合があります。

このように既往症を理由に後遺障害の賠償を拒否することは正当なことなのでしょうか?

この記事では、交通事故賠償で既往症が問題となる場合について解説します。

既往症とは

既往症とは交通事故の前から被害者に存在していた症状のことをいいます。

例えば、事故前から腰椎椎間板ヘルニアに罹患し、腰痛に悩まされていた者が、追突事故の被害にあった後、さらに腰痛が酷くなったという場合、事故前からあった腰痛椎間板ヘルニアは、その被害者の既往症ということになります。

交通事故で怪我をして、何らかの症状が残ったときは、次の3つの場合が考えられます。

  1. 交通事故によって全く新たに生じた症状
  2. 事故前から被害者にあった既往症に過ぎず、事故とは無関係な症状
  3. 事故前からあった既往症に、事故による受傷が加わって悪化した症状

これらは交通事故の損害賠償にあたって、どのように取り扱われるのでしょうか?

交通事故損害賠償で既往症が問題となる場面

因果関係の判定の場面

既往症は、まず後遺障害と交通事故との因果関係を判定する際に問題となります。

因果関係とは、その事故から、その後遺障害が生じたといえる関係のことです。事故と因果関係のある後遺障害でなければ、その損害賠償を請求することはできません。

その後遺障害が、上の2.「事故前から被害者にあった既往症」に過ぎず、事故とは無関係な症状であれば、賠償の対象とはならないのです。

したがって、この因果関係の問題は、因果関係が有るか無いか、0か100かの問題ということになります。

損害額の算定の場面

次に、事故と後遺障害との間に因果関係が認められたとしても、既往症があることを理由に賠償額を減額されてしまう場合があります。

その後遺症が、上の3.「事故前からあった既往症」に、事故による受傷が加わって悪化した症状である場合は、現在の症状による損害のすべてを加害者の負担とすることは公平に反するからです。

既往症が、現在の症状の素因として寄与している以上、その寄与の程度に応じて賠償額を減額するべきとされるのです。これを「素因減額」といいます。

したがって、この場面では、既往症の寄与を何%と評価するかが問題となります。

因果関係の判定の場面の問題

では、まず既往症と因果関係の判定の場面について具体的に見てゆきましょう。

自賠責保険における既往症と因果関係

先に、因果関係の問題は、有るか無いか、0か100かの問題だと説明しました。

しかし、自賠責保険の取扱いは違います。

自賠責保険の支払基準では、次のように定められています。

重傷と死亡または後遺障害との間の因果関係の有無の判断が困難な場合の減額

「被害者が既往症などを有していたため、死因または後遺障害発生原因が明らかでない場合等受傷と死亡との間及び受傷と後遺障害との間の因果関係の有無の判断が困難な場合は、死亡による損害及び後遺障害による損害について、積算した損害額が保険金額に満たない場合には積算した損害額から、保険金額以上となる場合には保険金額から5割の減額を行う。(※)」

※「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準」平成13年金融庁・国土交通省告示第1号より

つまり既往症のために、事故と後遺障害の因果関係がわからない場合であっても、賠償を認めないのではなく、5割減額して支払うというのです。0か100かではなく、50か100かにとどめてくれるのです。

損害賠償の原則では、被害者側が事故と後遺障害の因果関係を証拠をもって立証できなければ、損害賠償請求はたとえ1円でも認められないことが原則ですから、自賠責保険の取扱いは、被害者保護という制度目的から大きな例外を認めたものといえます。

訴訟における既往症と因果関係

訴訟においては、上にのべた損害賠償制度の原則から、被害者が事故と後遺障害の因果関係を立証しなくてはなりません

このため、加害者側の保険会社が後遺障害の因果関係を争い、現在の症状は事故によるものではなく、既往症であると主張するケースが後を絶ちません。

訴訟においては、因果関係の有無は、裁判官が事実認定によって決します。そして、自賠責保険と異なり、訴訟における因果関係は有るか無いか、0か100かの厳しい問題です。

しかし、保険会社から既往症の主張がなされても、被害者側弁護士が丁寧に次の事実を反論することで因果関係が認められる傾向にあります。

  • 仮に既往症が事実としても、事故前には、現在のような症状はなかったこと
  • 事故による受傷をきっかけとして、現在の症状が発症したこと
  • 事故がきっかけで発症した以上、既往症を前提としても、事故と症状の因果関係は否定できないこと

交通事故との因果関係を認めた裁判例

東京地裁平成12年6月14日判決

裁判所は、頸椎椎間板ヘルニアがある被害者につき、同ヘルニアは外傷性ではなく、経年性の変異に過ぎないと認定しつつも、本件交通事故に遭うまでは症状が出ていないから、既往症の経年性ヘルニアに事故の衝撃が加わって発症したものとして因果関係を肯定しました。

(交通事故民事裁判例集33巻3号966頁)

損害額の算定の場面の問題

次に、因果関係が認められたとしても、既往症を理由に賠償額が減額されてしまう問題について見てみましょう。

自賠責保険における既往症と素因減額

自賠責保険には、制度上、素因減額という扱いはありません。事故と後遺障害の因果関係を立証できない場合ですら50%の賠償を認めるほど被害者保護を重視しているのですから、素因減額がされないことは当然とも言えます。

ただし、自賠責保険でも、既往症に関して、気をつけなくてはならない場合があります。

自賠責保険の後遺障害については、次のルールがあることです。

自賠責保険における加重障害のルール

それは、既存障害と同一部位の後遺障害は、加重障害でない限り賠償されず、加重障害で賠償される場合であっても上限額が制限されるというルールです。

例えば、交通事故前から、足の膝関節に障害を抱えていた人が、今回の事故で腕の肘関節にも障害を抱えてしまったという場合、事故前の足の障害は既存障害(既往症)ですが、足と腕という同一部位ではない後遺障害なので、今回の腕の障害は賠償の対象となります。

しかし、今回の事故で、再度、足に受傷した場合は、同一部位の後遺障害として、後遺障害等級上の程度が重くなった(等級があがった)という場合(これを「加重」したと言います)でない限り、賠償の対象とはならないのです。

つまり同じ部位に障害が残っても、等級が変わらないなら、それは新たな後遺障害ではないと評価するのです。

このような扱いが常に妥当かどうかは問題がありますが、自賠責保険は大量の交通事故案件を公平かつ迅速に処理しなくてはならない要請があるために、ある程度、画一的な対応をとらざる得ないという面があります。

なお、自賠責における「加重」の問題については、以下の記事をご参照ください。

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訴訟における既往症と素因減額

訴訟においては、既往症がある場合、過失相殺に関する民法の規定(722条2項)に準じて、賠償額が減額されることがあります。

減額を認めた裁判例1.

最高裁平成4年6月25日判決

被害者はタクシー運転手で車内で仮眠中に一酸化炭素中毒となり入院したことがあり、それから1ヶ月後に事故で頭部打撲傷を負いました。事故後、記憶喪失、痴呆状態などの精神障害が現れ、精神病院に入院したまま、事故の3年後に死亡しました。

裁判所は、頭部に受けた事故の衝撃が一酸化炭素中毒による脳の損傷に悪影響を与えて悪化させ、ついに死亡にいたったものと認定し、既往症である一酸化炭素中毒も損害の原因であるとして、50%の減額を認めました(※)。

裁判所HP

減額の割合は、基準化の必要性が叫ばれており、実際に医師らから試案として公表されたものものありますが、裁判実務には定着しておらず、最終的には裁判官の裁量に委ねられています。

上の自賠責保険について説明した、同一部位に既存障害があったケースの取扱いについても、素因減額と同じ考え方で割合的に賠償額を減額する裁判例も存在しますが、裁判例は様々であり、取扱いは統一されていません

減額を認めた裁判例2.

神戸地裁平成16年8月18日判決

被害者は1972年に交通事故で左膝関節の機能障害など併合8級の後遺障害となり、今回、1999年にも交通事故に遭い、同じく左膝関節の機能障害などで併合5級の加重障害となりました。
裁判所は、既存障害の内容、程度から後遺障害に対する寄与度を考慮して、民法722条2項を類推して、40%の減額を認めました。

(自保ジャーナル1575号)

まとめ

被害者に既往症があるときは、保険会社から、因果関係がないとか、賠償金を減額するべきだという主張がなされます。

正しい賠償金を受け取るには、このような主張と戦う必要があります。是非、交通事故に強い弁護士に相談されることをお勧めします。

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