既存障害と加重障害|同一部位の2回目の後遺障害認定はダメか可能か解説

加重障害とは?
  • 後遺症で後遺障害が一度認定されたら二度目はダメなの?

上記のようにお考えの方もいることでしょう。すでに病気や事故で体に傷や障害がある人が、交通事故に遭遇し、更なる後遺症、つまり2回目の後遺障害認定が生じる場面も考えられます。

この状況下で、自賠責保険や任意保険の損害賠償は受け取れるのでしょうか?

賠償の内容はどういったものとなるのでしょうか?この記事では、交通事故での既存の障害と新たな後遺症の関連性、2回目も認定されるのかについて詳しくお伝えします。

自賠責保険における交通事故の加重障害とは

後遺症で後遺障害が一度認定されたら二度目はダメなのではと考えがちですが、既に身体の障害や持病がある人が、交通事故で怪我を負い、それによって後遺症が生じた際、自賠責保険はどのような対応をするのでしょうか?

新たな交通事故で障害が加わったケースを分類する

たとえば、「身体に障害のある方が、交通事故に遭って傷害を受け、その傷害による何らかの症状が残ってしまった」といった場合、次の各ケースが考えられ、それによって自賠責保険の取扱いが異なります。

既に障害が生じている身体の部位と、交通事故で新たな傷害を負ってその症状が残ってしまった身体の部位・系列が同じか否かで下表のAとBに分かれます。

次項から、AとB、その補償について詳しく解説します。

A 既存の障害と新たな傷害による症状が、異なる部位・異なる系列のケース(※)
B 既存の障害と新たな傷害による症状が、同一の部位・同一の系列のケース B1 その部位の後遺障害の重さが、これまでの既存の障害の重さと変わらない場合
B2 その部位の後遺障害の重さが、これまでの既存の障害の重さよりも、重くなった場合(加重障害

※身体の「部位」と障害の「系列」:自賠責保険の後遺障害等級は、人間の身体を眼、耳、鼻、口、体幹、上肢、下肢などの解剖学的な見かたから分類して、これを各「部位」と呼んでいます。そのうえで、各部位における障害を、例えば「上肢」については機能障害、変形障害、醜状障害というように、その部位のはたらきに重きをおいた生理学的な見かたから35種類の「系列」に分けて定めています。

A 既存の障害と新たな傷害による症状が、異なる部位・系列

例えば右脚が不自由であった方が、交通事故で失明した場合、異なる部位・異なる系列ですので、失明という後遺障害だけが独立して、自賠責保険からの賠償対象となります

ここでは、部位・系列が異なる障害である以上、すでにある障害とは別個に補償されるべき新たな損害が発生したと評価するのです。

B 既存の障害と新たな傷害による症状が同一部位・系列

次に、同一部位、同一系列の場合、等級が重くなったか否かで自賠責保険の対応は異なります。

B1 新たな後遺障害の重さが、既存の障害の重さと変わらない場合

等級の重さは等級の上下で判断します。新たな傷害の症状のために、その部位の後遺障害が、より上位の等級に該当することになったときが重くなったときです。

例えば、事故前から顔面にある長さ3センチの線状痕は、等級としては「外貌に醜状を残すもの」として12級に該当します。ここに交通事故でさらに傷が加わり、長さ4センチの線条痕となったとしても等級は変わりません。線条痕は長さ5センチに達しないと、その上の等級である9級(外貌に相当程度の醜状を残すもの)の認定基準に該当しないからです。

このように、等級が重くなっていない場合は、自賠責保険の賠償対象となりません。

等級が上がらない限りは、補償するべき新たな損害とは認めないのです。

B2「加重障害」は、賠償されるが、金額の上限が制限される

例えば、上の例で事故前からの長さ3センチの線状痕(12級)が、新たな傷害で長さ5センチ以上となった場合は9級となり、顔面という同一部位の醜状傷害という同一系列の障害について等級が上がり、より重くなったことになります。

これを「加重障害」と呼び、自賠責保険の賠償対象になります。

等級が上がったからには、補償するべき新たな損害が発生したと評価するのです。

ただし、この「加重障害」の場合、自賠責保険の「賠償金額の上限」が制限を受けます

等級表には各等級に応じて「保険金額」が定められており、これは賠償金の上限額を意味します。その上限額が、新たな傷害による症状が加わった後の等級の上限額から、既存の障害が該当していた等級の上限額を差し引いた金額とされてしまうのです。

新等級の上限額 ― 既存等級の上限額 = 今回の補償額

今回補償するのは、後遺障害がより重くなった部分だけなので、既存の障害に対する上限額と、今回の交通事故後の障害に対する上限額の差額の範囲内で補償するというわけです。

以上が自賠責保険のルールです。

自賠責保険のルールまとめ

ここで、以上の自賠責保険のルールを表にまとめておきます。

身体に障害のある方が、交通事故に遭って傷害を受け、その傷害による何らかの症状が残ってしまったとき、自賠責保険からの損害賠償はどのように取り扱われるか

A 異なる部位・系列 独立して賠償の対象となる
B 同一の部位・系列  B1 等級が上がらないと賠償されない
B2 等級が重くなった(加重障害)場合、賠償されるが、上限額に制限がある※

※根拠条文:自動車損害賠償保障法第13条1項、同施行令第2条2項、自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準(平成13年金融庁・国土交通省告示第1号)の「第1総則2」

交通事故で「加重障害」とされるポイント

ここまで解説した通り、障害が同一部位、同一系列のときは「加重」でなければ賠償されません。そこで「加重」とされる条件のポイントを説明します。

ポイント1 既存の障害は交通事故に限らない

既存の障害の原因は問いません。

交通事故はもちろん、それ以外の労災事故、火事、天災、犯罪被害、病気、先天的なものなどすべてを含みます。

ポイント2 新たな傷害による症状は交通事故に限る

当然ですが、新たな症状は交通事故によるものに限ります。

既存の障害が病気や自然の経過、災害などで悪化しても、それは加重ではありません。

ポイント3 同一の部位・同一の系列に限る

加重は、既存の障害と新たな障害が「同一の部位」の場合ですが(自動車損害賠償保障法施行令第2条2項)、これは「同一系列」の範囲内をさすものとして運用されています(※)

※労災補償障害認定必携「第Ⅱ章:障害等級認定にあたっての基本的事項、第4節:障害等級認定にあたっての原則と準則、3:加重の場合」参照

しかし、この原則には、下記のようなものを含めた様々な例外があります。

別系列なのに加重とされる例外

障害が別系列の場合は、独立して上限額の制限なく賠償されることが原則です(上表のA)。

しかし、別系列にもかかわらず、「加重」として上限額の制限を受ける(上表のB2となる)ケースがあります。

それは、新たな障害が同一部位の「欠損」または「機能の全部喪失」のケースです。

例えば、右下肢の膝から下に骨の変形があった者が、新たに右下肢をひざ関節よりも上(太ももの位置)で切断したケースが考えられます。

骨の変形障害と、脚を失う欠損障害は等級表では別系列ですが、欠損や機能全部喪失は、その部位で最も重い等級なので、別系列だからと独立に評価してしまうと、変形障害による損失を二重に評価してしまう結果となるからです。

同一系列なのに加重の問題とならない例外

同一系列の場合は既存障害より重くならなければ(つまり「加重」でなければ)、自賠責保険の賠償対象とはならず(上表のB1)、重くなった場合でも上限額が制限されます(上表のB2)。

例えば、「中枢神経系の障害」と「末梢神経系の障害」は同じく「神経系統の機能又は精神の障害」という同一系列です。

そこで、自賠責保険の実務では、中枢神経系の既存障害がある者には、事故によって、新たに末梢神経障害が生じても、等級が重くならない限りは賠償しないという扱いをしてきました。

しかし、近年、この実務運用を否定し、同じく「神経系統の機能又は精神の障害」という系列であっても、加重の有無を問わず、上限額の制限もなく、独立して自賠責保険の賠償対象となる(上表のAとなる)場合があると認めた裁判例が現れました。

裁判例1.

東京高裁平成28年1月20日判決

被害者は、30年前に自転車で川へ転落し、第9胸椎圧迫骨折による脊髄損傷で体幹及び両下肢の機能全廃(中枢神経障害)となり、車イスを使用してきました。

さらに車イスで交差点を通行中に四輪車に衝突されて車イスから投げ出され、頚部痛みと両上肢の痛み・しびれという障害(末梢神経障害)が残りました。

被害者は、この末梢神経障害が14級にあたるとして、全損害額のうち自賠責保険14級の上限額にあたる75万円の支払いを自賠責保険会社に請求しました。

ところが、自賠責保険会社は、中枢神経障害と末梢神経障害は同一系列であり、今回の事故で等級が上がっていないから賠償対象ではない(上表のB1)と従来からの自賠責保険の実務に基づく主張をしました。

しかし、裁判所は次の理由から、自賠責保険会社に75万円の支払義務を認めました。

  • 政令(※)が同一部位(同一系列)の障害は加重にあたらない限り賠償対象としないとする趣旨は、「等級評価に差が出ない部分については、賠償対象となる損害の発生はないとして、その部分を自賠責保険による補てん対象から除外すること」だから、同一の部位とは「損害として一体的に評価されるべき身体の類型的な部位をいう」
  • ところが、神経には各々に支配領域があり、既存障害の第9胸椎圧迫骨折での脊髄損傷からは、新たな障害の頸椎、上肢の痛み・しびれの症状は生じない
  • したがって、本件の既存障害と新たな障害とは、損害として一体的に評価されるべき身体の類型的な部位とはいえず、「同一の部位」に該当しないから、加重がなくとも自賠責保険の賠償対象となる

(判例時報2292号58頁)
(原審さいたま地裁平成27年3月20日判決、判例時報2255号96頁)

※自動車損害賠償保障法施行令第2条2項

交通事故による加重障害の逸失利益

一般に逸失利益は、「基礎収入×労働能力喪失率×ライプニッツ係数」という計算式で算定されますが、加重障害の場合には独特の難問が2つあります。

基礎収入をいくらにするか

ひとつは基礎収入をいくらとするかの問題です。

基礎収入は事故前の実収入で計算することが原則で、主婦、学生、若年者、求職者など実収入を立証できない場合は賃金センサスの平均賃金で計算します。

しかし、平均賃金は健常者を含めた統計ですから、事故前にすでに労働能力が低下していた加重障害の場合に利用することはできません。

労働能力喪失率をどの程度にするか

ふたつめは労働能力喪失率をどの程度とするかの問題です。

一見、単純に加重障害の喪失率から既存障害の喪失率を差し引けば良いようにも思われます。

例えば、以下のようなケースで考えてみましょう。

既存の後遺障害等級12級:喪失率14%
加重障害の等級8級:喪失率45%

45% - 14% = 31%(※)

※水戸地家裁麻生支部愛沢千尋裁判官「加重障害と逸失利益・慰謝料の算定」(交通事故判例百選第5版)128頁によると、実際に自賠責保険の実務ではこのように逸失利益を計算していると指摘されています。

しかし、等級表の喪失率は健常者と障害者を比較した数値で、加重障害のように障害者と障害者を比較することや、まして引き算をすることを想定したものではありませんから、このような計算方法が正しいとは言えないのです。

加重障害の逸失利益算定には、このような難問があるため、実際の裁判では、事案に応じて基礎収入、喪失率の数字を調整して認定したり、既存障害を理由に素因減額をおこなったりして適切な金額となるよう工夫・努力されており、まだ裁判所の統一的な見解はない状況です。

逸失利益について、裁判例を2つ挙げておきます。

裁判例2

東京地裁平成14年11月26日判決

被害者:60歳男性(ドイツ語教師)
既存障害:慢性リウマチでの右手関節機能障害(8級、喪失率45%)
加重障害:右上肢機能障害など(併合5級、喪失率79%)

裁判所は、加重障害での労働能力喪失を「79%-45%=34%」と計算しつつも、次の各事情を指摘して、この計算結果を超える50%の喪失率を認めました。

  • 本件事故前は障害があっても教師として稼働できた
  • しかし、今回の事故で左鎖骨、肋骨、片肩甲骨など体幹骨の変形障害も残ったために階段の昇降などが不自由となった
  • このため電車通勤が困難となり、20年以上勤務した勤務先の教師職を退職せざるを得なくなった

この裁判例では、基礎収入は事故前の実収入113万7000円、労働能力喪失期間を10年間とし、逸失利益438万9786円が認められました。

(交通事故民事裁判例集35巻6号1568頁)

裁判例3

札幌地裁昭和61年2月14日判決

被害者:49歳男性(運送業)
既存障害:左下肢変形などの障害(8級・喪失率45%)
新たな障害:左下腿切断(5級・喪失率79%)

裁判所は、基礎収入は賃金センサスを用い、喪失率については、障害の部位・程度、具体的稼働状況などを勘案して定めるべきとして喪失率を65% と認定しました。
その結果、3937万8301円の逸失利益が求められました。

(自保ジャーナル判例レポート66号No.12)

よくある質問

交通事故による加重障害の後遺障害慰謝料は算定可能?

加重障害での逸失利益は、その計算式で基礎収入と労働能力喪失率という2つの要素をどう取り扱うかという難問がありました。

しかし後遺障害慰謝料は、もともと裁判官が一切の諸事情を考慮して算定するものなので、定式化になじまない反面、事案に応じた適切な算定が可能です。

裁判例では、既存障害の存在を慰謝料の減額事情として考慮するものも多いですが、他方で、常にそのような取扱いをしているわけではありません。ケースバイケースと言えましょう。

加重障害の後遺障害慰謝料を相場より増額した裁判例は?

例えば、上に紹介した裁判例2(東京地裁平成14年11月26日判決)では、5級の後遺障害慰謝料相場599万円(弁護士基準)を大きく超える慰謝料850万円を認めています

判決では、「本件事故による原告の実質的な労働能力喪失の程度を考慮し」て算定したとされており、長年の教師職を辞めざるを得なくなった被害の重さを慰謝料に反映させたものと言えるでしょう。

また、上の裁判例3(札幌地裁昭和61年2月14日判決)でも、既存障害8級(弁護士基準324万円、加重障害5級(弁護士基準599万円)のところ、裁判所は慰謝料800万円を認めました

一般論として既存障害の存在を慰謝料算定に斟酌することは妨げられないとしつつも、既存障害が左下肢の「変形」等であったのに対し、加重障害は左下肢の「切断」であって、障害内容の質的な差異を無視できないという理由です。

いずれも既存障害があるからといって慰謝料を減額するのではなく、むしろ相場よりも増額していることが注目されます。

まとめ

今回は、後遺症で後遺障害が一度認定されたら二度目はダメなのかOKなのか、加重障害などについて解説しました。

加重障害については、まずそれが自賠責保険の賠償対象となる同一部位の障害かどうかを判定する段階で自賠責保険との間で争いになる可能性があります。

さらに任意保険会社との間では、裁判所の見解が統一されていない逸失利益の算定をめぐって争いとなる可能性が大きいと言えます。

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