交通事故の過失相殺とは?民法と計算をわかりやすく解説!

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交通事故の損害賠償が紛争となるとき、その原因の多くを占めるのが「過失相殺」の争いです。

被害者であっても「過失割合5割」の過失相殺が認められれば、損害賠償額は半額となってしまいます。

死亡事故や後遺障害事故では、賠償額は数億円・数千万円となることも珍しくはありません。

つまり、過失相殺の有無と程度は「数億円・数千万円の違い」を及ぼすのです。

ここでは過失相殺の基本的な知識についてわかりやすく説明します。

過失相殺とは?

交通事故の損害賠償において、被害者にも何らかの落ち度があるときに、その程度に応じて賠償額を減額して「損害の公平な分担をはかる」取り扱いを過失相殺といいます。

過失割合とは?

過失割合とは、過失相殺の前提となる加害者と被害者の過失の割合です。

例えば、被害者に何らの落ち度もないときは、加害者と被害者の過失割合は、「加害者10:被害者0」です。被害者に2割の落ち度があるときは「加害者8:被害者2」です。

過失相殺と計算|相殺するとどうなるのか?

過失相殺の計算例をわかりやすく解説

過失相殺をすると、賠償額が過失割合の分だけ減額されてしまいます。

例えば、以下のような場合を考えてみましょう。

被害者Bの損害額100万円 過失割合は加害者A:被害者B=7:3

このケースでは、BがAに請求できる賠償金の額のうち3割が減額され、70万円しか請求できないと計算できます。

残りの30万円はBの自己負担となります。

これが損害を公平に「分担する」という意味です。

過失相殺の対象

過失相殺の対象として減額されるのは、通常、損害賠償額の総額であり、これには「治療費」や「慰謝料」等も含まれます

ただし、訴訟で認められる弁護士費用は、弁護士費用以外の損害額に過失相殺を適用した後の金額を基準に算定するので、過失相殺の対象とすると二重の過失相殺となってしまいますから、弁護士費用それ自体は過失相殺の対象とはなりません(※)。

最高裁昭和52年10月20日判決

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民法と過失相殺

過失相殺の根拠は民法722条第2項です。

民法第722条2項
「被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。」

損害賠償制度は、社会に不可避的に発生する損害の補てんを当事者に公平に分担させることを目的としています。

被害者の落ち度の程度に応じた分担が公平との理念から過失相殺が定められています。

過失相殺の「過失」とは?

交通事故の加害者が賠償責任を負わされる根拠となる「過失」と、減額の根拠となる過失相殺における被害者の「過失」は、異なる概念です。

加害者の「過失」

過失責任原則

他人に損害を生じさせても、過失がないならば、損害賠償責任を負うことはありません。

何らの過失もないのに責任を負わされるなら、人々は自由に行動できなくなるからです。

これを過失責任原則といい、民法709条で定められています。

民法709条
「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」

結果回避義務

ここにいう「過失」とは、たんなる「不注意」ではありません。

車の運転に代表されるように、現代社会では危険性の高い行為が数多く存在します。

そのような行為は、たとえ注意をしていても他人に損害を与えてしまうリスクがあるので、注意するだけでなく「結果の発生を回避するためにとるべき行動をとったか否か」が問われます。

このような行動をとるべき義務を「結果回避義務」と言います。

例えば、信号のない交差点を車両が通過する際には、事故という結果を回避するために、「一時停止し、左右を確認してから進行する」という結果回避義務が法律上要求されています。

「一時停止せずに進行した行為」があると、結果回避義務に違反する過失行為があったと言えます。

そして、ここでの過失の有無は、加害者の損害賠償責任の有無、ひいては行動の自由の制約にかかわります。

つまり、どのような「結果回避義務」があり、どのような義務違反行為があったのか、裁判所によって、法的観点からの厳密な判断を受けることになります。

被害者の「過失」とは「落ち度」

他方、過失相殺にいう被害者の「過失」は、加害者に賠償責任があることを前提として、公平の観点から、被害者にも損害を分担させるべき「落ち度」であって、過失責任原則にいう過失よりも、より広くゆるやかな概念です(※)。

※なお過失相殺の過失の中には、過失責任原則の過失も含まれます。

例えば、車両同士の正面衝突事故で、両方の車両が互いにセンターラインを超えて走行していたケースでは、双方に過失責任原則の過失が認められ、その過失が過失相殺においても考慮されることになります。

過失相殺と責任能力・年齢

過失相殺の過失がゆるやかな概念であることから、被害者に「責任能力」がなくとも過失相殺が認められます。

過失責任原則の過失が認められるためには、責任能力、すなわち自己の行動によって生じる「法的な責任」を理解できる知能があることが必要です(民法712条、713条)。

裁判例では、この責任能力はおおむね12歳程度の年齢から備わるとされています(ただし、子どもの成長の度合いによる個人差があるので、個別判断となります)。

  • 例えば、8歳の子どもが車を運転して事故を起こしても、責任能力がなく加害者としての賠償義務は負いません(親の監督責任は別です)。
  • しかし、逆に8歳の子どもが事故の被害者となったときには、責任能力がなくとも、その過失を過失相殺の対象とすることができます。

過失相殺の「過失」は、被害者にも損害を分担させることが公平といえる「落ち度」に過ぎません。

つまり、責任能力は不要であって「事理を弁識するに足る知能」があれば足りるとされているからです(※)。

「事理を弁識するに足る知能」とは、例えば、赤信号で横断歩道を渡ると車にひかれてしまうから横断してはいけないことを理解している知能です。

したがって、被害者である8歳の子どもが赤信号で横断したために事故が起きた場合、加害者側は過失相殺による減額を主張できるわけです。

最高裁昭和39年6月24日判決

被害者側の過失による過失相殺

過失相殺の過失は、その内容がゆるやかなだけでなく、誰の過失を考慮するかという範囲についても、ゆるく幅広く考えられています。

わかりやすく例で解説をしてみましょう。

  • 夫Aが運転する車両の助手席に妻Bが同乗していたところ、Cが運転する対向車と衝突して妻Bが受傷し、治療費など100万円の損害を受けたとします。
  • この事案で、Aに3割の過失があった場合、運転者CはAの過失を理由にBに対して過失相殺による30万円の減額を主張できます。

夫婦のような「被害者本人と身分上、生活関係上、一体をなすと認められるような関係のある者」の間では、実質的には「財布はひとつ」なので、Aの過失を考慮しなければ、公平とは言えないからです(※)。

また、Aの過失が落ち度にとどまらず、過失責任原則の過失にもあたるときは、Bの損害は、CとAの共同不法行為によるものと評価され、Bに対する賠償義務はCとAの連帯債務となりますが、この場合でもCがAの過失による過失相殺をBに主張できることは同じです。

最高裁昭和51年3月25日判決

このような被害者側の過失による過失相殺は、配偶者、内縁関係、未成年者の監督義務者である父母などの落ち度について認められています。

過失割合は誰が決めるのか?

ネットでは、過失割合は保険会社が決めるとか、警察が決めるなどの記事が散見されますが、いずれも正確ではないので注意してください。

過失割合は、まずは当事者の「話合い(示談交渉)を行って決める」ことになり、話合いで決めることができないときは、最終的に訴訟によって「裁判所が決める」ことになります。

加害者が任意保険に加入していれば、保険会社が示談代行によって話し合いの相手方となります。

過失のある被害者も任意保険に加入していれば、被害者の保険会社も示談代行することになり、保険会社同士の話合いで過失割合が検討されます。

ただし、保険会社が勝手に決めることができるわけではなく、加害者と被害者が最終的にその過失割合を承諾することが必要です。

つまり示談において過失割合を決める権限があるのは「被害者と加害者」であって、保険会社ではありません

示談の話合いで決着がつかないときは、最終的に訴訟で裁判官に決めてもらうことになります。

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過失割合の立証責任は加害者側にある

ネットでは、被害者が保険会社側に対して、被害者に過失がないことを証明しなくてはならないなどと説明する記事が散見されますが、これも正確でないので注意してください。

訴訟において被害者の過失を立証する責任は加害者にあります。

加害者が証拠をもって被害者の過失を立証できないときは、裁判所は過失相殺できません(※)。

※別冊判例タイムズ38・民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準・全訂5判」(東京地裁民事交通訴訟研究会編)21頁

なお、この点の議論を手軽に知りたい方には次の文献のコラムをお勧めします。

したがって、示談交渉においても、加害者側である保険会社が被害者の過失に基づき過失相殺を主張してきたら、どのような証拠に基づいて、どのような過失を証明できるのか、担当者を問い詰めてください。

納得できる回答が得られないのであれば、保険会社の提示する過失割合を承諾する必要はまったくありません

立証責任が加害者側にあるということは、示談における被害者、訴訟における裁判官を納得させる責任は加害者側である保険会社にあるということだからです。

過失割合の基準は判例タイムズ(緑本)

過失割合は裁判官の裁量で決めることができます。

ただ、交通事故では同じような事故がくり返されますから、過失相殺のパターンを類型化しておけば、効率的に公平な処理が期待できます。

そこで、裁判所や弁護士団体が、事故パターン別(事故態様別)の基本的な過失割合と考慮されるべき「修正要素」を発表しています。

このうち、事実上のスタンダードとなっている文献が次の書籍です。

「別冊判例タイムズ38 民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準・全訂5判」(東京地裁民事交通訴訟研究会編)

これは、緑色の表紙から通称「緑本」と呼ばれ、東京地裁の民事第27部(民事交通部)の考えを明らかにしたもので、訴訟においてだけでなく、示談においても弁護士や保険会社担当者に利用されている基準です。

ただし、この書籍も含めて、発表されている過失割合の基準は、あくまでも「一応の目安」(※)であり絶対視するべきものではありません

※「別冊判例タイムズ38 民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準・全訂5判」21頁

大切なことは、ある事故パターンの過失割合の数字が定められた理由を理解することです。

緑本は、類型別の数字だけなく、何故そのような割合としたか、考慮される修正要素の詳しい意味などが丁寧に解説されています。

その解説部分こそが重要であり、これを十分理解することで、記載されている事故態様と実際の事故との類似点・相違点が明らかになり、基準と同じ過失割合とするべきか、異なる数字が妥当と考えるべきかがわかります。

なお、過失相殺の対象となる被害者の過失は事故態様だけではありません。

例えば、医師から勧められた治療やリハビリを合理的な理由もなく怠ったために、治療の長期化や後遺障害の残存などで損害が拡大したときは、過失相殺される場合があります(※)。

※輸血拒否を過失相殺の対象とした裁判例(名古屋地裁平成28年12月21日判決・交通事故民事裁判例集49巻6号1531頁)

自賠責保険には過失相殺があるか?

自賠責保険から支払われる金額を決める自賠責基準では、被害者の過失が7割を超える重大な過失があるときに減額されます。

しかも減額される割合も低く抑えることで、被害者保護を図っています。

これを自賠責保険の重過失減額と言います。70%未満であれば過失相殺されません。

被害者の過失割合 減額割合
後遺障害・死亡 傷害
70%未満 減額なし 減額なし
70%以上80%未満 20%減額 20%減額
80%以上90%未満 30%減額 20%減額
90%以上100%未満 50%減額 20%減額

「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準」平成13年金融庁・国土交通省告示第1号

労災保険には過失相殺があるか?

交通事故が業務災害・通勤災害にあたる場合に適用される労災保険でも過失相殺があります。

ただ、被災労働者保護の観点から、過失相殺される場面は著しく制限されています。

労働者に重大な過失があるときには支給の全部または一部を制限でき(労働者災害補償保険法第12条の2の2第2項)、事故の直接原因が道路交通法上の危険防止に関する罰則ある規定に違反する場合(例えば酒酔い運転)に、療養開始の翌日以降3年以内に支給事由が発生した休業と障害に関する給付(※)の30%が減額されます(昭和40年7月31日基発第906号、特別支給金支給規則第20条)。

※減額対象は、休業補償給付(休業給付)、休業特別支給金、障害補償給付(障害給付)、障害特別支給金、傷病補償年金(傷病年金)(昭和52年3月30日基発第192号)。

もっとも制限するかどうかは行政側の裁量に委ねられており、どれもあまり厳格には行われていないのではと言われています(※)。

※「労災補償法詳説・改訂10版」井上浩・経営書院301頁

健康保険には過失相殺があるか?

健康保険には過失相殺はありません

被害者に過失があっても、過失相殺によって健康保険に負担してもらえる治療費が削られるということはありません。

むしろ、被害者の過失が大きく、加害者側から大幅に過失相殺されそうな事案では、健康保険を使うほうが被害者に有利になる場合があります。

保険診療の本人負担は3割のため、加害者から大幅に過失相殺をされたとしても減額される金額が少なくて済みます。そのうえ健康保険を使わない自由診療よりも治療費が安いので、被害者本人の手元に残せる金額が増える場合があるからです。

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過失相殺と損益相殺の違い

交通事故の損害賠償問題に登場する言葉で、過失相殺とよく似た「損益相殺」という言葉があります。

損益相殺は、被害者が事故を原因として何らかの利益を得たときに、それを賠償額から差し引くことを言います。

損益相殺を定めた法律の規定はありませんが、公平の観点から当然に認められる法的な取扱いとされています(※)。

最高裁平成5年3月24日判決

例えば、交通事故の治療費が健康保険から支払われたときは、加害者は、その金額を控除した賠償金額を支払えば良いのです。

被害者に過失があるケースで損益相殺が行われるときには、過失相殺と損益相殺の先後(順番)が大きな問題です。

①過失相殺を損益相殺よりも先に行うか、②過失相殺を損益相殺よりも後に行うか、そのどちらかによって損害賠償額に差が生じます。

過失相殺を損益相殺よりも先に行えば、当然に、相殺される金額は大きくなりますから、被害者に不利となります。

この先後の問題は、特に被害者が「社会保険給付」を得たときに問題となり、各給付によって取扱いが分かれています。

①過失相殺を損益相殺よりも先に行うもの(被害者に不利)

労災保険(※)

最高裁平成元年4月11日判決

②過失相殺を損益相殺よりも後に行うもの(被害者に有利)

健康保険(※)、国民健康保険

※名古屋地裁平成10年12月4日判決(交通事故民事裁判例集31巻6号1867頁)

①②いずれの裁判例もあり、判断がわかれているもの

国民年金・厚生年金に基づく障害年金・遺族年金(※)

※①の判例として前出の最高裁平成5年3月24日判決、②の裁判例として東京地裁平成20年5月12日判決(交通事故民事裁判例集41巻3号576頁)

まとめ

交通事故における過失相殺についてわかりやすく説明しました。

ただ、これらは過失相殺に関する基本のうち、ほんの触りの部分に過ぎません。

交通事故で加害者、保険会社から過失相殺を主張されたときは、交通事故に強い弁護士に相談されることをお勧めします。

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