交通事故の過失割合とは|いつ誰が決めるか?納得できない・認めない場合は?
交通事故の被害者は、自分が受けた被害について相手方に対し、損害賠償を請求をできますが、自分の過失については減額されま…[続きを読む]
交通事故で、被害者に怪我をさせてしまった事故、死亡させてしまった事故が人身事故です。
人身事故の多くは、運転者である加害者の過失による「過失運転致死傷罪」(※)となります。「過失運転致死傷罪」で、検察官に起訴された場合、その法定刑は、7年以下の懲役・禁錮または100万円以下の罰金です。
※「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」第5条
この記事では、上記のご質問に関して、人身事故で加害者が不起訴になることはあるか?に関する疑問にお答えします。
目次
検察庁の統計を見てみましょう。
次の表は、2018(平成30)年に、検察庁が行った事件処理の内容ごとの人数比率です。
一般事件(※1) | 過失運転致死傷等 | |
---|---|---|
公判請求(正式起訴) | 23.2% | 1.3% |
略式命令請求(略式起訴) | 14.1% | 10.1% |
不起訴 | 52.4% | 85.8% |
家裁送致(※2) | 10.2% | 2.9% |
※1:危険運転致死傷罪、過失運転致死傷罪等、道路交通法違反以外の事件
※2:未成年者の少年事件 令和元年犯罪白書4-1-2-1図「交通事件 検察庁終局処理人員の処理区分構成比」より
表の内容を少々説明しましょう。起訴には以下のものがあります。
正式起訴とは、検察官が裁判所に対し、被告人を公開の法廷(公判廷)での裁判で裁くよう求めることであり、「公判請求」とも呼ばれます。
略式起訴とは、検察官が裁判所に対し、略式命令を求めることで、別名「略式命令請求」とも呼ばれます。略式命令とは、法廷に出頭する必要がなく、書類上の裁判だけで裁判所から罰金刑(略式命令)を受ける裁判手続です。
どちらも刑事裁判であり、有罪判決が確定すれば、前科となる点では違いはありません。
さて、上の表のとおり、一般の事件では公判請求されて法廷で裁かれた人員は23.2%、略式起訴で罰金刑を受けた人員は14.1%です。合計37.3%が起訴され、不起訴は52.4%です。
他方、過失運転致死傷等の事件では、公判請求された人員は、わずか1.3%、略式起訴を受けた人員も、たった10.1%です。合計11.4%が起訴されたに過ぎないのです。不起訴率は85.8%にものぼります。
したがって、人身事故でも不起訴となることがあり、過失運転致死傷等の場合、その割合は約86%ということです。
加害者に民事責任を問う前提としての過失があるが、被害者にも何らかの落ち度があるときは、その程度に応じて、賠償金額の一定割合を割り引くことが公平です。これが過失相殺(民法722条2項)であり、その割合が過失割合です。
つまり過失割合は、民事上の損害賠償の金額を決めるためのものであり、刑事処分とは無関係です。
そもそも刑事責任を問うための過失の有無は、起訴段階では検察官が、公判段階では裁判官が、それぞれ民事責任とは無関係に判断する事項です。したがって、民事責任上の過失の有無や過失割合には左右されません。
多くの場合は、民事責任の過失と刑事責任の過失は一致すると思われますが、事案によっては、一方の過失が認められて、他方の過失が否定されるという事態もないわけではありません。
したがって、過失割合で起訴・不起訴が左右されることはありません。
ただし、検察官が起訴・不起訴の判断をする際には、事件をめぐる、あらゆる事情を考慮するので(刑訴法248条)、刑事処分を検討するうえで、後述のように、加害者の過失の程度も、当然に考慮されます。
例えば、交差点で子どもが飛び出したような死亡事故では、加害者にも前方不注視などの過失が認められることが通常ですが、飛び出した被害者側にも落ち度があり、それが死亡の結果に寄与した面が大きいと検察官に判断されれば、起訴猶予となります。
もちろん、そのような事例では、多くの場合、民事責任としての加害者の過失割合も小さい数字になると考えられます。
しかし、起訴猶予とするか否かは、民事の過失割合の問題を離れて、検察官が独自に判断した結果だということに注意してください。
保険会社との示談交渉で、加害者である自分の過失割合が低い割合で示談できたからといって、それは保険会社が判断したことに過ぎず、検察官が同様に判断するとは限らないのです。
過失運転致死傷罪は、「自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者」に適用されます。
このように、交通事故が犯罪となるのは、例えば、信号の見落とし、前方不注視、居眠り運転などのように、加害者が法的に要求される注意義務を怠って運転したこと、すなわち注意義務違反の行為があるときです。これが「過失」行為です。
たとえ被害者の死亡という重大な結果が生じても、加害者に「過失」行為がなければ犯罪は成立しないので起訴できませんから、死亡事故でも不起訴になります。
では死亡の結果に対して、加害者に過失があった場合には常に起訴されるのでしょうか?
残念ながら、交通事故について、「傷害事故の起訴率」と「死亡事故の起訴率」を分けて明示した統計が見つかりません。
傷害事故と死亡事故を合計した「致死傷」としての起訴率しかわからないのです。
しかし、同じく「致死傷」の結果となった人身事故でも、①たんなる過失運転致死傷罪、②無免許での過失運転致死傷罪、③危険運転致死傷罪の3種類の起訴率を比較してみれば、はっきりした傾向が判明します。下の表をご覧下さい。
交通事故による致死傷罪の起訴率の推移(※)
平成27年 | 平成28年 | 平成29年 | 平成30年 | |
---|---|---|---|---|
➀ 過失運転致死傷罪 | 10.2% | 10.7% | 10.9% | 11.5% |
② 無免許過失運転致死傷罪 | 83.0% | 84.5% | 80.8% | 81.3% |
③ 危険運転致死傷罪 | 86.8% | 83.5% | 82.6% | 78.6% |
※【出典】2018年「検察統計・5 被疑事件の罪名別起訴人員、不起訴人員及び起訴率の累年比較(平成17年~平成30年)」から
①単なる過失運転致死傷罪は、常に起訴率が約1割であるのに対し、②無免許であった場合や、③危険な運転であった場合には、起訴率が約8割に跳ね上がります。
被害者が、傷害を受けた、死亡したという、死傷の結果は共通しているのに、起訴率は8倍も違うのです。
ここから明らかなのは、起訴・不起訴の判断に決定的な影響を及ぼすのは、怪我にとどまったか、それとも死亡してしまったかという「結果」ではないということです。
決定的なのは、事故を起こした運転行為が、無免許運転だった、あるいは危険な運転だったという、「過失行為の態様」なのです。
過失犯である交通事故では、事故の結果が怪我か死亡かは、偶然に左右されますから、たまたま死亡事故となってしまっても、それだけで必ず起訴することにはならないのです。
他方、単なる不注意ではない無免許運転や危険運転行為による事故は、悪質と評価され、事故を抑止するためにも厳しく対処されるのです。
不起訴とは、「裁判にかけない」ことです。罰金は「刑事処分」、すなわち「刑罰」であって、裁判を受けない者に刑罰を課すことはできません。これは憲法32条、37条などに定められています。ですから不起訴になれば罰金もありません。
他方、「免許停止」や「免許取消」という「行政処分」は、刑事処分とは全く無関係です。
両制度は、その目的からして違います。刑事処分が犯罪者に刑罰を与えるものであるのに対し、行政処分は危険な運転者を道路交通から排除して、交通の安全を確保するための制度です。
さらに両制度を担う組織も全く別です。刑事処分は、検察官の起訴を受けて、裁判所が下すものですが、行政処分は公安委員会が行うものです。
したがって、検察官によって不起訴となっても、行政処分によって免許停止、免許取消となる可能性はあるのです。
ただし、行政処分も、それに対して不服があれば、最終的に白黒をつける機関は裁判所ですから、免許取消や免許停止に納得がゆかない方は、弁護士に依頼して不服審査申立や行政訴訟で争うことを検討されるべきでしょう。
検察官の行った起訴・不起訴の処分内容を加害者や被害者が知るための制度には、以下のものがあります。
①刑事訴訟法上の制度として、次のものがあります。
検察官が不起訴処分をした場合、被疑者から請求があれば、速やかに不起訴処分をした旨を告知しなければなりません(刑訴法259条)。
被疑者からの請求の時期、方法には格別の制限がなく、口頭での請求でもかまいません。処分前に、あらかじめ検察官に請求しておくことも可能です。
検察官は「不起訴処分をした」ことだけ告知すれば足ります。告知の方法は、口頭でも良いとされていますが、実務上は、「不起訴処分告知書」という書面が郵送されてくることがほとんどです。
被害者などから刑事告訴があった交通事故事件については、検察官が起訴・不起訴の処分を行ったときには、速やかに、その旨を告訴した者に通知しなければなりません(刑訴法262条)。通知される内容は、起訴・不起訴の結論だけで足りるとされています。通知の方法は、実務では「処分通知書」という書面が郵送されてきます。
同じく被害者などから刑事告訴があった交通事故事件について、検察官が不起訴の処分を行ったときには、告訴した者からの請求があるときは、速やかに「不起訴処分の理由」を告げなければなりません(刑訴法261条)。
告知する内容は不起訴処分の理由である「罪とならず」、「嫌疑不十分」、「起訴猶予」などで足りるとされています。告知の方法は、「不起訴処分理由告知書」という書面が郵送されてきます。
刑事訴訟法上の制度とは別に、「犯罪被害者等基本法」という法律に基づき、事件の被害者などに対し、事件処理の結果などを通知する「被害者等通知制度」が設けられています。
この制度では、被害者、その親族等、代理人弁護士に対し、次のような内容が通知されます(※)。例えば検察官が被害者の事情聴取を実施する際に、通知を希望するかどうかを確認し、希望する者に通知してくれるのです。
(※)法務省「被害者等通知制度実施要領」
これらの告知・通知によって、起訴・不起訴がわかる時期ですが、加害者が逮捕、勾留された場合は、逮捕から23日以内に起訴・不起訴の判断がなされることが通常ですから、そこから日数をおかずに告知・通知が来るはずです。ただし、23日間の勾留期限前に処分保留で釈放され、以後は在宅事件として捜査が継続する場合もあります。
逮捕・勾留されなかった、あるいは釈放されて在宅事件となったケースでは、起訴・不起訴を決める期限はないので、どの程度、待たされるかはまったくわかりません。
事案の内容や警察・検察の忙しさにも左右されます。交通事故では、数ヶ月どころが、数年間待たされるケースも珍しくはありません。
加害者も、被害者も、早く結果を出して欲しいと思うのは当然ですが、こればかりは仕方ない面があります。現実的な対処としては、せいぜい何ヶ月かに一回、担当検事に連絡をして進行度合いを確認しつつ、せっついてみるしかないでしょう。
あまりにも事件処理が遅い場合は、警察・検察が事件を放置してしまっている危険もあります。同じ人間のすることですから、このような事態も散見されるのです。
そのような懸念があるときは、弁護士に相談されることをお勧めします。
警察、検察に対して、処理状況と今後の見通しを正式に問い合わせてもらいましょう。
弁護士の問い合わせを、ひとつのきっかけとして、放置されていた事件処理が進行することは珍しくありません。
人身事故の起訴・不起訴をめぐる疑問について説明しました。交通事故事件について疑問点や不安がある方は、交通事故に強い弁護士の法律相談を利用して、心配を解消しましょう。