危険運転行為とは?定義や種類、基準、判例など一覧で解説

危険運転致死傷罪

「あおり運転」や「暴走」、「逆走」など、危険な運転をめぐる報道は跡を絶ちません。

交通事故の原因が、これら危険な運転行為にあるときは、たんなる過失犯として軽い処分を受けるのではなく、危険運転致死傷罪として、重く処罰されます。

この記事では、死傷事故を招く危険が高い6種類の危険運転行為とは何か、定義や種類、基準、判例などを具体的に解説します。

危険運転行為には6種類がある

類型的に死傷事故を招く危険が高い6種類の危険運転行為を定めています。

危険運転行為6種類
1 酩酊危険運転 アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為(2条1号)
2 高速度危険運転 その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為 (2条2号)
3 技能欠如危険運転 その進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させる行為(2条3号)
4 通行妨害目的危険運転 人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為(2条4号)
5 信号無視危険運転 赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為(2条5号)
6 通行禁止道路危険運転 通行禁止道路を進行し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為(2条6号)
「通行禁止道路」とは、道路標識若しくは道路標示により、又はその他法令の規定により自動車の通行が禁止されている道路又はその部分であって、これを通行することが人又は車に交通の危険を生じさせるものとして政令で定めるものをいう(自動車運転処罰法律施行令第2条参照)。

(1)酩酊危険運転とは(2条1号)

酒気帯び運転・酒酔い運転とは異なる

まず「酩酊危険運転」の前に、道路交通法違反となる「酒気帯び運転」や「酒酔い運転」の定義は以下のとおりです。

  • 「酒気帯び運転」・・・体内に一定量以上のアルコール(血中濃度0.3mg/mlまたは呼気濃度0.15mg/L以上)を保有して運転したことです(道路交通法65条1項・117条の2の2第3号・同施行令44条の3)。
  • 「酒酔い運転」・・・・アルコールの影響で正常な運転ができない「おそれがある状態で運転」したことです(道路交通法117条の2第1号)。

これらは、いずれも現実に正常な運転ができない状態であったか否かを問いません。

実際には、ハンドルやブレーキの操作が困難ではなくとも道路交通法違反が成立します。

しかし、酩酊危険運転はこういった意味とは少し異なります。

酩酊危険運転とは

「酩酊危険運転」では、アルコール又は薬物の影響による「正常な運転が困難な状態」であることが必要です。

現実に、前方注視が困難となったり、ハンドルやブレーキの操作などが困難となっていなければ酩酊危険運転とはなりません。

また、ここでいう薬物は、運転者の精神・身体に影響を及ぼす薬理作用のあるもので、覚醒剤、麻薬、合成麻薬、危険ドラッグ、シンナーなどの違法薬物に限らず「睡眠薬などの医薬品」も含まれます。

酩酊危険運転の「正常な運転が困難な状態」は、どう判断するのか?

飲酒した量、酩酊の状況が考慮されるのは当然として、それにとどまらず、事故に至る前の運転状況、事故態様、事故後の言動、アルコール検査の結果等を総合的に考慮して判断されます。

例えば、事故原因が前方不注視の事案では、弁護人から、アルコールの影響とは無関係な、たんなる脇見運転、よそ見運転による事故に過ぎないから酩酊危険運転ではないとの主張がなされます。

しかし、事故態様から見て、正常な状態ではあり得ない脇見やよそ見であれば、アルコールの影響と判断される傾向にあります。

裁判例

福岡市の「海の中道大橋」で、酒に酔って前方の車両に追突して海中に転落させ、子ども3名を溺死させた事件です(福岡海の中道大橋飲酒運転事故)。被告人は、脇見運転による事故に過ぎないと主張しました。

しかし、最高裁は、①「時速100キロで走行中なのに、約8秒間も前方を見ていなかった」か、または②「見ていても前方の車両を認識できなかった」かのどちらかが事故原因だとしました。

①②のどちらであっても、アルコールの影響で、危険を把握して対処できない状態だったことには変わりはありません。

そこで、最高裁は危険運転致死傷罪の成立を認めて被告人の上告を棄却し、懲役20年の刑が確定しました(※)。

最高裁平成23年10月31日判決

裁判例

直線道路を走行中、スマートフォンの操作に気をとられて歩行者に気づかないまま衝突して死傷させた事案です。

裁判所は、時速50~60キロで走行中に15秒ないし20秒程度ものあいだ下を向き続けるという危険極まりない行為は、よそ見というレベルを超えており、正常であれば考えられない運転態様であるから、アルコールの影響による正常な運転が困難な状態だったとしました(※)

※札幌高裁平成27年12月8日判決・(刑事法ジャーナル第60号・5頁)

(2)高速度危険運転(2条2号)

高速度危険運転とは

次に、高速度危険運転です。進行を制御することが困難な高速度で運転することです。

これは、簡単に言うと、交通状況・道路状況に応じて適切に進行をコントロールすることが困難なほど早い速度です。

例えば、ハンドル操作の一瞬のミスで対向車線に飛び出してしまうような速度をイメージしてください。

何キロからが「高速度」なのか?裁判例

適切にコントロールできる速度か否かは、そのときの道路状況、交通状況によって異なりますから、時速何キロならこれに該当するのかを一律に決めておくことはできません。

道路の形状(直線かカーブか等)、路面の状況(舗装道路か泥道か、濡れた路面か等)、車両の構造や性能、荷物の積載状況など具体的な事情をもとに判断されます。

裁判例

一般道であるにもかかわらず、カーブのある下り坂を約150キロで走行し、道路脇の樹木などに激突して同乗者を死亡させた事件で高速度危険運転を認めました(金沢地裁平成14年9月25日判決・判例タイムズ1123号283頁)。

 

高速度危険運転が否定される例とは

類型的に死傷の結果を招来する運転行為から結果が生じた場合に重く処罰するものですから、死傷の結果は、運転行為の危険性が現実化したものである必要があります。

たとえスピード違反がある死傷事故でも、スピード故の制御困難に起因していなければ、高速度危険運転は成立しません。

裁判例

制限速度50キロの直線道路を70キロ超で進行中、右に急ハンドルを切ったために車体を滑走させて事故となった事案で、車内で流していた音楽のリズムに合わせて急ハンドルを切るという不適切なハンドル操作が事故原因であり、速度が速すぎた故の事故ではないとして、高速度危険運転致死傷罪を否定しました(東京地裁平成24年11月16日判決・刑事法ジャーナル第60号6頁)

(3)技能欠如危険運転(2条3号)

技能欠如危険運転とは、「進行を制御する技能を有しない」とは、ハンドル操作、ブレーキ操作など初歩的な技能すらない、非常に未熟な運転技量しかないことです。

そのような技能の有無は、運転免許の有無、運転経験、実際の運転状況などから判断されます。

無免許であっても運転する十分な技能がある場合はありますから、無免許運転だから必ず技能欠如危険運転となるわけではありません

運転免許の有無は、あくまで判断材料のひとつです。

(4)通行妨害目的危険運転(2条4号)

通行妨害目的危険運転とは、「幅寄せ行為」、「割り込み行為」、「あおり行為(追い上げ行為)」など重大な死傷事故につながる行為を重く処罰するものです。

危険運転となる要件は次の3点です。

  • ①人または車の通行を妨害する目的があること
  • ②通行中の人または車に著しく接近すること(走行中の自動車の直前に進入することは、そのひとつの例示です)
  • ③重大な交通の危険を生じさせる速度であること

重大な交通の危険を生じさせる速度とは、道路状況、交通状況、相手方が人か車か等によって異なります。

また、必ずしも高速である必要はなく、 20~30キロであればこれに当たると理解されています。

裁判例

被害者のオートバイを追い越して停止させる目的で、四輪車で時速70キロでオートバイの後方に接近したところ、驚いた被害者が運転操作を誤るなどして全治3ヶ月の傷害を負った事案で、裁判所は、上記の3要件を満たすと評価し、通行妨害目的危険運転罪で懲役2年と判示しました(※)

横浜地裁横須賀支部平成15年7月8日判決

(5)信号無視危険運転(2条5号)

信号無視危険運転とは、「赤色信号又はこれに相当する信号*を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為」です。

*赤信号に「相当する信号」とは、警察官の手信号などです(道路交通法第6条1項、同施行令第4条)。

「殊更に無視する」行為が対象なので、信号が切り替わる間際で、「赤かもしれない」と思っているだけのとき(未必的な認識)は含まれません。

ただし、そもそも信号が何色であっても、そのルール自体に従うつもりがないために、信号の表示を意に介さずに走行する場合は、赤色であると認識していなくても、「殊更無視する」に該当します(※)。

最高裁平成20年10月16日決定

「重大な交通の危険を生じさせる速度」が必要なことは、通行妨害目的危険運転の場合と同じです。

どの程度の速度が必要かは、具体的な状況によります。

例えば、交差点で先行車両が信号待ちをしているときに、その後方から対向車線にはみ出して交差点に進入する場合は、たとえ時速20キロであっても危険速度に当たります。

何故なら青信号で交差点に向かってくる対向車両は相当のスピードと予想されますから、低速であっても危険性は大きいからです(※)。

最高裁平成18年3月14日決定

(6)通行禁止道路危険運転(2条6号)

通行禁止道路危険運転とは、「通行禁止道路を進行し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為」です。

通行禁止道路は政令(自動車運転処罰法律施行令第2条)で定められています。

例えば、車両通行止め道路、自転車専用道路、歩行者専用道路、一方歩通行道路、安全地帯などです。

ここでも「危険速度」が要件となります。

まとめ

危険運転行為の定義や種類、基準、判例などを解説しました。

危険運転致死傷罪に問われれば、重く処罰されます。

交通事故を起こしてしまったときは、できるだけ早く、弁護士に相談されることをお勧めします。

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