人身事故の示談交渉|流れと支払いまでの日数・期間は?自分で示談書作るべき?
人身事故の示談交渉の流れから、示談までの日数、示談から支払いまでの期間、もらい事故や長引く示談を有利に進めるためのポ…[続きを読む]
現在は保険会社が示談交渉を行うようになったため、あまり聞くことがなくなりなりましたが、いまだに交通事故において「示談屋(事件屋)」という職業が存在します。
示談屋は弁護士とは異なり、法的知識によって示談交渉をするのではなく「圧力や強迫」によって相手を屈服させているだけです。
それ以上に問題なのは、関わり合いになると交通事故以外のトラブルに巻き込まれてしまう場合があることです。
今回は、下記のようなお悩みでお困りの方に、示談屋に巻き込まれた場合の対処法を解説します。
また、交通事故における示談とは何か?に関しては、下記の記事で詳しく解説しておりますので併せてご参照ください。
示談屋とは、無資格であるにもかかわらず、被害者や加害者本人に代わって交通事故の示談交渉を行ったり、債権者に代わって債権の取り立てを行ったりすることで金銭を稼ぐ者です。
事件屋とも呼ばれます。
示談屋は違法な商売です。弁護士資格のない者が、報酬を得る目的で、代理や和解などの法律事務を業として行うことは弁護士法72条で禁止されており、違反には2年以下の懲役又は300万円以下の罰金が科せられます。
弁護士資格がない者が行う違法活動を「非弁行為」、「非弁活動」と言います。
弁護士法72条 非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止
弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。
示談屋の特徴として以下の3点が挙げられます。1つづ解説しましょう。
示談屋は違法な商売ですから、自分から示談屋とは名乗りません。大抵は、ほかの職業を有しています。金融業、自動車修理業、不動産業、保険代理業、経営コンサルタントなどの表の顔を持っているケースや、政治結社、総会屋、ヤクザ・暴力団組員など裏家業のひとつとして示談屋を行っているケースもあります。
示談屋は、弁護士法に違反していると言われないように、無料奉仕の慈善事業だと吹聴することがあります。報酬を得る目的がなければ、弁護士法違反にはならないからです。しかし、実際には、後で多額の報酬を請求してきます。
示談屋は、無報酬であることを強調するために、示談交渉の相手方に対しては、当事者の親戚、友人、上司であるなどと嘘の説明をして、人助けをしている体をつくろうことがあります。
では、もし示談屋に依頼してしまった場合、どのようなリスクがあるのでしょうか?
以下に、示談屋に依頼するデメリットをまとめてみました。いかにデメリットが多いかお分かりいただけると思います。
示談屋が無料奉仕をするはずがありません。示談金が入った段階で、必ず金銭を請求します。その金額は、被害者が獲得した示談金の50%から70%にも及ぶといわれています。暴利と言わざるを得ません。
実際、2008年、福岡県久留米市で交通事故の示談を仲介して報酬を得た者が逮捕される事件があり、被害者に支払われる保険金の半分が報酬となっていたと福岡県弁護士会のホームページ※で報告されています。
また示談屋は、報酬を請求することが違法であることを知っていますから、「報酬」という言葉を使わず、「協力金」、「寄付金」、「会費」などの名目で金銭を要求します。どのような名目を使おうと、違法な報酬請求であることには変わりありません。
※福岡県弁護士会のホームページ 『「示談屋」「事件屋」に注意を』 2010年10月15日
金銭の支払いを断ると、示談屋は本性をあらわします。報酬請求が違法であることを指摘してやると、「頼んだあんたも共犯で捕まってもいいのか」と凄みます。
示談屋は、違法に報酬を得ることだけが目的ですので、きちんとした示談交渉は行いません。
交通事故の事故態様を詳しく調べて過失割合を検討したり、過去の裁判例を検索したりなどの弁護士であれば当然に行う基本的な調査も行いません。
自分が早く報酬を得られることだけを優先して話をまとめてしまいますので、本来受け取れたはずの賠償金を受け取れません。
引き受けた交通事故に、複雑な法律問題が絡んだり、当事者の主張する事実に大きな争いがあることが判明した場合には、示談屋の力では解決できないため、示談屋は簡単に事件を投げ出してしまいます。
示談屋は、交渉がうまく行かない場合に、相手を脅迫して強引に示談書に判を押させる場合があります。相手が警察に訴えるなどすれば、刑事事件となり、依頼した者も事件に巻き込まれる危険があります。
このように示談屋にはリスクしかありませんので、もしもあなたがすでに示談屋に依頼をしてしまった場合、早急に手を切る必要があります。
示談屋が交渉を担当することそれ自体が違法行為ですから、示談屋がでてきた段階で、絶対に相手をせず、直ちに110番通報するか、最寄りの警察署に相談に行ってください。
その上で示談屋ではなく、示談屋を依頼した事故の相手方に対して、警察に通報した事実を連絡してください。これだけで示談屋は、もう顔を出さなくなります。
示談屋との間で報酬の約束など委任契約を交わしていても、民法90条の公序良俗に違反するものとして当然に無効です(最高裁昭和38年6月13日判決)。
ただ、交通事故の関係書類や委任状などを渡してしまっている場合、取り戻しておくべきです。示談屋が素直に返還に応じない場合は、弁護士に相談するべきでしょう。
交通事故の相手方が示談屋に依頼をしたため、示談屋と交渉を始めたところ、相手の有利な示談書にサインしないと、「今後、夜道を歩けなくなるかも知れないよ」と脅された場合、どのように対処したら良いのでしょうか?
「今後、夜道を歩けなくなるかも知れないよ」と脅されたことは刑法222条の脅迫罪に該当しますから、刑事事件として被害届を出したり、告訴することも可能です。
示談屋から脅されて示談書にサインしてしまった場合は、民法96条を根拠に強迫を理由として示談を取り消すことが可能です。
事故の相手方に対して、内容証明郵便で示談を取り消すことを伝える必要があります。書面の書き方などは、弁護士に相談してアドバイスを受けることが無難です。
示談屋との交渉のうえ、示談書にサインをしたけれど、格別、脅かされはしなかったという場合は、その示談書は有効でしょうか?
では示談書の有効性はどうでしょう。この点、最近、最高裁が示談を有効とする注目すべき判断を示していますので紹介します。
法務大臣の認定を受けた認定司法書士は140万円以下の金額の法律事務を扱うことができますが、140万円を超える金額の事件を扱うことは弁護士法に違反し、違法となります。
その認定司法書士が弁護士法72条に違反して140万円を超える過払い金返還請求事件の示談(和解)を担当した場合の示談の効力が問題となりました。
最高裁は、司法書士と依頼者との委任契約は公序良俗違反で無効となるが、司法書士が行った相手との示談それ自体は、特段の事情がない限りは無効とはならないと判示しました(最高裁平成29年7月24日判決)。
特段の事情とは、示談の内容や示談締結に至る経緯などが公序良俗違反といえる事情がある場合です。
もっとも、この事案は、司法書士による場合なので、示談屋のケースも同じ判断となるとまでは言えません。ですので、脅されなかったが示談屋を相手に示談をしてしまい、内容に不満が残っているという方は、弁護士に相談してみる価値がありそうです。
示談屋には近づいてはいけません。交通事故の示談交渉を担当できるのは弁護士(140万円以下の場合の認定司法書士を含む)だけです。
交通事故の示談は、引き受ける事件に制限のない弁護士に相談されることが最もお勧めです。
どういう交通事故弁護士に相談したらわからない、という方は、下記の記事をご参考ください。