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交通事故は体に非常に強い衝撃が加わるため、体の表面の傷や骨などへの異常のほか、脾臓、肝臓、腎臓などの内臓が出血をしたり、また激しく損傷するケースもあります。
内臓損傷の場合、日常生活や就労に制限がかかります。そのため、適正な損害賠償請求が不可欠になってきます。
では、このような場合における慰謝料・損害賠償請求においては、どのような点に注意すればよいのでしょうか。
ここでは、交通事故で内臓、特に「脾臓」「肝臓」「腎臓」に損傷を受けた場合の後遺障害等級や後遺障害慰謝料について解説します。
目次
脾臓の認定基準では、「脾臓を失ったものは、第13級11号とする」とされています。
等級 | 後遺障害の内容 |
---|---|
13級11号 | 胸腹部臓器の機能に障害を残すもの |
脾臓は血球やリンパ球(白血球のひとつ)を生産し、血中の異物を処理するなど、人体の免疫機能に深く関係する働きをする内臓です。
損傷した脾臓の温存治療は困難なことが多い反面、これを失っても体への影響は軽微なので、損傷した脾臓は摘出となります。
脾臓を摘出した場合、免疫機能が一定程度低下することは否定できず、細菌、特に肺炎球菌・髄膜炎菌・インフルエンザ菌による感染症や敗血症などに罹患しやすくなります。
交通事故で損傷した脾臓を摘出した場合、免疫機能の低下により感染症や敗血症などに罹患しやすくなることがあるので、これを機能障害と評価するのです。
交通事故での出血・受傷を治療する過程で、輸血などによって、ウィルスに感染してしまうことがあります。
そして結果的に、肝炎や肝硬変となって肝機能が低下してしまうケースがあります。肝炎はほとんど自覚症状はありません。
また、肝炎が進んで肝硬変に至ると、食欲不振や身体のだるさが現れ、悪化すれば、黄疸、浮腫、意識障害が生じ、命に関わります。
交通事故による肝臓の後遺障害について、次の認定基準が設けられています。
肝臓の後遺障害認定基準
※1 持続感染:慢性的な感染の継続をいいう
※2 AST、ALT:肝細胞に含まれる酵素
慢性肝炎は、11級10号に該当します。自賠責保険の後遺障害の内容は、以下の通りです。
等級 | 後遺障害の内容 |
---|---|
11級10号 | 胸腹部臓器の機能に障害を残し、労務の遂行に相当な程度の支障があるもの |
特に、交通事故との関連で注目すべき疾患はC型肝炎です。C型肝炎ウイルスに感染し、その後の医療行為などによって発症し、慢性肝炎に進行します。
C型慢性肝炎は通常症状がほとんど現れないため、治療の必要性を評価する際には肝機能検査の数値(AST、ALTなど)が重要です。ASTとALTは、肝臓の細胞内に存在する酵素であり、肝臓細胞が損傷すると血液中に放出されます。
これらの数値に基づいて、肝臓の細胞損傷の程度を判断します。
ASTとALTの値が持続的に基準値を超えている場合、治療が必要であり、症状固定されることはなく、後遺障害として扱われることはありません。
ASTの基準値 | 13~33IU/L | |
---|---|---|
ALTの基準値 | 男性の場合 | 8~42IU/L |
女性の場合 | 6~27IU/L |
他方、AST、ALTの数値が、持続的に基準値内に収まっている場合であっても、炎症の再燃を防止するという観点からは、極端な肉体労働は避けるべきとされています。
そこで、この場合を肝臓の機能障害として「労務の遂行に相当な程度の支障があるもの」(11級10号)とするのです。
等級 | 後遺障害の内容 |
---|---|
9級11号 | 胸腹部臓器の機能に障害を残し、労務の遂行に相当な程度の支障があるもの |
肝硬変です。肝臓の血流が妨げられ、意識障害、黄疸、腹水など様々な合併症を引き起こします。
合併症を引き起こすに至った段階を「非代償性肝硬変」、目立った症状が出ていない段階を「代償性肝硬変」といいいます。
非代償性肝硬変は進行性であり、積極的な治療を必要としますので、後遺障害ではありません。
代償性肝硬変は、通常、慢性肝炎と同様に自覚症状は生じないものの、慢性肝炎よりも肝機能の低下は明らかであり、極端な肉体労働にとどまらず、肉体的疲労を伴う一定強度以上の作業への従事は避けるべきとされています。
そこで、代償性肝硬変は、慢性肝炎と同じ認定基準で、より高い9級11号(服することができる労務が相当な程度に制限されるもの)に該当するとされているのです。
以下のように、裁判を行うことで等級が大きくアップするケースもあります。
なお、内臓の後遺障害等級表と認定基準は、2006(平成18)年に改定され、大幅に内容が変更されました。現行の基準は、同年4月1日以降の事故に適用されます。
以下、現行の等級と認定基準について説明していますが、いまだ裁判例の集積が不十分なので、肝臓の裁判例については旧基準時代のものを紹介しているため、あらかじめご了承ください。
交通事故とC型肝炎との因果関係を認めた裁判例
岡山地裁 平成10年3月26日判決
被害者は公務員男性36歳です。
事故で内臓破裂(肝臓)、膵臓及び腎臓損傷、肺損傷、肋骨骨折などの重大な傷害を受け、手術中の輸血によりC型肝炎に罹患し、自自賠責保険により、慢性肝炎7級(平成18年3月31日以前の基準)、他の障害を合わせて併合6級と認定されました。
この事件では、そもそもC型肝炎と交通事故の間に因果関係があるのか否かが争いとなりました。
裁判所は、
以上のことから、交通事故との因果関係を認めました。
そのうえで、労働能力喪失率を公務員としての定年前は10%、定年後は35%と分けて認定しました。
被害者には疲れやすいなどの症状があるが、定年前の公務員であることから大幅な収入減とはならない反面、定年後は再就職先が限られ、健全な者よりも労働能力が劣ると考えられることを理由とします。
また、この裁判例では、後遺障害慰謝料600万円も認められています。
(交通事故民事裁判例集31巻2号)
交通事故で腎臓を損傷した場合、腎機能が低下しますが、それが回復せず、数ヶ月から数十年かけて徐々に低下してゆく場合があります。これが慢性腎不全です。
腎臓については、前述した慢性腎不全(腎機能の低下)が機能障害として後遺障害等級認定の対象となります。
腎臓は余力が大きく、腎機能が50%程度低下しても、あまり症状が現れません。加えて、片方の腎臓を失っても、残りの腎臓が肥大して補うことができます。
このため、片方の腎臓を失っても、それだけでは特段の症状は現れませんが、残りの腎臓に負担がかかることによって腎機能の低下を来しやすくなることは医学的に明らかとされています。
そこで、片方の腎臓を失った場合には、それだけでひとつの欠損障害として後遺障害を認めると共に、具体的な腎機能の低下がある場合は、腎臓の欠損がない場合よりも重い等級が設定されているのです。
腎臓の後遺障害認定基準
腎臓の障害に関する障害等級は、腎臓の亡失の有無及び糸球体濾過値(GFR(※))による腎機能の低下の程度によって認定すること
※「GFR」:糸球体濾過値
糸球体とは血液が濾過されて尿ができる部位であり、糸球体濾過値は、腎臓が老廃物を尿にして排泄する能力を示す数値で、数字が低いほど、機能が低下していることを示す。
腎臓を失っていない場合 | |
---|---|
GFRの値(毎分) | 等級 |
30ml超50ml以下 | 9級11号 |
50ml超70ml以下 | 11級10号 |
70ml超90ml以下 | 13級11号 |
片方の腎臓を失った場合 | |
---|---|
GFRの値(毎分) | 等級 |
30ml超50ml以下 | 7級5号 |
50ml超70ml以下 | 9級11号 |
70ml超90ml以下 | 11級10号 |
90ml超 | 13級11号 |
GFRが30ml以下の場合は透析の準備が必要であり、積極的な治療を要するので、後遺障害には該当しません。
ここまで解説してきた各部位の後遺障害慰謝料の相場を次にまとめました。もちろん、これらの数字はあくまで相場であり、個別の慰謝料は、事故態様や被害者の事情などを鑑み個々に決定されます。
適正な慰謝料を獲得するには、被害者の個別の事情をできるだけ詳細に立証・主張することができるかによると言っていいでしょう。
脾臓を失った場合(13級11号)の後遺障害慰謝料の相場は、以下の通りです。
等級 | 後遺障害慰謝料 | ||
---|---|---|---|
自賠責基準 | 任意保険基準 | 弁護士基準 | |
13級 | 57万円 | 60万円 | 180万円 |
慢性肝炎(11級10号)と肝硬変(9級11号)、後遺障害慰謝料の相場は以下の通りです。
等級 | 後遺障害慰謝料 | ||
---|---|---|---|
自賠責基準 | 任意保険基準 | 弁護士基準 | |
9級 | 245万円 | 300万円 | 690万円 |
11級 | 135万円 | 150万円 | 420万円 |
腎臓の後遺障害等級は、前述のとおり、その内容、程度により、7級、9級、11級、13級に分類されます。それぞれの後遺障害慰謝料の相場は以下の通りです。
等級 | 後遺障害慰謝料 | ||
---|---|---|---|
自賠責基準 | 任意保険基準 | 弁護士基準 | |
7級 | 409万円 | 500万円 | 1000万円 |
9級 | 245万円 | 300万円 | 690万円 |
11級 | 135万円 | 150万円 | 420万円 |
13級 | 57万円 | 60万円 | 180万円 |
逸失利益については、損傷した部位によって計算方法に相違があるわけではありません。どの部位の損傷についても以下の計算式で求めることができます。
労働能力喪失率については、後遺障害等級ごとに定められています。
損傷した部位別に労働能力喪失率をまとめると以下のようになります。
等級 | 労働能力喪失率 |
---|---|
13級 | 9% |
等級 | 労働能力喪失率 |
---|---|
9級 | 35% |
11級 | 20% |
等級 | 労働能力喪失率 |
---|---|
7級 | 56% |
9級 | 35% |
11級 | 20% |
13級 | 9% |
被害者は、将来必要な逸失利益の給付を一括して前倒しで受けることになり、必要な時点に達した時までに利息が発生していることになります。ライプニッツ係数は、その利息(中間利息という)を控除するために用いられるものです。
「被害者の就労可能年数に応じたライプニッツ係数」は、以下の国土交通省のサイトの一覧表で確認することができます。
参考外部サイト:国土交通省「就労可能年数とライプニッツ係数表」
では、実際に逸失利益の計算をしてみましょう。
腎臓の後遺障害で7級の後遺障害認定を受けた35歳で年収500万円の被害者の場合です。
被害者の年収:500万円
被害者の年齢:35歳
被害者のライプニッツ係数:15.803
後遺障害等級:7級
7級の労働能力喪失率:56%
500万円 × 56% × 被害者のライプニッツ係数(15.803)= 4424万8400円
詳しくは、以下の自動計算機でも計算できるのでぜひご利用ください。
ここまで、内臓損傷の後遺障害慰謝料や逸失利益について解説してきましたが、以下に各臓器の損傷における裁判例を参考までにご紹介します。
なお、内臓の後遺障害等級表と認定基準は、2006(平成18)年に改定され、大幅に内容が変更されました。現行の基準は、同年4月1日以降の事故に適用されます。この記事では、現行の等級と認定基準について説明していますが、いまだ裁判例の集積が不十分なので、脾臓の裁判例については旧基準時代のものを紹介しています。
女児の労働能力喪失を認めた裁判例
横浜地裁川崎支部 平成28年5月31日判決
被害者は女児(症状固定時3歳)。
事故により左腎臓の機能は完全に失われ、自賠責保険から13級11号の等級認定を受けました。
この裁判では、主に次の点が争いとなりました。
しかし、裁判所は主に次の理由から逸失利益を認めました。
裁判所は等級表どおり9%の労働能力喪失率を認め、全労働者の平均賃金(賃金センサス男女計学歴計全年齢平均)をもとに、逸失利益370万1249円を認めました。
(交通事故民事裁判例集49巻3号682頁)
なお、この裁判では、後遺障害慰謝料についても、13級の弁護士基準180万円を超える230万円が認められ、入通院慰謝料約120万円や治療費約360万円その他も合わせると、総額約1200万円の賠償額となっています。
脾臓摘出の裁判例
横浜地裁 平成19年3月29日判決
被害者は男子大学生18歳です。
脾臓摘出で自賠責保険から8級(平成18年3月31日以前の基準(※))と認定されました。
脾臓を失ったことにより免疫力が低下し、風邪にかかりやすい、疲れやすいなどの事情から、労働能力喪失率30%を認めました。
この裁判例では、後遺障害慰謝料830万円も認められています。
(自保ジャーナル1704号)
この裁判例では、再発の可能性を考慮しつつも、労働能力喪失については、30%としました。
肝臓、腎臓については後遺障害等級の認定は、検査数値に左右されるので、検査の信頼性、記載された結果の正確性が重要です。
これらを被害者本人がチェックすることは事実上難しいですが、交通事故事件の経験が豊富で、関係する医学的知識も備えている弁護士であれば、不自然、不合理な数値を発見することも可能です。
また認定された後遺障害等級に不服があり訴訟で争う場合には、代理人となった弁護士が、検査数値だけでなく、被害者の生活状況、仕事の内容、症状が労務に与えている具体的な支障内容などの詳細な主張、立証を行うことで、より高い後遺障害等級、逸失利益、慰謝料を裁判所に認めてもらえる可能性があります。
参考サイト:厚労省「胸腹部臓器の障害認定に関する専門検討会報告書」・「脾臓について」日本消化器外科学会・「肝臓について」日本消化器外科学会・「腎臓を守るために」原著Sanjay Pandya 監訳横尾隆(東京慈恵会医科大学教授)