交通事故後から顎が痛い!顎関節症は後遺障害等級認定されるのか?

交通事故後、口をあけると痛みが走る、口が開かない、顎から変な音がする、さらには頭痛、首、肩の痛みなどの症状が生じたときは、顎関節症かもしれません。

しかし、顎関節症と診断されたからといって直ちに後遺障害等級認定を受けられるわけではありません。特に、症状が顎の痛みの場合は注意が必要です。

顎関節症の後遺障害認定と認定された場合の慰謝料などについて解説します。

1.顎関節症の症状と原因

1-1.顎関節症とは?

顎関節症とは、次の3種類の症状を代表的な症状とする障害を包括した診断名です。

①あごの痛み
②口が開かない
③あごを動かすと音がする(カクカク、コキコキ、ゴリゴリ、ザラザラなど)

食事や会話といった日常生活に大きな支障を生じる症状です。

この3つの症状のうち、少なくとも1つの症状があり、しかもこれらと同じ症状が生じる他の病気にはかかっていないと判断されたときに顎関節症という診断名が与えられます。

1-2.顎関節症の原因は?

では、この3つの主症状をもたらしている原因は何でしょうか。

①痛みの主な原因
・顎を動かす筋肉(咀嚼筋)が痛む場合……神経障害が疑われる
・顎関節が痛む場合……炎症が疑われる
これら以外にも心因性、原因不明な突発性のものがあります。

②口が開かない主な原因
・関節円板という顎関節の骨と骨の間にあるクッションの役割をしている組織にずれが生じて関節の動きを妨げているケース
・そもそも痛みのために口を開けることができないケース
・痛みのために口を大きく開けない状態が続いたため、顎関節や咀嚼筋の運動範囲が制限されてしまったケース

③あごを動かすと音がする主な原因
・関節円板がズレているために、顎が動いたときに引っかかって音がするケース
・顎関節を構成する骨の形が変化してしまい(変形性顎関節症)、こすれるような音がするケースなど。

参照サイト:一般社団法人日本顎関節学会の㏋

1-3.顎関節症となるきっかけは?

どのようなきっかけで顎関節症となるのか、その理由には様々なものがあるとされています。生まれつき顎関節が弱い、歯のかみ合わせの悪さ、歯ぎしり、ほおづえ、パソコン作業、仕事や対人関係のストレス、精神的不安感などです(※1、※2)。

そのひとつに交通事故があります。外来性の外傷、すなわち外部からの「顎頭蓋部への強打」によって、顎関節部分が損傷や炎症を起こし、顎関節痛障害が引き起こされるのです(※3)。

また前述のとおり、痛みの原因となりうるものは炎症だけでなく、神経障害の可能性もあります。さらに、痛みから口を開けることができなくなるケースもあります。

このように交通事故による外傷を起点として、顎関節症の発症に至る可能性があるのです。ただ注意していただきたいのは、顎関節症という分野は、まだ国際的にも国内的にも研究途上の分野であるという点です。ここでの顎関節症の説明も、今後変化してゆく可能性がある流動的なものと理解してください(※4)。

また、最初に説明しましたように、顎関節症の3つの症状は代表的な症状に過ぎません。その他の症状として、

  • 頭痛
  • 頸部
  • 肩部の痛みやこり
  • 耳の痛み
  • 耳鳴り
  • 耳が詰まった感じ
  • 難聴
  • めまい
  • 舌の痛み
  • 味覚の異常
  • 目の疲れ
  • 口の乾燥感

などがあるとされています(※5)。

※1「顎関節症治療の指針 2018」一般社団法人日本顎関節学会編、7頁
※2 神戸大学医学部附属病院のHP
※3 前出「顎関節症治療の指針 2018」10頁
※4 一般社団法人日本顎関節学会でも「我が国では,顎関節症の臨床における統一された診察,検査,診断,治療についての明確な指針が示されていないため,顎関節症患者の増加にもかかわらず,共通の適切な認識に基づいた治療を実施できる一般臨床歯科医師が少ないのが現状である」(前出「顎関節症治療の指針 2018」2頁)としています。
※5 東京医科歯科大学大学院・医歯学総合研究科・口腔顔面痛制御学分野のHP

2.顎関節症は後遺障害認定を受けられる?

2-1.後遺障害等級認定を受けるには、個別の症状の検討が必要

最初に説明したとおり、顎関節症とは複数の症状を総称した診断名に過ぎませんから、それ自体が後遺障害等級認定の対象となるものではありません。後遺障害等級認定の対象となるのは、残ってしまったひとつひとつの症状です。

したがって顎関節症と診断されただけでは、後遺障害等級に該当するかどうかを判断することはできません。個別の症状を検討する必要があります。

顎関節症の主要な以下3つの症状について後遺障害等級の可能性を個別に検討します。

  • 口が開かない症状
  • 顎が痛い症状
  • あごを動かすと音がする症状

2-2.口が開かない症状

口が開かない症状が固定してしまった場合は、その程度に応じて、第1級から第12級(相当)の7段階の等級認定がなされる可能性があります。

後遺障害等級後遺障害の内容
第1級2号咀嚼及び言語の機能を廃したもの
第3級2号咀嚼又は言語の機能を廃したもの
第4級2号咀嚼及び言語の機能に著しい障害を残すもの
第6級2号咀嚼又は言語の機能に著しい障害を残すもの
第9級2号咀嚼及び言語の機能に障害を残すもの
第10級2号咀嚼又は言語の機能に障害を残すもの
第12級相当開口障害などを原因として咀嚼に相当時間を要するもの

各等級について、ここで詳細な説明をする紙幅はありませんが、咀嚼障害についてポイントだけ述べます。

「咀嚼の機能を廃した」とは、流動食しか食べられない場合です。

「咀嚼の機能に著しい障害」とは、粥食又はこれに準ずる程度の飲食物しか口にできない場合です。

「咀嚼の機能に障害を残す」とは、固形物の中に噛めないものや十分には噛めないものがある場合です。例えば、煮魚は噛めるがタクアンは無理というようなケースです。

「咀嚼に相当時間を要する」とは、噛めるけれど相当な時間がかかる食物があるという場合です。

2-3.顎が痛い症状

顎が痛い症状が固定してしまった場合は、その程度に応じて、第12級か第14級の等級認定がなされる可能性があります。

第12級13号「局部に頑固な神経症状を残すもの」
第14級9号「局部に神経症状を残すもの」

12級と14級の区別は、自覚症状のみの場合(14級)か、他覚症状がある場合(12級)かによります。この点は、後述します。

2-4.あごを動かすと音がする症状

残念ながら、音がする症状は後遺障害と認められません。裁判例では、開口時に雑音、クリック音が認められるケースで、音がすることが咀嚼機能に支障を及ぼすとは認めがたいとしたものがあります(※6)。

※6 大阪地裁平成5年5月18日判決「後遺障害等級認定と裁判実務」弁護士高野真人編著・新日本法規発行・376頁

3.顎関節症で後遺障害認定を受けるためにすべきこと

3-1.顎の痛みの症状で認定を受けるには注意が必要!

後遺障害の内容が咀嚼障害、言語機能障害である場合は、交通事故による外傷との因果関係の明瞭さに問題はないでしょう。

しかし、痛みの症状が後遺障害である場合は、他覚的所見があるか(12級)、それがなく自覚症状だけでも医学的に説明がつく場合(14級)であることが必要です。

他覚的所見は、レントゲンやMRIの画像があれば望ましいところですが、画像がない場合でも、医学的知識から症状の存在を医師が確認できるならば他覚的症状があると言えます。

医学的に説明がつかない場合とは次のような場合です。
(1)事故が軽い接触事故に過ぎず、身体的な痛みが生じることが常識的にもありえないケース。
(2)事故と初診の間に長期間が経過しているケース。
(3)治療の途中であるにもかかわらず、症状の悪化や新症状の出現するケース。
(4)治療を途中で中断しているケース。

上の(2)ないし(4)は、症状の連続性、一貫性を欠くので、医学的に説明がつかないとされます。事故による受傷は程度の差はあれ、事故直後が最も症状が重く、治療の経過とともに症状が軽くなります。ところが(2)ないし(4)は、この通常の治癒経過と異なっているため医学的に説明がつかないと評価されるのです。

したがって、事故に遭ってしまったら、期間をおかずに医療機関に受診し、定期的な通院を心がけるべきです。

3-2.適正な認定を受けるためには弁護士による被害者請求を!

また適正な後遺障害等級認定を受けるためには、認定の申請を加害者側の保険会社にまかせてしまう「事前認定」によるべきではありません。被害者側で資料を集めて自賠責保険に等級認定を申請する「被害者請求」を利用するべきです。

ただ、この手続には手間がかかり被害者には重い負担となってしまいます。そこで弁護士に被害者請求手続きの代理人を依頼することがベストな選択です。

弁護士に依頼をすれば、後遺障害等級認定の後に最終的な損害賠償額を決める保険会社との示談交渉においても、保険会社が提示する水準の金額よりも高額な弁護士基準(裁判基準)による損害賠償金を得られる可能性が高いのです。

では、最後に後遺障害等級認定が認められた場合に獲得できる後遺障害慰謝料と逸失利益についてまとめておきます。

4.顎関節症の後遺障害慰謝料と逸失利益

顎関節症に見られる各症状が、前述のような後遺障害等級に該当する場合は、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益の損害賠償請求を行うことができます。

3-1.後遺障害慰謝料

後遺障害慰謝料は、後遺障害が残ってしまったことによる精神的な損害を補償するもので、後遺障害の程度に応じて目安となる金額が基準化されています(弁護士基準又は裁判基準)。なお弁護士基準は、示談交渉において保険会社が提示する賠償額(保険会社基準)よりも高額です。

3-2.後遺障害逸失利益

後遺障害逸失利益は、後遺障害がなければ得られたであろう将来の収入です。後遺障害によって働く力が失われたと考え、その失われた割合が後遺障害の程度に応じて基準化されています(労働能力喪失率)。

後遺障害逸失利益の計算方法について詳しく説明する紙幅はありませんが、計算式をあげておきます。

逸失利益=年収額×労働能力喪失率×被害者の年齢に応じたライプニッツ係数

被害者の年齢に応じたライプニッツ係数」は、国土交通省のサイトで調べることができます。

3-3.後遺障害慰謝料(弁護士基準)と労働能力喪失率

以下に各等級の後遺障害慰謝料(弁護士基準)と後遺障害逸失利益の算定根拠となる労働能力喪失率をあげておきます。

後遺障害等級後遺障害の内容後遺障害慰謝料
(弁護士基準)
労働能力喪失率
第1級2号咀嚼及び言語の機能を廃したもの2800万円100%
第3級2号咀嚼又は言語の機能を廃したもの1990万円100%
第4級2号咀嚼及び言語の機能に著しい障害を残すもの1670万円92%
第6級2号咀嚼又は言語の機能に著しい障害を残すもの1180万円67%
第9級2号咀嚼及び言語の機能に障害を残すもの690万円35%
第10級2号咀嚼又は言語の機能に障害を残すもの550万円27%
第12級相当
第12級13号
開口障害などを原因として咀嚼に相当時間を要するもの
局部に頑固な神経症状を残すもの
290万円14%
第14級9号局部に神経症状を残すもの110万円5%

3-4.後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益の計算例

上記の計算式、労働能力喪失率、後遺障害慰謝料の弁護士基準を使って後遺障害の賠償額を計算してみましょう。

年収500万円、年齢28歳、後遺障害等級10級(喪失率27%)の場合、被害者のライプニッツ係数は、17.017です。

逸失利益=500万円×27%×17.017=2297万2950円(A)
後遺障害慰謝料550万円(B)
(A)+(B)=2847万2950円

これが後遺障害の賠償額となります。
ただし、交通事故の損害賠償はこれだけにとどまりません。これ以外にも治療費、入通院慰謝料、入通院交通費、休業損害などの損害賠償も請求できます。

まとめ

顎関節症と後遺障害について説明しました。顎関節症と診断されたからといって、直ちに後遺障害等級に結びつくものではないことをおわかりいただけたと思います。
顎関節症と診断されても、ひとつひとつの症状の存在を丁寧に主張、立証しなくては、正しい後遺障害等級認定を受けることはできず、正しい損害賠償金を受け取ることもできません。
交通事故で顎関節症と診断される可能性がある場合は、ぜひ弁護士に相談することをおすすめします。

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