タクシー乗車中に事故に遭った場合の対応

ある有名ユーチューバーが乗客としてタクシー乗車時に衝突事故にあったという動画をアップしています。

割り込み車両との接触事故で、幸いシートベルトを装着していたので、飲んでいたコーヒーを浴びてしまった程度でケガはなく、今も元気な姿を見せてくれています。

ただ、衝突の衝撃でスマホを落としたことに気づないまま現場を離れてしまったので、気づいてから大慌てだったようです。

このユーチューバー氏に限らず、客として乗車したタクシーの事故に巻き込まれる可能性は誰にでも考えられます。どんなに自分が交通安全に注意していても、運次第であり、避けることはできません。

ユーチューバー氏ならずとも、突然の事故に遭遇し、大切なスマホを忘れてしまうほど動揺することもやむを得ないでしょう。

ここでは、そのようなタクシー事故に運悪く遭遇して被害を受けてしまったときに、どのように対処するべきか?損害賠償請求の相手は誰になるのか?などについて詳しく解説をします。

なお、タクシーを相手に事故になったケースについては、以下の関連記事をご覧ください。

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事故の後に、被害者としてやっておくべきことは?

客としてタクシー乗車中に事故の被害にあったときに、まず、あなたがとるべき行動とは何でしょう?

あなたが、ケガで救急搬送されてしまう場合は致し方ありませんが、そうでない限り、事故現場では次の行動をとるべきです。

あなたが警察に通報する

もちろん、通常は、事故の相手方車両かタクシーのどちらかの運転者が警察に通報するでしょう。特に人身事故では警察への届出は運転者の法的義務であり、違反には罰則があります(道路交通法72条1項、119条1項10号)。

しかし、乗客がケガをしたことが一見して明らかではない、小さな事故などの場合、運転者どうしで、警察に通報せず内々で処理するよう口裏合わせをする危険がないわけではありません。

もしも、警察に届出がされないと、自動車安全運転センターから交通事故証明書の発行を受けることができず、最悪の場合、事故の被害に遭ったことを証明する手段が何もなくなり、損害賠償を受けられなくなる可能性もあります。

必ず、運転者らに警察への通報を求め、通報してくれなければ、自分で110番をしましょう。

関係者当事者の連絡先等を確認する

相手方車両のナンバー、その運転者の氏名・住所・勤務先、タクシー車両のナンバー、運転者の氏名、タクシー会社名を確認し、メモやスマホのカメラで記録に残しておきましょう。各ドライバーに運転免許の提示も求めましょう。

これらは、警察が駆けつけ、後に交通事故証明書を取り寄せれば、おおかた判明することですが、最初の段階で基本的な情報を確保しておくことは大切です。

タクシー乗車中の事故でケガをしたら人身事故扱い

免許停止を免れたい、会社の支出を抑えたいなどの理由から、タクシーの運転者は、人身事故として扱われることを嫌うことがあります。しかし、タクシー乗車中の事故でケガを負った場合は、警察に人身事故として扱ってもらうべきです。

1つ目の理由は、自賠責保険で補償の対象となるのは、人身事故だけであり、怪我の治療費や慰謝料など、適正な損害賠償を受けられなくなってしまうからです。

2つ目の理由は、後々、事故態様や過失割合で争いになったときに、次項で説明する「実況見分調書」が有力な証拠となるからです。

実況見分に立ち会い、指示説明をする

人身事故の場合、警察が来れば、現場道路の状況や事故の態様を確認して記録する現場検証が始まります。正式には「実況見分」と呼びます。

実況見分では、例えば、「相手車両が割り込んだ位置」、「両車両が衝突した位置」、「タクシー運転者がブレーキを踏んだ位置」、「停止した位置」などと、走行状況を特定して記録に残します。これが「実況見分調書」です。

その内容は、事故当事者と目撃者の説明に基づきます。これを「指示説明」と呼びます。

実況見分調書は民事上でも有効な証拠

実況見分調書は、刑事処分のための記録ですが、民事上の損害賠償問題の証拠資料として利用することも認められており、賠償責任の有無・内容を決する重要な証拠となります。

相手方車両とタクシー間の過失割合は、通常は乗客にとって無関係ですが、被害の態様によっては、乗客自身の過失割合を問われるケースもあります。

また、相手方車両とタクシー間の過失割合に関する紛争が長引くことで、早期の和解が難しくなり、事実上、乗客への賠償支払が遅れてしまう事態もあり得ます。

したがって、スマホを見ていたので事故状況がわからないなどという場合は格別、事故状況を目撃しているなら、実況見分に立ち会って、警官に指示説明し、記録に残してもらうべきです。

当日のうちに病院を受診する

ケガをしたなら、どんなに小さなケガであっても、あるいは首、背中、腕などに違和感を感じる程度でも、必ず外科、整形外科などの病院で診察を受け、その結果を記載した診断書の発行を受けてください。

また、診察の際は、交通事故にあったことを医師に告げ、診断書には、交通事故による受傷であることを明記してもらってください。

たとえ事故直後にはとくにケガをしていないと思っても、必ず受診するようにしましょう。

事故から通院までに時間が空くと請求が認められないことも

むち打ち症のように、事故直後には何らの自覚症状もなく、数時間後から翌日ころに痛みの症状が出てくる場合もあります。

しかも、事故から初受診まで期間が空いてしまうと、事故とケガとの因果関係が疑われ、最悪の場合、事故によるケガではないとして賠償金請求が認められなくなる可能性もあるからです。

なお、整骨院、整体院などは医療機関ではないので、医師の指示などがない限り、そこでの施術費用は賠償請求できる損害とは認められませんから、事故後に、病院を受診せずに整骨院などを受診することはお勧めできません。

示談での請求相手は誰になる?

乗客としてタクシーに乗っているときに、交通事故にあってケガをした場合、誰に損害賠償を請求することができるのでしょうか?

なお、示談の流れについては、次の関連記事をお読みください。

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車両の運行供用者に慰謝料などの損害賠償を請求する

まず、相手車両の運転者に対して、「運行供用者責任」に基づく損害賠償請求をすることが考えられます(自動車損害賠償保障法第3条)。

運行供用者責任は、車の運行を支配し、運行による利益を得る立場にある者に人身損害に対する事実上の無過失責任を課しているものです。

被害者が相手の過失を立証する必要はなく、運行供用者が自ら免責要件の存在を立証しない限り責任を免れないので、被害者の立証の負担は大幅に軽減され被害者に有利なのです。

運行供用者責任による請求が被害者に有利な理由

運転者が「運行供用者」に含まれることはもちろんですが、運転者と車両の所有者が異なる場合は、所有者も運行供用者として責任を負担することになります。

例えば、会社の車を従業員が運転していた場合、会社の責任は使用者責任(民法第715条)を根拠として追及することもできます。

しかし、その場合、被害者は従業員の過失を立証しなくてはなりませんから、運行供用者責任(自賠法第3条)を根拠とした方が、やはり被害者にとって有利なのです。

同様に、タクシーの運転者、タクシー車両を所有しているタクシー会社も運行供用者ですので、運行供用者責任を追及することが可能です。

相手方車両とタクシー車両の責任の関係とは?

このように、乗客は、相手方車両(の運行供用者)、タクシー車両(の運行供用者)の双方に損害賠償請求が可能です。

この場合、乗客の人身損害は、相手方車両とタクシー車両の双方の行為によって生じた「共同不法行為」となり、損害の全額について、各行為者が連帯して賠償する責任を負います(民法第719条)。

損害の全額につき各行為者が連帯して賠償する責任があるとは、次のような意味です。

例えば、被害者の損害額が100万円だった場合、相手方車両に50万円、タクシー車両に50万円を請求することもできますし、相手方車両に80万円、タクシー車両に20万円を請求することも、タクシー会社にだけ100万円を請求することもできます。

このように損害額の範囲内であれば、債務者らのいずれか又は双方に、自由に金額を振り分けて、あるいは金額を集中させて、請求ができるのです。この関係を「不真正連帯債務」と呼びます。これはもちろん、被害者保護を目的とした制度です。

相手車両とタクシー車両の間で、過失割合に争いがあるとき

相手車両とタクシーの車両間で過失割合に争いがあるケースは珍しくありません。
例えば、相手車両が自分の過失を4、タクシー車両の過失を6と主張し、タクシー車両が自分の過失を1、相手方車両の過失を9と主張しているような場合です。

この場合、被害者は誰の言い分を採用し、誰にいくら請求できるのでしょう?

乗客はタクシー車両に損害額の100%を請求可能

実は、相手車両とタクシー車両の間の過失割合は、被害者には無関係です。共同不法行為による不真正連帯債務である以上、被害者は、タクシー車両に損害額の100%を請求することが可能だからです。

相手方車両及びタクシー車両の主張する過失割合を考慮する必要はありませんし、相手方車両及びタクシー車両の間で過失割合の争いがない場合でも同じです。

車両間の過失割合の数字がいくらであろうとも、相手車両とタクシーの間の内部問題(負担割合)に過ぎないのです。

タクシー車両が損害額の全額を被害者に支払ったなら、その過失割合を超えた部分を相手車両に請求(求償)することができます。

タクシー車両に過失がないことが明らかなとき

停車中のタクシーに相手方車両が追突して、乗客がケガをした場合はどうなるのか?

このような明らかにタクシー車両に何らの過失もない場合は、タクシー車両の運行供用者は免責要件の立証が可能ですから、タクシーの運行供用者に責任を問うことはできません。相手方車両だけが責任追及の相手となります。

相手方車両とタクシー車両のどちらに請求するべきか?

では、相手方車両とタクシー車両の両方に損害賠償の請求が可能な場合、請求する相手は、どのように選択するべきでしょうか?

賠償金の二重どりはできませんから、両者に請求できるからといって、賠償金が2倍に増えるわけではありません。得られる金額が同じなのに、複数の相手に請求することは無用な手間、時間、コストを費やすことになります。

「専門家」と称する者の中には、複数カ所に請求できるから、できるだけ数多い相手に請求しましょうなどと説明して余計な手数料を稼ぐ輩もいるので注意しましょう。

基本的には相手方車両に請求すべき

損害賠償請求の相手を選ぶ際の基本的な考え方は、もっとも取りやすい相手を選び、そこから全額を取れるなら、そこだけに集中するということです。

タクシー乗車中の事故で、相手方車両が、きちんと自賠責保険、任意保険に加入しているなら、相手方車両だけに請求すれば良く、タクシー車両を相手にする必要はありません。

タクシー車両は、以下のような事情からタクシーの過失を全否定したり、乗客の損害内容を争ったりして、強行な姿勢を示すことが、ままあるのです。

  1. タクシー会社側が行政指導を回避したい
  2. 運転者が免許停止を回避したい
  3. 規模が小さい共済組合(いわゆる「タクシー共済」)が賠償金を支払うので支出を抑えようとするケースが多い
  4. 当該タクシー会社の事件処理担当係が示談交渉に臨むことも多い

たとえ最終的に、タクシー側が運行供用者責任の免責要件の立証に失敗し、賠償責任を負うとしても、そこに至るまでの示談交渉、訴訟にかける時間と費用は著しい無駄です。

したがって、タクシー側を相手にすることなく、相手方車両から賠償を得ることに専念するべきでしょう。タクシーにも過失があるなら、被害者に賠償金を支払った相手方車両が、タクシー側に求償すれば良いのです。

タクシー車両を請求相手とするべき場合とは?

もっとも、タクシー車両に対して損害賠償を請求するべき場合もあります。

ひとつの自賠責保険だけでは賠償金の全額の支払いを受けることができないとき

例えば乗客の損害額が200万円で、自賠責保険の傷害限度額120万円を超えており、相手方車両が自賠責保険にのみ加入し、任意保険に加入していない場合は、限度額を超えた80万円の部分は、相手方車両の自賠責保険から支払を受けることはできません。

このときは、タクシー側にも賠償請求することで、タクシー車両の加入している自賠責保険から残り80万円の支払いを受けることが可能です。

自賠責保険に加入した複数の車両の共同不法行為による被害は、その車両の数だけ自賠責保険の保険金限度額が増加することになるわけです。これを「ダブルポケット」事案などと呼びます(※)。

※「別冊判例タイムズ38 民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準 全訂5判」東京地裁民事交通訴訟研究会編3頁

相手方車両が自賠責保険にも加入していないとき

相手方車両が自賠責保険に加入していないときは、相手方車両の運行供用者の所有財産から回収することになりますが、自賠責保険すら加入していない者には資力がないことが通常です。したがって、この場合は、タクシー車両に請求するべきです。

相手方車両が行方不明のとき

当て逃げなどで相手方車両が何処の誰かわからなければ、自賠責保険からの支払は受けられませんから、この場合はタクシー車両に請求するしかありません

乗客にも過失があるときは、過失割合はどのように考慮される?

タクシー乗車中の事故で、乗客がシートベルトをしていなかった場合のむち打ち症、乗客が走行中に熱いコーヒーを飲んでいた場合の火傷など、乗客の対応にも一定の過失があるときは、乗客に対する過失相殺が行われます。

この場合、乗客の過失を、①「乗客」と「相手方車両」の過失割合、②「乗客」と「タクシー車両」の過失割合、というように賠償責任を負う相手ごと問題とする(これを「相対的過失割合」と呼びます)のではありません。

乗客の過失割合は、「乗客」と「共同不法行為者(相手方車両及びタクシー車両)」の間の問題として一括処理します(これを「絶対的過失割合」と呼びます)。

共同不法行為において、被害者が行為者の全員に対して、全額の請求をすることが認められるのは、被害者保護のためです。

ところが、もしも請求する相手ごとに過失相殺の割合が異なるなら、相手によって請求できる金額が異なってしまうことになり、被害者保護の趣旨に反することになります。

そこで、複数の車両による同一事故の被害者については絶対的過失相殺の取扱いをすることが判例です(※)。

【参考外部サイト】最高裁平成15年7月11日判決|裁判所

したがって、例えば乗客のシートベルト非装着の過失が5%だったとした場合、相手方車両に請求した場合でも、タクシー車両に請求した場合でも、乗客の過失割合は変わることなく5%のままです。

ちなみに、慰謝料相場と増額方法については、以下の関連記事をご覧ください。

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まとめ

交通事故の当事者は二人とは限りません。

本記事のタクシー事故のように、乗客として巻き込まれる場合もありますし、3台以上の車両が絡む事故も珍しくはありません。

タクシー乗車中の事故で被害者となったときに、示談で十分な賠償金を受け取るには、誰にどのような責任を追及してゆくことが得策かを考えなくてはなりませんが、法律の専門家でなくては正しい判断はできません。

是非、弁護士に御相談されることをお勧めします。

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