外貌醜状|顔の傷(瘢痕)の後遺障害慰謝料相場・逸失利益を詳しく解説

「交通事故によって顔の傷が生じ、顔が変形し、目立つ消えないあざや傷痕が残った。」このような被害者自身の状況を思い浮かべると、その苦痛は容易に想像できます。

このケースでは「外貌醜状(がいぼうしゅうじょう)」という後遺障害が認定され、これによって慰謝料や逸失利益を受けることが可能です。

この場合、交通事故による顔の傷に対する慰謝料相場や、醜状障害・外貌醜状の後遺障害の認定基準や等級内容、請求可能な損害賠償内容、具体的な裁判事例、さらに瘢痕(はんこん)、線状の傷跡や手のひら大の傷の説明について説明します。

外貌醜状とは|交通事故で顔面損傷・顔の傷

交通事故で受けた怪我が治った後も、顔の傷、傷跡・あざが残ってしまい消えない場合があります。傷跡を大きく3つに分類すると下記の通りです。

  • 瘢痕(はんこん):外傷、火傷などが治った傷跡
  • 線状痕(せんじょうこん):細い線の形の瘢痕
  • 組織陥没:傷跡の生体組織に窪みが残ったもの

これらの傷跡が、頭や顔、首など、人目に付く程度に残った場合が「外貌醜状」です。

外貌醜状の後遺障害等級と認定基準

自賠責保険では、外貌醜状や顔の傷の程度を、7級12号「著しい醜状」、9級16号「相当程度の醜状」、12級14号「醜状」と分けていますが、これだけでは抽象的なので、部位ごとに具体的な認定基準が定められています。

頭部の傷跡について

等級 後遺障害の内容 具体的な認定基準
7級 外貌に著しい醜状を残すもの 頭部の手のひら大(指の部分は含まない)以上の瘢痕
頭蓋骨の手のひら大(指の部分は含まない)以上の欠損
等級 後遺障害の内容 具体的な認定基準
12級 外貌に醜状を残すもの 頭部の鶏卵大面以上の瘢痕
頭蓋骨の鶏卵大面以上の欠損

顔面部の傷跡について

等級 後遺障害の内容 具体的な認定基準
7級 外貌に著しい醜状を残すもの 顔面部の鶏卵大面以上の瘢痕
10円銅貨大以上の組織陥没
等級 後遺障害の内容 具体的な認定基準
9級 外貌に相当程度(※)の醜状を残すもの 顔面部の長さ5㎝以上の線状痕

※「相当程度の醜状」の対象は、顔面部の傷跡だけです。

等級 後遺障害の内容 具体的な認定基準
12級 外貌に醜状を残すもの 顔面部の10円銅貨大以上の瘢痕
顔面部の長さ3㎝以上の線状痕

頸部の傷跡について

等級 後遺障害の内容 具体的な認定基準
7級 外貌に著しい醜状を残すもの 頸部の手のひら大以上の瘢痕
等級 後遺障害の内容 具体的な認定基準
12級 外貌に醜状を残すもの 頸部の鶏卵大面以上の瘢痕

後遺障害認定の「手のひら大」とは

ちなみに上表の「手のひら大」とは、手のひらから「指の部分を除いた面積」を指します。

顔の傷・醜状は、他人から見えるものが対象

顔の傷・醜状は、いずれの場合も、「人目につく程度以上のもの」とされています。

「人目につく」とは、目立つ、他人から見えるという意味です。このため、他人からは見えない傷跡は、自賠責保険の等級認定対象となる醜状ではありません。

例えば、顔面部の長さ3㎝の線状痕は「醜状」(12級)と評価されますが、その傷のうち2㎝が眉毛によって隠されているときは、人目につく程度以上の傷は、残り1㎝だけです。このため基準を満たさないので「醜状」とは評価されません。

傷跡が複数ある場合の扱い

2個以上の瘢痕、線状痕が隣り合っている場合や相まってひとつの瘢痕、線状痕と同程度以上の醜状を呈する場合は、面積、長さ等を合算して等級を認定します。

なお、この他にも、火傷の場合、顔面神経麻痺の場合、頭蓋骨欠損の場合、まぶた・耳・鼻の欠損の場合など、さらに詳細な認定基準が定められています。

顔面以外|後遺障害14級

なお、顔の傷、頸部、頭部以外にも、交通事故では傷跡が残ることがあります。

例えば「上肢又は下肢の露出面の手のひら大以上の醜状」のような傷跡があると、後遺障害14級の認定の可能性があります。

外貌醜状・顔の傷による後遺障害慰謝料相場

外貌醜状、顔の傷が残った場合の各等級の後遺障害慰謝料相場は、次のとおりです。

等級 後遺障害慰謝料の相場
自賠責基準 任意保険基準(※) 弁護士基準
7級 419万円 500万円 1000万円
9級 249万円 300万円 690万円
12級 94万円 100万円 290万円

※任意保険基準は、旧任意保険の統一支払基準を参考に記載。

上表のとおり、等級の数字が小さくなればなるほど高額相場になります。

また弁護士基準で計算した場合が最も高額となります。

なお、これらの外貌醜状についての金額は相場に過ぎず、後遺障害慰謝料の金額は、個別案件の具体的な諸事情(事故態様、被害者の性別、年齢、職業、加害者の対応状況など)によって増減します。

弁護士基準での計算は、弁護士に依頼をする必要があります。まず交通事故に強い弁護士に相談をしましょう。

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外貌醜状の逸失利益

逸失利益の計算

逸失利益とは、後遺障害によって失った将来の収入です。後遺障害のために働く力(労働能力)が一定割合失われたと考えて、健康な身体であったなら得られたであろう収入との差額を補償するものです。

自賠責保険では、後遺障害の各等級に応じて、労働能力が失われた割合を定めています(労働能力喪失率)。

等級 労働能力喪失率
7級 56%
9級 35%
12級 14%

外貌醜状の逸失利益相場は、次の計算式で算出します。

逸失利益 = 年収額 × 労働能力喪失率 × 被害者の年齢に応じたライプニッツ係数*

自分の年収額と上表の労働能力喪失率はわかっているとして、あとは被害者の年齢に応じたライプニッツ係数がわかれば、計算が可能となります。

ライプニッツ係数については国土交通省のサイトを確認すればすぐ分かります*。

*「就労可能年数とライプニッツ係数表

具体的な相場計算はここでは省略しますが、下記の交通事故慰謝料自動計算機で簡単に計算できるので、こちらも併せて是非ご活用ください。

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外貌醜状で問題となる労働能力喪失率

顔の傷や外貌醜状の逸失利益を計算する際に、労働能力喪失率が問題になるケースがあります。

加害者側の保険会社は「顔や頭に傷跡が残っても、働く力が低下することはない」と、自賠責保険の等級で定められた率よりも低い喪失率が相当だなどと主張します。

事実、かつては外貌醜状によっては労働能力は失われないから、外貌が重視される俳優、モデル、ホステスなどの職業を除いて、逸失利益は否定すべきという意見も強かったです。

外貌醜状でも労働能力喪失率は認められる

しかし、このような硬直した考え方は、今日ではもはや克服されました。

外見によって人間関係が左右されるといった現実があることは否定できず、外貌醜状によって被害者に選択できる職種や職場での機会が制限されるなどの不利益を生じる可能性が実際にある以上、その損害は補償されなくてはならないからです。

今日では、外貌醜状は特別な職業でなくとも、労働能力の喪失をもたらす場合があるとする考えが支持を得ています。

例えば平成23(2011年)に、外貌醜状等級の男女差を改正した際の厚労省の専門家検討会の報告書でも、次の認識が示されています。

「外ぼうの障害が、現状はもちろん将来にわたる就業制限、職種制限、失業、職業上の適格性の喪失等の不利益をもたらし、結果として労働者の稼得能力を低下させることは明らか」である。(※)

外ぼう障害に係る障害等級の見直しに関する専門検討会報告書(平成22年11月)」P.4

外貌醜状の逸失利益に関する裁判例

裁判の実務で支持を受けている考え方の大きな枠組は、次のとおりです(※)。

  1. 被害者の性別、年齢、職業等を考慮する。
  2. 労働能力に直接的な影響を及ぼすおそれがある場合は、労働能力喪失による逸失利益を認める。
    例:醜状のために配置転換を受けたり、職業選択の幅が狭められるなど。
  3. 労働能力に直接的な影響はないが、間接的に影響を及ぼすおそれがある場合は、逸失利益は認めないが、後遺障害慰謝料の増額事由として考慮する。
    例:対人関係や対外的な活動に消極的になるなど。
  4. 直接的にも間接的にも労働能力に影響しない場合は、逸失利益も認めず、後遺障害慰謝料も増額しない。

(※)参考文献:東京地裁民事交通部・河邉義典部総括判事・講演録「交通事故賠償の実務と展望」(平成14年東京三弁護士会交通事故処理委員会創立40周年記念講演)「新しい交通賠償論の胎動」9頁(同委員会編、ぎょうせい)

実際に交通事故の裁判で外貌醜状の逸失利益が問題となった事例をご紹介しましょう。

裁判例1:線状痕で後遺障害7級

横浜地裁平成26年9月12日判決

被害者は歯科衛生士の女性(症状固定時43歳)

右頬に5㎝以上、眉間に3㎝以上の各線状痕が残り、自賠責保険は7級を認定しました。

裁判所は、歯科衛生士は接客が主要業務ではないとして逸失利益は否定しました。

他方で、女性として周囲の視線が気になる場面も生じ、対人関係や対外的活動に消極的になる可能性も否定できず、間接的とはいえ労働に影響を及ぼすそれのあることを考慮して、後遺障害慰謝料は(弁護士基準1000万円を上回る)1200万円を認めました。

これは先に述べた枠組みのうち、3.に該当する例です。

逸失利益を否定しつつ、線状痕で「後遺障害慰謝料を増額」した裁判例ということです。

裁判例2:顔の手術痕で後遺障害等級7級

大阪地裁平成26年6月27日判決

被害者は男性会社員(症状固定時38歳)

顔面の手術痕が自賠責保険から7級と認定されました。

この被害者には、左手骨折による末梢神経障害(12級13号)もありましたが、裁判所は、この関節痛による労働能力の喪失は10年程度で漸次消滅する(解消する)としました。

それなら、10年間だけの労働能力喪失という結論になるはずです。

しかし、裁判所は、被害者は将来的に営業職に移動する可能性があり、外貌醜状のために昇進昇給に不利益を受けたり、転職を余儀なくされたりするなど、期間の経過につれて労働に影響を及ぼす度合いが拡大すると指摘し、10年間に限らず、67歳まで29年間に及ぶ14%の労働能力喪失を認定し、約1262万円の逸失利益を認めました。後遺障害慰謝料1200万円も認められています。

これは関節痛による労働能力の喪失とは別に、外貌醜状の逸失利益を認めたものと言え、前述の大きな枠組みの2.に該当する例と言えます。

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外貌醜状の逸失利益の判断で考慮される要素

では、外貌醜状が直接的に労働に影響を及ぼすものか否かは、どのように判断されているのでしょうか。

①外貌醜状・醜状障害の内容

外貌醜状はスムーズな人間関係を作るうえで、マイナスに作用してしまう現実があります。

このいわば対人関係を円滑化する能力の低下が醜状障害による労働能力喪失の実質なのだと理解する考え(※)が有力で、裁判実務でも採用され始めています。

この考えからは、外貌醜状の内容、程度が深刻なものであるほど、人間関係の構築や円滑なコミュニケーションを阻害してしまう程度も大きいと評価され、労働能力喪失が認められやすくなるのです。

※ 参考文献:「外貌の醜状障害による逸失利益に関する近時の裁判実務上の取り扱いについて」東京地裁民事交通部・鈴木尚久裁判官・講演録(「民事交通事故訴訟・損害賠償額算定基準2011年下巻」44頁)

裁判例3

横浜地裁平成26年1月30日判決

被害者は介護施設職員の女性(45歳)

眉間に3㎝以上の線状痕(12級)が残り、首の痛み等(14級9号)もあり、自賠責保険からは併合12級と認定されました。

裁判所は、介護サービスは日常的に他人に接し、円満な人間関係の形成と円滑な意思疎通が必要とされること、今後、転職する可能性も否定できず、転職や今後の昇級、昇格などに影響を及ぼす可能性があることなどを指摘し、67歳まで22年間にわたる労働能力喪失10%を認定し、逸失利益約466万円を認めました。後遺障害慰謝料290万円も認められています。

②被害者の職業

現在では、モデルなどの特別な職業だけが逸失利益を認められるわけではありません。

接客が業務の中心又は重要部分を占めている職業、具体的には、生命保険外交員、百貨店勤務、飲食店経営者、バーテンダー、理容店アルバイト、フィットネスジムインストラクターなどに逸失利益を認める裁判例があります。

さらに、接客が大きなウェイトを占めていない職業、具体的には海上自衛官、作業療法士、主婦、交通誘導警備員、貨物自動車運転手、介護施設職員などにも逸失利益を認める裁判例が現れています(※)。

※参考文献:「後遺障害入門」弁護士小松初男他編、青林書院188頁

裁判例4

さいたま地裁平成27年4月16日判決

被害者は運送会社社員の男性(症状固定時41歳)

唇部分に5㎝以上の線状痕で自賠責保険から9級を認定されました。

貨物の搬入、搬出、運送が仕事でしたが、初対面に近い顧客との折衝に消極的になっており、社内の評判が落ちて将来の昇進や転職に影響する可能性があると指摘し、67歳まで27年間にわたる35%の労働能力喪失を認定し、逸失利益として約1823万円を認めました。後遺障害慰謝料690万円も認められています。

③被害者の性別が女性か男性か

裁判所では、女性の外貌醜状は逸失利益が認められやすく、男性のそれは否定されがちな傾向にあると言われることがあります。

前述のとおり、平成22年以降、男女の外貌醜状の等級を差別する後遺障害等級の基準は改正されたのですが、それはあくまで自賠責保険から支出される金額を画一的に決める基準に過ぎないため、裁判所を拘束することはできないのではないかという考えのためです。

しかし、実際は裁判所の判断には、実際の社会において、男性と女性が就いている職業、職種、職務内容の差異が反映しているケースが多くなっていると言えます。

後遺障害|顔の傷の診断書と「面接」がポイント

後遺障害の内容は後遺障害診断書によって報告されます(※1)。

ただ、外貌醜状の場合は、後遺障害診断書の書類審査だけでなく、損害調査事務所が「面接」を行います。

実際に傷跡の様子を観察をし、その大きさを計測するためです。

外貌醜状で自賠責保険の後遺障害等級を適正にさせるには、この調査員との面接に弁護士を同席させることが有益です。

この面接は大変重要です。傷跡の長さ、大きさといっても、計測者、計測方法(※2)、計測時の諸条件によって変わりうるからです。調査員が誠実でも、避けられないことです。

このような事情から、後遺障害診断書の作成や、また面接の際には弁護士に同席してもらい、正しい計測を受けられるよう監視、助言を受けることが有益です。

※1 外貌醜状では、平成28(2016年)10月から、医師に後遺障害診断書だけでなく、「交通事故受傷後の傷痕等に関する所見」に被害者の傷跡を記載してもらい提出する取り扱いとなっています。
参考サイト:富山県医師会日本医師会及び損害保険料算出機構「交通事故受傷後の傷痕等に関する所見・新設にあたってのお願い
※2 例えば、被害者(女性)の顔面の線状痕について、定規で直線的に計測すると約2.5㎝であることから自賠責が後遺障害と認めなかったケースで、傷跡の形に沿って測定すると3㎝となると指摘して12級相当の後遺障害を認めた裁判例もあります(大阪地裁平成10年1月23日判決)。

まとめ

外貌醜状、顔の傷の後遺障害認定や慰謝料、後遺障害診断書、また顔面以外の後遺障害14級に該当する内容についても解説しました。

交通事故の外貌醜状で、弁護士に依頼するメリットは?

弁護士に依頼するメリットは、面接調査以外にも後遺障害診断書のチェックなど後遺障害等級認定のサポートや、弁護士基準で慰謝料を交渉してもらえるなど様々です。

後遺障害等級に不満がある場合、弁護士は何をしてくれるの?

もし、認定された等級に不満がある場合には、異議申し立ての代理もしてくれます。

後遺障害が残った場合には、まずは交通事故問題に強い弁護士を探して、相談してみることをお勧めします。

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本記事は交通事故弁護士カフェを運営するエファタ株式会社の編集部が執筆・監修を行いました。
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