交通事故と骨折慰謝料相場|骨折でいくらもらえるか【2023年版】
交通事故で骨折に対し、どの程度の損害賠償を受けることができるのでしょうか。交通事故の骨折による後遺障害が、慰謝料を含…[続きを読む]
交通事故で「胸部打撲」という診断を受けるケースは珍しくありません。
しかし、「ただの打撲で済んだ」と安心すべきではありません。
交通事故の胸部打撲が原因で、いつまでも痛みやしびれが残ったり、骨折を伴ったり、心臓の大動脈に破裂の危険が生じて命にかかわる場合もあるのです。
そこで、交通事故で胸部打撲となる原因、胸部打撲と診断された場合の注意点、後遺障害等級の種類と症状、各後遺障害の慰謝料、逸失利益の金額について説明します。交通事故で胸部を打撲した方は、ぜひ参考にしてください。
目次
まず交通事故で胸部打撲となる原因を見てみましょう。胸部打撲の主な原因は、以下のとおりに分けることができます。
正面衝突の場合に、シートベルトをしていないドライバーが被りやすい代表的な外傷がハンドル外傷です(ドライバー外傷とも言います)。
衝突の衝撃で、ドライバーの身体は前方に打ちつけられ、頭や顔はフロントガラスに、下腹部や胸部はハンドルにぶつかります。これが胸部打撲の一因となります。
エアバッグは1000分の数秒というごく短時間で爆発的に膨張して事故からドライバーを守ります。ところが、その際に発生するエネルギーによって、ドライバーが胸部を含めた上半身に傷害を受けてしまうことがあります。
エアバッグがない場合に46.2%であった頸椎捻挫が、エアバッグ作動によって19.2%まで減少したものの、かえって胸または腹部の損傷が7.7%から15.4%に増加してしまったというデーターもあります(警視庁交通企画課統計、1996(平成8)年1月1日から10月30日)。
歩行者が車にはねられた場合に多く受ける外傷がバンパー外傷です。
大人がボンネットのある車とぶつかると、ボンネット上に跳ね上げられた後、落下して道路に胸部を叩きつけられます。小さな子どもの場合は、衝突した車にそのまま押し倒され、胸部に打撃を受けてしまいます。
ボンネットがないキャブオーバー型の車の場合は、成人でも子どもでも、車と衝突した際に、車の前面で胸部を含む全身に打撃を受けてしまいます。
参考外部サイト:「交通事故損傷とその対処の留意点」久留米大学医学部・救急医学教授・加来信雄(国際交通安全学会誌Vol.25 No.2)、日本救急医学会 医学用語解説
交通事故で胸部打撲と診断された場合、たんなる打ち身に過ぎないと安心するのは早計です。
外傷は、刃物など鋭利なものによる鋭的な外力が加わったものと、それ以外の鈍的(どんてき)な外力が加わったものに分かれますが、交通事故の多くは鈍的な外力による傷害になります。
鈍的な外力による傷害は、身体の表面には著しい傷がないのに、身体の内部には大きな力を受けているケースが多いことが特徴です。
このため交通事故の傷害は比較的発見しにくく、治療開始も遅れがちで、救命率も低いとされているのです(※)。
※前出「交通事故損傷とその対処の留意点」参照
特に胸部では、例えば肋骨の骨折はレントゲン撮影をしても、折れた場所の映像が肺の影や他の肋骨と重なるなどのために骨折が判明しにくいのです。ことに前方に位置する助軟骨はレントゲンでは骨折を確認できないとされています。
また、次に説明する大動脈解離のように血管や内臓の損傷を生じているケースもあるのです。
したがって、事故直後にいったん胸部打撲と診断されても、安心してしまうべきではなく、安静にして、身体に痛みや変調がないかどうかを十分に確認し、少しでも異常を感じたら、すぐに再受診するべきなのです。
参考外部サイト:「肋骨骨折」日本骨折治療学会
交通事故の胸部打撲による痛みが、数日から数週間程度で完全に消失した場合は、治癒したものと言えます。
交通事故で負傷した場合、治療費や休業損害などに加えて、胸部打撲を治すために入院、通院した期間に応じた入通院慰謝料などの損害賠償を加害者側に請求することができます。
しかし、胸部打撲がきっかけとなって、治療後も治らない症状が残ってしまう場合があります。症状固定後も残った症状が後遺障害です。
この場合、自賠責保険に後遺障害認定を受ければ、後遺障害慰謝料や逸失利益を請求することが可能になります。
そこで次に、交通事故の胸部打撲がきっかけで後遺障害が残ってしまう可能性がある主な症状をご紹介します。
「胸郭出口」とは鎖骨と一番上にある肋骨の狭い隙間のことです。神経・血管がここを通って頭や腕の神経・血管につながります。
胸郭出口を通っている神経・血管が圧力を受けたり、引っ張られたりした場合、主に次のような症状が現れます。
胸郭出口症候群で後遺障害が残った場合は、12級13号もしくは、14級9号の後遺障害等級に認定される可能性があります。害慰謝料など詳しくは、下記の記事をご覧ください。
背骨は、椎骨(ついこつ)というブロックとなる骨がつながって構成されています。ブロックとブロックの間にはクッションとなる軟骨があります。これが椎間板です。
交通事故などの衝撃で、この椎間板が、本体の位置から後方に突出し神経を圧迫することがあります。これが椎間板ヘルニアで、痛み・痺れといった症状となるのです。頸部、腰部に発症することがポピュラーですが、それに限られるものではありません。
椎間板ヘルニアで後遺障害が残った場合、後遺障害12級13号または、14級9号に認定される可能性があります。慰謝料など詳細は、下記の記事をご参照ください。
胸部打撲で肋骨を骨折し、骨自体は接合できたものの、骨が変形してしまう場合があります。これは変形治癒と言って、骨の接合位置が事故前の正常だった位置からずれてしまったために起こります。
治療をするときに、骨折部位を正しい場所に戻す整復や骨の固定に問題があったケース、折れた骨が皮膚を突き破る開放骨折に起因して患部が化膿したケースなどが原因として考えられます。
肋骨骨折で後遺障害が残ると、後遺障害等級12級5号あるいは、14級9号に認定される可能性があります。詳しくは、下記の記事をご参考にしてください。
交通事故の胸部打撲によって、大動脈解離(解離性大動脈瘤ともいいます)を発症する場合があります。
心臓の大動脈は、内膜・中膜・外膜の三層構造からなるパイプです。ところが、胸部に衝撃を受けて動脈に傷がつき、中膜が縦方向にはがれてしまう場合があるのです。
これにより、本来は内膜の中(「真腔」と言います)を流れなくてはならない血液が、血圧によって内膜の外側を流れるようになり、バイパスのようになってしまいます。
これを「偽腔」といい、偽腔に流れた血液が別の傷口から再度、内膜の中に戻ってゆく場合を「偽腔開存型」の大動脈解離と言います。
大動脈解離は、次の症状を引き起こします。
いずれも死に直結する症状です。自覚症状がなくいきなりショック状態や意識消失状態になってしまうケースもあります。
参考外部サイト:日本胸部外科学会「胸部大動脈瘤」、さいたま市立病院「大動脈解離とは?」「大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン(ダイジェスト版・2011年改訂版)」日本循環器学会外
胸部打撲により外傷性大動脈解離の症状が残った場合に自賠責保険で認定される可能性があるのは、胸腹部臓器の障害であり、次の等級となります。
後遺障害等級 | 後遺障害の内容 |
---|---|
11級10号 | 胸腹部臓器の機能に障害を残し、労務の遂行に相当な程度の支障があるもの |
胸腹部臓器のうち循環器障害の認定基準には、大動脈に偽腔開存型の解離を残すものは第11級の10とすることが明記されています。この場合、血圧の急激な上昇をもたらすような重労働が制限されるためです(※)。
※厚労省「胸腹部臓器の障害認定に関する専門検討会報告書 第2循環器」46頁 ウ 障害等級(イ)偽腔開存型で治ゆとなったもの
では、胸部打撲で後遺障害等級が認定された場合、どのような損害賠償が可能なのでしょうか?
ここでは、外傷性大動脈解離を例にして解説していくことにします。
後遺障害逸失利益は、交通事故の後遺障害によって失われた将来の収入です。後遺障害による労働能力の喪失がもたらした減収を補償するのです。
失われた労働能力の程度は、政令通達によって、後遺障害等級に応じて労働能力喪失率として基準化されています(※)。
※「自動車損害賠償保障法施行令」及び「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準(平成13年金融庁・国土交通省告示第1号・平成14年4月1日施行)」
後遺障害11級の労働能力喪失率は20%です。健康な状態を100%として、20%の働く力が失われたと考えます。
後遺障害逸失利益は、以下の計算式で求めることができます。
「就労年数に応じたライプニッツ係数」とは、以下国土交通省のサイトにある一覧表で調べることができます。
参考外部サイト:国土交通省「就労可能年数とライプニッツ係数表」
後遺障害慰謝料とは、後遺障害が残ってしまったことに対する精神的・肉体的苦痛に対する損害賠償で、自賠責基準、任意保険基準、弁護士基準の3つの基準があります。
胸部打撲による外傷性大動脈解離の後遺障害慰謝料の相場をまとめると、以下の通りです。
等級 | 自賠責基準 | 任意保険基準(※) | 弁護士基準 |
---|---|---|---|
11級 | 136万円 | 150万円 | 420万円 |
※任意保険基準については、一般に公開されていないので、旧任意保険の統一支払基準を参考に記載しています。
入通院慰謝料や後遺障害慰謝料など、ご自分の慰謝料や逸失利益がいくらくらいになるのか興味のある方は、是非以下の「慰謝料相場シミュレーション」を使ってみてください。
外傷性大動脈解離については、症状固定後の治療費の請求が認められるかが問題となります。
通常、症状固定後は、治療費の請求はできません。改善しない症状を治療するための費用を加害者に負担させるのは妥当ではなく、治療関連の賠償はいったん症状固定で終了し、症状固定後は、改めて後遺障害について慰謝料を支払うという損害賠償の制度設計によるものです。
ところが、大動脈解離の場合、治療を行った後も、乖離が悪化することがあり定期的に経過観察する必要があります。そこで、症状固定後後の経過観察の費用が問題となるのです。
しかしここに、外傷性大動脈解離の将来の治療費を認めた裁判例があります。
外傷性大動脈解離の将来の治療費請求を認めた裁判例
横浜地裁平成20年11月6日判決
被害者:男性
被害者の年齢:症状固定時44歳
職業:技士
外傷性大動脈解離などで併合10級の認定を受けました。
裁判所は、大動脈の径に拡大がみられないか、解離の範囲が広がっていないかを確認するために、CT撮影、年6回の定期的診察、年約2回の血液検査などを受ける必要があることから、そのための治療費について平均余命までの32年間分として合計約150万円の請求を認めました。
(自保ジャーナル1773号6頁)
胸部打撲で外傷性大動脈解離となり、症状固定後の治療費が問題となっても、裁判で認められる可能性はあります。
もちろん裁判では、被害者の事情や事故態様など、様々な要素が絡みます。そこで必要なのは、後遺障害認定に詳しく交通事故の医療知識がある弁護士を選任することです。
交通事故での胸部打撲は、打撲と言っても、それが様々な後遺障害を引き越す危険性があります。
胸部打撲で御心配の方は、是非、交通事故に強い弁護士に御相談されることをお勧めします。