交通事故で鼻を負傷!後遺障害等級と後遺障害慰謝料について徹底解説

交通事故で鼻に怪我をすると、鼻を失うだけでなく、鼻で呼吸ができなくなったり、匂いを嗅ぐ能力が失われたり、低下したりする場合があります。

そのような場合に認定される後遺障害等級の内容とその認定基準、補償される後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益の金額、実際の裁判例、後遺障害等級アップのポイントについて説明します。

交通事故で鼻を負傷した場合の症状

交通事故による負傷で嗅覚に障害が生じたものを外傷性嗅覚障害といい、その原因に応じて、次のように分類されます。

呼吸性嗅覚障害事故による骨折などで、鼻腔部分等が閉塞してしまい、匂いの物質が、匂いを感じる感覚細胞の部分(嗅部)まで届かない障害
末梢神経性嗅覚障害事故の衝撃などで、匂いの感覚を伝える神経(嗅神経)が断裂してしまう障害
中枢神経性嗅覚障害頭部外傷などで、中枢神経(脳内)の嗅覚に関する部分が損傷を受ける障害

鼻の負傷で認定され得る後遺障害等級

認定の可能性がある後遺障害の種類と等級

鼻の後遺障害には以下のものがあり、認定される可能性がある等級は、7級、9級、12級、14級です。

  • 嗅覚が障害される
  • 鼻の機能障害
  • 外見(外貌)が障害される醜状障害

認定基準

次に、各等級の具体的な認定基準を説明します。

大きく次の3種類に分けて整理できます。

  • 鼻欠損を伴う機能障害
  • 鼻欠損を伴わない機能障害
  • 醜状障害にあたる場合

鼻欠損を伴う機能障害

後遺障害の内容後遺障害等級
鼻を欠損し、その機能に著しい障害を残すもの9級5号

「鼻の欠損」とは、「鼻軟骨部の全部の欠損」または「鼻軟骨部の大部分の欠損」をいいます。

鼻の「機能に著しい障害を残すもの」とは、「鼻呼吸困難」または「嗅覚脱失」をいいます。

嗅覚脱失とは、まったく匂いを嗅ぐことができない状態です。これに対し、匂いを嗅ぐ力が正常者に比べて弱い状態を「嗅覚減退」といいます。

鼻欠損を伴わない機能障害

鼻の欠損(軟骨部の全部または大部分の欠損)がなく、鼻の機能だけに障害が残っているケースは、後遺障害等級表に直接の定めがありませんが、その程度に応じて次の各等級に相当するものとして取扱います。

障害の程度後遺障害等級
嗅覚脱失12級相当
鼻呼吸困難12級相当
嗅覚の減退14級相当

嗅覚脱失と嗅覚減退の区別は、「基準嗅力検査」(T&Tオルファクトメータ)という検査から判定される嗅覚障害の値によります。

患者に5種類の匂いを嗅がせて、その感知の程度を測定する検査方法です。傷害の程度は、5段階の数値(平均嗅力損失値)で表し、数値が大きいほど程度が重くなります。

平均嗅力損失値程度
1.0以下正常
1.1~2.5軽症
2.6~4.0中等症(嗅覚減退14級に該当)
4.1~5.5重症(嗅覚減退14級に該当)
5.6以上脱失(嗅覚脱失12級に該当)

なお、「静脈性嗅覚検査」(アリナミンテスト)という検査で嗅覚脱失が確認できた場合は、「基準嗅力検査」は不要です。

静脈性嗅覚検査は、プロスルチアミンという、特有のニンニク臭をもつ液体を静脈に注射し、患者の嗅覚をテストするものです。血管内の液体は肺で気化するので、患者に嗅覚があればこれを感じることができるのです。

外貌醜状にあたる場合

鼻の欠損などが、同時に外貌醜状に該当する場合があります。その場合は併合はせず、比較してより上位の等級だけが適用されます。

外貌の醜状の後遺障害等級は次のとおりです。

後遺障害の内容後遺障害等級
外貌に著しい醜状を残すもの第7級12号
外貌に相当程度の醜状を残すもの第9級16号
外貌に醜状を残すもの第12級14号

鼻軟骨部の全部または大部分の欠損は、「著しい醜状」と取り扱います(※)。

鼻軟骨部の一部または鼻翼の欠損は、単なる「醜状」と取り扱います。

鼻の欠損を外貌醜状としてとらえる場合で、鼻以外の顔面にも瘢痕等があるときは、鼻の欠損と顔面の瘢痕等を併せて、その程度により、単なる醜状、相当な醜状、著しい醜状のどれにあたるかを判断するとされています。

※このとおり、認定基準では鼻軟骨部の全部または大部分の欠損(つまり9級5号にいう「鼻の欠損」)は、「著しい醜状」として取り扱うとされています。

このため鼻の欠損は、著しい醜状として、より上位の7級12号に該当することになり、9級5号の余地がないようにも思われます。

しかし、外貌醜状は原則として「人目につく」ものであることが要求されているので、鼻軟骨の欠損でも外見上醜くなく人目につかないものであれば、鼻の後遺障害だけに該当するとされる余地があるでしょう。

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鼻を負傷した場合の後遺障害慰謝料と逸失利益

後遺障害慰謝料

鼻の後遺障害に対する慰謝料の相場金額は次のとおりです。

等級自賠責基準任意保険基準弁護士・裁判基準
7級409万円500万円1000万円
9級245万円300万円690万円
12級93万円100万円290万円
14級32万円40万円110万円

後遺障害慰謝料の3つの基準

自賠責基準は、後遺障害慰謝料のうち、自賠責保険が負担する部分の金額です。

任意保険基準は、任意保険会社が独自に定めた補償の基準で、一般には公表されていいないため、上記は、旧任意保険の統一支払基準を参考に記載しています。

いずれも、本来受け取ることができる弁護士基準の金額に比べて、低い金額にとどまってしまうことがわかります。適正な後遺障害慰謝料を受け取るためには、弁護士基準で請求することが必要です(※)。

※ 弁護士基準の金額もあくまで相場であり、一応の目安に過ぎず、事案に応じて増減があります。

例えば、示談交渉や訴訟を弁護士が担当して個別の具体的な被害状況を主張することで、慰謝料の増額を勝ち取ることができることは珍しくありません。

裁判例1.(弁護士基準の相場よりも高額の後遺障害慰謝料を認めた裁判例)

東京地裁平成25年11月13日判決

被害者は焼鳥屋従業員(男性、症状固定時29歳)で、嗅覚脱失(12級相当)などにより併合11級と認定されました。

11級の後遺障害慰謝料は弁護士基準で420万円です。しかし裁判所は、嗅覚脱失のために、調理人として人生を送ることも、将来の夢であった和食店を開業することも断念せざるを得なくなったことなどを考慮して、入通院慰謝料213万円の他に、後遺障害慰謝料500万円を認めました。

(交通事故民事裁判例集46巻6号437頁)

後遺障害逸失利益

鼻の後遺障害で認定される等級に対して自賠責保険が定めている労働能力喪失率は次のとおりです。

等級労働能力喪失率
7級56%
9級35%
12級14%
14級5%

ただし、鼻の機能障害においては、労働能力の喪失の有無、その程度(喪失率)をめぐって争いとなるケースが多いのです。

保険会社側が、匂いを嗅ぐことができなくとも仕事には支障がないと主張するためです。

たしかに嗅覚の有無、程度が常に仕事に影響を与えるとまでは言えないでしょう。それゆえ、嗅覚脱失や減退の後遺障害での労働能力喪失を認めなかった裁判例もあります。

裁判例2.(嗅覚脱失による労働能力喪失を否定した裁判例)

東京地裁平成6年8月30日判決

被害者は女性(30歳、会社員)。裁判所は、静脈性嗅覚検査(アリナミンテスト)の結果から12級相当の嗅覚脱失を認定する一方で、労働能力喪失は労働能力に影響を及ぼすかどうかという観点から判断するのが相当であり、嗅覚脱失は労働能力に影響するものではないとしました。

(交通事故民事裁判例集27巻4号1129頁)

もっとも、現在の裁判例の傾向は、嗅覚脱失・減退を一律に労働能力に影響しないとするのではありません

被害者の性別、年齢、減収の程度、嗅覚障害の職業に対する具体的な影響などの諸般の事情を勘案して、実情に即した喪失率を認定してくれています(※)。

※「労働能力喪失率の認定について」東京地裁民事交通部片岡武裁判官講演録(民事交通事故訴訟・損害賠償額算定基準2004年版・441頁)

考慮される諸事情の中で特に重視されるのは、被害者の具体的な職業の内容です。

裁判例3.(調理師に基準以上の労働能力喪失を認めた裁判例)

東京地裁平成13年2月28日判決

被害者は調理師兼料理店経営者(男性、症状固定時57歳)、嗅覚脱失(12級相当)と等級認定されました。

自賠責保険では、12級の労働能力喪失率は14%ですが、裁判所は、被害者が調理師であり、素材の良し悪しや完成した料理の風味如何を見極めるなど、嗅覚は料理人の技術を発揮するうえで極めて重要な感覚のひとつであり、これを失ったことは料理人として致命傷に近いとし、基準を上回る労働能力喪失率20%(10年間)を認めました。

(交通事故民事裁判例集34巻1号319頁)

この他にも、労働能力喪失が認められた職業の例をいくつかご紹介します。

職業被害者(※)障害内容喪失率・喪失期間
幼稚園教諭女・43歳嗅覚脱失など併合11級20%・24年間
花屋経営女・30歳嗅覚脱失など併合11級20%を10年間、14%を27年間
大学生(後に技術家庭科教師)男・24歳嗅覚脱失など併合9級14%・43年間
電池製造技術職男・38歳嗅覚脱失12級14%・29年間

※各年齢は症状固定時

逸失利益は、次の計算式で求めます。

基礎収入額 × 労働能力喪失率 × 就労可能年数に応じたライプニッツ係数

「就労可能年数に応じたライプニッツ係数」は、以下の国土交通省のサイトで調べることができます。

参考外部サイト:国土交通省「就労可能年数とライプニッツ係数表

では、上の技術家庭科教師のケースで逸失利益の計算をしてみましょう。

被害者の基礎収入を年額660万円と仮定します(平成29年度の賃金センサス男性大学卒の平均)。

逸失利益の計算

基礎収入額:660万円
12級の労働能力喪失率:14%
43年間のライプニッツ係数:17.546

660万円 ×  4% ×17.546 = 1621万2504円

なお、鼻の怪我が醜状障害にあたる場合の逸失利益の問題については、次の記事をご覧ください。

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交通事故で鼻を負傷した時の注意点

鼻の機能障害では、前述の労働能力喪失率の問題の他に、事故との因果関係が争いになるケースがあります。

受傷の内容・程度、治療内容によっては、被害者が嗅覚の障害に気づくことが遅れたり、障害の発生自体が後になる場合があるからです。

事故から離れた時期に嗅覚障害を発症した場合は、因果関係が疑われやすくなってしまいます。

例えば、事故から7ヶ月を経過してから嗅覚の障害を訴えたケースで、それ以前に症状があったことを認める証拠がないことから、事故との因果関係を否定した裁判例があります(横浜地裁川崎支部平成25年12月20日判決・自保ジャーナル1926号78頁)。

したがって、頭部や鼻に傷害を負った場合には、日常生活の中で嗅覚に異常が生じていないかを意識するようにし、異変を感じたならば、すぐに専門医を受診することが重要です。

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鼻を負傷した場合の後遺障害等級・賠償額アップのポイント

必要な検査を尽くすこと

鼻の機能障害では、自賠責保険によって等級認定されるためには、前記の基準嗅力検査(T&Tオルファクトメータ)、静脈性嗅覚検査(アリナミンテスト)が必要です。

自賠責保険で鼻の機能障害の後遺障害等級が認定されれば、後遺障害の存在自体が裁判で争われるケースはほとんどありません。

他方、自賠責保険で後遺障害と認められなくとも、上記各検査の結果から、裁判所によって後遺障害と認められたケースも複数あります

したがって、これら検査を必ず受けておくことが肝要です。

特に、基準嗅力検査(T&Tオルファクトメータ)は、十分な換気設備が要求される等のため、大学病院規模の大きな病院でないと検査を実施してくれない場合があることに注意してください。

被害事実を丁寧に主張、立証すること

逸失利益の獲得には、仕事への支障を具体的に主張することが重要

前述のとおり、鼻の機能障害で、労働能力喪失による逸失利益が認められるかどうかは職業への具体的な支障如何によります。

料理人や調香師であれば支障は明白ですが、それ以外の職業でも、実際に生じる不都合を逐一、丁寧に主張、立証してゆけば労働能力喪失が認められます

例えば、先に挙げた中学技術家庭科教師の裁判例では、ガス漏れなどの危険を察知して授業中の生徒を迅速・的確に避難させることができない、木材の匂いを授業で教えることができない等が労働能力上のハンディキャップとして指摘されています。

電池製造技術職の裁判例では、電池の製造過程において様々な化学物質が用いられていることから、製品の品質を管理する上でも、作業中の安全を確保する上でも、嗅覚に頼るべき状況が少なからずあることが指摘されています。

生活上の支障、不都合も具体的に主張して後遺障害慰謝料を増額させる

また、労働能力喪失が認められない場合でも、嗅覚障害が生活に及ぼしている具体的支障を明らかにすることで、後遺障害慰謝料の増額が認められる可能性があります。

嗅覚障害には次のような生活に与える支障があると考えられるからです。

  • 食物の腐敗の匂い、ガス漏れ、火災の煙などに気づかないという生活上の危険にさらされること
  • 新緑の香り、花の香りなど、匂いから季節や天候を知ることができない
  • 食物の香りを楽しむことができない
  • 家族や恋人の香りを感じることができない

これらの支障は、労働能力には直結しない面があるものの、人が生きて生活をしてゆくうえでの、大きな楽しみや活力を奪うもので、被害者の生活の質を大きく低下させてしまいます。

裁判例4.

東京地裁平成11年5月25日判決

被害者は哲学教師志望の大学生(男・事故時31歳)で、嗅覚脱失などで12級の等級認定を受けました。

裁判所は、嗅覚脱失が哲学教師という職業に具体的な支障を及ぼすとは認められないとして逸失利益を否定しました。

しかし他方で、嗅覚を完全に脱失したことで、生活上、様々な不利益、不都合が生じること等を考慮して、後遺障害慰謝料としては(12級の弁護士基準290万円を大幅に上回る)600万円を認めました。

(交通事故民事裁判例集32巻3号804頁)

まとめ

ご説明したとおり、鼻の後遺障害で適正な賠償額を受け取るためには、詳細な被害実態を漏らさずに主張し、これを裏付ける証拠も集めることが必要です。

しかし、交通事故に関する専門知識を持たない、一般の被害者の方が、後遺障害を抱えながら、そのような作業を行うことは事実上困難です。

交通事故に強い弁護士に依頼することで、このような作業を任せることができるだけでなく、示談交渉や訴訟を被害者に有利に進めることが可能となります。

交通事故で鼻を負傷した方は、是非、弁護士に相談されることをお勧めします。

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