過失運転致死傷罪とは?量刑・罰金相場等わかりやすく解説
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交通事故による死亡が発生した場合、なぜ一部の人々は逮捕され、一部は逮捕されないのか、という疑問は多くの人が持つことでしょう。
特に、2019年4月に東池袋で発生した高齢者による重大な交通事故では、加害者が逮捕されなかったことで、多くの議論が巻き起こりました。一部のSNSでは「上級国民だから逮捕されない」といった意見も広まりました。
いったいなぜ、交通事故で逮捕されるケースと逮捕されないケースがあるのでしょうか?基準があるのでしょうか?不公平ではないでしょうか?
今回は交通事故や死亡事故で逮捕されるケースと逮捕されないケースの違い、逮捕の基準について解説していきます。
目次
死亡事故を起こした場合、加害者の責任は重大なので現行犯逮捕されるのが当然と思われます。しかし必ずしも逮捕されないのです。逮捕には一定の要件があり、死亡事故のケースで必ずその要件を満たすとは限らないからです。
一般的な逮捕の要件は「逮捕の理由」と「逮捕の必要性」の2つです。
被疑者が「罪を犯したと疑われる相当な理由」です。
つまり被疑者が何らかの犯罪を犯している蓋然性が高い場合に逮捕が可能となります。
逮捕の必要性とは、逮捕しないと被疑者が逃亡してしまったり罪障隠滅してしまったりすることです。
逃亡のおそれも罪障隠滅のおそれもなかったら、あえて逮捕はしません。
死亡事故の場合、逮捕されるか逮捕されないか、どうか具体的にどうやって決まっているのでしょうか?
ひき逃げをしたり、事故現場から逃げようとしたりすると「逃亡のおそれ」があると判断されて逮捕されやすくなります。
飲酒運転、無免許運転、危険なスピード違反などの道路交通法違反があり悪質なケースでは、放っておくと逃げられるおそれがあるので逮捕されるケースが多数です。
自ら事故を起こしたのが明確なのに被害者のせいにしようとしていたり嘘をついたりして責任逃れしようとすると「逃亡のおそれ」「証拠隠滅のおそれ」があるとみなされて逮捕されやすくなります。
住所不定や定職に就いていない、独身で賃貸住宅に独居しているなどの場合、逃亡のおそれが高くなるので逮捕される可能性が高くなります。
以前にも人身事故を起こしたり交通違反によって立件されたりして前科がついている方の場合、重い処罰が予想され逃亡や証拠隠滅のおそれがあると考えられるので逮捕されやすくなります。
危険運転をした場合、信号無視や無理な割り込みをした場合、一方的に高スピードを出して前方車両に追突した場合など加害者側の過失割合が高ければ逮捕される可能性が高くなります。
大けがをして病院に搬送されたら逃亡も証拠隠滅もできませんし、治療の必要もあるので逮捕されません。
サラリーマンや公務員など定職に就いていて家族と一緒に暮らしている方の場合、逃亡のおそれが低いので逮捕されにくくなっています。
事故後の実況見分などによって交通事故状況が明らかになっている場合、証拠隠滅も逃亡のおそれも低くなるので逮捕される可能性が下がります。
本人が事故態様について争わず責任を認め、反省している場合にはあえて逃亡や証拠隠滅をはかろうとはしないと考えられ、逮捕される可能性は低くなります。
ひき逃げ、飲酒運転、スピード違反などの道路交通法違反をしておらず、単純に人をはねて運悪く死なせてしまった、というケースでは逃亡や証拠隠滅のおそれが低く逮捕されない可能性が高くなります。
加害者が80歳を超える「高齢者」で家族と同居している場合、家族が協力しない限り逃亡や証拠隠滅が行われる可能性は極めて低くなるので、通常は逮捕されません。
青信号を守っていたのに歩行者が飛び出してきたケース、トラックに小型車が衝突して小型車の運転手が死亡したケースなど「加害者側」に過失がほとんどないケースがあります。このような場合にも逃亡や証拠隠滅のおそれが低いとして逮捕はされにくくなっています。事故現場でいったんは現行犯逮捕されても、家族が迎えに来て「身元引受書」を書いたらすぐに釈放されるケースもあります。
飲酒運転や危険なスピード違反などの道路交通法違反をした上で死亡事故を引き起こしたら、多くのケースで現行犯逮捕されます。
ただし、上記の記載のとおりですが、本人が大けがをしてそのまま入院した場合などには逮捕されません。
また、上記の通り、高齢者のケースなどでも逮捕されない可能性があります。
加害者が逮捕されなかったら、そのまま何の処罰も受けずにおとがめなしになるのでしょうか?
一般的な感覚として、そのような結果は不合理で許せないと思いますよね?
現実にも、そのようなムシの良い制度にはなっていません。
実は刑事手続きでは「逮捕しなくても刑事事件にして処罰できる制度」となっています。
加害者が逮捕されなくても「在宅」のまま捜査が進められて証拠収集が行われ、必要な証拠が揃ったときに加害者が起訴される仕組みです。
たとえ在宅捜査が進められたケースでも、日本の刑事裁判は有罪率が99.9%を超えているので、いったん起訴されるとほとんど「有罪判決」が下り、本人には一生消えない前科がつきます。
死亡事故を起こしても必ず逮捕されるわけではありませんが、多くのケースで最終的に刑事罰(罰金や懲役刑)を受けることになります。
例えば、池袋暴走事故の加害者は、自動車運転処罰法違反(過失運転致死傷)容疑で東京地検に書類送検され、その後、禁錮5年の判決を受けました。
以上のように、たいていは起訴されますが「加害者の過失が極めて低い場合」などには起訴されないケースもあります。
また、死亡事故を起こせば免許の点数が大きく加算され、一回で免許取消処分を受けますし、欠格期間も発生するので、加害者は最低年、免許の再取得をできなくなる「行政処分」も受けます。
加害者は刑事事件においてどのような刑罰を受けるのでしょう。
前方不注視などによる通常の交通事故の場合には、加害者は「罰金刑」または「禁錮刑」「懲役刑」の「執行猶予」になる可能性が高く、いきなり実刑になるケースは少数です。
ただし中には「不起訴」になり、刑事罰を受けない事例もあります。罰金なら100万円以下、禁錮や懲役なら7年以下となります。
飲酒運転、人の集団にあえて車で突っ込んだなどの危険運転の場合には「1年以上の有期懲役刑(最長20年)」となります。
初犯でも実刑判決を受けて刑務所に行かねばならない可能性が高くなります。
今回は、死亡事故や交通事故で逮捕されるケース、逮捕されないケースを解説しました。
一律に逮捕されるわけではないですが、その後、刑事罰は科せられることが多いことは理解できたかと思います。
また、ちなみに、最近、道路交通法の改正が、衆議院で可決・成立しました。
具体的には、一定の違反歴がある75歳以上を対象として、運転技能検査(実車試験)を行う旨が盛り込まれまています。
技能検査は、運転免許証の更新期限の6ヶ月前から受けることができ、期間内であれば何回でも受検は可能ですが、不合格であれば、免許は更新されません。
こういった対策が、功を奏するかどうか、今後注視も必要と言えるでしょう。