交通事故で坐骨神経痛!後遺障害認定を受けるポイント

交通事故で坐骨神経痛

「追突事故後、足のしびれ、痛みが残っている」など、交通事故の後に、お尻、太もも、すねなどに痛みや痺れなどを生じ「坐骨神経痛」と診断されることがあります。

怪我が順調に回復するケースもありますが、問題は治療が終わっても、痛み、痺れなどの後遺症が残ってしまうケースがあります。

この場合「後遺障害」として損賠賠償を求めることが可能です。

また、坐骨神経痛が該当する後遺障害の等級は、12級もしくは14級ですが、等級によって後遺障害の認定が受けられる条件は異なります。

そこで、今回は、坐骨神経痛で後遺障害等級が認定される条件や認定の際、特に問題となる既往症や慰謝料などの損害賠償などについて説明します。

坐骨神経痛とは

坐骨神経痛の症状

坐骨神経痛の典型的な症状は、坐骨神経の通り道である臀部から太ももの裏側に痛みが走るものです。

この痛みは腰痛を伴うこともあります。また、膝下までにとどまるケースもあれば、ふくらはぎ、すねまで痛むケースもあります。

痛みの内容は、熱さを感じる灼熱痛、しびれるような電撃痛、あるいは刺すような痛みと様々です。痺れや脱力を生じることもあります。

坐骨神経とはどんな神経?

私たちの神経は、脳に始まり、脊椎(背骨)の中を通って、腰椎(腰骨)の下部から臀部、太ももの裏側を経て足先まで至ります。この長い神経のうち、腰から膝上までの部分が坐骨神経で、人体で最も太い神経とされています。

交通事故も坐骨神経痛の原因となる

坐骨神経痛は、この坐骨神経の通り道に出る痛みなどを言います。

このうち一般に交通事故によって引き起こされるのは、事故による創傷や骨折で坐骨神経が直接に損傷を受けた場合と、事故の衝撃で腰椎椎間板ヘルニアを発症した場合です。

中には、追突事故などで、むちうち症と併せて症状がでる方もいるようです。

坐骨神経痛で認められる後遺障害等級

坐骨神経痛の症状が残ってしまった場合に、自賠責保険で認定される可能性がある後遺障害等級は、12級13号または14級9号です。

各等級の認定の要件は、以下の通りです。

12級と14級の違いは医学的に証明できるかどうか

それでは、後遺障害等級12級、14級の認定を受けるためには、どのようなことが必要なのでしょうか?各等級の認定を受けるためのポイントを解説します。

坐骨神経痛で12級の認定を受けるポイント

後遺障害12級の認定には「他覚的所見」が必要

12級の「医学的に証明できる」とは、他覚的所見」によって医学的に証明できることです。

「他覚的所見」とは、医師が医学的知識に基づいて、客観的に症状の存在を確認できることです。

典型的には、以下の3つを満たす場合です。

  • レントゲン、CT、MRIの画像から、坐骨神経の損傷や圧迫を確認できる
  • 損傷や圧迫を受けている神経部位は、現に痛みなどの症状が出ている身体領域を支配している部位(※1)であり、画像所見と症状が整合している
  • 前述した各種の神経学的な検査(※2)の結果も画像所見と整合している

※1 各神経には、その神経が支配している身体の部分(領域)があり、その対応関係は医学的に明らかになっています。
損傷・圧迫された神経が支配していない身体領域に痛みがある場合は整合していないことになり、医学的に証明されたとは言えません。
※2 画像診断以外の神経の異常を確認する各種の検査方法。ラセーグテスト、ブラガードテスト、神経伝導速度検査、筋電図検査などがあります。

このような場合には、問題なく医学的に証明されたことになります。

自賠責保険で12級の認定を受けるには画像所見が重要

では、坐骨神経痛の存在を示しているのが神経学的諸検査の結果のみの場合に、12級の認定を受けることは可能でしょうか?

残念ながら、自賠責保険の実務では、書類審査によって、大量の案件を公平に審査しなくてはならないため、画像の存在を非常に重視しており、神経学的検査の結果だけで坐骨神経痛に12級が認められることは困難とされています。

裁判所においても、画像所見の重要性は認められますが、不可欠のものではなく、神経学的検査も含めた医学的所見を総合的に判断して後遺障害の有無と程度が判断されます。

坐骨神経痛で14級の認定を受けるポイント

後遺障害14級は自覚症状だけでも認定可能

裁判実務では「医学的に”説明可能”な障害を残す所見があるもの」または「医学的に証明されないものであっても、受傷時の状態や治療の経過からその訴えが一応説明のつくもの(推定できるもの)」であれば、14級の認定が認められています。

「医学的に説明可能」とは、他覚的所見がなく、自覚症状(患者の訴える症状)しかない場合でも、事故からそのような症状が生じたものと説明してもおかしくない場合と言い換えることができます。

反対に、事故から生じた症状とは説明できない場合、たとえば、症状が「詐病(仮病)」や「誇張(大げさ)」と疑われるときには、「非該当」とされて、自賠責保険からは後遺障害と認めてもらえません。

患者側からすれば、このような見方をされるのは大いに心外であることは理解できます。

後遺障害14級で問われるのは症状の「連続性、一貫性」

しかし、次のようなケースを考えてみてください。

  • 事故から2週間も経ってから、初めて足が痛いと病院を受診した
  • 右足が痛いと治療を継続していたが、2ヶ月後には左足も痛いと言い出した
  • 足が痛いと週に3回の通院をしていたが、事故から3ヶ月経ったところで通院しなくなり、さらに2ヶ月を経過したところで、また週に3回の通院を再開した

普通怪我の症状は、事故直後が最も重く、治療が進むとともに、軽くなっていきます。ところが、上記のようなケースは、異常な経過をたどっています。

このような場合を症状の「連続性、一貫性を欠くケース」と呼び、医学の立場からは事故との関係の説明がつかない症状とされます。

したがって、14級の認定を受けるためには、合理的な説明(※)がつかない限り、事故から時間を置かずに受診し、その後も定期的に通院を継続することに注意を払うべきです。

しかし、真面目に通院をしていても、後遺障害認定を受ける際に問題となる点があります。次に坐骨神経痛で後遺障害認定を受ける際に争点となる既往症について考えてみます。

※合理的な説明:例えば、余人に代えがたい重要な仕事で海外出張があった、治療途中で家族が入院してしまい自分の治療より家族の看護を優先したなどのケースがありえます。

坐骨神経痛の後遺障害認定で争点となる既往症

坐骨神経痛の原因となることが多い腰椎椎間板ヘルニアにおいては、既往症の存在を理由に、事故との因果関係が問題となるケースが多発しています。

画像診断で、腰椎に加齢による変形などが見つかると、事故前から加齢による腰椎椎間板ヘルニアが存在したのであり、事故に起因するものではないと、後遺障害と認定されないケースや、後遺障害等級認定を受けても保険会社が不服として訴訟で争ってくるケースがあるのです。

既往症があっても後遺障害認定を受けられる可能性

しかし、このようなケースは、弁護士によって、「仮に腰椎椎間板ヘルニアの既往症があったとしても、事故前には坐骨神経痛の症状は生じていなかった」、「事故をきっかけとして症状が発生した以上は、事故と因果関係がある後遺障害である」と主張、立証することで、裁判所に後遺障害を認めさせることができます。

例えば、既往症があっても事故との因果関係を認めた次のような裁判例があります。

大阪地裁平成8年8月29日判決

・被害者には、事故前、痛みを自覚しない程の腰椎椎間板ヘルニアがありました
・同時に、次のような事実も存在しました

  1.  事故直前まで家事と障害児の育児をこなしていた
  2. 事故の衝撃で無防備に腰をひねった
  3. 事故後2、3日で症状が悪化した

裁判所は、事故をきっかけに腰椎椎間板ヘルニアが悪化したとして、事故との因果関係を認めました

既往症がある場合でも諦める必要はありません。

慰謝料をはじめ損害賠償額を大きく左右する素因減額

ただし、この場合、後遺障害の発症には、加害者の過失だけではなく、被害者側の既往症という原因も関係していることから、公平の見地から、損害賠償額を一定割合減額されてしまう場合があります。これを素因減額といいます。

上の裁判例でも、50%の素因減額が認められてしまいました。

素因減額が認められると、賠償額の80%や90%もの減額がなされてしまう場合もあります。

そこで、まずは既往症の存在自体を否定して、事故が直接に腰椎椎間板ヘルニアを生じさせたと主張し、これを裁判所に認めてもらうことが最優先です。事故が既往症を発症させたという主張は、予備の主張、いわば次善の策、滑り止めとすべきです。

このように、保険会社とどのような戦略で戦うかが、賠償額に大きく影響します。弁護士の力量が問われる場面と言えるでしょう。

では、実際に後遺障害が認定された場合、どんな損害賠償が認められるのかを次に解説しましょう。

坐骨神経痛の慰謝料と逸失利益について

坐骨神経痛が後遺障害と認定された場合に認められる損害賠償には、

・後遺障害慰謝料
・後遺障害逸失利益

の2つがあります。

後遺障害慰謝料

後遺障害慰謝料とは、後遺障害が残ってしまったことによって生じた精神的、肉体的な苦痛に対する損害賠償です。

後遺障害慰謝料には、自賠責保険基準任意保険基準弁護士基準の3つの基準があり、自賠責基準から順に高額になっていきます。

後遺障害慰謝料の各基準の相場と、後述する逸失利益の計算に用いる各等級の労働能力喪失率をまとめると下表の通りとなります。

等級 後遺障害慰謝料 労働能力喪失率
自賠責基準 任意保険基準(※) 弁護士・裁判基準
12級 93万円 100万円 290万円  14%
14級 32万円 40万円 110万円 5%

※任意保険基準については、一般に公開されていないので、旧任意保険の統一支払基準を参考に記載しています。

上表からお分かりいただける通り、自賠責基準と弁護士・裁判基準とでは、後遺障害慰謝料に3倍以上の差があります。

自賠責基準は、人身事故での最低限の補償をする自賠責保険の基準であり、任意保険基準は、任意保険会社が独自に賠償額を定めた基準、弁護士・裁判基準は、裁判例を基に決められた基準です。

弁護士・裁判基準は、最終的に賠償額を決める裁判所が用いる唯一法的に妥当な基準です。

本来の賠償額は、弁護士・裁判基準を用いて計算すべきですが、示談で保険会社を相手に被害者がそう主張しても上手くいくとは限りません。

後遺障害慰謝料を弁護士・裁判基準で交渉するには、弁護士に依頼するのが得策です。

逸失利益

逸失利益は、交通事故の後遺障害が原因で、得ることができなくなった利益です。後遺障害による労働能力の低下によってもたらされた減収分を労働可能年齢である67歳まで補填するものです。

後遺障害逸失利益の計算式は以下の通りです。

逸失利益=
年収額×労働能力喪失率×被害者の年齢に応じたライプニッツ係数

「就労可能年数に応じたライプニッツ係数」の一覧表は、以下の国土交通省のサイトからダウンロードすることができます。

参考外部サイト:国土交通省「就労可能年数とライプニッツ係数表

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坐骨神経痛の裁判例

労働能力喪失率に納得できないなら弁護士に相談

前項で触れた通り、自賠責保険の後遺障害等級に認定されても、12級の労働能力喪失率は14%、14級に至ってはわずか5%です。「こんなにつらくて仕事どころではないのに……」という気持ちになる場合もあるでしょう。

自賠責保険の労働能力喪失率に満足できないときは、弁護士に相談をして訴訟も検討してみてください。

というのは、自賠責保険の労働能力喪失率は、あくまでも自賠責保険から支払われる逸失利益の賠償金額を計算するためのものに過ぎず、裁判所は、この数字には拘束されないからです。

訴訟において、労働能力喪失率は、被害者の年齢、職業、後遺障害の部位、程度、事故前の稼働状況等の諸般の事情を総合して判断するのが裁判所の立場です。

このため自賠責保険で12級、14級と認定された後遺障害について、14%や5%よりも高い労働能力喪失率を認定されるケースもあるのです。

等級の基準以上の労働能力喪失率を認めた裁判例

例えば、次のような裁判例があります。

裁判例1.

大阪地裁平成7年3月22日判決

・被害者はミシンによる縫製を仕事としている64歳の女性
・後遺障害のために振動の強い業務用ミシンを使用できなくなりました
・後遺障害は頸部痛、腰部痛で12級

裁判所は、労働能力喪失率50%を認めました

裁判例2.

仙台地裁平成16年9月3日判決

・被害者は看護師の女性38歳
・事故後5年間(症状固定後も含めて)神経ブロック治療を400回も行っていました
・坐骨神経痛12級(右のお尻から脚にかけて痛み、冷感)

裁判所は、労働能力喪失率20%を認めました

このように自賠責保険で認定された等級において定められている労働能力喪失率よりも高い喪失率を認めてもらい、逸失利益の賠償額を大きく増額させることができるケースは珍しくはありません。

自賠責保険の認定結果が出たとしても、簡単にそれでよしとせず、念のために弁護士に相談してみることがお勧めです。

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  1. 保険会社が提示した示談金・慰謝料に不満だ
  2. 事故の加害者・保険会社との示談交渉が進まない
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弁護士に相談することで、これらの問題の解決が望めます。
保険会社任せの示談で後悔しないためにも、1人で悩まず、今すぐ弁護士に相談しましょう。

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