非接触事故(誘引事故)でバイク・自転車転倒!損害賠償させる全手順

非接触事故とは、物理的な接触がなかった、ぶつかっていない・当たっていない事故です。誘因事故とも呼ばれます。

例えば、次のようなケースが典型です。

  • バイクや自転車で走行中、となり車線の自動車が、急に合図なく車線を変更したため、驚いて衝突を避けようと「急ハンドルを切ったところ転倒」して怪我をした。
  • 歩行者が青信号で横断歩道を通行中、右方向から、赤信号を無視したバイクが減速せずに突っ込んできたため、「とっさに身をかわしたところ転倒」して怪我をした。

このような「車体と車体」あるいは「車体と歩行者」の物理的な接触・衝突がないケースでも、加害者に損害賠償責任などの法的責任が発生するのでしょうか?

この記事では、非接触事故の法的責任はどうなるか、非接触事故の過失割合はどうなるか、立ち去ったり逃げてしまった場合後日警察から連絡があるか、人との接触に気づかなかった場合は処分はないかなどについて解説します。

非接触事故(誘因事故)でも相手に損害賠償を請求できるか

非接触事故(誘因事故)で転倒した際に負った傷害でも「加害者に損害賠償を請求」できるのかどうかを解説致します。

非接触事故の損害賠償請求の根拠となる法律

交通事故における損害賠償請求の根拠となる法律は、下記が主なものです。

  • 運行供用者責任(自賠責法3条)
  • 不法行為責任(民法709条)
  • 使用者責任(民法715条)

いずれも、加害者の過失行為によって「損害」が生じたと言える関係にあれば、その損害の賠償を請求する権利が発生します。

この加害者の過失行為によって損害が生じたと言える関係を「因果関係」と言います。

因果関係がある損害であれば、賠償請求できる点では、通常の接触事故であろうと、非接触事故であろうと区別はありません。

非接触事故は因果関係の立証が難しい

通常の接触事故では、例えば、下記の流れのように加害者の過失行為と怪我という損害の発生との間の「因果関係」は通常は明白です。

  1. 車両運転者の前方不注視
  2. 車と歩行者の物理的な衝突
  3. 歩行者の怪我

しかし、非接触事故では下記のように、過失行為と損害発生との間に「被害者自身の回避行動が介在」しています。

  1. 車両運転者の前方不注視
  2. 歩行者が「衝突を回避」して転倒
  3. 歩行者の怪我

このため、加害者側から「被害者が勝手につまずいて転んだだけではないか?」「被害者が回避行動をしなくても衝突する危険はなかったのではないか?」などの反論を許してしまう余地があるわけです。

この意味で、非接触事故は、通常の事故よりも、因果関係の立証が難しい面があります。ただ、これによって非接触事故とそれ以外の事故が法的に異なるわけではありません。

非接触事故の最高裁判例

非接触事故に関する最高裁判例は、次のように述べています。

最高裁昭和47年5月30日判決

「車両の運行と歩行者の受傷との間に相当因果関係がある」のは、「車両が被害者に直接接触したり」、「車両が衝突した物体等がさらに被害者に接触したりするときが普通」だがこれに限られない。

「接触がないときであつても、車両の運行が被害者の予測を裏切るような常軌を逸したものであつて、歩行者がこれによつて危難を避けるべき方法を見失い転倒して受傷するなど、衝突にも比すべき事態によつて傷害が生じた場合には、その運行と歩行者の受傷との間に相当因果関係を認めるのが相当である。」

【出典】裁判所サイト

判決文は「衝突にも比すべき事態によつて傷害が生じた場合には」と述べていることから、そのような場合でなければ、因果関係が認められないかのように誤解するかもしれません。

しかし、「衝突にも比すべき事態」に因果関係が認められるのは、むしろ当たり前です。

結局、この判例は、非接触事故であっても、因果関係が認められる以上は、接触事故と変わりなく「賠償責任がある」という当然のことを示した判例と理解するべきなのです。

非接触事故の過失割合の考え方

非接触事故でも過失割合のベースとなる基準は同じ

非接触事故でも、過失割合の基準は通常の接触事故と同じ数値がベースとなります。

ただし、非接触事故には、被害者自身の回避行動が介在するため、回避行動が不適切と判断されれば、「過失割合が修正される場合」があります。

過失割合は、事故態様が類型化され、これに応じた基準が公表されています。

例えば、実務上のスタンダートとなっているのは、東京地裁民事交通部の考え方を示した通称「緑本」です(※)。

※通称「緑本」とは、「別冊判例タイムズ38 民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準 全訂5判」(東京地裁民事交通訴訟研究会編)。

主に、下記のような道路状況・事故態様や注意義務などを考慮して数値を設定してます。

  • 事故現場の道路状況
    交差点か否か、横断歩道上か否か、信号機の有無、道路の広狭etc.
  • 事故態様
    車対歩行者、車対バイク、車対車、直進車同士、右折車対直進車、信号機の表示etc.

ただ、実務においては、その事故がどの類型に当てはまるかを探したうえで、「修正要素の適用」を考え、さらに当該事案の特殊な「個別事情」を考慮して過失割合を判断します。

非接触事故が過失割合において特殊な点

ただし、接触事故と非接触事故で大きく異なる部分もあります。

それは、前述のとおり、非接触事故においては、「被害者の回避行動が介在している」という点です。

このため、被害者の回避行動が適切であったかどうか、回避行動自体が被害者の落ち度と言える部分がないかどうかが問われることになり、その観点から、過失割合が修正される場合が多いのです。

非接触事故の過失割合に関する裁判例

非接触事故で、被害者の回避行動の不適切さを理由として過失割合が修正された実際の裁判例を挙げてみましょう。

①バイクが転倒した自動車との非接触事故の事例

東京地裁 平成31年2月22日判決

被害者のバイクが、青信号にしたがって交差点を直進しようとしていました。

他方、交差する道路の左方向からは加害者の四輪車が進行してきました。加害車両側には信号機は設置されていませんでしたが、一時停止の規制があり、交差点手前に停止線と横断歩道がありました。

加害者は停止線付近で一時停止した後、交差点内の様子を見ながら徐行したところ、右方向から被害者のバイクが進行してくることに気づき、停止しました。その際の停止位置は、加害車両の前部が横断歩道から90センチメートルだけ交差点側に進入した位置でした。

ところが、これに気付いた被害者のバイクは、「加害車両が交差点に進入して来る!」と考えてしまい、急ブレーキをかけたため、転倒して受傷しました。

裁判所は、四輪車が交差点に進入したことが事故の原因であるとして加害者の過失責任と因果関係を認めました。

この場合、四輪車側は信号の規制は受けませんが、一時停止規制がある以上、バイクの通行が優先されます。

四輪車はいったん一時停止はしていますが、一時停止線を越えて交差点に進入したのですから、通常(つまり接触事故)であれば、過失割合は、バイク35:四輪車65が基本です。仮に、バイク側に前方安全不確認などの過失があるときでも、45:55~55:45と修正される程度です(前記「緑本」322頁)。

裁判所の判断

しかし、この裁判例では「80:20」と、被害車両であるバイクの過失が8割と認定しました。理由は次のとおりです。

四輪車について
  • 左右の見とおしの悪い交差点では、停止線で一時停止した後に、交差点の状況を見とおせる位置まで前進することは不適切な運転ではないこと
  • バイクに気付いて横断歩道から90センチメートルの位置で停止させており、注意を払っていること
  • 停止位置は、バイクの走行車線の延長上にまでは至っていないこと
    (バイク側道路左側には、約3.7メートル幅の歩道などがあるため)
バイクについて
  • バイクは時速約10キロのスピード違反があったこと
  • 四輪車は徐行前進して停止し、バイクの進路上にも、走行車線上にも進入していないこと
  • バイクが急ブレーキをかけて衝突を回避する必要はなく、不要な急ブレーキでコントロールを失って転倒したこと

この裁判例は、加害者の交差点進入という過失行為と転倒・受傷という結果の間の因果関係は認めたうえで、「不要な回避行動をとったバイクの落ち度が大きい」と評価してバランスをとったものと言えます。

なお、「回避行動が不要だったのならば、加害者の過失行為と転倒・受傷の間の因果関係がないのではないか?」と疑問に思われるかも知れません。

しかし、信号に違反して交差点に進入する車両を発見したときは、物理的には不要であっても被害者のような回避行動をとってしまい、転倒・受傷することは社会的に異常な事態ではないと評価されるので、相当因果関係は肯定されるのです(もちろん、バイクが転倒した場所と交差点との距離が、かなり離れており、こんなに手前で回避行動をするのは不自然・不合理だというケースでは、相当因果関係が否定される場合もあるでしょう)。

(自保ジャーナル2045号111頁)

②自転車同士の非接触事故

東京地裁 平成20年7月8日判決

歩道上の自転車同士の事故です。

被害者(年配女性)の自転車が歩道を進行中、加害自転車が、その前方や左右の安全を確認することなく車道から歩道に乗り入れ、対向する被害車両のすぐ近くを通り過ぎました。

被害者が衝突の危険を感じてしまい、ハンドルを左に切ったところ、雨で路面が濡れていたためもあって転倒したという事案です。

通常であれば、歩道上での対向する自転車同士の事故の過失割合は、50:50です。

対向する自転車同士では、互いに相手の存在を認識することが十分可能であり、事故を回避できる可能性において対等の関係と考えられるからです(※)。

※自転車同士の事故の過失割合については、いまだ正式に発表された基準はありません。上の基準は、日弁連交通事故相談センター東京支部が2014(平成26)年に発表した「自転車同士の事故の過失相殺基準(第一次試案)」によるものです(「民事交通事故訴訟・損害賠償額算定基準」2014年版135頁)

裁判所の判断

しかし、裁判所は、被害者の年齢や事故状況から、被害者側も、前方から走行する自転車等の状況に応じた適切なハンドル操作等を行うことが可能であったと認定し、これをできず転倒した点に過失があるとして、加害者30、被害者70の過失割合としました。

(自保ジャーナル1761号)

非接触事故の刑事責任と行政処分

非接触事故の刑事責任

非接触事故であっても人身事故の場合、刑事責任に問われる可能性があります。

「加害者の過失行為」と「傷害・死亡の結果」との間に相当因果関係が認められる以上、その点は通常の接触事故と同様です。

運転行為に過失があるときは「過失運転致死傷罪」として、7年以下の懲役刑もしくは禁錮刑、または100万円以下の罰金刑となります(自動車運転処罰法第5条(※))。

※自動車運転処罰法:正式名称は「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」

さらに、酒酔い運転や、あおり運転など、特に危険な運転を行った結果、被害者を死傷させれば、たとえ非接触事故であっても、危険な運転行為と死傷の結果の間に、相当因果関係がある限り、「危険運転致死傷罪」(自動車運転処罰法第2条)となります。

危険運転致死傷罪の法定刑は、傷害のときは15年以下の懲役刑、死亡のときは1年以上の有期懲役刑と非常に重く、特に死亡事故となれば、確実に実刑となります。

なお、物損事故では、他の法律違反をしていない限り、基本的に刑事責任を問われることはありません。

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非接触事故と行政処分

交通事故に対しては、加害者の道路交通法違反行為の内容に応じた基礎点数が定められ、これに被害状況と「過失の程度に応じた付加点数」が加算されます。

非接触事故であっても、過失行為と傷害・死亡との間に相当因果関係がある限り、接触事故と同様の行政処分を受けることになります。

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非接触事故をめぐるQ&A

最後に、非接触事故に関して多くの方が抱く疑問点をまとめてみました。

①ぶつかっていない場合・気づかなかった場合も、過失は発生するか

過失の有無は、当事者が道路交通法等の法令上要求される注意義務を尽くしていたかどうかで決まります。

つまり、「明らかにぶつかっていない」ことや「ぶつかっていても気がつかなかった」ことには無関係に、過失は発生します。

②怪我がない場合・転倒していない場合は、誰にも何の責任もないか

非接触事故で転倒しても、相手が怪我をしていなければ、受傷という被害を受けた結果が存在しないので、刑事責任、民事責任は発生しません

転倒すらしていない場合も同じです。

ただし、運転行為が「信号違反」などの道路交通法違反に該当するならば、行政処分を受ける可能性はあります。

③「相手が逃げてしまった」と思ったときの、その後の対応方法は?

相手が逃げてしまう前に「加害車両のナンバーをメモする」「加害者の運転免許証を見せてもらいスマホで撮影する」など、相手を特定できる情報を確保しておくことが一番大切なことです。

ただし、加害者が事故に気づかず(あるいは、加害者が事故に気づいたけれど、接触していないので責任がないと考えて)、そのまま走り去ってしまい、相手の身元がわからないときに、被害者は何をするべきでしょうか?

たとえそのような場合でも、被害者は直ちに警察に110番をし、事故現場に来てもらうことが大切です。

駆けつけた警官に非接触事故であることを説明し、「実況見分」を実施するよう要請してください。

交通事故ではないことが明白でない限り、加害者が逃げてしまっても、被害者が怪我をしているならば、必ず実況見分が行われますから、事故状況を詳細に説明しましょう。

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④加害者がその場を立ち去った場合、後日、警察から連絡が来ることはあるか

加害者が「非接触事故だから責任がない」と誤解するなどして、その場を立ち去っても、被害者が警察に被害を申告すれば、過失運転致傷罪を容疑とする捜査は開始されます。

したがって、車のナンバーなどから加害者が特定されれば、後日になって、警察官から事情聴取のため出頭を要請されることは十分に考えられます。

⑤接触してないのに、歩行者から接触したと言いがかりをつけられた場合の対応方法は?

接触していないのに接触したと言いがかりをつけられた場合であろうと、実際に接触した場合であろうと、直ちにその場で警察に連絡をすることが唯一の正しい選択です。

仮に、たんなる言いがかりであったとしても、運転者がその場を立ち去ってしまえば、後に、被害者が警察に被害を届け出て、「その言い分だけに基づいた実況見分」が行われてしまう可能性があり、真実を証明することが困難となる危険があります。

また、接触の有無を問わず、運転者には、事故を警察に報告する義務が課せられており、違反には3月以下の懲役又は5万円以下の罰金刑が定められているので、事実がどうであれ、報告をしておかないと、それだけで刑罰を受けるリスクがあります(道路交通法第72条第1項、第119条第1項10号)。

したがって、被害者と称する人間から、非接触事故だと主張された場合は、たとえ明らかに嘘だとわかっていても、必ず110番をするべきです

まとめ

非接触事故(誘因事故)では、因果関係、過失割合について、争いとなる可能性が高くなります。

加害者側、被害者側を問わず、交通事故に強い弁護士に相談・依頼をされることをお勧めします。

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