交通事故の当事者とは?誰が第一当事者で、どんな義務を負うのか解説
交通事故の当事者の中で、誰が「第一当事者」になり、第一当事者はどのような義務を負うのでしょうか。第一当事者、第二当事…[続きを読む]
交通事故の被害者となったときに、損害賠償請求権の有無とその金額を決めます。
その際に、重要な証拠となる書類が、「実況見分調書」と「供述調書」です。
ここでは、実況見分調書と供述調書とは何か、どんな内容・流れで、いつどのように作成され、どのようにして証拠となるのかを解説します。
また、「実況見分調書」と「供述調書」を作成するもととなる実況見分、事情聴取の際に被害者が注意するべき事項、呼び出し、拒否ややり直し、取り寄せ、食い違い・嘘の対応方法も解説致します。
目次
交通事故の実況見分とは、事故や事件が発生した際に、その状況や経緯について警察が行う検証行為です。
警察官の犯罪捜査の心構えや、捜査の方法、手続きなどを定めた「犯罪捜査規範」104条に実況見分について以下の定めがあります。
犯罪捜査規範 104条1項
犯罪の現場その他の場所、身体又は物について事実発見のため必要があるときは、実況見分を行わなければならない。
似たような言葉に「検証」があります(「現場検証」という言葉もありますが、刑事訴訟法上は「検証」という言葉しか存在しません)。実況見分は警察の任意で行われますが、検証は裁判所の令状のもとに行われるます。行われる検証行為について大きな違いはありません。
ただし、実況見分は強制ではないため、当事者が立会いを拒否することは可能です。しかし、立ち会わなければ、後述する通り、後悔することは間違いありません。
では、実況見分から実況見分調書作成まではどのような流れで進むのでしょうか?
実況見分の内容も含めて解説します。
交通事故の実況見分で調査される事項は、大きくわけて、「現場の客観的な状況」と「事故の態様」の2つに分けることができます。
警察官が現場を観察して容易に知ることができるもので、例えば次のような内容です。
舗装道路か、砂利道か、乾燥しているか、濡れているか、事故時の天候など
最高速度規制は何キロか、駐車禁止か、右左折禁止か、優先道路か、一歩通行か、信号の有無・設置位置、停止線の位置、各種標識の内容と位置など
市街地か否か、交通は頻繁か閑散か、勾配の有無程度、道路の見とおしの良さ悪さ、樹木や電信柱その他の構造物の配置、道路の幅員など
「事故の態様」とは、具体的に言えば主に次のような内容です。
これらの内容を調べるには、事故を目撃していた人間(被害者、加害者、同乗者、目撃した第三者)から説明を受ける必要があります。
例えば、被害者が「私は、ここでブレーキを踏みました。そのとき相手の車は、あの位置でした。」と指をさして説明することで、警察官は、路面上のその各位置にチョークで×印を描き、その各地点を測量して特定するわけです。
このように実況見分に立ち会って説明を行う者を「立会人」と呼び、目撃者らが行う説明を「指示説明」と呼びます(犯罪捜査規範104条2項、105条1項)。
上の「現場の客観的な状況」を記録するには、目撃者などの説明は不要ですが、「事故の態様」を記録するには「立会人」による「指示説明」が前提なので、そこに嘘や間違いが混入する危険はあります。
実況見分は、事故直後に事故の当事者双方の立会いのもとで、事故現場で行われます。道路交通の安全を確保するため、事故車両や散乱した破損物などは早急に片付けなくてはなりませんし、ブレーキ痕など時間が経てば消失してしまう証拠もあるからです。
その際に、事故の両当事者が揃っていれば、両当事者が「立会人」となって「指示説明」を行うことになります。
一方、当事者の「片方だけ」が後日呼び出しがあり、立会人となって指示説明を行う場合もあります。
たとえば、当事者の片方が救急搬送されてしまった場合等です。
この場合、後日、不在だった当事者が退院して立会うことができるようになれば、この当事者が立会人となって指示説明をする実況見分が行われます(但し、当事者の主張に食い違いがない場合は実施されません)。
第三者の目撃者がいる場合は、目撃者も立会人となってもらい、指示説明をしてもらうことになります。
また、両当事者が立会人となった場合でも、両者の言い分が激しく対立し、衝突した位置などを特定することが難しい場合は、後日、それぞれ別の日に立会人となって指示説明をする実況見分を実施する場合もあります。
実況見分の所要時間は事故状況によりますが、20分から1時間で終わります。
また、大きな事故では、再検分(1回で終わらず2回に分けて実況見分をする)場合もあります。
実況見分の内容は「実況見分調書」という書面に記録されます。これは警察の捜査報告書の一種であり、実況見分を担当した警察官が、後日、警察署の机の上で作成するものです。
実況見分調書には、事故現場の状況を明らかにする図面や写真などを添付し、そこには、例えば、「被害者が加害者の車両を発見した地点」などを記載します(犯罪捜査規範104条第2項ないし第4項)。
そして、その地点を特定したのは、どの「立会人」の「指示説明」によるものかも記録するのです。
また「供述調書」も作成します。
ほとんどの場合、後日、警察署と検察庁に呼び出されて事情聴取を受けた後に、供述調書が作成されます。
被害者が入院してしまい、退院まで日数がかかることが予想されるケースでは、警察官や検察官が病室を訪問して事情聴取を行い、その場で供述調書を作成するときもあります。
実況見分の結果は、先述した実況見分調書にまとめられます。これは刑事手続の証拠となる書類です。
つまり実況見分は、事故関係者の「刑事処分を決める証拠」を集めるために行われる捜査活動です。
実況見分調書には、実況見分で調べた次のような内容が記載されます。
実況見分調書は刑事手続だけでなく、民事上の損害賠償問題を解決するための証拠としても利用することができます。
したがって、実況見分が適切に実施され、その内容が正確に実況見分調書に記載されることが、「適正な賠償金」を受け取るため重要となります。
しかし、あくまで刑事手続のための書類ですので、実況見分調書が作られると自動的に民事問題の証拠となるというわけではありません。
実況見分調書を損害賠償問題の証拠とするためには、これを「検察庁から取り寄せる手続」を経て入手する必要があるのです。
取り寄せをするには各種の方法があり、場合に応じて使い分けなくてはなりません(※)。
※「交通事故損害賠償請求における立証資料」(「民事交通事故訴訟・損害賠償額算定基準」日弁連交通事故相談センター東京支部)2019年版下巻470頁
「供述調書」とは、事情聴取をした警察官と検察官が聴取した内容を文章にまとめた書類です。
法律上の正式名称は「参考人供述調書」です。
事故当日に現場または最寄りの警察署などで被害者からの事情聴取(※)がおこなわれますが、多くの場合、後日、警察署で改めて事情聴取のうえ供述調書が作成されます。
また当然ですが、検察庁に呼び出されて供述調書が作成されるのも後日です。
※事情聴取の法律上の正式名称は「参考人取り調べ」です。
供述調書も、実況見分調書と同じく、事故関係者の刑事処分を決めるための証拠とする目的で作成されます。
しかし、供述調書も、実況見分調書と同様に、刑事手続だけでなく、民事上の損害賠償問題の証拠として利用される場合があるのです。
したがって、被害者が経験した事実が正確に供述調書に記載されることも「適正な賠償金」を受け取るために重要なことです。
被害者の供述調書は、被害者に対する事情聴取で警察官と検察官が聞き取った内容が記載されます。
主要な内容は以下のとおりです。
もし、事故当事者の一方がが怪我を負っていたとしても、その者に過失があれば、罪を問われる可能性があります。警察としては取り調べを行わざるを得ず、学歴や経歴といった生い立ちまで聞き出す必要があるのです(犯罪捜査規範178条「供述調書の記載事項」)。
また、重大な事故や事故の態様が争いとなっている事故では、実況見分調書の内容を逐一確認しながら、事故に関する記憶を詳細に供述した調書が作成されます。
供述調書は、被害者から聞いた話を警察官が文章にするもので、警察官や検察官による「単なる作文」です。
しかし、警察官、検察官がその内容を被害者の前で読み上げ、間違いがないかどうか確認させたうえで書類に「署名と押印」をさせます。
間違いがあるときは、被害者は内容の訂正を要求することができ、訂正されなければ署名押印を拒否することができます(犯罪捜査規範179条第2項、181条第3項)。
つまり署名と押印によって、供述調書の内容が、被害者が警察官、検察官の前で話したものに違いないことが担保され、それ故に民事訴訟で重視されるのです。
いったん署名押印をしてしまえば、後に調書が間違いであると主張しても、信用してもらうことは著しく難しくなります。
あえて記憶と異なる調書に署名押印した合理的な理由を明らかにすることが求められ、仮に供述調書作成時の警察官や検察官が強引だったとしても、事情聴取の状況を録音でもしていない限りは、その事実を立証することは至難の業だからです。
したがって、供述調書が作成される際には、次のことに注意する必要があります。
被害者に対する事情聴取は、あくまでも任意であり、これに応じる義務はなく、退席することは自由です。強引な警察官、検察官から、記憶と異なる内容を押し付けられそうになったら、「これ以上は事情聴取に応じません。帰ります。」と事情聴取を打ち切って帰宅するべきです。
時々、被害者が事情聴取に応じないと、「それでは、あなたの調書をつくることができない。加害者の調書だけが証拠となって加害者の言い分だけが通ることになるが、それでもいいのか?」と詰め寄られる場合があります。
しかし「それで、かまいません。」と応じましょう。
加害者の供述調書だけがあって、被害者の供述調書がないということは、捜査段階から両当事者の主張が異なっていたことの証左ですから、後の民事訴訟で加害者の供述調書だけが信用されて被害者が不利になるという危険はありません。
加害者の嘘や記憶と違う供述調書に署名押印をすれば、かえって被害者が不利になる危険があるので、そのような調書を決して残してはいけないのです。
もし、被害者が救急搬送などで実況見分に立ち会わずに作成された実況見分調書に納得がいかない場合、不同意や拒否、やり直しを請求することは可能なのでしょうか?
この場合の実況見分調書の内容は「加害者の一方的な言い分」を記録したものにすぎません。
したがって、保険会社との示談交渉で、弁護士が被害者の代理人として示談交渉を行う場合、この実況見分調書をもとに加害者の主張を認めるなどということはありえません。
また裁判においては、裁判官は、その実況見分調書が加害者の言い分を記録したものにすぎず「限定的な証拠能力しかない」ことを理解しており、被害者が不利となることはありません。
具体的な対処法については、次の関連記事をお読みください。
交通事故における実況見分調書と供述調書の重要性について説明しました。
どちらも損害賠償請求の成否を大きく左右する証拠となります。実況見分調書と供述調書について疑問がある、助言を得たいという方は、是非、交通事故に強い弁護士に相談されることをお勧めします。