交通事故の代車|費用相場、借りられる期間などポイントと注意点
代車費用を加害者側に請求することは可能でしょうか? 加害者側は、その支払義務を負うのでしょうか?この記事では、代車費…[続きを読む]
自転車と自動車の交通事故で、被害を受けるのは自転車側ばかりとは限りません。
乱暴な自転車運転のため、自動車がぶつけられ、一方的に被害を受けることがあります。
例えば、
さて、このような乱暴な自転車運転が原因で、事故が発生した場合、自転車の運転者に、車の修理代金の全額や慰謝料をどのように請求すればよいのでしょうか?どれくらい悪いか、つまり過失割合がどれくらいが想定されるのでしょうか?解説いたします。
目次
自転車が車にぶつかってきた場合、自転車の運転者の義務と責任はあるのでしょうか。
いつも自転車が被害者扱いになるわけではないのでしょうか。
他人の権利や法的保護に値する利益を過失で侵害した者は、損害を賠償する義務があります。
これが民法709条が定める「不法行為」制度です。
自転車対自動車の接触事故でも、自転車側に過失があれば、自動車に生じた損害を賠償しなくてはなりません。
自転車は道路交通法の「軽車両」です(同法第2条1項8号及び11号)
要するに、自転車の運転者には、車の運転者と同様に、他人に危害を及ぼさない速度と方法で運転する安全運転義務が課されています(同法第70条)。
自転車が悪いなら、要するに自転車側に過失行為があるなら、被害者である車の所有者に対して修理代等を「賠償する義務」が自転車運転者に発生するわけです。
さて、自転車の運転者が賠償義務を負担するとして、「事故といっても、あくまでも自転車に過ぎないのだから、自動車同士の事故よりも、安い金額で済むのではないか?」と、そんな気がする方も多いかもしれません。
しかし、それは間違いです。例えば、冒頭の2つ目の事例を見てみましょう。
上記のように車が大破した場合、通常は車の運転者に怪我による人損が生じることが普通ですが、ここではぶつかったのに奇跡的に「怪我がなかった」としましょう。
つまり、ここで賠償するべき損害は「自動車の大破による損害」ということになります。
車が大破し、物理的に修理ができないときや、修理代よりも同じ車を中古市場から購入する方が安いケースがあります。
この場合は「全損」として、車の中古市場価格からスクラップ代を差し引いた「買替差額」と、それに加えて廃車手続や次の車に買い替える際にかかる「買替諸費用」を合計した金額を賠償することになります。
損害賠償で全損とされる場合
1. 車が大破し、物理的に修理ができない
2. 修理代より同じ車を中古市場で購入するほうが安い賠償額 = 中古車市場価格- スクラップ代 + 買替諸費用(登録手数料など)
大破した車が、中古市場価格10万円の国産車であれば、たいした金額にはなりませんが、もしも、中古市場価格1000万円のポルシェだった場合は、当然、1000万円からスクラップ代(数万円)を差し引いて、諸費用を加算した金額(1000万円+α)を賠償しなければなりません。
「そんな高額な車は、車両保険に入っているから、保険会社からお金が出るのでは?」と考えるかもしれません。
そのとおりですが、車の所有者に約1000万円を支払った保険会社は、加害者である自転車運転者の責任を肩代わりしたのですから、当然に、自転車運転者に約1000万円を請求することができます(これを求償と言います)。
したがって、自転車での事故に過ぎないから賠償額は低額で済むというのは、まったく間違った思い込みに過ぎません。
さて、自転車が車にぶつかってきた場合、自転車運転者が自動車側に負担する賠償の内容は、上に説明した買替差額、買替諸費用だけではありません。
その内容を一覧表にしました。
全損事故で生じる物損の損害賠償 | ||
---|---|---|
① | 買替差額 | 事故車の中古市場価格からスクラップ代を差し引いた金額 |
② | 買替諸費用 | 事故車を買い替える際にかかる諸費用 |
全損事故以外で生じる物損の損害賠償 | ||
---|---|---|
③ | 修理代 | 事故車の修理費用 |
④ | 評価損 | 修理してもまかなえない、事故車の市場価格の下落 |
全損事故か否かを問わず生じる物損の損害賠償 | ||
---|---|---|
⑤ | 代車費用 | 修理・買替期間中に代車を使用したレンタル料 |
⑥ | 休車損害 | 修理・買替期間中に営業車両で営業ができなかった損害 |
⑦ | 積荷の損害 | 積載物の破損などで生じた損害 |
⑧ | 建物や施設の破損 | 事故で損壊した建物などの損害 |
⑨ | 慰謝料 | 物損被害者の精神的な損害(但し、特別な事情のある場合) |
車が大破した冒頭2例めのような事故では、上の①~⑨のすべてが問題となる余地がありますが、実際の事例としてはあまり多くないと思われます。
他方、自転車が加害者となる物損事故では、冒頭1例めのような、「サイドミラーが壊れた」、「外装が凹んだ」、「車に傷がついた」程度の事故が多いと思われます。
このパターンでは、①買替差額、②買替諸費用、⑦積荷の損害、⑧建物や施設の破損は問題となることはなく、これらを除いた次の5つの損害が問題となりやすいと言えます。
そこで、以下では、これらの損害について解説します。
交通事故による自動車の修理代は、「適正修理相当額」の賠償が必要とされています。
「適正修理」とは、次の4原則を充たす修理です。
自転車が加害者となった事故で多く問題となるのは、「4.美観の回復」にかかる修理費用の相当性でしょう。
ただ外装の傷や凹みをもとどおりに回復すると言っても、塗装の範囲、板金修理か部品交換かといった修理方法によって金額は異なりますし、同じ修理方法であっても修理業者によって工賃が異なりますから、いくらが適正な金額なのかは簡単に判断できることではありません。
そこで自動車事故では、「株式会社自研センター(※)」が作成した「指数」を用いることがよく行われます。これは、工賃の合理的な算定を目的に、脱着・取替・板金・塗装の標準的な修理作業時間を示す指数で、これを用いた算定を「自研センター方式」と呼びます。
ただ、あくまでも標準的な修理作業を前提とするものに過ぎず、唯一の基準でもありませんから、参考になる以上のものではありません。
※「指数事業」|株式会社自研センター
自転車側としては、被害車両を複数の修理業者に見てもらい、相見積もりを出してもらいたいところですが、被害者がそのような要請に応じてくれることは期待できません。
そもそも、修理作業の内容とその料金は、担当する修理業者によって異なるのは当然ですから、自動車事故の物損で修理代金額が争いとなる場合でも、不必要な修理が行われたとか、社会通念に照らして不当に高額であるなどの特別な事情がない限り、加害者側が考えている金額よりも高いというだけで、被害者側の主張する金額の支払を拒むことはできないと理解されています(※)。
ただ、実際に便乗修理(事故前から存在した傷もあわせて修理する)や過剰修理(必ずしも修理を必要としない部分まで修理する)が行われる例もありますから、自転車側が、どうしても金額に不満がある場合は、弁護士に相談するべきでしょう。
※東京高裁平成29年12月12日判決・「民事交通事故訴訟・損害賠償額算定基準2019年版下巻」17頁
ぶつけられた自動車運転手は、愛車に強い思い入れがある人も多く、たとえ外装に傷がついただけでも、慰謝料を請求したいと考える人は珍しくありません。
しかし、「物損事故」では、その財産的損害が補償されれば、精神面の苦痛も慰謝されると評価されるので、例外的に特別な事情がある場合を除いて、慰謝料を請求することはできません。
例外的に特別な事情がある場合とは、被害にあった物品が、被害者にとって特別に主観的・精神的な価値があり、そのような価値を認めることが社会的にも相当と言える場合とされています。
例えば、可愛がっていたペット、先祖代々の墓石、代替性のない芸術品などです。
けれど、自動車それ自体の損害について、所有者本人にどれだけ愛着があったとしても、特別な事情とは認められていません。たとえ貴重なクラシックカーであったとしても同じです。
したがって、自転車によって、自動車の外装に傷や凹みが生じても、慰謝料を請求されることはありません。
車の損傷を修理できても、車の価値が下落してしまう場合があります。これを「評価損(格落ち損)」と呼びます。
評価損には、次の2種類があり、認められた場合には「修理費用の5%から30%の金額」とされる例が多いと言われます。
評価損が認められるか否かは、個別の事情次第です。
しかし、自転車との衝突で外装が凹んだり、傷がついた程度では、通常、外観に欠陥が残ることはあり得ませんし、事故を理由に市場で敬遠されることも考えられませんから、技術上の評価損も取引上の評価損も認められることは、まずありません。
自転車との衝突で外装が傷つき修理する場合、当然、事故車両は何日間か使用できなくなりますから、被害者側が代車を使用し、その料金を自転車運転者に請求することは珍しくありません。
ただし、この代車費用の請求が認められるには、次の各条件を充たしていることが必要です。
これらの条件を充たさない請求であれば、自転車側は支払いを拒否することができます。
被害車両がタクシーなどの営業車の場合、修理で車が稼働できなければ、営業損害が発生します。
これが「休車損害」です。算定方法は次のとおりです。
休車損害 = 休業した日数 ×(その車による平均売上日額 - 平均流動経費日額(※))
※平均流動経費:ガソリン代、高速道路代などの経費
ただし、タクシー会社のように、代替できる遊休車両があり、容易に利用可能な場合は、そちらで営業すれば良いので、休車損害は発生せず、自転車側も支払いは不要となります。
これに対し、個人タクシーの場合は、休車損害を請求されてもやむを得ないでしょう。
自転車側の賠償義務の根拠となる法律は、民法709条だけではありません。
例えば会社の営業マンが得意先回りのために自転車で走行中に物損事故を起こしたケースでは、その営業マンが民法709条に基づく賠償責任を負うと同時に、会社も使用者責任(民法715条)に基づき賠償義務を負担します。
また、例えば自転車運転者が民事責任能力を欠く未成年者の場合、運転者本人に民事責任を問うことはできませんが、親権者などが監督義務者責任(民法714条)を負担することがあります。
なお、自動車やバイクによる人身事故での損害賠償責任は、ほとんどの場合、自動車損害賠償保障法第3条の「運行供用者責任」が根拠になりますが、これは物損や自転車運転者の責任には適用されません。
冒頭の2例では、あきらかに自動車側には何の過失もないので、損害は100%自転車側が負担することになります。
しかし、自動車側に何らかの落ち度があれば「過失相殺」によって、自転車側に請求する「賠償額が減額」されます。
減額の割合を決めるのが「過失割合」です。自転車と自動車の事故についての過失割合は、いわゆる「緑本」や「赤い本」に記載されています(※)。
※緑本:別冊判例タイムズ38民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準(全訂5判)
赤い本:民事交通事故訴訟・損害賠償額算定基準
これらは、いずれも「自転車側が被害者となった人身事故」を想定していますので、自転車が加害者となって自動車に物損を生じさせた場合に、そのままストレートに適用することはできませんが、過失割合を考える参考にはなります。
以下、いくつかの自転車と車の事故で自転車が悪い場合の過失割合について、事例を挙げ説明します。
赤信号を無視して交差点に突っ込んできた自転車が、青信号で交差点に進入した車との事故の場合、過失割合は「自転車:自動車=8:2」が原則です。
対向車線を走る自動車が、右折車用の矢印信号が青になったので右折をしたところに、自転車が赤信号を無視して進入したというケースです。
この場合も同様に、過失割合は「自転車:自動車=8:2」が原則です。
信号無視をして突っ込んだら、自転車側が悪く加害者になる
信号無視をした自転車が自動車と交通事故を起こした場合には、どんなに怪我の具合がひどくても、治療費の全額を負担してもらうことは、期待できません。
この場合、自転車が、自動車の車体を破損した加害者になっていることを忘れてはなりません。
怪我の治療費のうえに、自動車の修理代も払わなくてはななりません。
上記のようなケースで自転車側に「著しい過失」や「重過失」があると判断された場合には、さらに自転車が悪く、過失割合が5~10%加算され、90%ということも起こり得ます。
自転車側に著しい過失・重過失が認められるのは、次のようなケースです。
著しい過失 |
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重過失 |
|
自転車に重過失があったが、幸運にも自動車の左側ドアが凹んだだけで、自転車運転者にも、自動車運転者にも怪我がなかったという場合、左側ドアの修理代等の損害を、例えば自転車90:自動車10の過失割合で分担することになります。
修理費用など損害額が10万円だったならば、自動車側が請求できる金額は「9万円」になります。
なお、この場合、自転車の前輪が曲がってしまうなど、自転車も破損し、修理代がかかる場合は、その10%を自動車側が負担することになります。
また、自転車事故の過失割合については、下記ページも詳しいので併せてご参照ください。
自転車が車にぶつかってきた場合の接触事故で、自転車が自動車に物損を与えた場合でも、加害者である以上、損害を賠償しなくてはなりません。
自動車側が請求する内容が、常に正しいわけではありません。
慰謝料や評価損のように請求できない損害や、代車料のように細かい条件があるもの、修理代金のように通常は修理工場の見積りどおりで支払わざるを得ないものと、項目毎に扱いが異なっており、単純なものではありません。
自転車事故での物損を請求されている方は、弁護士に相談されることをお勧めします。
なお、自転車も道路交通法上軽車両であり、自動車にぶつけてしまった場合は、たとえ物損事故であってもドライバーと同様に警察への通報義務があります。その場では示談せず、損害賠償で大きな痛手を被らないようにしましょう。