交通事故と因果関係|自賠責は否定する?素因減額とは?判例はある?
ケガや病気を抱えている人が不運にも交通事故の被害者となって、さらに後遺障害に苦しむ場合もあります。交通事故賠償で既往…[続きを読む]
交通事故の被害を受けて後遺症が残る場合、逸失利益の請求が考えられます。
しかし、高齢者の中には、逸失利益を請求できるかどうかや、年金受給者としての状況がどう影響するのかについて不安を抱く方もいるでしょう。
特に高齢者の多くは年金を受給しており、この年金を収入として生計を立てています。
この記事では、高齢者や年金受給者に関連する逸失利益の問題、平均余命は関係あるか、何歳までいけるのか等について詳しく説明します。
目次
後遺障害逸失利益とは、交通事故によって後遺障害が残ったことによって、その後、労働能力が下がることから、将来にわたって得られるはずであった収入を得られなくなった損害をいいます。
後遺障害逸失利益を考えるにあたって、年金受給者などの高齢者であるという事実は、以下の計算式における「基礎収入の判断」や「労働能力喪失期間」において、問題になり得ます。
次のように計算します。
基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
高齢者でも現実に働いて収入を得ていたときは、それが基礎収入となります。
しかし、無職・年金受給者の場合でも、家事従事者であることや、就労の意欲・能力と蓋然性を立証することができれば、統計上の平均賃金を用いて「基礎収入が算定」されます。
つまり、逸失利益を請求することが可能です。
後遺障害が原因で労働能力の一部が失われる期間は、原則として、症状が固定した時から就労可能な終期とされる67歳までと考えられています(むち打ち症など、一部の例外はあります)。
そして、症状固定時に67歳に達していない高齢者については、「67歳までの年数」と「平均余命の2分の1」(※)の、いずれか長い方を採用するのが原則になっています。
※症状固定時の年度の簡易生命表による平均余命
症状固定時に、すでに67歳を超えている年金受給者などの高齢者は、上の「平均余命の2分の1」をもって労働能力喪失期間とします。
例えば、2017(平成29)年に68歳男性で症状固定の場合、平均余命は17.23年なので、その半分の8.615年が労働能力喪失期間です。
もっとも、具体的な職業の内容や健康状態等も考慮して判断されますので、必ずしもこの原則どおりになるとは限りません。
年金受給者など高齢者の死亡逸失利益とは、死亡したことによって、被害者が一生にわたって、本来得られるはずであった収入を得られなくなった損害です。
次のような計算式を用いるのが一般的です。
基礎収入 × (1-生活費控除率)× 就労可能年数に対応するライプニッツ係数
年金受給者など高齢者の場合に基礎収入や就労可能年数が問題となるのは、後遺障害逸失利益と同様です。
上記計算式における「生活費控除率の基準」は次のとおりです。
一家の支柱 | 被扶養者が1名の場合 | 40% |
---|---|---|
被扶養者が2名の場合 | 30% | |
女性 | 30% | |
男性 | 50% |
高齢者では、多くの場合、女性30%または男性50%が適用されると思われます。
高齢者、年金受給者の死亡逸失利益でもっとも問題となるのは、年金収入です。
生きていれば年金を受け取り続けることができたのですから、当然に、年金も基礎収入として逸失利益が認められそうです。
しかし、裁判例では、およそ年金であれば、そのすべてを逸失利益とするのでなく、個々の年金制度の性格を検討して、逸失利益と認めるか否かを決しています。
ほとんどの年金は、年金受給権者の生活のみならず、家族の生活維持の機能もあることなどを理由として、逸失利益と認められています。
上記が逸失利益と認められましたが、ただし、その年金の性格から、逸失利益が認められない例外もあります。
例えば、遺族年金は、社会保障的な性格が強く、あくまでも受給権者が生きている間に、その者の生活を安定させるために支給されるものである等として、逸失利益を否定されています(※)。
年金が逸失利益と認められる場合は、平均余命までの年数分の金額が対象となります(つまり、平均余命までの年数に対応したライプニッツ係数を使うことになります)。
注意するべきは、年金の逸失利益については、生活費控除率は通常よりも高く50%から70%に設定する裁判例が多いことです(※)。
※「改訂版交通事故実務マニュアル」(東京弁護士会法友全期会・交通事故実務研究会編集、ぎょうせい)137頁
これは、年金収入は大部分が生活維持のために支出されるものという認識があるからです。
高齢者の場合には、相手方から、素因減額の主張がなされることが多くありますが、前述のとおり、身体の変性が、通常の加齢の範囲内であれば減額されません。
したがって、高齢者だというだけで素因減額されることは通常ありません。
ただ、相手方保険会社などから素因減額を主張されたときには注意が必要です。その主張が正しいものなのか、一度弁護士に相談してみた方がよいでしょう。
高齢者の場合、加齢等によって、交通事故の前から身体に障害のあることも少なくありません。
もともと身体に障害のある高齢者が、交通事故の被害を受け、もともと障害のあった身体の同一部位に、さらに交通事故を原因とした新たな後遺障害が残ってしまったという場合、後遺障害慰謝料や後遺障害逸失利益の算定において、この新たな後遺障害をどのように評価するべきか問題がありがちです。