症状固定後から示談までの流れと注意点を解説
症状固定後の治療や後遺障害等級認定などについて、様々な疑問をお持ちの被害者がいます。そこでこの記事では、交通事故によ…[続きを読む]
交通事故被害で最も多いと言われる「むち打ち」では、後遺障害が残っていても等級が認められないという事例が数多く発生しています。
後遺障害認定において、等級が認定されるかどうかは、示談金の額に直接影響するので被害者にとっては大問題です。
しかし、諦める必要はありません。「後遺障害等級が認定されなかった」、「認定結果に納得がいかない」という場合、再申請を適切に行うことが重要です。後ほどご紹介するように、裁判を提起することで、等級が上がった例もあります。
今回は、むち打ちで正当な認定を得るための対策について解説します。
なお、基本的なむちうちの示談までの流れを確認したい方は下記ページをご参照ください。
目次
なぜ、むち打ち症は認定を受けることが難しいのでしょうか?最初に、むち打ちが適正な後遺障害の認定が難しい理由について説明します。
非該当になる主な理由
・他覚所見がない
・自覚症状の訴えに一貫性がない
・受傷から症状固定までの推移に不自然な点がある
・ある時期に症状の訴えが全くない
むち打ちではほとんどの症状が、「痛み、凝り、痺れ、めまい、吐き気、麻痺、だるい」といった自覚症状であり、レントゲン画像やMRI画像などで異常が確認できないことが多いことが後遺障害等級に認定されない大きな原因です。
もっとも、14級の認定を受ける場合は、必ずしも他覚所見を必要とはしません。しかし、実態として認定基準を満たしていたとしても、他覚所見がないと、医療情報が足りないために、後遺障害等級の認定がされないいわゆる非該当という結果となってしまうことも多いのです。
その他にも、痛む箇所や症状がコロコロ変わるといった自覚症状の訴えに一貫性がない場合や、症状の訴えが全くない時期がある、受傷から順調に回復し、症状がほとんど無くなったが突然ひどくなって症状固定に至った場合など、「交通事故との因果関係が認められない」「整合性がない」と判断され、非該当となる可能性があります。
では、むち打ちで後遺障害認定されなかった場合、慰謝料を含む示談金の相場にはどれくらい影響するのでしょうか?
まずは、次の被害者が、むち打ち症で後遺障害14級の後遺障害等級が認定された場合と非該当となった場合の慰謝料を含めた示談金の相場をざっくりと比較してみましょう。
被害男性(会社員)
年齢:30歳
年収:420万円
休業日数:0日
通院履歴:通院期間180日、実通院日数50日
費目 | 14級の場合 | 非該当の場合 | ||
---|---|---|---|---|
自賠責基準 | 弁護士基準 | 自賠責基準 | 弁護士基準 | |
治療費など | 50万円 | 50万円 | 50万円 | 50万円 |
入通院慰謝料 | 42万円 | 89万円 | 42万円 | 89万円 |
後遺障害慰謝料 | 32万円 | 110万円 | 0円 | 0万円 |
逸失利益 | 90万円 | 90万円 | 0万円 | 0万円 |
合計 | 214万円 | 339万円 | 92万円 | 139万円 |
非該当となってしまうと、後遺障害慰謝料と逸失利益を受け取ることができないので、自賠責基準で122万円、弁護士基準で200万円もの差が生じます。適切な後遺障害等級を受けることがいかに重要かお分かりいただけると思います。
「事前認定」でも「被害者請求」でも、後遺障害等級に認定されなければ、非該当の結果を連絡する通知が届きますが、諦める必要はありません。
後遺障害認定では、異議申し立てという不服申し立ての制度があるからです。
現実的には、異議申し立てによって等級が変更されたり、非該当から等級が認められたりする確率は決して高くはありません。しかし、異議申立ては何度でもできる制度となっており、適切な申立てで、「等級が認められた」「等級が上がった」事例がいくつもあるのです。
なお、下記ページも併せてご参照ください。
後遺障害14級の認定を得るためには、その症状が「医学的に説明可能なもの」である必要があります。ただ単に症状だけを強調するのでは非該当の結果が覆る確率は上がりません。
具体的には、交通事故による怪我と残存する症状との「整合性・一貫性」を認めてもらうことが重要になります。
事故と後遺症の「整合性・一貫性」を証明するためには、以下のような事項が重要です。
異議申し立てをするに際しては、「整合性・一貫性」を認めてもらうために、医師に新しい後遺障害診断書を作成してもらい、等級認定の確率を上げていく必要があります。
新しい後遺障害診断書では、自覚症状や他覚症状を余すことなく記入し、症状が回復する見込みがないことを明示してもらいましょう。
このときに「こういうことを書き足してほしい」とか、「ここを訂正してほしい」ということが起こり得ます。しかし、医師との関係が良好でなければ、なかなか言いにくい要望でもあります。通院期間中は、医師とのコミュニケーションを図って、医師との関係を良好に保ちましょう。
どうしても医師の協力を得ることが難しい場合には、弁護士から医師に、新たな診断書の作成や必要な検査の実施を要請することができます。
後遺障害診断書の書き方のポイントや、医師に作成依頼する上手なやり方などは、下記記事で紹介しています。ぜひ参考にしてください。
また、新しい検査の結果や新しい医学的証拠の提出も等級認定の確率アップには効果的です。足りない医療情報の補充をすることになるからです。
医師に他覚所見があることを示す適正な検査をしてもらうことも検討しましょう。
むち打ちで他覚所見があることを示すには、以下のような検査があります。
このような検査や新たな診断書の作成において、医師の協力が仰げない場合には、諦めることなく弁護士に相談をしてみましょう。
※レントゲン検査やMRI検査は客観性が高いのに対し、神経学的検査は、被検査者の意思に結果が左右されうることから、客観性は低くなります。
なお、異議申し立ての申請方法等については、以下の記事を併せてご覧ください。
異議申し立ての結果に納得がいかなければ、裁判を起こすことで等級が上がることもあります。
非該当 → 後遺障害14級
東京地方裁判所平成15年1月28日判決
被害者は、追突事故で頸椎捻挫、腰椎捻挫などの傷害を負いました。自覚症状は、左上肢のしびれ、左手握力の低下などです。
画像では、レントゲンで頸椎椎間板変性、頸部MRIでC5/6に軽度の椎間板ヘルニアという所見でした(なお、被害者は事故前から変形性脊椎症や頸椎椎間板ヘルニア、黄靭帯肥厚症がありました)。
自賠責の結果は非該当でした。
この案件について、裁判所は、被害者の症状は、CT、MRIなどの検査によって精神、神経障害が医学的に証明しえるものとは認められないものの、受傷後から一貫して疼痛を訴えていること、後遺障害診断書の記載、受傷時の状態や治療の経過などを総合すると、被害者の訴える症状は、医学的に説明がつくものであるという判断をして、後遺障害14級と認定しました。
むち打ちの後遺障害等級の認定でお悩みであれば、弁護士に相談することをお勧めします。
後遺障害等級で悩んでいる間に気をつけるべきポイントと、弁護士に相談すべき理由について説明します。
非該当に納得がいかずにいる間に、相手方の保険会社から「後遺障害認定以外(傷害部分)の慰謝料等を先に精算しましょう」と先行示談を提案されることがあります。
事故発生から相当の時間が経過しており、早めに示談金をもらいたい気持ちはわかりますが、ここは慎重に対応すべきところです。
先行示談をしたら後から覆すことができません。傷害部分について先行示談を行った後、後遺障害部分の示談がまとまらず、裁判となったとしても、先行示談の内容については争うことができません。
先行示談に同意する前に、弁護士に相談してみましょう。専門家の助言で、以外と簡単に結論を導くことができることがあります。
また、「その余の請求は放棄する」や「ほかに何らの債権債務がないことを相互に確認する」といった文言を示談書に記載してしまうと、同様に他に請求することができる事情が後々出てきても請求することができなくなってしまいます。
こんな場合も弁護士に相談して、示談書の内容をみてもらいましょう。
それ以外にも、後遺障害認定の手続きで、弁護士に相談するメリットには次のものがあります。
交通事故に詳しい弁護士からは、以下のような観点から適切なアドバイスを受けることができます。
また、先述の通り、新たな後遺障害診断書の作成について、弁護士から医師に協力を仰ぐこともできます。
異議申し立ての成功により認定等級が上がれば、後遺障害慰謝料が増額することになります。
それだけでなく、弁護士が介入すれば、入通院慰謝料や休業損害なども弁護士基準で計算されるようになりますから、通常のむち打ちの示談金の相場金額よりも全体的に増額されることになります。
また、弁護士に頼んだらお金がかかると思っている方は多いと思いますが、現在は初回相談を無料としている弁護士事務所が多いです。「今の認定結果は妥当なのか」「どうすれば認定等級が上がるのか」などを聞きに行くだけでも価値があります。
通常は弁護士に払う費用よりも、示談金の増加額の方が大きくなります。無料相談の時点で大まかな見積もりを出してくれる事務所もありますので、まずは一度、弁護士にご相談してみることをおすすめします。