交通事故で同乗者が怪我をした!好意同乗減額、無償同乗減額とは何か?

好意同乗減額

運転者や車の所有者の好意で同乗させてもらったところ、運転者の不注意で衝突事故を起こしてしまい、同乗者がケガをしてしまったというケースがあります。

このとき同乗者は、好意で、無償で、乗せてもらったのだから損害賠償金を請求できないとか、減額されてしまうという考えがあります。

これを「好意同乗減額」あるいは「無償同乗減額」と言います。

はたして、このような考えは妥当なのでしょうか?裁判所で認められるものなのでしょうか?

好意同乗減額(無償同乗減額)とは?

運転者の好意によって車に同乗させてもらった者、無償で車に同乗させてもらった者、これらの者が交通事故の被害者となったときに、

  • ①損害賠償を請求できるか否か
  • ②請求できたとしても減額されるべきではないか

これが好意同乗減額(無償同乗減額)の考え方です。

好意同乗減額は誰に対する損害賠償請求か?

ここで注意すべきは、誰に対する損害賠償請求で問題とされるのかという点です。

自動車事故では、損害賠償責任を負う者が複数いることは珍しくありません。次の例で考えてみましょう。

事故の例

運転者A、同乗者B、タクシー運転者C、タクシー会社D社(タクシー車両の所有者)、Aの父親E(A運転車両の所有者)

Aが運転する車に友人Bが同乗させてもらって走行中、C運転のタクシーと接触し、Bがケガをした。過失割合は50対50とする。Aは成人とします。

Bがケガの損害賠償を請求できる相手は次のとおりです。

  • タクシー運転者C(自動車損害賠償保障法3条の運行供用者責任、民法709条の不法行為責任)
  • タクシー会社D社(運行供用者責任、民法715条の使用者責任)
  • 運転者A(運行供用者責任、不法行為責任)
  • Aの父親E(運行供用者責任)

Bが、運転者A・その父親Eに対して損害賠償を請求した場合は、AやEからすると「好意で乗せてやったのに」、「ただで乗せてやったのに」と反論したくなります。

好意同乗で責任を否定・減額するべきかどうかという問題は、まずこの場合の問題として議論されてきました。

他方、Bが、タクシー運転者C・タクシー会社D社に対して損害賠償を請求した場合には、CやDに、「Bは好意で乗せてもらっていた者だから支払わない」とか「Bは無償で乗せてもらっていた者だから減額するべき」などという反論を認める必要はないようにも思われます。

しかし、実はこの場合にも、好意同乗による責任の減額を問題とする余地はあるのです。詳しくは後ほど説明します。

減額・責任を否定する理屈

まずは、Bが、運転者A・その父親Eに対して損害賠償を請求した場合について考えてみましょう。

たしかに、運転者側からすると、「好意で乗せたやっていたのに、事故に遭ったからといって、損害賠償を請求するのはおかしいではないか?」という気持ちもわからないではありません。

そこで、昭和40~50年ころ(1965年~1975年ころ)には、好意同乗の場合に、運転者らの責任を否定するべきだという主張がさかんになりました。

好意同乗者は、自賠法3条の「他人」ではないという主張

好意同乗者からの賠償請求を否定する理由として主張されていた理屈のひとつが、好意同乗者は、自動車損害賠償保障法3条の「他人」にはあたらないというものでした。

自賠法3条は、運行供用者責任を定めたもので、車の運行によって「他人」に人身損害を与えた場合に、運転者や所有者等に事実上の無過失責任という厳しい責任を課しています。

自動車損害賠償保障法
第3条「自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。(以下略)」

運行供用者責任の目的は被害者保護ですが、好意同乗者はむしろ運行供用者と同じ立場にある者で、保護に値する「他人」ではないという主張でした。

しかし、このような主張は、最高裁によって否定されました。

最高裁は、自賠法3条にいう「他人」とは、運行供用者と運転者を除くそれ以外の者をいうとして、酔って強引に友人の車に同乗した被害者が友人の運転による事故で死亡した事案について、被害者は「他人」にあたると判断しました(※)。

最高裁昭和42年9月29日判決

好意同乗者は「他人」だとしても、減額するべきという主張

最高裁の判例で、好意同乗者も運行供用者責任で保護される「他人」だという考えは確定しました。

しかし、今度は、好意同乗者が賠償請求する権利を認めるとしても、請求できる金額は減額されるべきだという主張が数多くなされました。

減額を認めるために、色々な法律上の理屈が生み出され、それぞれ採用する裁判例が出現しました。

今日の裁判実務では、理屈付けこそ様々ですが、好意同乗者にも何らかの責任がある場合に限り、過失相殺と同様に、公平の観点から賠償額の一定割合を減額するという扱いが定着しています。

現在の裁判における好意同乗減額の考え方

現在の裁判所では、好意同乗のケースを次の3つのパターンに分けて考えます。

  • ①単なる便乗・同乗型
  • ②危険承知型
  • ③危険関与増幅型

単なる便乗・同乗型

これは単純に、車に乗せてもらっただけという場合であり、減額されません。

かつては、我が国の自動車の台数も少なく、移動のために車に乗せてもらうことは大きな利益と言えましたから、その利益を受けている以上、満額の賠償金を認めるべきではないという発想がありました。

しかし、自動車が普及し、自動車での移動が当たり前となった今日では、車に乗せてもらうことは特別なこととは評価できません。

そこで、現在の裁判実務では、好意で同乗させてもらったことだけを理由として減額するという扱いはなくなりました。

裁判例
スキー場に向かう途中の路面凍結スリップ事故で、同乗して助手席で仮眠していた被害者が傷害を負った事案です。

裁判所は、被害者は単なる便乗・同乗者に過ぎないとして減額を認めませんでした(大阪地裁平成18年4月25日判決・交通事故民事裁判例集39巻2号578頁)。

危険承知型

運転者の無免許、薬物乱用、飲酒などの事故発生の危険性が高い客観的事情が存在することを知りながら、あえて同乗した場合は、事情に応じて賠償額が減額されます。概ね5%~20%程度の減額とされています(※1)。

※1:「交通賠償のチェックポイント」(弁護士高中正彦ほか編著・弘文堂)246頁

裁判例
飲酒運転事故で、被害者は先輩が運転する車に同乗して居酒屋に向かい、飲酒後、別の店に向かう途中で事故が起き、助手席に同乗中の被害者が受傷したという事案です。

裁判所は、被害者が当初から飲酒運転を容認し、多量の飲酒を承知して同乗していたことなどを指摘して、賠償額を20%減額しました(名古屋地裁平成20年1月29日判決・交通事故民事裁判例集41巻1号114頁)。

危険関与・増幅型

同乗者が運転者のスピード違反をあおった場合のように、同乗者自身が事故発生の危険性を増大するような状況を現出させた場合も、事情に応じて賠償額が減額されます。概ね10%~50%程度の減額とされています(※2)。

※2:前出「交通賠償のチェックポイント」246頁

裁判例
ヘルメットを装着せず、原動機付き自転車に二人乗りをして、パトカーから逃走する途中の事故で同乗者である被害者が受傷した事案です。

裁判所は、逃走のために一方通行を逆走し、減速もせずに交差点に進入して他車と衝突した事故であり、被害者も帽子でナンバープレートを隠すなど逃走行為に積極的にかかわり、運転者と共に逃走行為に及んでいたもので、危険運転を容認していたといえることなどを指摘して賠償額を30%減額しました(東京地裁平成16年5月10日・交通事故民事裁判例集37巻3号618頁)

事故の相手方に対する損害賠償(慰謝料)請求をする場合

さて冒頭の例で、好意同乗者である被害者Bが、タクシー運転者C・タクシー会社D社に対して損害賠償(慰謝料等)を請求した場合にも、好意同乗減額を問題とする余地があると説明しました。

これも場合分けをして考える必要があります。

単なる便乗・同乗型では、そもそも運転者や車両所有者等との関係でも減額されませんから、まして相手方運転者Cや相手方車両所有D社との関係で減額する理由はありません。

しかし、危険承知型、危険関与・増幅型では、同乗者は事故発生の危険を承知していたり、自ら危険を作り出したり、危険を高めたりしていたのですから、相手方車両の運転者や相手方車両所有者との関係でも、賠償額を減額することが公平です。

このため裁判実務では、古くから、この場合にも減額を認める取扱いをしてきました(※)

※「同乗減額と共同不法行為」東京地裁民事交通部・松本利幸裁判官講演録(民事交通事故訴訟・損害賠償額算定基準・2003年版277頁)

この場合、①同乗した車両の運転者Aやその車両所有者Eに対する損害賠償請求と②相手方車両運転者Cやその車両所有者D社に対する損害賠償請求とで、減額される割合は同じと扱うか、異なると扱うかはひとつの問題ですが、裁判例にはどちらの場合もあり、統一はされていません。

裁判例

二人乗りのバイクが、渋滞中の対向車線からはみ出した自動車に衝突した事故です。Cが運転する相手方車両は、片側一車線の渋滞した道路を走行中、バスを追い越すために対向車線にはみ出したところ、Aが運転し、Bが同乗するバイクと衝突し、Bが受傷しました。

裁判所は、BはAと一緒に飲酒して同乗したうえ、運転中のAに声をかけて注視を妨げたことを指摘して、BのA及びCに対する損害賠償請求を、どちらも20%減額しました(東京地裁平成13年3月13日判決・交通事故民事裁判例集34巻2号374頁)。

裁判例

二人乗りのバイクが、パトカーから逃走中、信号のない交差点で乗用車に衝突した事故です。バイクに同乗していたBが死亡し、Bの相続人である両親がバイク運転者Aと乗用車運転者Cに賠償請求をしました。

裁判所は、BはAが無免許であることを知って同乗していたこと、パトカーに追尾されているのにAの運転を制止しないばかりか、逃走することを助言していたことなどを指摘して、Aに対する請求を40%減額し、Cに対する請求は60%減額しました(大阪地裁平成7年6月16日判決・交通事故民事裁判例集28巻3号890頁)。

まとめ

好意同乗減額について説明しました。

同乗者が被害者となったケースについては、これ以外にも、相手方車両運転者への賠償請求に際して同乗車両の運転手の過失を理由に過失相殺されるかという問題もあります。

交通事故では、誰が、誰に、どのような法的論拠で賠償請求をするかにより、得られる結果(賠償額、慰謝料額)が大きく変わる可能性があります。

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