後遺障害逸失利益と中間利息の控除、ライプニッツ係数・ホフマン係数とは?
後遺障害逸失利益の賠償を受けるときには、逸失利益から中間利息を控除しなければなりません。控除する額の計算に使用するの…[続きを読む]
そんな悩みをお持ちの方がいらっしゃるのではないでしょうか。今回は特に「腰椎圧迫骨折」「胸椎圧迫骨折」などの重症の骨折をされた方のために解説致します。
骨折の後に残る、後遺障害について、また後遺障害慰謝料を請求する為に必要な等級認定について、また後遺障害等級11級を軸に説明します。
そもそも、腰椎圧迫骨折や胸椎圧迫骨折は、具体的に身体のどの部位の骨折を意味するのでしょうか?
腰椎(ようつい)や胸椎(きょうつい)とは、脊椎(脊柱)、俗に言う背骨の一部をなすものです。
背骨は、頭側の第1頸椎(けいつい)から尾骨までの骨の連なりで形成され、頭側から
・頸椎7個
・胸椎12個
・腰椎5個
の合計24個の小さな骨で成り立っております。
そして、それぞれの骨の間に椎間板(ついかんばん)を挟みながら連なっています。最後の第5腰椎の先には、仙骨と尾骨がついており、すべてを合わせて「脊椎(せきつい)」と呼びます。
脊椎は「脊髄(せきずい)・中枢神経」を保護する役割があります。この箇所を怪我した場合、日常生活に深刻な影響をもたらす脊髄損傷(せきずいそんしょう)の後遺障害になることもあります。
また、骨折には種類があります。
骨折の分類としては、それぞれ、単純骨折、複雑骨折、剝離骨折、粉砕骨折、破裂骨折、圧迫骨折等があります。
今回主に扱う腰椎圧迫骨折・胸椎圧迫骨折の「圧迫骨折」とは、背骨のある部分が、上下方向に過度に圧迫されたことにより生じる骨折を意味するものです。
主に自動車の横転、バイク、自転車の転倒など尻もちをついたとき等に発症することが多いです。
また一般的には高齢者に多いと言われており、骨粗鬆症などが進行していた場合は、軽い追突事故でも、胸椎と腰椎の圧迫骨折を発症することがあります。
治療としては、骨折部が安定していれば、ギプスやコルセットなどで固定し仮骨形成を待ちます。骨折部位が不安定なときは、手術が選択されます。
多くの場合はこのような治療で回復しますが、まれに後遺症が残ってしまうことがあります。
そのような場合、どんな手続きを被害者は進めていくことになるか一つずつ確認していきましょう。
そもそも、交通事故の損害の対象となる項目は、まず、財産的損害と精神的損害とに分けてさらに、前者は積極損害と消極損害、後者を慰謝料と分類することができます。
積極損害とは、事故によって被害者が出費を余儀なくされ発生した損害をいいます。治療費、入通院費用が代表的です。
ただし過剰な贅沢診療をした場合は認められないので注意してください。
積極損害は過剰な診療をしなければ、争うことはあまりないといっても過言ではないでしょう。
問題は消極損害のほうです。
消極損害とは、未来に得られるはずの収入が、事故によって失われた場合の損害をいい、休業損害や逸失利益などが代表的です。
特に「逸失利益」は後遺障害が残った場合に、保険会社と金額の争いになりがちです。
被害者の年収などを勘案し、損失を補償するというもので、被害者の収入および障害の各等級(第1~14級)に応じた労働能力喪失率、喪失期間などによって算出されます。
慰謝料とは、精神的な損害に対する賠償をいいます。以下の3種類があります。
・入通院慰謝料(交通事故の怪我の痛みや、治療により入通院を強いられた精神的苦痛に対する慰謝料)
・後遺障害慰謝料(交通事故の怪我が後遺症になってしまったことで被害者が負った精神的苦痛の慰謝料)
・死亡慰謝料(その人が死亡したことによって本人および遺族が被った精神的な苦痛に対する慰謝料)
今回はおもに「入通院慰謝料」「後遺障害慰謝料」の2つがポイントになります。
損害賠償の額については、数多く発生する交通事故案件を速やかに処理するために、定型化されています。
1つが自賠責保険基準です。
人身事故時に、自賠責保険の損害額を算定する際に、損害保険料率算出機構が使用する基準です。金額は3つの基準の内で最も少ないです。
迅速な支払がなされ、事故直後の当面の救済を受けるためには有効ですが、金額面において上限があるため、最終的な全損害の回復のためには不十分があります。
2つ目が任意保険基準です。
任意保険会社の独自の損害額算定基準です。現在は、保険の自由化に伴って各社統一支払基準は廃止され、各保険会社ごとに独自に社内的に決めているようになっています。自賠責保険ではまかないきれない損害をカバーしつつも,次に説明する裁判所・弁護士会基準より金額が低めの内容となります。
当事者双方が任意保険に加入していて、保険会社同士の話合いで決着がついた場合には、多くはこの基準が利用されます。
3つ目に裁判所基準・弁護士会基準の査定基準があります。
弁護士が代理人となって、裁判をすることなくいわゆる裁判所(弁護士会)基準で慰謝料を受け取ることになります。
この際、保険会社は裁判を起こされることを嫌って、比較的簡単に和解を受け入れてくれます。
また弁護士以外の個人が、保険会社側の弁護士相手に裁判を起こすことは実際上なかなか難しく、下手に裁判を起こしても、被害者の過失による相殺を反論されるなどして、かえって受け取る金額が低くなることさえあります。
このように、裁判を遂行することのハードルを保険会社は把握しているため、個人で交渉する場合は、基本的には保険会社は低い額でしか和解に応じないわけです。
逆に言うならば、この点において、弁護士を代理人とする大きなメリットが存在すると言えるわけです。
入通院慰謝料の場面における自賠責保険基準は、規定により次のように定められています。
慰謝料は、1日につき4,300円(20203月31日以前に発生した事故については、4,200円)とされています。
具体的には、「1日当り4,300円×治療期間」を限度として計算されます。
ただし「実治療日数×2」が治療期間を下回る場合には、1日当り4,300円×実治療日数×2で算出されます。
「実治療日数」とは実際に入通院した日数をいい、治療期間とは通常は事故の日から開始して、完治した日、もしくは症状固定をした日までの全日数をいいます。
入通院慰謝料の場面における弁護士(裁判)基準は、既述の通り、自賠責基準や任意保険基準よりもかなり高額となります。
掲載されている書籍は「赤い本」「青本」などと呼ばれ、交通事故の示談交渉で一般的に用いられるものです。しかし、たびたび改訂され、一般の方には正確な理解が難しい面が多々あります。
入通院慰謝料の計算は自動慰謝料計算機をご利用ください
2つ目の慰謝料、後遺障害慰謝料についてです。後遺障害等級認定されない場合はもちろん支払われませんが、後遺症が等級認定された場合は以下の金額が支払われます。
この額については、基本的には後遺障害の自賠責等級に応じて決められており,多くの裁判所では赤い本に記載されている下記表が基準として用いられています。つまり細かい計算が不要です。
後遺障害等級 | 自賠責保険 (要介護以外) | 任意保険基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|---|
後遺障害1級 | 1,150万円 (1100万円) | 1300万円 | 2800万円 |
後遺障害2級 | 998万円 (958万円) | 1120万円 | 2370万円 |
後遺障害3級 | 861万円 (829万円) | 950万円 | 1990万円 |
後遺障害4級 | 737万円 (712万円) | 800万円 | 1670万円 |
後遺障害5級 | 618万円 (599万円) | 700万円 | 1400万円 |
後遺障害6級 | 512万円 (498万円) | 600万円 | 1180万円 |
後遺障害7級 | 419万円 (409万円) | 500万円 | 1000万円 |
後遺障害8級 | 331万円 (324万円) | 400万円 | 830万円 |
後遺障害9級 | 249万円 (245万円) | 300万円 | 690万円 |
後遺障害10級 | 190万円 (187万円) | 200万円 | 550万円 |
後遺障害11級 | 136万円 (135万円) | 150万円 | 420万円 |
後遺障害12級 | 94万円 (93万円) | 100万円 | 290万円 |
後遺障害13級 | 57万円 (57万円) | 60万円 | 180万円 |
後遺障害14級 | 32万円 (32万円) | 40万円 | 110万円 |
※自賠責基準の()内の金額は、2020年31日以前に発生した事故について適用される金額
※被扶養者がいる場合や要介護の場合には金額が異なるケースがあり
上記の通り、各等級で実際に認定される慰謝料額についてはかなりの幅があります。
後遺障害の認定を受けた場合は、慰謝料以外に逸失利益も請求することが出来ます。
逸失利益は以下の計算式によって算定されます。
「基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」
公式内の各用語を以下に簡単に解説致します。
・労働能力喪失率
労働基準監督局によって、等級ごとに決められた割合が定められています。
・労働能力喪失期間
労働能力喪失期間の終期は、原則67歳までとなります。ただし、高齢者の場合には、67歳までの年数と、厚生労働省が公表している簡易生命表上の平均余命までの年数の3分の1の内、どちらか長い方が労働能力喪失期間となります。
・ライプニッツ係数
「中間利息控除」ともいいます。逸失利益を賠償金として受け取る場合、本来は被害者が生涯で稼いだはずの金額を先に一括で受け取ることになります。この金額を預金したとすると、本来生じなかったはずの利息が利益として生じることになります。このため、一括で受け取ったことにより生じたこのような利益を控除する指数がライプニッツ係数です。
後ほど詳述する「脊柱の変形障害」は、保険会社が逸失利益(労働能力喪失率や労働能力喪失期間)について争ってくることが多い典型的な事例といえます。
参考になる裁判例として、国税調査官の後遺障害(11級7号)の例があります(名古屋地裁 平成22年7月2日判決)。
判決時に、収入の減少が認められなくても、将来の昇給や昇格に影響が出る可能性があることを考慮して、逸失利益が認定されたものです。
交通事故により、第12胸椎圧迫骨折の傷害を負って入通院により治療を受けましたが、残念ながら後遺障害が残り症状固定をしました。
被害者には、後遺障害等級11級7号に該当する「脊柱の奇形障害」が残りました。
ここで大きな問題が起こります。被害者が比較的早期に元の職場に復帰し、従前の税務署員として稼働していることから、保険会社が「逸失利益」について強く争いはじめたのです。
しかし、裁判所は、後遺障害の具体的内容(脊柱の変形)やその派生的症状(腰痛による集中力の低下)、これによって同僚と比べてかなり長い残業時間が発生していることを認定。
現時点において、特段の減収が認められないのは、原告自身の努力によるところも大きく、将来の昇給や昇格に影響が出る可能性は否定できないとして、結論としては、67歳までの平均して「14%の逸失利益」を認定したものです。
ただし、後遺障害等級が11級であり、本来の労働能力喪失率は20%とされています。
それにもかかわらず、本件では14%とされたのは、被害者の仕事の能率の落ちる原因が障害ではなく、腰痛が理由で現時点においては減収が発生していないことが考慮されていると思われます。
このように、現時点において特段の「減収が認められない場合」にも、後遺障害の具体的内容やその派生的症状の影響を具体的に考慮し、将来の減収の可能性が認められるときには、逸失利益を認定するのが近時の裁判例の傾向となっています。
日常的な意味合いで、腰椎圧迫骨折や胸椎圧迫骨折で後遺症が残ったといわれる状態であったとしても、交通事故における後遺障害であると認められるわけではありません。
あくまで、後遺障害別等級表に該当するものが、後遺障害であると認められることになります。
後遺障害等級は、第1級から第14級までの区分で定められており、該当する等級に応じて後遺障害慰謝料および逸失利益の限度が定められています。したがって、この認定がされない場合は慰謝料が獲得できません。
タイミングとしては傷病が完治せず症状固定時(現在の治療を続けても、短期的にそれ以上症状の改善が得られることはなく、治療を中断しても、悪化する可能性が考えられない状態に至った時点のこと)に、等級認定の手続きに進みます。
この申請手続きには、事前認定、被害者請求という2つの方法があります。
どちらの方法においても、後遺障害診断書(なお、整骨院・接骨院には診断権が認められておらずこれを発行できません。)を作成してもらい、加害者側の自賠責保険会社に必要書類を提出した上で、損害保険料率算出機構の自賠責損害調査センター調査事務所における審査を経て、認定結果が下される、という点では共通しています。
しかし相違点があります。
事前認定においては、加害者側保険会社が申請手続きを行ってくれるのに対し、被害者請求においては、「被害者が自ら」申請手続きを行うことになるところです。
申請手続きの簡単さだけでいえば、後遺障害診断書の作成を主治医に依頼してこれを受け取り、加害者側の保険会社に送付するだけで済む前者に軍配が上がるのは明らかです。
しかし、加害者側の保険会社は、あくまで後遺障害等級認定がなされて損害賠償額が増えればその支払いを行わねばならない立場にあり、被害者の味方に立つものではありません。
上述のとおり、後遺障害等級認定が具体的にどうなるかは、カルテや意見書や不利な事情を補うための説明文書などを用意して自ら申請手続きをすべきといえます。
そして、後遺障害等級認定の審査は、客観的な医学的所見によって立つ徹底的な書面審査、
を基本としており、一部の問題のある記載のために後遺障害が認定されない、という事態もしばしば生じ得るのです。
適切な後遺障害等級認定を得るための備え、つまり、これに備えた的確な資料収集のために、
の観点が重要になってきます。
この時に、注意すべき点があります。医師は治療をすることをその仕事としており、交通事故において後遺症が残ってしまったとしても、それが症状固定に至れば、仕事はそれはそれで達成されたことになると言えます。
ところが、後遺障害診断は症状固定以降に始まる作業ともいえます。本来の医師の行う医療行為とは直接は関係がなく、基本的には医師の本来的な興味の範囲外とも言い得ます。
このような点からも、後遺障害等級認定に詳しい弁護士の助力を得る必要性が非常に高い場面だと言い得るわけです。
※ちなみに、労災保険では、顧問医が被害者を診察して等級を認定しますが、自賠責の調査事務所は、顔面の醜状痕以外では、面接をしません。
腰椎圧迫骨折や胸椎圧迫骨折などをした場合の等級認定についてです。
脊柱の運動障害と変形障害等の程度に着目し、次のとおりの等級認定の基準が示されています
まず、脊柱の変形障害(脊柱が、圧迫骨折や破裂骨折、脱臼などにより変形したことに関する後遺障害)に関しては、
の序列で3段階に格付けされています。
6級と8級は、脊柱の後彎の程度とコブ法という測定法による側彎の程度により認定されます。これらに達しない変形の場合は11級に認定されることとなります。実際に、最も症例が多いのが11級となっています。
注意点としては変形障害に関して、椎体が、少しへこんで変形したものも医学的には圧迫骨折ですが、等級認定はされないこととなります。
次に、脊柱の運動障害(背骨を曲げにくい・また脊柱の動かしにくいことに関する後遺障害)に関しては、
の序列で2段階に格付けされています。
なお脊柱の「荷重障害」(脊柱が身体を支えることができなくなった後遺障害)に関しては、運動障害の等級が準用されることになっています。
また、脊柱での上記のような後遺障害等級認定の獲得が厳しいときには、「神経障害の後遺障害等級認定」獲得を目指すことが考えられます。
具体的には、例えば、14級9号「局部に神経症状を残すもの」に該当するものというのは、単に疼痛のために運動障害を残すもので、X線写真等で脊椎圧迫骨折等又は脊椎固定術が確認できず、また、首、背中と腰の軟部組織に、器質的な変化が認められないものとされています。
しばしば争われるのが、変形障害の原因とされる圧迫骨折の有無です。
具体的には、画像が明白でない場合、あるいは、腰椎・胸椎の圧迫骨折であるとしても、事故によるものなのかそうでないのか(もともとあった骨折あるいは事故後の受傷によるもの)疑わしい場合に生じる争いです。
この判断にあたっては、MRIが有用となります。実はレントゲン画像では、事故前からあった古い骨折なのか、事故後に生じた新しい骨折なのかがよく分かりません。
元からあったいわゆる陳旧性骨折か、新鮮骨折かの判断は、受傷直後のMRIで判断ができるのです。
逆に言えば、圧迫骨折の際には、新鮮骨折を証明する必要があり、そうしなければ後遺障害認定されない状況に追い込まれる場合があります。
脊柱の圧迫骨折は、多くの場合では、脊髄神経には影響を与えません。
しかし、破裂骨折は、椎体の後方の壁も圧迫骨折しており、しばしば脊髄症状、麻痺などの重い症状を引き起こします。
破裂骨折の場合には、ほとんどが受傷直後に、緊急手術による固定が選択されています。これによって、脊髄の損傷を最小限にすることができます。
手術後の被害者に、上・下肢の麻痺、排尿障害など、重篤な脊髄症状が残っていれば、別途に神経系統の機能障害で等級の獲得の可能性があります。
具体的には、障害の程度により、9級10号、7級4号、5級2号などがあり得ます。
膀胱の神経の損傷が証明できた場合には、例えば、排尿障害にいては、9級11号又は11級10号の獲得の可能性があります。
また、固定術を受けていることから、11級7号に関してはほぼ認定されことになるのですが、更に、著しい変形なのか、中程度の変形であるのか、すなわち、6級5号、もしくは8級2号の可能性について検証することになるでしょう。
以上が腰椎圧迫骨折・胸椎圧迫骨折などによる、後遺障害等級認定についてでした。
最近では、無料相談を行っている弁護士事務所も多いです。被害者の方の自動車保険に弁護士費用特約がついていれば、保険から弁護士費用が支給されます。
賠償金や保険金について困っていたり、後遺障害等級認定されないか、されるか不明な場合など何か困っているならまず後遺障害に強い弁護士に相談しましょう。
最後に、弁護士に依頼するメリットをおまとめしますと、後遺障害に基づく逸失利益・慰謝料の請求するにあたって、保険会社との示談や裁判に向けたあらゆる手間から解放され治療に専念できるという点があります。
そして金額において相対的に最も高額であるいわゆる弁護士会基準で請求できるという点、妥当な後遺障害等級認定を得るために能動的な方法である被害者請求を選択した上でこれに備えて的確な資料を収集するにあたって助けとなるという点、などといった多くの大きなメリットが存在します。ぜひ一度相談してみることをおすすめ致します。