サンキュー事故|過失割合はどう考える?バイクと自動車や自動車同士

サンキュー事故

「お先にどうぞ」、「サンキュー!すり抜け!」。ドライバー同士の譲り合いは気持ちの良いものです。

でも、それが原因で引き起こされる不運な交通事故もあります。それが、「サンキュー事故」と言われるものです。

「譲ってもらったための事故だから、少しは責任が軽くなるのでは?」、「余計なことをしてくれた。譲った側にも責任はないのか?すり抜ける原因だから悪いでしょ」と色々な疑問があるでしょう。ここでは、バイクなどのサンキュー事故の過失割合について解説いたします。

サンキュー事故とは

サンキュー事故とは、一般に、優先して通行する権利のある車両が、優先権のない車両に道を譲った際に起こる事故と言われています。

典型的な例をあげましょう。

Aさんは、自動車で交差点を右折しようと交差点内で待機をしていたところ、Bさんの車両が対向車線を直進してきました。

Bさんの車両には、交差点を直進する優先交通権がありますが、右折待機をしているAさんの車両を見たBさんは、先に右折をさせてあげようと考え、スピードを落としてパッシングライトを点滅させました。

これに気づいたAさんは、「あっ、譲ってくれるんだ。サンキュー!早く曲がらなくちゃ!」と喜び焦って、右折を開始しました。

ところが、スピードを落としたBさんの車両の左側(Aから見ると向かって右側)をすり抜けて、Cさんのバイクが交差点に直進してきたのです。

「あっ!」とAさんがバイクに気づいた時には既に遅く、Aさんの右折車は、Cさんのバイクと衝突してしまいました。

いわばBさんの善意が仇になってしまったわけです。

サンキュー事故で譲った側の車両は悪くない?責任はないの?

通常は、サンキュー事故で譲ってくれた車両、譲った側に法的責任を問うことはできません

「B車両が譲ってくれなければ、Cバイクと衝突しなかったのに!余計なことをしてくれたもんだ!なんとか、Bの責任も問えないだろうか?」Aさんの性格に問題があれば、このように逆恨みをするかも知れません。

たしかに、事故は、Bさんの善意を発端として発生しました。

しかし、Bさんが優先通行権を行使せず、Aさんに譲ったからといって、交差点を右折するAさんの注意義務が無くなったり、軽くなったりするわけではありません。

また、BさんがAさんに譲るために、交差点手前で急ブレーキをかけて、後続車が追突したというように、Bさんの行為自体が危険な行為であれば、その後続車に対する過失を問われる可能性はあります。

しかし、Bさんに譲られたからといって、Aさんが右折を急ぐよう義務づけられているわけでもないのですから、Bさんの行為がAさんやCさんに対する過失行為と評価される余地はありません。

バイクと自動車のサンキュー事故の過失割合

サンキュー事故の過失割合|基本的な考え方

では、上の例を前提として、典型的なサンキュー事故の過失割合について考えてみます。

過失割合を考える上で、最初に注意しておかなくてはならないことは、これが「サンキュー事故」であるか否かは過失割合には無関係であるということです。

Bさんに譲ってもらったことが原因なのに無関係なの?と疑問に思われるかも知れません。

しかし、この事故は、Aの右折車両とCの直進バイクの交差点内の事故であり、Aに要求される注意義務とCに要求される注意義務を対比させて過失割合を判定するべきものです。

Bに譲られたからといって、A車両に対する、直進車であるCの優先交通権がなくなるわけではありません。

したがって、上のサンキュー事故の過失割合の判断は、以下2つの行為を対比させて検討することになります。

  1. A右折車両による交差点内の直進車妨害
  2. 交差点通過に際して、前車を追い越して交差点を直進したCバイクの行為

サンキュー事故の過失割合を具体的に検討する

前提として

この記事では「過失相殺の考え方」を示すことに重点を置きたいので、理解を容易にするために事案を限定します。

上の典型的なサンキュー事故の例で、次の1.または2.の場合を前提とします。

  1. 信号機による交通整理の行われていない交差点の場合
  2. 信号機による交通整理が行われている交差点で、信号機はA右折時も、C直進時も、ともに青信号で、誰にも信号違反はない場合

つまり、どちらも右折車と直進車という以外には優劣の関係がないケースを想定して説明します(※)。

※ 実際には、それ以外に、A、C各自の交差点進入時の信号機の色などによっても、過失割合は異なります。

右折車Aの義務違反

さて、道路交通法は次のとおり定めています。

道路交通法第37条

車両等は、交差点で右折する場合において、当該交差点において直進し、又は左折しようとする車両等があるときは、当該車両等の進行妨害をしてはならない。

同第2条1項22号

進行妨害 車両等が、進行を継続し、又は始めた場合においては危険を防止するため他の車両等がその速度又は方向を急に変更しなければならないこととなるおそれがあるときに、その進行を継続し、又は始めることをいう。

これが交差点における直進車優先の根拠です。右折車は直進車の「進行妨害」をしてはならりません。「進行妨害」とは、危険防止のために直進車が速度や方向を急に変更しなくてはならない恐れがあるのに、右折を始めたり、継続したりすることとされているのです。

したがって、右折車は、直進車の通過を待たなくてはならない義務があります。Cバイクには優先通行権があるわけで、Aの義務違反は明らかです。

直進バイクCの義務違反

では、直進妨害をしたA右折車両の過失割合が100%なのでしょうか?

そうではありません。道路交通法には、次の定めもあるからです。

第36条第4項

車両等は、交差点に入ろうとし、及び交差点内を通行するときは、当該交差点の状況に応じ、(中略)反対方向から進行してきて右折する車両等(中略)に特に注意し、かつ、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない。

第70条

「車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない。

交差点に入る車両は、右折車に特に注意することが要求され、そもそも事故を起こさないように安全運転する義務が課せられており、これは直進車といえども免除されているわけではないので、前方不注視やハンドル、ブレーキの不適切操作など、何らかの過失が認定されることが通常なのです。

そこで、交差点内の直進バイク対右折四輪車の過失割合は、直進バイク側にも、このような一般的な過失があることを前提として、「直進バイク15、右折四輪車85」という数値とされています(※)

※「別冊判例タイムズ38 民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準 全訂5判」東京地裁民事交通訴訟研究会編・326頁

直進バイクCの「横をすり抜けて直進した行為」をどう評価する?

さて、以上は、交差点内の直進バイク対右折四輪車の過失割合です。

それでは先の典型的なサンキュー事故でも、これに従って、過失割合は「C15:A85」として良いのでしょうか?

サンキュー事故であることは考慮する必要はないことは、既に説明しました。

問題は、B車両の後方から、その左横(Aから見ると向かって右側)をすり抜けて直進してきたCの行為をどう評価するかです。

道路交通法には、次の定めもあります。

第30条

車両は(中略)次に掲げる(中略)道路の部分においては、他の車両(中略)を追い越すため、進路を変更し、又は前車の側方を通過してはならない。

(中略)

3号 交差点(中略)の手前の側端から前に30メートル以内の部分

交差点手前30メートルで追い越しのために前者の横をすり抜けることは禁止されているわけであり、Cバイクの行為は、これに違反しています。

では、この違反は、先に述べた、交差点内の直進バイク対右折四輪車の過失割合「15:85」の「15」に含まれるべきでしょうか?それとも、Cバイクの過失を加算する修正要素として考えるべきでしょうか?

悩ましい問題ですが、これは過失割合「15」に含まれると考えるべきでしょう。

理由は、次のとおりです。

理由1.バイクのすり抜け走行は「著しい過失、重過失」に当たらない

交差点内の直進バイク対右折四輪車の過失割合における、バイク側の修正要素には、「著しい過失、重過失」があり、バイクの過失割合を10%加算することとされています。

しかし、その内容としては、著しい過失の例として、スマホ画像を見ながらの運転、酒気帯び運転などが、重過失の例として、酒酔い運転、居眠り運転、無免許運転などがあげられており(※1)、Cバイクのすり抜け走行は、これらと同列とまでは言えません。

理由2.バイクのすり抜け走行で過失割合が修正されるのは渋滞している道路

先の例で、Bが走行する道路が渋滞しており、Aが、渋滞する車両と車両の間を右折する形となり、Bが停止してAを右折させようとしたところ、Bの横をすり抜けてきたCバイクと衝突したというケースについては、「C30:A70」という過失割合が設定されています。

その理由は、「単車の方にも、渋滞車両中に、その前方を空けて停止し進路を譲っている車両があり、そこから車両が進入してくるのを予想し得るのに、これを怠った過失がある」とされています(※2)

しかし、特に渋滞中ではない一般のケースでは、Cにこのような過失はないのですから、同様には考えられません。

※1:前出「別冊判例タイムズ38」312頁
※2:同359~360頁

したがって、結論としては、冒頭の典型的なサンキュー事故は、「15:85」が基本の過失割合と考えるべきでしょう。

自動車同士のサンキュー事故の過失割合

サンキュー事故は、バイク対四輪車ばかりとは限りません。同じ状況で、B車両の後方から、隣車線を直進走行してきたCの四輪車と衝突してしまうケースが考えられます。

この場合、先と同様に、次の2つのケースに限定して考えます。

  1. 信号機による交通整理の行われていない交差点の場合
  2. 信号機による交通整理が行われている交差点で、信号機はA右折時も、C直進時も、ともに青信号で、誰にも信号違反はない場合

Cが四輪車のケースでは、1.2.ともに、過失割合は「C20:A80」とされています(※)。

※前出「別冊判例タイムズ38」228頁、237頁

先のバイク対四輪車のケースよりも、Cの過失が5%多いとされているのは運転者の身体がむき出しであるバイクと比べると四輪車の方が保護の必要性が低いからであり、その点以外は、まったく同様に考えて差し支えありません。

何故なら、右折車と直進車にそれぞれ課せられている道路交通法上の義務は、バイクでも四輪車でも、基本的には同じだからです。

まとめ

サンキュー事故の過失割合を説明しました。善意で譲られたからといって、焦って事故を起こさないよう、落ち着いて運転しましょう。悪い連中だと罵るのはもってほかです。

もしも、サンキュー事故に遭ってしまった方は、交通事故に強い弁護士に御相談下さい。

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